第1369話「呪術的組体操」
突如戦場を二分した極太の光線は、大勢の調査開拓員を消滅させた。あまりにも強すぎるエネルギーは空間を歪ませ、急激な変化によって爆風が吹き荒れる。
何が起こったのか、すぐに理解することは難しかった。前例のない出来事だったからだ。
レティたちは武器を携えたまま周囲を見渡し、光線の出所を探す。そして焦げついた地面のラインの終端にそれを見つけた。
「な、なんですかあれは……!?」
「扇……?」
最初に反応したのは学生組。シフォンとトーカとLettyだった。
プロトタイプ-ゼロが五人、互いに腕を組んで並んでいる。中心に立つ一人が直立し、左右の二人は角度を変えて傾いている。その姿はまさに組体操における扇と呼ばれる形そのままだった。
「レティ、危ない!」
ラクトが叫ぶ。レティが耳をぴくりと動かして高く跳躍した直後、彼女が立っていた場所を光線が貫いた。
周囲に立っていた調査開拓員たちが反応しきれず消滅する。中には肘の先だけや体の半分だけが消し飛んだ者もいた。
「あれは……!」
レティは赤髪を広げて地面に降りながら光線の始端を探る。そこに立っていたのは、やはり五人組で扇となったプロトタイプ-ゼロだった。
「よく分からないけど、扇になったらビームを出してくるってこと?」
「そんな機能、レティたちにはないんですけど!?」
エイミーが見たままの情報をまとめるが、にわかには信じられない。しかしプロトタイプ-ゼロたちは次々と近くの仲間と腕を組み、扇を完成させていく。そのたびに極大の光線が放たれ、戦線に大穴が開いていく。
あまりにも荒唐無稽な光景だったが、その被害は到底無視できない。
「よく分からんが、とりあえず奴らに組体操をさせるな!」
「なんなんだこれ!? ええい、五人組に集まるんじゃない!」
だが調査開拓員たちもただやられるだけではない。すぐさま体勢を立て直し、重装盾兵たちは仲間を失った穴を埋めていく。組体操をしたらビームが放たれるのならば、組体操をさせなければいい。単純な話である。
次々と反転攻勢を仕掛け始める調査開拓員たちによって、プロトタイプ-ゼロの軍勢は組み合う暇を与えられない。しかし。
「ぐわーーーーっ!?」
「な、何ぃ!?」
「こいつら、サボテンをやりやがった!」
サボテン。一人の太ももに両足を乗せて、前後でバランスを取りながら上部の者が両腕を広げる技。二人でできる組体操。
そして、サボテンを完成させた瞬間、上の者の胸元あたりから光線が放たれた。
「なんでもありかよ!」
「ええい、二人組も組むんじゃねぇ!」
五人組の扇よりは出力が落ちるようで、二人組のサボテンから放たれる光線はいくぶん細く威力も低い。それでも至近距離で放たれると機体は木っ端微塵に爆散した。何より扇よりも完成が早く、連発されるのだ。
「技を完成させた奴はもう動けなくなるみたい。元気なやつを優先的に狙って!」
「ええい、面倒ですね!」
組体操の技を繰り出したプロトタイプ-ゼロは、ビームの放出後は自壊していく。それを発見したラクトが情報を共有するが、レティにとってはさほど嬉しいものでもない。彼女はわざわざそんなことを考えることなく、手当たり次第に叩き潰す方が楽だった。
「なっ、ちょっ、そこの二人!」
レティが愕然とする。
彼女の視線の先には二体のプロトタイプ-ゼロが立っていた。黒髪の人の良さそうな顔をした男と、金髪で爽やかなイケメン。レッジとアストラの姿を模倣した個体である。
「やめなさい! 何を勝手に――こらーーーっ!」
レティが地面を蹴って駆け寄るが、間に合わない。
偽レッジと偽アストラが腕を組む。レッジがゆるく腰を落とし、太ももに傾斜をつけた。アストラが足をそこに乗せて体重を預ける。二人の男は密接に体を近づけ、一つの芸術を完成させていく。
「や、やめ――!」
