第1160話「一大生産地」

『シード02-アマツマラ、〈ホムスビ〉からは72本の大坑道が伸びてるっす。大坑道は幅60mを基準にして、特大トロッコがすれ違えるようになってるっす。総延長は一番長い第一大坑道で167km、平均は135kmくらいになるっすね』


 ナナミとミヤコが牽引するトロッコに揺られながら、ホムスビが大坑道に関する説明をしてくれる。ナキサワメはそれを真剣な表情で聞き、その規模の大きさに驚いていた。


「俺が前に調べた時は、平均120kmくらいだったんだけどなぁ」

『最近は第二次〈万夜の宴〉でみなさん頑張ってくれたっす。おかげで2本の大坑道が開通して、平均総延長も10km以上延びたっす』


 第二次〈万夜の宴〉の最終結果では、ホムスビは下から三番目にランクインしていたはずだ。それでもイベントのおかげでかなり領域拡張プロトコルを進行させることができたらしい。


『鉱物資源の需要量はずっと拡大傾向にあるっすからね。正直、掘っても掘っても足りないのが現状っす』

「今もずいぶん掘ってるだろうに」

『ウェイドなんかは特にお得意様っすよ』


 ニコニコと笑うホムスビの言葉から、ウェイドの苦労が垣間見える。保護施設の増築と修繕で鉄が湯水のように消えていくのだろう。

 とにもかくにも、〈ホムスビ〉を基点とする〈アマツマラ大坑道〉は調査開拓員にとって重要な金属資源の一大産地だ。〈採掘〉スキルに特化させた鉱夫と呼ばれるような専門職のプレイヤーも多く、日夜絶え間なく坑道の拡張と採掘が進められている。

 俺たちが入ったのは、今まさに拡張工事が行われているという最新の大坑道、第七十二大坑道だった。


『第七十二大坑道は総延長5km程度っすね。今は総延長10kmを目標に延伸作業が進められてるっす』


 延伸作業といっても、大坑道自体が縦横ともに60mを超える巨大な穴だ。そこを掘るだけでも〈カグツチ〉を数十機態勢で動員しなければならない。大量の土と共に鉱物資源も多く産出されるため、巨大なツルハシを構えた鉱夫たちが威勢のいい声を上げている。

 そこかしこで響き渡る岩を砕く音や重機の稼働音が岩盤に響き、坑道中に広がっている。俺ですら参ってしまう騒音だが、ホムスビは慣れているのか平然とした顔だ。


「枝道はまだ掘らないのか?」


 大坑道は特大トロッコを使った効率的な運搬のために整備される。更に効率的な採掘は、大坑道から左右に伸びる枝道という小さな坑道を使って行われるのだ。


『まだそこまでの用意が整ってないっすからね。10kmまで伸ばせたら、順次枝道も作っていく予定になってるっす』


 坑道の開発計画はしっかりと立てられているようで、ホムスビは緻密に書き込まれたそれを俺たちに見せてくれた。72本の坑道と町を同時並行的に点検、開発する複雑怪奇なスケジュールだ。

 計画表を覗き込んだナキサワメは、びっしりと文字が書かれているそれを見て唖然としていた。


『こ、これは……。この通りに計画は進むんですか?』

『なかなか進まないっすね』


 恐る恐る尋ねるナキサワメに、ホムスビはあっけらかんと答える。ウェイドもそうだったが、やはりこういった計画は修正ありきで立てていくものらしい。計画の通りに進まないことに対して、彼女たちは恐怖をいだいていない。


『け、計画が遅れてしまったら、どうすればいいんでしょうか』


 ホムスビは首を傾げる。


『計画は結構余裕を見て立ててるっすよ。だから、むしろ前倒しで進むことの方が多いっす』

『ええっ!?』


 予想外の回答だ。ナキサワメだけでなく、俺も思わず驚いてしまう。

 ホムスビは計画表の隣に実際の進捗を表示して見せる。それによれば、確かに1週間ほど早く作業が進んでいるようだ。作業に遅れが出るなら分かるが、まさか加速しているとは。


『ど、どうして……』

『一番大きいのは調査開拓員さんの頑張りっすね! 実際の作業もそうっすけど、技術革新でより高性能な機材が開発されたら一気に作業効率が上がるっす』

「なるほどなぁ。そういえば、トロッコもゴンドラも最新式って言ってたな」


 カミルがテンション上げていたが、〈ホムスビ〉で使われている採掘用の機材は頻繁に更新されているという。生産系のスキルを使いより強力な機材を開発している調査開拓員の存在も、計画の進捗に大きく寄与しているのだ。


『〈カグツチ〉の各パーツや、機獣、ツルハシなんかもどんどん良い品が出てるっす。最近の鉄需要のおかげで資金にも余裕があるっすから、すぐに効率を上げることができるっす』


 鉄資源はウェイド以外の管理者も喉から手が出るほど欲しがっている。それこそ、ナキサワメも自身の町の建設のために大量の資源の発注を掛けているはずだ。おかげで生産地である〈ホムスビ〉が好景気に沸き、より技術革新が加速するという循環が生まれている。


『すごい……』


 ホムスビの働きを直に見て、ナキサワメは圧倒されている。

 しかし、それだけでは終わらない。


『実は、もう一つ要因があるんすよ』


 ニコニコと笑いながらホムスビは指を立てる。そして彼女が指し示したのは、大坑道の最奥で延伸工事に従事している作業員たちだった。


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Tips

◇第七十二大坑道

 〈アマツマラ地下坑道〉に開かれた72本目の大坑道。目標総延長は160kmで、主に黒鉄鋼の産出が期待される。


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