第1374話「一致団結開拓団」

 管理者専用兵装“生太刀”。管理者のみに使用が許される特殊な兵装であり、スキルシステム換算ならば〈剣術〉スキルレベル500相当を必要とする強力な武器である。

 その破壊的な威力から調査開拓団の切り札とされるが、相応の欠点を持つ最終兵器でもある。それは鞘から引き抜いただけで都市のリソース消費量の一日分を消耗するという、絶望的なまでの燃費の悪さだ。


「うおおおおおい!? アマツマラちゃん!? いや、アマツマラさん!? 何やってんの!」


 生太刀を引き抜き、迫り来るプロトタイプ-ゼロの軍勢を薙ぎ払った管理者アマツマラを見て、塹壕の調査開拓員たちが悲鳴を上げる。その一振りで戦況は大きく変わったとはいえ、当然ながら地上街の仮説拠点にそのリソース消費を支えられるだけの体制は整っていない。

 いったい、どこからそれほどのリソースを持ってきたのか。


「うおおおおおおおおっっ!」

「走れ走れ走れ走れ! お前らの一歩がアマツマラちゃんの戦力に繋がるんだ! 死ぬ気で車を回し続けろ!」

「ふぉおおおおおおおおっ!」

「せいやっ! はぁっ!」


 後方。即席要塞として陣地構築が進められた中心街区にずらりと並ぶ巨大な回し車の中に、屈強な男たちが入っていた。彼らは半裸に汗を滲ませながら猛烈な勢いで重たい車輪を回し続けている。

 無限軌道式BB生産装置。調査開拓員の運動エネルギーを間接的にBB生産へと転換する一瞬のエンジンである。ありあわせの部品を使った簡易型とは違い、設計から効率性を求めて構築された装置は、莫大なエネルギーを生み出す。

 その仰々しい威容がずらりと要塞の内部に並んでいる。壮観な光景ではあったが、内部で車を回しているのは屈強な男たちだ。狭い回転室の中に三人ほどの男がすし詰めになり、押し合いへし合いしながら軸を回している。


『チッ、やっぱり0.3秒の抜刀でスッカラカンだなァ。それでも、ないよりはマシか』


 数十人の男たちが懸命に車を回して生み出したエネルギーは、わずか1秒にも満たない刹那に消費される。アマツマラは自身が行動不能になる前に生太刀を納刀し、スタコラサッサと後方へ逃げ出した。


『次に生太刀が使用できるまで大体10分かかる! それまではどうにか耐えてくれ!』

「りょ、了解っす!」


 去り際、塹壕から戦々恐々と様子を窺っていた調査開拓員たちへの激励も忘れない。

 生太刀はプロトタイプ-ゼロの軍勢を押し除けるのに強力な効果を発揮する。しかしその使用は一回につき一振りが限度であり、一度使えばリチャージに10分は掛かる。当然、これだけに頼るわけにはいかなかった。

 更に言えば、プロトタイプは八方向から要塞を目指して迫ってきている。アマツマラが一方向だけに出てくるわけではない。


「お前ら聞いたな! 生太刀があるからって甘えてる余裕はねぇぞ!」

「合点だ! しかし管理者との共同作業って、なんかいいな!」

「お前天才じゃったか……!」

「バカなこと言ってっと、敵ん中に投げ込むぞ!」


 使用に大幅な制限があるとはいえ、管理者が武器を持って出てくる。このことは調査開拓員たちの士気に多大な影響を与えた。普段は後方での指揮に徹する彼女たちが矢面に立つことで己を恥じる者。推しと一緒に戦えることを素直に喜ぶ者。その感情は様々であったが、全体としての勢いは一層苛烈なものとなる。


