第1305話「貫通狙撃」
壊し屋たちによる捨て身の特攻。次々とピラーへ飛びかかり、巻き添えも気にせずに爆破する。調査開拓団規則によって同士討ちはできないとしても、テクニックの副次的な効果として反動ダメージを受けるものは多い。彼らは自らの機体を乗り捨てるようにして破壊行動を続けていた。
「これがいわゆる
「まあ、ビジュアルはそんな感じだな」
後方の櫓からその地獄のような様子を眺める。もはやスキンを貼り付けている暇はないのか、無骨なスケルトン状態の軍団が雄叫びをあげながら走っている。
「他種族でいうと、グレムリンの活躍がすさまじいね」
シフォンが水晶玉に前線の景色を映しながら言う。〈占術〉スキルのテクニックに、遠くの景色を手元の水晶玉に映すというなかなか便利なものがあるのだ。
そこを見れば、地を這うようにして走るグレムリンが、次々とピラーに飛びかかり、ピッケルで硬い装甲を剥がしていた。内部構造が見えた途端、わずかな隙間に細長い手を差し込み、手慣れた様子で破壊している。
「グレムリンは元々ドワーフの作った機械警備員をぶっ壊してたしな。こういうのは得意なんだろう」
「となりでハンマー持ってるドワーフが複雑な顔してるねぇ」
ドワーフ、グレムリン、コボルドと調査開拓員以外にも多くの種族が参加してくれている。彼らの攻撃は調査開拓団規則の規制を受けないということもあり、ストレートにピラーを破壊できるらしい。
反面、彼らは機体を顧みない捨て身の特攻はできず、傷を受けたらパフォーマンスにも影響がでる。そんなわけで、他種族の一団は重装の盾持ちが警護を務めているのだが、ピラーのビームは分厚い盾も容易く貫く強力な攻撃だ。
「ぬわーーーっ!?」
「ぐわーーーっ!?」
「グレムリンたちは死なせるな! 代わりはいないんだぞ!」
「俺たちはいいんですか隊長!?」
「大丈夫だ。俺たちは死んでも代わりがいるからな!」
「ぎやーーーーっ!?」
結局、身を挺してビームを受けることで調査開拓員たちが爆発四散している。実際のところ機械人形は在庫もあるので問題がないといえばそうなのだが、おかげでグレムリンたちが少し居心地悪そうな顔をしていた。
『全員に伝達! 貫通砲の用意が完了した! 繰り返す、貫通砲の用意が完了した! これより5秒後に貫通狙撃を行う。各自にて対応せよ!』
その時、司令部から声が上がる。共有回線を通じて前線の調査開拓員たちにも届けられたのは、作戦の第二段階を示すものだった。
「うおおおっ!? やっぱ5秒って短すぎるって!」
「とはいえ悠長に待ってられないしなぁ」
「とりあえずグレムリンたち全員避難しろ!」
『お、おう!』
予告を受けて前線の壊し屋たちが慌てふためく。ある者は勢いよく地面に穴を掘ってそこに飛び込み、またある集団は盾を重ね合わせるようにして身構える。グレムリンやドワーフたちは最優先で守られ、各地のピラーからできるかぎりの距離を取る。
あっという間に5秒が経過し、再び共有回線に司令部からの声が響く。
『避難完了と判断! 貫通狙撃用意――撃て!』
次の瞬間。
天より極光が降り注いだ。
「うわああああああああっ!?」
「熱っ!? あっつっ!?」
第五階層の上下を隔てる頑丈な地殻。それを貫く貫通狙撃。極光の正体は超高密度のブルーブラストエネルギー光線だ。
「うわぁ、綺麗だねぇ」
櫓に座るラクトが白い頬に青い光を反射させながら笑う。
闇の町に降り注ぐ大量の光線が、まるでオーロラの雨のようだ。それは次々とピラーを破壊し、町を蹂躙していく。
「やってるなぁ、ルナ……」
俺は天を仰ぎ、その向こうで引き金を引いている友人に思いを馳せる。
第五階層の地上街から行われる地殻越しの貫通狙撃。その陣頭指揮を取っているのは、白神獣マフと契約したガンナー、ルナだった。彼女は俺たちが地下街での準備を進めている間に地上街へと赴き、そこで大型砲の準備をしていた。より厳密に言えば、クチナシ級一番艦および十七番艦の艦載砲である。銃士である彼女は俺よりもはるかに上手くそれを扱える。
