第915話「駆けつける盟友」
クナドの見守るなかで、レティたちによるグレムリン掃討作戦は順調に進んでいた。グレムリンたちは地雷や銃火器などで武装していたが、弾が放たれるよりも早くレティが動くので、あまり効果をなしていなかった。
『理解不能です!』
「はいはい。それよりクナド、俺たちを2階に連れてってくれ」
レティとトーカは天井の穴から2階に飛び上がったが、全員が全員そんなことができるわけではない。コンソールに話しかけ、エレベーターで2階に連れて行ってもらう。チン、と軽やかなベルが鳴ってドアが開くと、2階も死屍累々の様相が呈されていた。
「レッジさん! この階層には雑兵しかいませんね。早々に撤退を決められて、粗方上に逃げてしまいました」
「なるほど」
「じゃあ追いかける?」
レティの報告を聞いて、ラクトがエレベーターに戻る。クナドもドアを開いて準備万端だ。しかし、俺は少し考えて、予定を少し変えた。
「クナド、グレムリンの親玉は7階に居座ってるんだよな?」
『親玉かどうかは確定していませんが、グレムリンの群れの中で中心的な存在が7階にいるのは確かです』
「なら、直接7階に行こうか」
何も行儀よく1階から順に攻略していく必要はない。エレベーターが7階に通じているのなら、そこまで一直線に向かってデカいやつから叩いた方が手っ取り早い。群れるタイプの敵は、そのリーダーを倒せば一気に瓦解するものだ。
エレベーターに乗れる人数には限りがあるため、まずは俺とカミル、レティとトーカの四人が乗り込む。
「テーマパークみたいですねぇ」
「そうか?」
エレベーターの中でワクワクとしているレティに首を傾げる。待ち構えているのは笑顔のキャストではなくて殺意たっぷりのグレムリンだと思うのだが……。
「『破壊の衝動』『猛獣の脚』『猛獣の牙』——」
シャフトを登っていくのに合わせて、レティとトーカは自己バフを纏い始める。ドアが開いた瞬間が開戦の合図だ。狭いケージの中で、二人のエフェクトが混じり合う。
「カミルは自衛に徹してていいからな」
『アンタに死なれても困るんだから、気をつけなさいよね』
カミルも言葉とは裏腹に、少し緊張しているようだ。俺は彼女の赤い髪を軽く撫で、槍を握る。
『あと3秒で到着します』
クナドのアナウンス。
レティたちが最後のバフをかけ終える。
——チン。
軽快なベルの音が鳴り響き、滑らかにドアがスライドする。
『ギ……?』
そこにいたのは、獣の肉を貪っているグレムリンたちだった。楽しい食事の真っ最中だった彼らは、突然暗闇に差し込んだエレベーターの光に驚き、こちらへ振り向いて硬直していた。
そういえば、エレベーターはクナドがいなければ動かせない。ここに長年住み着いているとはいえ、エレベーターの存在は知らないのだろう。彼らからしてみれば、突然壁が開いて変な奴らが出てきた、という異常事態だ。
「先手必勝——!」
突拍子もない出来事に驚くグレムリンたち。トーカがはじめに切り込んだ。
「ひゃっはー!」
レティも彼女の後に続く。二人がエレベーターに近いグレムリンを数匹まとめて吹き飛ばしたところで、ようやく向こうも動き出す。
『ギィギィギャッ!』
部屋の奥に鉄材を組んだ玉座があった。そこに鎮座しているのは、体長2メートルはありそうな巨大なグレムリンだ。天井すれすれに頭があり、全身を鉄屑の装飾品で着飾っている。
「“
レティが素早く鑑定し、その正体を看破する。グレムリンたちのリーダーを見つけ、二人は素早く迫りかかった。
「とぅりゃっ!」
「せいっ!」
鎚と刀が悪鬼を狙う。だが、彼女たちの攻撃は届かなかった。
『ギャアアッ!』
グレムリンリーダーは近くで騒いでいた仲間のグレムリンをむんずと掴むと、レティたちに向かって投げたのだ。思いもよらない行動に二人は驚き、飛んできたグレムリンを切り捨てる。その隙にリーダーはその巨躯に似つかわしくない機敏さで二人の間をすり抜け、こちらへ駆けてきた。