レティが耳をぴんと立てるなか、彼らは完成させる。
雄々しく屹立した背筋。アストラが爽やかな笑顔を浮かべて両腕を水平に伸ばす。熱い胸板が反りかえる。白い歯がキラリと輝く。
そして――。
「レティ!」
呆然と立ち尽くすレティに光線が迫る。彼女の体が貫かれる直前、エイミーが間に割り入った。
「あ、え、エイミー」
「しっかりしなさい。あれは偽物。別人なんだから」
「あうぅ。分かってますけど」
エイミーは〈鏡威流〉の完全防御によってビームを跳ね返していた。各地の調査開拓員たちも、防御機術師たちを中心にビームへの対処法を確立し始めていた。
もともと、ビームのような非物理的攻撃は〈防御機術〉の障壁が得意とするところだ。
「こいつらぶっ飛ばして、レッジのところに行くわよ。それまでしゃきっとしなさいな」
「――分かってます。すみません、ちょっとぼーっとしてました」
ぱちん、と頬を強く叩いて気合いを入れ直す。
レティの赤い瞳に闘志が宿る。
調査開拓員たちの動揺も落ち着き、次々と攻性機術の光が煌めく。
「焼き払え!」
その陣頭指揮を執っているのは〈
しかし、直後にその龍が堅固な壁に阻まれた。
「なぁっ!?」
メルが驚き目を見開く。
70GB級の大規模機術を阻んだのは――。
「また組体操か!」
四人のプロトタイプ-ゼロがW字に体を組み合わせた形。クロスバランスと呼ばれる形だ。中央の二人が互いの背中を合わせて後傾し、両端で前傾した二人を支える。お互いの均衡を取らねばならない技である。
「クロスバランスは防御系の技だったのか……」
「何言ってんだおめー」
ビーム以外の挙動を見せる組体操技の登場にまたどよめきが広がる。だが、クロスバランスも無敵というわけではない。駆け寄ってきた軽装の双剣士によって一体が倒されると、途端に瓦解する。どうやら遠距離攻撃にのみ効果を発揮するらしい。
「攻めろ攻めろ! クロスバランスは引っ掛けて崩せぇ!」
「後ろから支援砲撃だ。気にせず進め!」
「おおおおおおおおっ! 吶喊っ!」
調査開拓員が進軍する。
「また五人組だ!」
「へっ、ビームはもうバリアで防げるって分かってんだ!」
「待て! 何か様子が――あ、あれはーーーっ!?」
五人組のプロトタイプ-ゼロが技を完成させる。
瞬間、前方の扇状に爆風が広がった。障壁を広げて身構えていた調査開拓員たちが勢いよく吹き飛び爆散する。
「な、なんだあれは!」
「膝を曲げた三人に、二人が乗って、互いに手を合わせる。あの形はまさに……」
「知っているのか?」
「――ああ、あれはカシオペアだ!」
燦然と輝く星が戦場に光を広げる。
カシオペアと呼ばれる技は、射程が短い代わりに広範囲の対象を爆発させるという凶悪な効果を有しているようだった。
「ええい、敵はいくつ技を持ってるんだ!」
「気をつけて進め! 不審な動きをした奴は優先的に崩せ!」
「敵に組体操をさせるなァーーーーッ!」
二人組、三人組、四人組、五人組。プロトタイプ-ゼロたちは体を組み合わせて技を完成させる。鉄壁の盾となり、強力な砲台となり、時には周辺一帯を火の海に沈める。調査開拓員には持たない謎の力を発揮させる彼らは、もはや模倣品とは呼べないほどの存在感を見せていた。
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Tips
◇呪術的組体操
プロトタイプ-ゼロが繰り出す謎の複合魔法。詳細な理論や機序は解明されていないため、暫定的に魔法であると分類されている。
最低二人から最大五人での技の構築が確認されている。その組み方によって様々な効果を発揮する。
使用者にも相当の負担を強いるのか、技を完成させたプロトタイプ-ゼロは直後に自壊する。
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