第23章【フォートレスハート】
第940話「押しつけ任務」
クナド、〈
「もー、そんな面白いことがあったらメッセでも送ってくれたら良かったのに」
「本当にねぇ。ま、どうせ私は寝てたけど」
事件から現実時間で一夜明け、そこに参加できなかったラクトやエイミーたちも続々とログインしてきた。彼女たちも町の瓦礫を片付ける任務を受注し、早速その力を振るっている。
「おじちゃんまた暴れたんでしょう? ウェイドさんからペナルティ受けてないの?」
風水系テクニックで生み出した大量の水を使って瓦礫を押し流しながら、シフォンが当然の如く俺が暴れたと思って言ってくる。まあ、実際ちょっとやりすぎたところは否めないわけだが。
「あんまり俺を馬鹿にするなよ? ……定期的にウェイドから強制受注の特別任務を受けることになったくらいだ」
「やっぱりペナルティ受けてるじゃん」
それ見たことかとシフォンが白い狐耳をピクピクと揺らす。なんか、姪にまで大人の威厳がなくなってしまっているような気がする。
「トーカとミカゲはどこに行ってるんです?」
ハンマーで次々と瓦礫を細かく破砕していたレティが、この場にいない二人を探してあたりを見渡す。
「トーカは枯死した植物の伐採、ミカゲは三術連合でここの直下にあるポイント・レイラインの調査だそうだ」
〈ウェイド〉の街中、特にベースラインに近いエリアには巨大な木々が乱立している。俺が投げた種瓶から成長した木々で、当時はバリケードとして使っていたものだ。警備NPCを押しとどめるだけあってかなりの頑丈さを誇り、剣士たち——特に〈切断〉スキルを持つトッププレイヤーたちが徒党を組んで伐採に挑んでいる。まあ、そんな中ひとり斧を携えて次々と切り倒しているヤバい木こりもいるのだが。
「っと、もうこんな時間か」
割り当てられた区画をあらかた片付けた後、時間を確認すると予定を少し押していた。
「すまん皆、ちょっと行ってくる」
「何か予定でもあるの?」
首を傾げるシフォンに向けて、この後の予定を伝える。
「なに、ちょっとした話し合いみたいなもんだ」
すぐに帰ってくると言って、その場から離れる。向かう先は、真っ先に修復作業が行われすっかり元通りになった都市中枢、中央制御塔である。
━━━━━
『——それでは、ただいまよりシード02-スサノオ破壊事件の尋問を行います』
「待て待て待て待て!」
慌てて制止の声を上げるも、特設の裁判官席に座ってこちらを見下ろすウェイドは止まらない。
『どうして私もなのよ!? 関係ないはずでしょ!?』
『ククク、我が身をこの程度で拘束できると、まさか真剣に考えているわけではあるまいな? このようなもの、我が権能を用いれば——』
『……ねむタい』
俺の隣で同じく椅子に縛り付けられているのは、クナド、〈
今回は制御塔の前に特設された法廷のようなセットの中に連れ込まれ、あれよあれよと言うまにマレットが叩かれたのだ。周囲の傍聴席にはプレイヤーが続々と詰め寄り、その中には〈白鹿庵〉の面々や見知った顔もちらほらある。
どうしてこんな公開処刑を受けることになったんだ……。
『被告人レッジ。“なんで俺がこんなところに”みたいな顔をしていますが、貴方は〈
ウェイドの冷たい声に、傍聴席にどよめきが広がる。
『今回の尋問では、誰が首謀者であるかを明確にすると共に、4名に課すペナルティを定めることを目的とします』
「ちょ、ちょっと待ってくれ。それじゃあ俺がウェイドと取り決めた任務遂行義務は——」
『あれはあれ、これはこれです』
「なんか最近ファジーになってきてないか!?」
管理者ってもっと厳密厳格に物事を取り決めるタイプだっただろ。なんか最近はノリと勢いで色々進めていっているような気がしてならない。
『まずはじめに〈
『クハハッ! 貴様がそう言うのなら、そうなのだろう……。そう、貴様の中では——』
『肯定もしくは否定のみ許します。それ以外の言葉を発した場合は覚悟するように』
『……私の独断でやりました』
