第1193話「謎の地下施設」

「待てーーっ!」

『待つかバカ! ていうかここは立入禁止区域だぞ! 出ていけ!』


 ひょっこりと扉の奥から現れ、再び中へ逃げていったサカオを全員で追いかける。隠し扉の向こうは真新しく整備された通路が続き、さらに地下深くへと降りていく階段が九十九折りに続いていた。

 サカオはパタパタと転がるように駆け降りていき。俺たちも必死にそれを追いかける。


「こんな階段、初めて見ますわね」

「ずいぶん掘ったみてぇだな」


 wiki編集者の二人もこの階段の存在は知らなかったらしく、走りながら驚いている。


「レッジ、俺たちは足が遅い。構わず先に行ってくれ」

「むしろ私たちはここをじっくり調べながら行きたいですわ」

「分かった。じゃあ先に行くぞ」


 レングスたちは戦闘には不向きスキルビルドだ。彼らの走る速度に合わせていると、サカオとの距離は離れていく。二人もそのことは承知で、先に行けと頷いた。


「ひぃ、ひぃ。レッジ、わたしも後から行くよ」

「足が遅い組に合わせてても仕方ないわよ」


 戦闘職でも、ラクトやエイミーはレングスたちと同じくらいの速度しか出ない。彼女たちにも申し訳ないが、進ませてもらう。


「レティ、サカオを捕まえるぞ」

「任せてください!」


 レティが気炎をあげて、階段を蹴る。そしてゴム毬のように弾みながら猛烈な勢いで降っていく。


「くっ。私はあまり小回りが効かないんですが……」


 その後を追いかけるのはLettyとトーカだ。Lettyはまだレティほどの高速機動ができないし、トーカも直線であればともかく、次々と折り返す階段では分が悪い。


「……こういう時こそ、忍者の出番」

「はええっ!? ほわっ!? ひょえっ!?」


 ミカゲが糸を巧みに使って高速移動する。シフォンも悲鳴を上げながらもそれに追随する。なんだかんだ、〈白鹿庵〉は機動力が高い人材が揃っている。


「サカオ!」

『来るんじゃねぇ!』


 俺は脚部BB極振りのステータスだけでなんとか追いかけているようなものだ。ハイパージャンプが使えればすぐにサカオを確保できるのだが、残念なことに修正されてしまったからな。

 何度か前方の小さな背中に声を掛けてみるも、彼女はべぇっと舌を出して逃げる。


「うおおわっ!? レッジさん、通路はやばいですよ!」

「はええええっ!? ほぎゃっ!? ひぎゃっ!?」


 階段が終わり、再び横に伸びる通路が現れる。しかし、今度は赤いレーザー光線が無数に走る、殺意マシマシの廊下だ。レティが試しにダミー人形を投げると、一瞬で焼き切られて地面に転がった。おそらく、調査開拓用機械人形でもただではすまない。

 シフォンは涙目になりながら、軽やかにレーザー光線を紙一重で避けていく。やっぱり、回避にかけては彼女に勝る者はいない。


『チッ。しつこいな!』

「ウェイドから頼まれてるんだ。サカオのことを手伝ってやれってな」

『普通に制御塔で任務をこなしてくれればいいんだよ! こんなところまで来るな!』


 管理者だけはレーザーの網を無視して真っ直ぐ走り抜けている。そこに少々の理不尽を感じつつ、彼女がそこまでして隠そうとしているものに興味が湧いてきた。このまま進めば、きっとそれが明らかになることだろう。

