第1093話「第一の関門」
海上に浮かぶ〈ダマスカス組合〉のプラントには、続々とプレイヤーが集まって来ていた。〈大鷲の騎士団〉のアストラたちや、〈
「あの、レッジさん。一応〈怪魚の海溝〉って退避命令が下ってるんですよね?」
「そのはずなんだがなぁ」
これから挑もうとしている〈怪魚の海溝〉はバカでかい呑鯨竜が生息していることが分かった。それが一度動けば広域に甚大な被害が出るため、T-1の名前で立ち入り制限が掛かっているのだ。とはいえ、何かしらの規制線が引かれているというわけではなく、死に戻った際のペナルティが少し重くなるというものである。なので……。
「死ななければ問題ないんですよね?」
「しなやすしなやす!」
と、慢心しているのか勇敢なのかよく分からないプレイヤーが続々と集まってきているわけだ。
「まあ、来てしまったもんはしかたない。俺たちは俺たちでできることをやって、他の奴らには臨機応変に対応してもらおう」
一応〈万夜の宴〉の真っ最中ではあるが、海底都市〈アトランティス〉の攻略は俺個人の
「レッジさん、準備できました」
「了解。じゃあ、行こうか」
幸い、プレイヤーたちの誘導は大人数の指揮に慣れているアストラが助けてくれることになっていた。彼が横列に並ぶ戦艦をぴょんぴょんと跳んでこちらへやってきて、準備の完了を伝えてくれる。別のTELで伝えてくれれば良かったんだが……。
ともかく、これでようやく動き出せる。
俺たちはクロウリの用意してくれた巨大な潜水艦へと乗り込む。
「先頭は哨戒機、その後ろを潜水艦で追いかける。他の奴らは俺たちについてくるように」
「各船に騎士団の連絡員を一人置いていますから、いつでも伝達できますよ」
「さすがアストラだな。心強いよ」
「ありがとうございます」
クロウリの合図で、潜水艦を引っ掛けたクレーンが動き出す。巨大な鉄の塊が宙に浮き、横へ滑り、ゆっくりと海へと向かう。アストラは騎士団の船に戻るため、俺は彼と別れてハッチを閉じる。
全艦が気密状態となったのを確認して、その筐体が海の中へと沈められた。
「各種計器、問題なし」
「テントも問題ありません」
「出力安定」
潜水艦を動かす〈ダマスカス組合〉のスタッフが口々に状況を報告する。最悪、波を受けた瞬間に爆発することも危惧していたため、ひとまず船出は無事に行えそうでそっと胸を撫で下ろす。
「哨戒機の様子はどうだ?」
「現在、順調に進んでいます。水深100メートル以下の浅い場所なら、原生生物からの攻撃は装甲でカバーできる範疇ですね」
「よし、なら目標地点まで水上航行だ」
「イエッサー!」
恐れ多くも艦長の役目を任された俺は、せめて不安は見せないように大きな声をあげる。それを受けた歴戦の艦員たちが威勢の良い返事をして、各々動き出した。
やがて、巨大なエンジンが動き出す騒音が聞こえ、艦はゆっくりと進み始める。その速度は徐々に加速し、やがて、時速50km程度の軽快な走りをみせる。
中央指揮所にずらりと並べられたディスプレイには、艦の各所に取り付けられたカメラから映像が送られてくる。後方に目を向けるカメラの映像を見れば、騎士団の立派な巨大戦艦を先頭に、大小様々な船が追いかけてきていた。
「それでレッジさん。最初の関門はどうやって突破するんですか?」
順調な滑り出しに安心したところでレティが声を掛けてくる。
最初の関門というのは、海底都市へ戻るために突破しなければならないある問題のこと。それは、呑鯨竜の腹の中に入る、というものだ。
呑鯨竜の位置自体は珊瑚礁地帯から大きく動いてはいない。そもそも、動くだけで周囲に甚大な被害が出るため、呑鯨竜自身はほぼ動かないようだ。海底都市へ向かうには、まず呑鯨竜の体内へ侵入しなければならないのだが、都合よく扉がついているわけでもない。
「口を開けといてくれたら、そこから入れるんだけどな」
「哨戒機の映像を見たところ、がっちり閉じてますねぇ」
「だよなぁ」
ディスプレイに映し出された映像には、呑鯨竜の口元が映っている。正直、そう言われなければ海溝の断崖絶壁か何かかと思ってしまうほどの、途方もない大きさだ。しかし、そこはぴっちりと閉じられていて、こじ開けることもできそうにない。
「何かしら方法は考えてるんだよね?」
ラクトは信頼した上で聞いてくる。俺も頷き、呑鯨竜の体内に侵入するために考えた作戦を彼女たちに伝えた。
「名付けて、“おっ、こんなところに美味しそうな料理があるじゃん”大作戦だ!」
━━━━━
Tips
◇退避命令
第三回拓領域〈イヨノフタナ海域〉第一域〈怪魚の海溝〉は、現在、甚大な災害が発生する可能性が非常に高まっています。そのため、一時的に当該フィールドへの立ち入りを禁止し、現在活動中の調査開拓員には退避を命令します。
退避命令の発動中に当該フィールド内で行動不能に陥った場合、機体回収費用が増額され、スキルデータの破損も大きくなります。
“とてつもない危険があるのじゃ。絶対に立ち入るでないぞ! 絶対じゃぞ!“――管理者T-1
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