第1371話「踊る少女」

 プロトタイプ-ゼロたちが巨大なピラミッドを作り始めている。その情報は各地で奮戦していた調査開拓員たちの間を駆け巡る。空を飛んで偵察を行ったドローンによってその情報は明らかになった。地下街の中心にプロトタイプ-ゼロたちが集まり、整然と並んでいるのだ。

 彼らが使う珍妙な技、呪術的組体操はどれも強力だ。そのなかでも一際危険視されているのがピラミッドである。六体のプロトタイプ-ゼロによって構築された三段ピラミッドでさえ、半径6mという広範囲の空間を丸ごと消去するという絶大な威力を発揮する。

 それが、第一段だけで2,500体という規模で組み上がろうとしている。まだどのような組み方になるのかは判明していないが、〈大鷲の騎士団〉が繰り出した試算では、最終的に43,000体のプロトタイプ-ゼロが集合する可能性があった。


「崩せぇ! あれだけは絶対に完成させるな!」

「最悪、塔が崩壊するぞ!」


 危険な予測を知った調査開拓員たちは血相を変えて巨大ピラミッドへと殺到する。遠距離からも次々と砲撃が行われ、ピラミッドの一角を崩していく。しかし続々と現れるプロトタイプ-ゼロは即座に崩れた場所を補修し、段を重ねようと仲間の背中を登っていく。


「これはなかなかヤバいですね!」

「こういうのを崩すのはレティの方が得意でしょう。私は支援に徹します」


 レティたちもまた、プロトタイプ-ゼロの猛攻を凌いで地下街の中心へと到着する。そこから見た巨大ピラミッドは、既に第二段が完成しつつあるようだった。


「護衛もいるのがいやらしいですね。トーカ、任せましたよ」


 逡巡する間もなく勢いよく駆けていくレティ。その後を追いかけるようにトーカも走る。

 巨大ピラミッドの周囲には、それに参加していないプロトタイプ-ゼロも存在する。彼らが何をしているのかといえば――。


「ビームが来ます!」

「はええっ!?」


 殺到する調査開拓員たちを自ら壁となって阻むのだ。二人組サボテンから放たれたビームが、レティの頬を掠める。完成が早いサボテンは回避が難しい速射砲として厄介がられていた。

 だが、細いビームを放ったサボテンは崩れ落ちる。その耐久性の無さが唯一の救いd。


「はわーーっ!? はあっ、ひょえっ、はえんっ!?」

「シフォンを先頭にした方が避けやすそうですね」

「なんてこというのレティ!?」


 ここで実力を発揮するのは〈白鹿庵〉の地味にやべー奴とも称される白髪のモデル-ヨーコ、シフォンであった。彼女は次々と四方八方から飛んでくるビームを華麗に回避する。その類まれなる危機察知能力を遺憾なく発揮して、まるで未来予知をしているかのような動きだ。

 シフォンの後に続けば彼女と動きを合わせるだけでビームを避けられることに気付いたレティは、彼女を矢面に立たせる。思惑通りシフォンは涙目になりながらもぴょんぴょんと跳ねるようにしてビームを避けていった。


「はえっ、はええんっ!」

「どんどん行きますよ!」


 周囲の調査開拓員たちがビームに沈んでいくなか、レティは順調に距離を詰めていく。しかしプロトタイプ-ゼロの武器は組体操だけではない。元々彼らは調査開拓用機械人形を模倣した存在であり機能的には同等の力を備えている。


「銃撃が来ますよ!」


 トーカが叫ぶ。直後に銃声が響き、彼女らの元へ鉛玉が飛び込んできた。真っ直ぐに立てられた妖冥華がそれを切り裂き、左右に破片を飛ばす。


「銃弾切るって……。ていうかトーカ、テクニック使ってませんよね」

「この程度は別にスキルに頼る必要はないでしょう」

「ええ……」


 当たり前のように言うトーカ。彼女も大概である。

 やはり〈白鹿庵〉でまともなのは自分だけだという思いを強くしながら、レティはプロトタイプ-ゼロの頭を踏みつけて飛び上がる。


「せいやあああああっ!」


 いきおいよく振り下ろされたハンマーが地面を割る。亀裂にプロトタイプ-ゼロが落ちて圧殺された。

 更に彼女は地面を爪先で蹴り、瞬時に方向を変える。粗雑な武器を掲げてしまってきたプロトタイプ-ゼロたちを、巨大ハンマーで薙ぎ払う。


「はっはぁ! 所詮は烏合の衆という奴ですね! いくら調査開拓員のガワを被っていても、その下はガラクタですよっ!」


 攻撃力、破壊力に特化した彼女のハンマーはまさに鎧袖一触に敵を砕く。それでいて彼女は天性のセンスに任せた軽やかな身のこなしで、とても脚力に全くBBを割り振っていないとは思えないほどの機敏さを見せつける。


「レティ、元気だなぁ」

「乱戦になればなるほど楽しいんですよ、あの人は」


 氷の短剣を構えたシフォンが、プロトタイプ-の首を落としながらレティの活躍を見る。トーカも抜刀で敵を切り刻みながら肩をすくめた。


「おっ、わたしもいるじゃん。って機術師は本当に突っ立ってるだけだねぇ」


 ラクトが敵の群れの中に自分を見つける。しかしプロトタイプ-ゼロの機術師は触媒のナノマシンパウダーを所持していないのか、ただ立ち尽くしているだけだ。我がコピーの癖に情けないと少し落胆しながら、ラクトが氷柱で押しつぶす。


「なんだか自分を見つけた時ってちょっと嬉しくなりますよね。まあ実際戦うとあまりにも弱くて拍子抜けしちゃうんですけど」

「分かるわぁ。あっちの私、多分FPS120くらいしかないと思うのよ」

「とりあえず歩き方からなってませんね。三年くらい山で修行して出直してきて欲しいです」

「私としてはレティさんが増えると嬉しいな。まあ、私に負けるような奴はレティさんじゃないから容赦なくぶっ飛ばすけど」

「はえん。このパーティ怖すぎるよぉ」


 口々にプロトタイプ-ゼロの悪口を言う〈白鹿庵〉の面々を見て、シフォンがドン引きしていた。

 それはそれとして、シフォンのデータを取り込んだプロトタイプ-ゼロは湧き出して即自爆してしまうため、今の今まで一度も前線にすら出てきていないのだった。


「トーカ、そっちにレティが行きました。倒してください!」

「仕方ないですね。その首叩き切って差し上げましょう」

「なんでこっちに刃を向けるんですか!? レティは本物ですよ!?」


 三人寄れば姦しいと言われるところで六人も集まって、騒がしさは二倍である。それでも〈白鹿庵〉の女性陣は楽しげに敵を迎え撃つ。

 何をどう学習しているのか、出てくるプロトタイプ-ゼロはレッジやレティたち〈白鹿庵〉が如実に割合が高い。〈大鷲の騎士団〉のアストラたちもよく出てくるため、どうやら戦績か何かを参照しているようだ。ともあれ、レティたちにとっては出てくる敵を倒すだけなので、あまり重要なことではなかった。


「ピラミッドの三段目が完成してしまったようですね。頑張って阻止して、レッジさんが戻ってくるまで時間を稼ぎますよ!」


 大規模ピラミッドは着々と完成に近づいている。レティたちにできるのは、それを少しでも遅らせることだけ。彼女の号令で〈白鹿庵〉の面々が気合いを入れる。


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Tips

◇『ミラージュディスガイズ』

 〈変装〉スキルレベル30のテクニック。目視した対象の姿を模倣する。対象に対する情報を多く取得しているほど模倣の完全性も上がる。


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