第1202話「立てなおし」

 アップデートセンターで金を支払い、機体の完全復旧を行った。死んだのが海の上で、一撃で機体丸ごと消し飛んだということで、どう考えても回収には向かえないからだ。

 呆然としながらレティと共にセンターから出ると、出口にはラクト、エイミー、トーカ、ミカゲの四人が待ち構えていた。


「四人とも、なんでここに?」

「二人に現在地を確認したら戻って来てたから、こっちで合流する方がいいと思って」


 一足先に洋上へ乗り出していた俺とレティにラクトたちが合流するには時間がかかるはずだった。それが、俺たちの方が死に戻ったことでこういう再会になったわけだ。


「二人とも仕方ないなぁ。一撃でやられちゃうなんて、油断してたんじゃない?」


 ラクトは俺とレティを見上げて皮肉ったことを言う。自分がその場に居ればきっと凌げたはずだと豪語するが、それはレティを憤慨させる。


「油断なんてしてませんよ! そもそもレティたち以外の船も全滅したんですから」


 アップデートセンターからはぞろぞろと攻略組らしい武装で固めた調査開拓員が出てくる。彼らはみんな、俺たちと同様に一撃で沈められて死に戻ってきた口だろう。


「出遅れたからって、嫉妬は見苦しいですよ」

「はぁ!? べべべ、別にそう言うのじゃないけど!?」


 レティとラクトがはしゃいでいるのを横目に、俺はエイミーたちに情報を共有する。流石に特別なイベントだけあって、初っ端から情報量がいきなりどかんと増えてしまった。


「とりあえず、このメンバーでもう一度船に乗って行っても、結果は変わらない気がする。〈塩蜥蜴の干潟〉に現れた塔はなかなか手強いぞ」

「そうみたいですね。だからこそ血が滾るというものですが」

「トーカはいつも通りで安心するよ」


 とはいえ、レティの見立てではトーカでもあの光輪を耐え凌ぐことは難しい。反応できないほどの高速で瞬間的に無数の連撃が叩き込まれ、完膚なきまでに機体を粉砕されるのだ。

 あれはタイミングを測ればどうにかなるという代物ではない。


「まあ、そもそも。もう一度向かうのも大変なんだが」

「……船がない」


 ぼそりとつぶやくミカゲに頷く。

 あの光輪によって破壊されたのは俺やレティの機体だけではない。調査開拓用装甲巡洋艦クチナシ級十七番艦もまた、完全に破壊され轟沈しているのだ。


「もしかして、クチナシさんも……?」


 さっと顔を青ざめさせるレティ。俺は彼女を安心させるため、肩に手を置いた。


「そこは大丈夫なはずだ。とりあえず、造船所に行こう」


 仲間を引き連れて〈ナキサワメ〉港湾区画にある造船所へと向かう。大規模なドックがいくつも並ぶ壮観なエリアで、今はそこかしこから耳を劈くような工事の音が響いている。

 平時でも昼夜を問わず動き続けているドック群だが、今回は勇み足で飛び出して行った船団が一瞬で全滅したのだ。その欠落を補填するため、全力稼働の真っ最中だろう。


「ここかな」


 区画の一角に位置するドックの中に入る。そこではナキサワメから依頼を受けた生産職の調査開拓員たちが忙しそうに走り回っていた。そんな屋内の片隅に小さなテーブルセットが置かれており、椅子に腰掛けてエナドリのサイケデリックな色合いの缶を抱えている少女がいた。


「クチナシさん!?」


 少女がかけているサングラスを見て、レティが耳を立てる。

 彼女は俺たちと一緒に沈んだはずの船、クチナシ級十七番艦のSCS-クチナシ-17だ。


『二人ともごめんね。回避行動が間に合わなかった』

「いや、あれは無理だろ」


 開口一番に謝罪をするクチナシを慰める。いくら各種設備が更新された船とはいえ、あの光輪を避けるのは不可能だ。


「あの、どうしてクチナシさんが?」

「クチナシも機体や船体が行動不能になったらバックアップから復活するんだよ。ミオツクシの通信圏内ならリアルタイムバックアップだから、直前の記録もしっかり残ってる」


 実際、クチナシ級十七番艦は彼女で二百六隻目だ。調査開拓活動は非常に危険であるため、わりと頻繁に沈む。その度に新たな十七番艦が作られ、SCS-クチナシ-17がインストールされることで復活を果たすのだ。


「なんだぁ……。てっきり今生の別れかと」

「ナキサワメもそんな非効率なことはしないだろ」


 クチナシ級に高性能な人工知能が搭載されているのは、航行データを蓄積して今後に活かすことが機体されているからだ。沈んだから学習もリセットされるというのはもったいない。

 ミオツクシが周囲の海に置かれたのは、彼女たちのバックアップを完璧に取るためという目的もかなり大きいのだ。


「十七番艦のレンタル契約はまだ生きてるからな。新しい船が完成したら、またすぐに出発できるぞ」

「船はいつごろ完成するの?」

「だいたい半日ってところかな」


 ドックの情報ページにアクセスすると、建造中の船舶があとどれくらいで就航できるかが分かる。緊急特例措置のリソース無制限解放のおかげか、ずいぶんと作業工程の高速化が進んでいるようで、それほど待たずにクチナシも復活できそうだ。


「それじゃあ、それまでにあの光輪を斬る方法を考えなければならないと言うわけですね」


 妙にワクワクとした顔でトーカが言う。


「別に斬らなくてもいいと思うけどな。何かしら対策は考えないと」


 俺たちに遅れて出発した奴らもそろそろ到着している頃だろう。彼らが検証し情報を持ち帰ってくれる。それを見てから考えても遅くはないはずだ。


「……ここはやっぱり、忍者の出番」


 光輪という難問に頭を悩ませていると、ミカゲがそう言ってきらりと目を輝かせた。


━━━━━

Tips

◇航行ログ

 SCSによって記録される船舶の航行に関する様々なデータを格納した記録。航行支援標識〈ミオツクシ〉の通信圏内であれば、全てがリアルタイムでパブリックデータベースに記録される。

 SCS搭載艦は自艦の航行ログを用いることで、たとえ轟沈しても完璧に復旧することが可能となる。


Now Loading...

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る