ピラーの攻撃対象はあくまで地下街の存在のみ。地上街から地面越しに撃てば、一方的に叩ける。簡単な話だろう。
『やっほー、レッジ! 戦果はどんな感じ?』
次々と降り注ぐ青白い光線でピラーが破壊されていく様を見ていると、ルナから通信が入る。流石にクチナシの艦載砲を彼女ひとりで動かせるわけではないため、他にも多くの技師や銃士が忙しくしているところだろう。
「だいたい三割ってところだな」
『オッケー。割と当たった方だね』
着弾観測も兼ねていた俺の報告に、ルナは満足げな声を返す。命中率三割と聞くとなかなか低い気もするが、そもそも地面越しという前代未聞の狙撃なのだ。事前準備の段階では多くのマッパーがピラーの脅威に晒されながらできる限り詳細な地図を作り、ルナたちはそれを元にして照準を定めていた。言ってしまえば、目隠し状態で射的をするようなものなのだから、三割というのはかなり高い命中率と言える。
「じゃあ今から撃ち残しの座標と修正値送るぞ」
『わーい! レッジがいると弾道計算いらないから楽だわ』
撃ち漏らしたピラーは20ほど。直撃したがダメージが足りず仕留めきれなかったものも合わせるとまだ50ほどが残っている。降り注いだ光線の弾道から砲塔の角度などを逆算しつつ、どの砲塔をどの程度修正すればよいかという数値を書き出していく。
流石に二、三回の狙撃で全滅するほどピラーの数は少ない。
「おっと、ピラーが動き出した」
しかも、厄介なことにピラーはただ甘んじて攻撃にさらされているわけではない。奴らも相当優秀な演算機を積んでいるのか、こちらの攻撃を学習し、対策を講じてくる。
「ルナ。ピラーがバリアを張った。どれくらいの強度があるか不明だが……」
『厄介ねぇ。とりあえず修正完了したら第二射行くよ』
再び、天井を貫いてビームの雨が降り注ぐ。
だがピラーは半透明の障壁を展開し、その威力を大幅に減衰させていた。やはり、一筋縄ではいかない。
「レティ、あのバリアは破壊できるか?」
『やってみます!』
そう言った時のために、現地にレティたちがいる。土砂の下から飛び出したレティが、勢いよくハンマーを打ちつけるとバリアに大きな亀裂が入った。
どうやらエネルギー系の攻撃には強くとも物理攻撃には弱いタイプのバリアだったらしい。
「よし、じゃあレティたち現地組がバリアを破壊。再展開までの間にルナたち狙撃組が貫く。この動きでいくか」
『レッジさんの作戦を承認しました。タイミングはこちらで管理しましょう』
「頼むぞ、アストラ」
戦いの中で学習するのはピラーだけではない。俺たちも臨機応変に戦い方を変えていく。それこそが調査開拓団の強みなのだ。
「ところでシフォンよ」
「はえっ!?」
順調に作戦が進むなか、俺は隣のシフォンの肩に手をおく。
「そろそろ見つかったか?」
「あ、えっと……。もうちょっと待ってて……」
彼女にはわざわざ前線の様子を見るためだけに水晶玉を磨いてもらったわけではない。人探しこそ占いの真骨頂というわけで、探してもらっていたのだ。
「さて、どこに行ったんだかねぇ」
この広大な地下街。少し目を離した隙に忽然と消えてしまったカオスエルフたちを。
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Tips
◇遠見の水晶玉
摩訶不思議な力を宿す特別な水晶。力を持つ者が扱うことで、その内部にさまざまな景色を浮かべるという。何故か通常の水晶よりも重たく、光の加減で複雑に色合いを変える。
“今ならなんと、この水晶玉が限定価格50万ビット! お買い得ですよぉ!”――路地裏の占い婆ピーチック
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