 しかし、そう簡単には見ることはできない。


「うわあっ、警備NPCまで!」


 通路の左右の壁が開き、中から警備NPCがわらわらと出てくる。どれも完全武装の臨戦状態で、交渉の余地はなさそうだ。


「――『迅雷切破』ッ!」


 瞬間、雷光が走る。

 耳を劈く轟音と共に、閃光が目を焼く。視力が戻った頃には、警備NPCが黒焦げになって倒れていた。


「直線ならレティにだって負けませんよ!」

「なにおぅ!?」


 こちらへ振り返り、ニヤリと笑うトーカ。彼女に煽られたレティもやる気を出し。、ハンマーを構える。彼女たちの目に警備NPCは映っていなかった。なぜなら――。


「『トップスタンプ』ッ!」


 移動技と呼ばれるような、通常の制限を越えた高速機動が可能になるテクニックによって、もろくも轢殺することができるからだった。


『うわーーっ!? お前ら何やってんだ!』

「退いてくださいサカオさん! 巻き込んでしまいますよ!」

『なんか目的変わってないか!?』


 レティとトーカは互いに鎬を削り、警備NPCを薙ぎ倒しながら猛烈な速度で通路を走る。もはやサカオすら眼中になく、どちらが速いかを競っている始末だ。


『レッジ、あの二人止めろ!』

「俺に言わないでくれよ」


 顔を青くしたサカオがぶんぶんと手を振る。しかし、暴走列車は急には止まれない。下手に手を出せば自分が吹き飛ばされてしまうだろう。


「サカオ、この奥に何があるんだ?」

『それは……いや……』


 この後に及んでサカオは言い渋る。まったく、一体どんなお宝を隠しているのか。

 まあ、彼女が言わなくともそのうち分かるだろう。長かった通路もあっという間に終端が見えている。隠し扉よりも遥かに頑丈そうな、鉄の扉だ。しかし、そこに猪突猛進の勢いで迫っているのは、〈白鹿庵〉きっての破壊神と首斬りだ。


「『時空間波状歪曲式破壊技法』――」

「『時空間戦場断裂式切断技法』――」

『ウワーーーーッ!? あの二人、何をやってるんだ!?』


 もはやサカオを追い越して走るレティとトーカ。二人の周囲の空気が歪む。それぞれが手にする得物に理外の力が宿る。それはあらゆる物質をその硬度や構造に関係なく、問答無用で破壊する力。二人はより早く、相手よりも一歩でも先に、ゴールテープを切るためにそれを使った。


「彩花流、参之型――『烏頭女突き』ッ!」

「咬砕流、三の技――『轢キ裂ク腕』』ッ!」

『やめろーーーーっ!』


 サカオの悲鳴が響くなか、二人は最高速度に到達する。強烈な破壊の衝動をその身に宿し、分厚く頑丈な装甲扉をノックする。

 次の瞬間、地下トンネルの全体が大きく揺れた。


「はええええんっ!?」


 爆風で吹き飛んでいくシフォンを慌てて捕まえる。まるで至近距離で特大の爆弾が破裂したかのような衝撃だ。いや、実際似たようなものか。

 もうもうと立ち込める砂塵の向こうにレティとトーカの影がうっすらと見える。その奥にある扉は跡形もなく消え去り、守っていた背後の空間が露わになっていた。


「これは……」


 狭い通路を抜けた先にあったのは、驚くほど広大な地下空間。金属とコンクリートによって作られた、巨大土木構造物。無数の大型土木工事NPCがせっせと作業を進めている。

 俺たちが唖然とするなか、突如照明が一点に集まる。そこに、小柄な人影が浮かび上がった。


『ウェルカムトゥ、ジ、アンダーグラウンド……』


 聞き覚えのある声にぴくりと反応する。砂の煙幕が晴れその向こうに隠れていた少女が姿を現す。黒いコートを羽織り、左腕に包帯を、右目に眼帯を着けた少女。クックック、と不敵に笑いながら、俺たちを見下ろしている。


『ようこそ、招かれざる賓客よ。大いなる象徴サインに導かれし旅人たちよ。我が深淵の黒神殿、“暗黒の邪竜神殿ダーク・ザ・ダーク”へよくぞ参った。数多の番兵を討ち倒し、大いなる関門を潜し勇敢なる愚者たちよ、貴様らの栄光をここに刻もう』


 一文ごとに大袈裟にポーズを決めながら、装飾過多なセリフを紡ぐ黒衣の少女。

 その姿を見た俺は、自然とフレンドリストを開いてTELを掛けていた。


「クナド、またブラックダークがなんかやってるぞ」

『なんで私に言うんですか!!!!』


━━━━━

Tips

◇“暗黒の邪竜神殿ダーク・ザ・ダーク

今はまだ、語るべき刻ではない。

――〈黒き闇を抱く者ブラックダーク


Now Loading...

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る