第956話「形態模写」※
Lettyが軽やかに宙を跳ぶ。彼女に食らい付く竜の首を、ラクトとシフォンが押さえ付けてアシストしていた。
「『弱点看破』、『打ち砕き』ッ!」
彼女は〈鑑定〉スキルを用いて竜の逆鱗や動脈といったウィークポイントを見つけ出し、そこを狙ってハンマーで破壊する。体毛のように発達した鱗は打撃属性を吸収してしまうが、場所を選べば効果的に戦える
「あの動き……」
クルクルと竜の首を蹴って駆けるLettyの姿は見覚えがある。
レティも一度、あんなふうに地面へ降りない戦い方をしていた。彼女はそれを見て覚えていたのだろう。伊達にレティのトレースプレイをやっていないということか。
「見よう見まねって、そう簡単にできるものでもないと思うんだけど」
「ファンはファナティックのファンらしいからなぁ」
Lettyは先ほどまでテントの裏でプルプルと震えていたのが信じられないほど、軽やかに動いていた。彼女の目は輝き、戦闘を心から楽しんでいるんがよく分かる。
「はーはっはっはっ! レティを捉えようなんて100億万年早いんですよ! 貴方は顎が砕かれるのがお似合いです!」
Lettyの甲殻砕きが飛び上がり、ヴァーリテインの下顎を砕く。彼女は楽しげに笑い、その首を叩き折って次の獲物を探す。
太い触手が彼女の足に絡みつこうと迫るが、それは飛び出してきたトーカのクナイによって断ち落とされる。
「助かりました!」
「こちらも動きが読みやすいので。その調子で」
黒い覆面を着けたトーカが、口元を緩める。Lettyのレティ再現度はかなり高い。そのおかげで、トーカもいつもと同じくらいの実力を遺憾無く発揮することができていた。
「これは、ひょっとして、結構すごい子だったんじゃないか?」
Lettyの動きは更に加速する。スキルが育っていないぶん、本物のレティと比べるとまだ及ばないところはあるが、動きはほぼ完全にレティだった。
「レティの完全模倣か。こりゃあ、スキルと装備が揃ったら恐ろしいねぇ」
ラクトが矢を三本一度に放ちながら苦笑する。
彼女もレティが合計スキルレベル2桁くらいの時からの付き合いだ。Lettyの動きは合計スキルレベル800代くらい頃のレティそのままで、懐かしさすら覚えている。
「Letty、『打ち砕き』と『甲羅割り』のディレイを0.5秒ずらせ! それと、着地の足は内側にあと5°くらい寄せれば、次のステップがスムーズになる」
「あわあわわっ!?」
突然に声を掛けられて、Lettyが驚く。俺は口に手を当てて、Lettyの動きを実際のレティの今の動きに修正していく。
「こ、こう? ですか?」
「そう、その調子だ。レティは何にも考えずに動いてるが、Lettyはそれをイメージしながら追いかけてるだろ。そこに若干のズレが出てる。俺が修正を指示するから、合わせてみろ」
「分かりました!」
飛び回るLettyの動きを注視し、違和感を覚えた箇所を分析する。僅かな一瞬のズレ、躊躇、逡巡が、レティ本来の天才的な戦闘センスによる最適な動きから外れていく。そこを指摘してやれば、Lettyの動きは更に滑らかになっていった。
「指示受けてすぐに応えられるLettyも凄いけど、指示できるレッジも大概だね……」
「何言ってるんだ。レティの側に一番長く居たんだぞ。これくらい分からないと」
「むぅ」
FPOに於いては、俺が一番レティとの付き合いが長いのだ。彼女の動き方、クセ、考え方、全て俺が一番知っている。そう言うと、ラクトはなぜか頬を膨らませて射撃に集中しだした。
「けどやっぱ、若干ズレてくるな」
Lettyに指示を出せばすぐに修正してくれるのだが、それでも時間が経てばまた少しずつズレてくる。彼女も分かっているのか、少し不満の残る表情で懸命に体を動かしていた。
「重心が違うんじゃないの? ほら、本人と比べて重たいだろうし」
「なるほど」