『うーむ……しかしエネルギーが足りぬのう……』

「あれ、T-1さん、その稲荷寿司って」

『む? これはただのメガ郎ギガントマックスニンニクマシマシアブラマシマシカラメ超濃いめヤサイマシマシラーメンおいなりさんじゃが?』

「それ一つで総カロリーが5000億はあるというアレ!? ちょっと貸してください!」

『ぬわーーっ!? 何をするか! これは妾のおいなりさんじゃぞ!』


 中央でそんな一幕があり、BBエネルギー転換炉に莫大な熱量を含有する稲荷寿司が放り込まれる。もはや物理的な限界を超越しているカロリーが分解され、ブルーブラストエネルギーへと還元、生太刀の再使用時間が一瞬に短縮された。


『わ、妾のおいなりさんが!』

「ちょっとそういうの言ってる場合じゃないんですよ。堪えてください!」

『ぬおおお……』


 約一名の尊い犠牲を払いながら、前線では危険域まで敵の侵攻を許してしまった地点に管理者たちが駆けつける。


『Beautiful! 0.3秒もあれば、全部切り刻みますよ!』

『あう。スゥも、頑張る!』

『まったく賑やかなことで。元気いっぱいで羨ましいわぁ』


 三方位の各地に降り立った管理者たちが一斉に生太刀を引き抜く。眩い白銀の輝きが調査開拓員たちの目を焼き、直後の轟音が耳朶を打つ。

 管理者とは可憐な少女の姿をしていながら、一般的な調査開拓員とはあまりにも隔絶した力を持つ。その意味を彼らは目の当たりにしていた。

 大地が抉れるほどの衝撃が、プロトタイプ-ゼロを吹き飛ばす。組体操などさせる暇も与えず、あまりにも圧倒的で一方的な殲滅だ。


『ほな、あとは頼みます〜』

『あう。頑張ってね』

『see you again!』


 そして即座に納刀した管理者たちはくるりと踵を返して塹壕の奥へと引っ込む。直後、壊滅したプロトタイプ-ゼロの向こうから、新たに現れた個体が呪術的組体操のビームを放つが、そこにはもう管理者の姿はない。

 鮮やかなヒットアンドアウェイによって、形勢は大きく傾いていた。


『さあ皆さん、愛を込めて走りましょう。あなたの一歩が限りない愛となって人々を救うのです』

「イエス! マイ、マザー!」


 BB生産装置に乗り込んだ男たちを導くのは、微笑みを浮かべるT-3だ。彼女の呼びかけに応じて調査開拓員たちが無限に走り続ける。体力を失い倒れたものから救護班が引き摺り出し、ぶっ生き返らせて空いた回転室へと押し込んでいく。

 側から見れば無限に苦行が続く地獄のような光景だったが、そこにいる男たちは誰もが自発的に走っていた。


「いやぁ、すみませんねT-2さん。おかげでエネルギー供給体制は磐石ですよ」

『問題無い。これは事態の解決に必要な業務』


 複雑かつ不安定なエネルギー供給体制のリアルタイム管理を行なっているのはT-2である。彼女の卓越した情報解析能力がなければ、生太刀を使うことはできなかっただろう。

 調査開拓員、管理者、指揮官。彼らは一体となって事態に臨んでいた。


━━━━━

Tips

◇メガ郎ギガントマックスニンニクマシマシアブラマシマシカラメ超濃いめヤサイマシマシラーメンいなり

 各地にチェーン展開する人気ラーメン店バンド〈メガ郎〉のスペシャルメニュー。とあるタイプ-ライカンスロープの女性調査開拓員がアドバイザーとなって開発された総カロリー5000億を超える超弩級ラーメン、メガ郎ギガントマックスニンニクマシマシアブラマシマシカラメ超濃いめヤサイマシマシラーメンを更に工学的、呪術的、調理学的知見から見直し、コンパクトな稲荷寿司へと再構築した。

 美味しさとパンチとカロリーはそのままに、いつでもどこでも食べられる手軽さを合わせた一品。

 製造過程に星の配置が関係するため、販売数量に限りがあり、またタイミングも不定期となっているため、幻の稲荷寿司として知られている。


Now Loading...

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る