第1032話「無自覚な残酷」
「なるほど。それでクナドさんから依頼を受けていたのですか」
「そういうことだ」
レティがクリスティーナたちと共に原生生物の巣を潰し回っている間、俺もまた光とフゥの二人を加えて行動していた。〈紅楓楼〉の頼れる
戦いが楽になったことにより、話す余裕も出てくる。俺は勢いよく弾む黒いスライムのような原生生物を槍で突き飛ばしながら、ここへ来た理由を彼女たちに伝えた。
「第二の封印杭を見つけるために、旧第二開拓領界を見つけるために、〈老骨の遺跡島〉のボスこと第零期専攻調査開拓団員のエウルブ=ロボロスを倒すために、クナドさんから話を聞くために、原生生物の巣を壊して回ってるの。なんだかすごいねぇ」
「もっといえば封印杭の探索は腹を空かしてるミートたちからウェイドを守るためだからな」
「目的と手段がごちゃごちゃだよ」
自分で話しておいてなんだが、なかなかに事情が入り組んでいる。フゥもうまく理解できた自信はなさそうだ。
「ちなみに、巣はあといくつくらいあるの?」
「レティたちがどれくらい壊してくれてるか分からんが、まだ始めたばかりだからなぁ。30はあるはずだぞ」
「多いねぇ」
急いでるんだからクナドもさっさと教えてくれればいいのに、とフゥが唇を尖らせる。
とはいえ彼女も管理者となったことで、様々な義務や責任が発生しているのだろう。管理者や指揮官は特定の
最前線のボスの攻略情報ともなれば、これほどの対価は必要だろう。
「時間がないのは確かだからな。サクランボたちのおかげで多少は食料が供給されたとはいえ、あと数日……」
ウェイドからは頻繁に連絡が飛んできている。『早くしろ』『成果を上げろ』『足らぬ足らぬはやる気が足らぬ』と騒がしい。なんとか進捗は報告しているのだが、彼女としては気が気ではないのではないのだろう。
「そういうことでしたら、私たちもお力になれるかもしれませんの」
「うん? 確かにそれはそうだが……」
跳ねたスライムは壁や天井にぶつかり、勢いをつける。そうして威力を増して飛び込んできたところを、光の構えた黄金の盾が軽く阻む。彼女の盾は鋭いツノのようなものがびっしりと付いていて、見ているだけでも痛い。案の定、衝突した黒スライムはしっかりとダメージを受けている。
盾に激突したスライムを壁に押し付けて潰しながら、光が言った。
「そういうことではなくて。私たち、実はブラックダークさんからの任務を受けて活動していますの」
「ブラックダークか。また変わり種を選んだな」
第二次〈万夜の宴〉では各管理者から任務を受けることができる。その中でも、クナドとブラックダークの二人は立ち位置的に見ても少々特殊な存在だった。なにせ、彼女たちは基本的にどこに現れるのかが不明なのである。
「クナドが管理者になって、行動が分かりやすくなったの。ブラックダークは大体彼女の側にいるからね」
「それで〈クナド〉に来てたのか。しかし、なんでまたブラックダークを?」
イベント開始から数日経ち、ブラックダークから任務を受けるのは少々難しいということが分かってきた。理由の一つは彼女の所在地が分からないという点だが、それ以外にもいくつかある。大きなものは、彼女の言葉が分かりにくいということと、彼女から貰える
「確かにブラックダークさんの褒賞品は何に使うかさっぱり分かりませんけれど。人気がないからこそ集めておいたらいい事あるように思いません?」
「光は逆張りするタイプだったか」
「布石を置くのに余念がないんですの」
ブラックダークのログインボーナスは“
「試しに一つ解読して頂いたら、“覇龍殲滅激昂斬”と“
「昔からあんな感じだったんだなぁ……」
なんというか、T-2の1TBキャッシュデータの方がまだレベル上げに使える分有益かもしれない。“失われし太古の記憶”は必要な〈解読〉スキルレベルが高すぎるせいで、レベリング効率もあまりよくないらしいしな。
「〈紅楓楼〉はそんなものばっかり集めてるのか?」
「ブラックダークからログボ貰ってるのは光ちゃんと私だけだよ。カエデ君たちは普通にアマツマラから依頼受けたりしてるし」
苦笑しつつ補足するフゥ。〈紅楓楼〉の中でも大穴狙いは光だけで、フゥはそれに付き合わされているのだろう。カエデたちは堅実に、自分の必要とするものを集めているようだ。
「それで、力になれるというのは?」
話を聞いていたアイが声を上げる。光は逸れかけていた話題を戻し、改めて口を開いた。
「“失われし太古の記憶”そのものはただのブラックダークさんの日記なのですが、それをクナドさんに見せると特殊な反応があるらしいですの」
「ええ……」
光が語ったのは、世にも恐ろしい無慈悲な行為だった。
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Tips
◇ “
絢爛なりし大舞台のため、〈
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