そこへエイミーが重要な指摘をくれる。
レティと比べて、Lettyは胸が大きい。その重量によるバランスの変化も、FPOのパワフルな物理エンジンは瞬時に計算して反映している。それなのにレティと同じような小回りの効いた機敏な動きを追っていると、当然体に振り回されることになる。
「参ったな。胸が大きいレティの動きなんて知らないぞ」
「レッジ、後でレティにぶん殴られても知らないよ」
こうなると俺がレティの動きを参考に修正指示を出しても仕方がない。やはり、LettyにはLettyに最適な動き方があるのだ。
「任せなさいよ」
その時、自信に満ちた顔をこちらに向けたのはエイミーだった。
「私が普段何してるか、知ってるでしょ?」
彼女の言葉にはっとする。以前行ったオフ会で、エイミーのリアルの職業についても聞いていた。彼女はフリーのインストラクターをやっている。言うなれば、人に体の動かし方を教えるプロだ。
「Letty、動きはタンタンタンのリズムを基本に。背筋を伸ばして、反動を活かして弧を描くように動けば重心もぶれないわ。レティの動きを参考にしつつ、自分が動きやすいふうに改良も重ねていくわよ!」
「あわっ!? は、はいっ!」
俺がレティの動きを元に修正箇所を洗い出し、エイミーがそれをLettyの動きやすいように最適化する。二人がかりで指示を出すと、Lettyはそれを忠実にトレースして動く。
なんだか高性能なラジコンを動かしているような気持ちになるが、Lettyの優れたところは俺たちの指示が追いつかない瞬間的な判断を高いレベルで自分でこなしているところだ。
「多分、本来は私たちの指示はいらないんじゃないかな」
「レティの動きっていう下地も、判断力も元からあるんだ。あとは自信さえ付ければ、かなり強くなるぞ」
秒を追うごとにLettyの動きは洗練されていく。一本の首を落とすのに20秒掛かっていたのが、15秒、10秒、8秒と短くなっていく。彼女は動きうぃ必要最低限に抑え、ギリギリのダメージを計算して的確にテクニックを使っていた。
その変化はめざましく、そして美しいものだった。
「てやああああっ!」
甲殻砕きが風を切る。低い唸り声を上げて、竜の首を潰す。
いつしか、シフォンもラクトもトーカもミカゲも、彼女を中心にして動いていた。彼女を最大の武器として、その能力を最も発揮できるように環境を整える。いつもの〈白鹿庵〉の基本的な動き方だ。
Lettyが、パーティの中心に立っていた。
━━━━━
◇ななしの調査開拓員
兎が二匹! 兎が二匹!
◇ななしの調査開拓員
やっぱりラーメンには生クリームだよ。コクが出てうめぇんだ。
◇ななしの調査開拓員
兎?
また白鹿庵がなんかやったのか?
◇ななしの調査開拓員
醤油ラーメンにはいちごジャムだよなぁ。
◇ななしの調査開拓員
バリテンのところに白鹿庵がやって来たんだが、赤ウサちゃんが二匹に増えてた上に、一匹はおっぱいがでっかかkった
◇ななしの調査開拓員
貴方疲れてるのよ
◇ななしの調査開拓員
赤うさちゃんのおっぱいがデカい訳がないだろ。
ちゃんと現実見ろよ
◇ななしの調査開拓員
[デカウサちゃん.img]
◇ななしの調査開拓員
マジかよ・・・
◇ななしの調査開拓員
マジで赤ウサちゃんがデカウサちゃんになってて草
◇ななしの調査開拓員
でも隣にいるの本人だよな?
てことはトレプレか?
◇ななしの調査開拓員
ファンみたい。なんかおっさんが拾って来たらしい。
◇ななしの調査開拓員
おっさんさぁ
◇ななしの調査開拓員
ホイホイ拾うな
◇ななしの調査開拓員
今この子が赤兎の代わりにパーティに入ってバリテン倒してるんだけど、ちょっとすごいぞ
◇ななしの調査開拓員
現地到着した。
マジでデカウサちゃんが戦ってる
◇ななしの調査開拓員
武器、あれ甲殻砕きか。適正帯っちゃ適正帯だけど、バリテン相手にはちょい心許無くないか?