やっぱり今回のウェイドさんはバッチバチに怒っていらっしゃる。都市の3割くらいが壊滅してるし、守りの要である警備NPCや都市防衛設備はほとんど全滅だ。都市防壁に大穴がいくつも空いてるし、ベースラインもまだまだ復旧に時間がかかる。当然といえば当然か。——不用意に失言しないよう気をつけておかねば。
『そこでひとつ疑問があるのですが、〈
『我輩の本体である第零術式的隔離封印杭は現在も問題なく稼働しておる。黒龍イザナギもそこで未だ醒めぬ夢の中、というわけだ』
『では、貴方は一体なんなのです?』
『そこの〈
黒衣の少女は若干拭いきれないものを残しながらも、ウェイドの問いにすらすらと答えていく。彼女が〈
『第零術式的隔離封印杭はどこにありますか?』
『分からぬ。我輩の知る地形とは、この星の様相は大きく変わりすぎている故、座標なども役に立たぬ。せめて第弐か第捌の封印杭が見つかれば、そこから計算で導けるのだが……』
喋り方がアレなだけで、〈
『では、あなたがネットワーク上に思念術式を流し込んだのは何故です?』
『封印杭に埋め込んでいたものが自動発動した結果である。第壱から第捌までのいずれかの封印杭で何かしらの異常が発生した場合、特に我々と同じ調査開拓団員との接触が確認された場合、自動的に我が思念術式を複製、顕現させ、情報的に抹殺されている黒龍イザナギに対する警告を発布するようになっておったのだ』
どうやら、〈
〈
『……それでは、次にイザナギ。あなたは本体である黒龍イザナギの封印地点を知っていますか?』
ウェイドが問いの標的をイザナギに変える。相変わらず全身を包帯で隠していた少女は、素直に首を横に振った。
『知らナい』
『では、あなたはどこにいたのですか?』
『杭ノ中。封印対象とシて閉じ込メラれ、同時に動力供給ゲンになってイた』
『杭というのは、クナドのことですか?』
イザナギが頷く。その後、〈
『クナド、封印している“黒龍の鱗”を喪失しましたが、封印状態は維持できているのですか?』
『あと三百年くらいは無補給で行けるわ。それまでに、何かしらの供給源を取り戻さないといけないけど』
クナドの随分とスケールの大きな時間感に驚く。数千年も封印を続けていたのだから、今更百年や二百年は誤差の範疇らしい。
『イザナギは第壱術式的隔離封印杭に戻り、再封印処置を受けることに同意しますか?』
『しナい』
ウェイドのほとんど確認と言ってもいいほどの質問に、イザナギも予想された答えを返す。自分からまた何千年も電池として使われるだけの環境には戻りたくないよなぁ。
しかし、だからといって彼女の意志を無視して強引に押し戻すというのも難しい。あくまで“黒龍の鱗”のひとつだというイザナギだが、その実力はウェイド自身が実感しているのだ。
『そういうわけなので、調査開拓員レッジ。あなたには他の封印杭の捜索と、そこに封印されている“黒龍の鱗”との交渉を行ってもらいます』
「はぁ……。はっ!?」
すらりとウェイドから言葉を投げられ一瞬反応が遅れる。どう言うことだと視線を向けると、裁判長は仕方なさそうに肩をすくめた。
『イザナギはあなたに対しては平和的な対話ができているように思えます。そのため、暫定的なイザナギの世話役を命じます』
「待って、聞いてない。そんなの初耳なんだが!」
『当たり前でしょう。今はじめて言ったんですから』
断る間も無く、特別任務【黒龍の解放】が自動承認されてしまう。これで俺は、無事にイザナギの世話役を押し付けられてしまったということだ。
『しっかり友好関係を築いてくださいね。失敗すれば、我々調査開拓団すべてが壊滅する可能性もありますから』
裁判長はにこやかに笑って、重い言葉を浴びせてくる。呆然と立ち尽くす俺に、イザナギがペコリと頭を下げてきた。
『よロシく』
━━━━━
Tips
◇“黒龍の鱗”
各地に散逸した黒龍イザナギ(ISCS注記:総司令現地代理イザナギと推定)の術式断片。それぞれに非常に強力な能力を有しており、単体でも都市管理者をはるかに凌駕すると推定される。中でも強力な個体は黒龍イザナギ本体の封印のため、術式的隔離封印杭の動力源として使用されているとされる。
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