「随分と知恵が回るようだ!」
俺は陣地構築をしていた。後続のラクトたちが攻撃に専念できるよう、バリケードを作るのだ。しかし、そんな無防備なところへボスがやってきたのだからマズい。作業を中断して応戦しようとしたその時、横に立っていたカミルが飛び出す。
『アンタのリングは、そっちよ!』
空中で赤髪が翻る。大きな弧を描いて振られた箒が、グレムリンリーダーの顔面に叩きつけられる。
『ギェアッ!?』
甚大な反発力で、グレムリンリーダーとカミルが双方向に吹き飛ぶ。
『きゃあっ!』
「カミル!」
壁に向かうカミルを、白月が霧となって間一髪受け止める。グレムリンリーダーは玉座に叩きつけられ、全身を痺れさせていた。
「レティ、トーカ! とりあえず取り巻きの始末からだ!」
「くっ。分かりました!」
リーダーが襲われたことで、グレムリンたちが興奮している。彼らをある程度退けなければ、リーダーには手が届かない。
『てやっ! てやっ! 来るんじゃないわよ!』
「カミルも引き摺り込まれないように気を付けろよ」
リーダーを押しもどすファインプレーを見せてくれたカミルは、俺が構築したバリケードを飛び越えようとするグレムリンを打ち返していく。彼女を連れてきて本当によかった。
「下の階層にいるグレムリンが気付く前に仕留められればいいが……」
『後続が到着します』
短期決戦で済ませたいが、流石に四人だけでは火力が足りない。ちょうどその時、再びエレベーターが開く。
「おまたせ」
「うぅぅ。が、頑張るよ!」
やって来たのはラクト、シフォン、ミカゲ、そしてコボルドウォーリアが一体。彼女たちは室内を見渡すと、すぐに状況を把握して動き出す。シフォンとコボルドがバリケードを飛び越えて乱戦に突入し、ラクトが範囲攻撃機術を組み上げ始める。
第二陣がやって来たことで、俺たちの勢いはさらに高まっていく。
「いいですよ! このまま押し切りましょう!」
レティも大きな声を響かせ、グレムリンを吹き飛ばしていく。
「機銃乱射!」
「『貫く氷矢』ッ!」
グレムリンが奥から引きずってきた大きな機関銃。それは唸りを上げるよりも早く、ラクトの精密な射撃によって氷漬けにされる。
俺たちは着実にグレムリンを壁際に追い詰めていた。
「——っ! まずいですよ!」
しかし、順調に進むなかで突然レティが叫ぶ。彼女の視線の先には、壁に向かうグレムリンリーダーの姿があった。壁に光を向けると、びっしりと取り付けられた爆弾が鮮明に映る。
「こいつ!」
『問題ありません。当施設の構造材は——』
「万が一を考えろ!」
クナドの声を封じて、一斉に走り出す。あの爆弾がもし壁を破壊できなかったとして、その場合衝撃はこの内部で膨れ上がる。そうなれば、俺たち諸共一巻のおわりだ。ここまで来てそれはない。
しかし、グレムリンたちもリーダーの動きを助けようと殺到してくる。それらをかき分けて進むのは困難だ。
『ギギギッ!』
グレムリンリーダーがニヤリと笑う。その指がボタンを押し込んだ。
火花が散り、爆薬に火がつく。
「伏せ——」
「鏡威流、一の面、『射し鏡』」
盛大な爆発を予期して、カミルを抱いて屈む。
だが、いつまで経っても衝撃は訪れない。
恐る恐る顔を上げると、そこに紫紺の髪を靡かせるエイミーが立っていた。
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Tips
◇グレムリン爆弾
洞窟悪鬼たちが独自に開発した高性能爆弾。通常の火薬よりも更に爆発力の高い、特殊な鉱石粉を用いている。
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