◇ななしの調査開拓員
でも普通に戦えてるなぁ
ていうかステップとか身のこなしがまるっきりペタウサちゃんだわ。
◇ななしの調査開拓員
お前・・・ハンマーで潰されるぞ
◇ななしの調査開拓員
再現度高すぎて笑う
こりゃおっさんも目ぇ付けるわ
◇ななしの調査開拓員
機械脚とか多分本物だよな
レプリカじゃないよな
◇ななしの調査開拓員
動きとか見てる感じだと本物っぽい
オークションで20Mくらいになってた筈なんだけど、よく落とせたなぁ
◇ななしの調査開拓員
あー、この子知ってるわ
FPOもともとやってたのにペタウサちゃんを知ってキャラクターから作り直したガチ勢だ。サバク選んで森スタートになるまでリセマラしてるって話だ。
◇ななしの調査開拓員
ハンマースレに居た気がするな。甲殻砕きおすすめしたわ。
◇ななしの調査開拓員
本当に胸部装甲以外は全部レティちゃんだなぁ
◇ななしの調査開拓員
バリテンの足元でテント立ててるおっさんは何してんの? サボってんの?
◇ななしの調査開拓員
よくよく見たらみんな縛ってるっぽいな。エイミーさんなんか全裸だぜ。
◇ななしの調査開拓員
キャンパーはテント建てるのが仕事なんだからサボってないだろ!
普段のおっさんと比べるとサボってるけど。
◇ななしの調査開拓員
ラクトちゃんも多分弓だけだし白矢しか使ってないな。機術師が機術縛ってどうすんの……。
◇ななしの調査開拓員
弓師ちゃん射撃の精度エグくて笑う
◇ななしの調査開拓員
人斬りさんはいつも通りだな。なんかクナイ使ってるけど。
◇ななしの調査開拓員
クナイ型の聖剣なんでしょ。
◇ななしの調査開拓員
あの人が持ってるのは妖刀なんだよなぁ
◇ななしの調査開拓員
デカウサちゃんはマジであのパーティについていけるの凄すぎるな
◇ななしの調査開拓員
羨ましいなぁ。俺も白鹿庵で一緒に戦いたいわ
◇ななしの調査開拓員
要求されるレベル高すぎて吐きそう
◇ななしの調査開拓員
白鹿庵は外から見てるぶんには楽しそうだからな
◇ななしの調査開拓員
なお実際隣で戦うと格の違いを見せつけられる模様
◇ななしの調査開拓員
うおおおおっ、デカウサちゃん今の動きなんだ!?
◇ななしの調査開拓員
宙返りしつつ頭ぶっ壊してたな
◇ななしの調査開拓員
これは白鹿庵の系譜ですわ
◇ななしの調査開拓員
よく見たらおっさんと盾姐さんが指示厨してるんだな
◇ななしの調査開拓員
本当だ。二人して新入りをいじめてる
◇ななしの調査開拓員
ペタウサちゃんの動きをトレースしてんのか。やば。
◇ななしの調査開拓員
バリテン可哀想
◇ななしの調査開拓員
今回はちゃんと一戦で倒してもらえるんだから有情なほうだろう
◇ななしの調査開拓員
普段は何度か数十キロほど飛ばされてボロボロになったらようやく殺してもらえるからな
◇ななしの調査開拓員
コロシテ……コロシテ……
◇ななしの調査開拓員
しかし、おっさんも大変だな。
兎一匹でも暴れ回ってんのに、二匹に増えたら今度こそ手に負えないんじゃいの?
◇ななしの調査開拓員
デカウサちゃん、セーフハウスで見てたけどスイッチ入らなかったらビビりっぽいよ
◇ななしの調査開拓員
そのギャップはいいですね……
◇ななしの調査開拓員
ペタウサちゃんだって非戦闘時はお嬢様っぽいだろ!
◇ななしの調査開拓員
あんな大食いのお嬢様が居てたまるか
◇ななしの調査開拓員
そういやデカウサちゃんはペタウサちゃんとおんなじくらい大食いなのかしら
◇ななしの調査開拓員
前に新天地で見た気がするけど、ゴールド級で撃沈してた
◇ななしの調査開拓員
いやゴールド行けるのがすごいって
━━━━━
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Tips
◇『バニーキック』
〈跳躍〉スキルレベル30〈戦闘技能〉スキルレベル45のテクニック。兎のように力強いキックを繰り出し、高く飛び上がる。キックが敵性存在にヒットした場合、大きく怯ませる。
“ホップステップジャンプ! 野原を駆けるように楽しんで!”——ドキドキ☆バニー部・ラビイエロー
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