第1203話「破壊光輪」

 クチナシ十七番艦の復旧作業を待っている間に、情報もある程度集まってきた。T-1の発表を聞いて真っ先に現場へ急行する選択を取った筋金入りの攻略組たちは、死んでも情報を手に入れたのだ。

 リソースを湯水のように使える状況も大きい。光輪が強力な攻撃であることが判明した直後には、生産職の調査開拓員達が無人機の量産に入った。光輪の性質をその身で理解するためだ。


「まず、光輪の再使用時間クールタイムは最短10分だ」

「短いですねぇ」


 調査開拓員の扱う通常のテクニックであれば、必殺技級の重たさだ。とはいえ、いくらなんでも効果と釣り合っていなさすぎる。


「有効射程は25km、塔を中心にしてリング状の攻撃が光速の0.1%で放たれる。事前に防御態勢を取っていても、今のところ攻撃を防げた事例は上がっていないな」

「水平線よりも遠い距離からの防御不可能即死攻撃か。もうチートじゃん」


 掲示板に挙げられた各種データを、無数の調査開拓員たちが解析した結果、光輪攻撃の詳細も分かってきた。しかし、それを聞いた反応はラクトが代表してくれている。

 光速の0.1%と聞くと遅い気もするが、どう考えても反応できるものではない。反応したところで、防御すら意味をなさないのだが。よしんば第一波を凌げたところで、10分で25kmを走り抜けるというのはなかなか厳しい。


「聞けば聞くほど、倒せない理由が増えてくわね」


 エイミーもゲンナリした様子でソファに身を沈める。今のところ〈白鹿庵〉でやる気を見せているのは、光輪を斬ると鼻息を荒くしているトーカくらいなものだ。


「一応、朗報もあるんだぞ」


 まとめた資料を捲りながら言うと、レティがぴょこんと耳を立てた。


「聞きましょう。あの塔をどうやって崩すのか」

「いや、それは分からんけどな。光輪は水平方向にしか進まんようだ」


 10分おきに放たれる高速広範囲防御不可即死攻撃こと光輪は、水平方向にしか走らない。横方向に存在する全てを薙ぎ倒すが、上には向かわないということだ。


「それなら、飛び越えたりできるんですか?」

「光輪の高さは5kmだ。壁というのもおこがましいレベルだな」

「流石のレティでも跳び越えられないですね。そこまでいくともう飛翔ですよ」


 一瞬元気を取り戻したレティだが、話の内容を理解してすぐに座り直す。いくらタイプ-ライカンスロープ、モデル-ラビットの脚力が強靭とはいえ、5kmのハードルは飛び越えられない。


「それなら航空機で侵入したらいいんじゃないの?」


 ラクトが諦めずに意見を出す。

 光輪が高さ5kmまでの水平方向にしか進まないのであれば、それより高い空から侵入すればいい。当然、それは他の調査開拓員たちも考えた。


「問題は光輪を越えた後だ。塔の半径8km圏内に入ると、大量の光線がピンポイントに狙い撃ちしてくる。ちなみに同時捕捉数は今のところ2,800以上らしい」


 どこかの航空機に強いバンドが強襲爆撃無人機を飛ばした記録が公表されている。光輪は悠々と飛び越え、ファーストアタックを決められるかと思った矢先、塔からハリネズミのように飛び出してきた白い光線によってあっけなく撃墜されてしまったようだ。

 ならば相手の処理能力を越えた飽和攻撃を、と大量の無人機を向かわせたが、余裕を持って掃討された。


「バカじゃん!」


 あまりにもあんまりな敵のスペックに、ラクトが思わず叫ぶ。叫びたい気持ちはよく分かるし、他の調査開拓員たちも叫んでいることだろう。


「そういえば、ミオツクシもまた設置し直しになるの?」


 光輪が船団を薙ぎ倒す映像をループさせながらエイミーが言う。映像の中では船団に混ざってへし折られるミオツクシの頑丈な露出部が映し出されていた。


「まあ修繕は必要だろうが、ことが終わった後だろうな。一応、本体は海面下にあるから通信強度が下がるくらいしか弊害はないらしい」


 ミオツクシの水面上に露出している部分は、通信を行うためのアンテナや表示灯などがほとんどだ。機能の大半は水面下に沈んでいる本体に集中しているため、光輪の被害は免れている。


「……それなら、潜水艦で向かえばいいんじゃない?」


 エイミーがぽつりとつぶやく。


「ああ、そういう手もあるか」


 クチナシの修復を待っていたから、選択肢に挙げていなかったが、海を進めるのは船だけではない。むしろ、海面下が安全なことはミオツクシが証明してくれている。

 おそらくもう潜水艦で乗り出しているプレイヤーもいるだろうが、彼らからの情報はまだ上がっていない。どうしても、速力で劣ってしまうため、まだ現地に辿り着けていないのだろう。


「潜水艦、いいと思う」


 ぐっと親指を立てるのはミカゲである。彼はさっきからずっと、忍者的な攻略法を熱心に考えていた。潜水艦というのも彼の琴線に触れたらしい。


「となると、クチナシはどうしようか」


 潜水艦で行くのはいいが、俺たちにそれを手配できる伝手はない。ナキサワメからレンタルできる船もほぼ全て出払っている状況だ。


『わたし、お留守番?』


 側で話を聞いていたクチナシがこちらを見上げる。一度は光輪で轟沈した彼女だが、そこにトラウマや恐怖を抱いている様子はない。むしろ、連れて行ってほしいと身を寄せてくる。


「うーん、そうだな……」


 俺は少し考え込み、ひとつ思い付く。


「いや、クチナシで行こう」

「いいんですか? また光輪に壊されるかもしれませんけど」

「ちょっと試したいことがある。何、こう言うときは深く考えるよりトライアンドエラーを重ねた方がいいだろう」


 不安そうにするレティにそう言って、俺は早速再出撃のための準備を始めた。


━━━━━

Tips

◇強襲爆撃無人機タラリアMk.Ⅴ

 〈富澤宇宙航空技術研究局〉が開発した無人航空機。クラスⅡAIコアを搭載し、簡易的に独立した戦闘行動を実行できる。最大20tの兵装を搭載可能で、時速600kmで飛行する。

 動力源として〈ダマスカス組合〉製の特大型超高濃度圧縮BBバッテリーを32基搭載しているため、本体による自爆攻撃も可能。


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