第828話「予想外の自爆」※
レッジが仲間の偽者たちと戦い、レティたちがDWARF第一重要情報記録封印拠点を爆速で
「機術殲滅攻撃、撃てーーーっ!」
第二拠点の第十四階層に響く号令。身を寄せ合い大盾を構える騎士の背後から、火や氷の嵐が吹き出す。
「攻撃第三波終了。影響軽微、対象は大半が接近を続けています!」
「副団長、向こうの防御力はなかなかのものですよ」
副官からの報告を聞き、〈大鷲の騎士団〉副団長のアイは苦渋の表情を浮かべる。
第二開拓領域〈ホノサワケ群島〉の地下に広がる第二重要情報記録封印拠点の最前線である第十四階層を攻略していた騎士団第一戦闘班は、その最奥で無残に破壊された書庫番の姿を見た。
本来、下層へ向かう侵入者を阻むはずの番人を倒したのは、調査用機械人形ではあったが調査開拓員ではなかった。
ボロボロの身体を動かしながら行軍する、〈大鷲の騎士団〉第一戦闘班の残骸たちだったのだ。
彼らは総じて黒色の武具を装い、アイたちの前に立ちはだかった。動きは鈍く知能も低いが、その数が多かった。
「攻撃予兆!」
「大盾隊完全防御態勢!」
騎士団の大盾兵たちが床に盾を突き立て、身体を傾斜させて衝撃に備える。直後、改造機群から飛び出してきたのは、偽クリスティーナを先頭に据えた突撃隊だった。
「くっ。自分が襲ってくるのは嫌な気分ですね」
長槍を仲間の盾に突き立てる自身の姿を見て、クリスティーナが口元を歪める。敵の中に自分の姿を認める騎士団員は少なくなく、そのこともまた攻撃の手を鈍らせる原因になっていた。
互いの結束力が高く、綿密な連携を取る事で群体として無類の強さを発揮する騎士団だからこそ、改造機とはいえ仲間と対峙するのは忌避感が強い。
「副団長、撤退できませんか?」
部下のひとりがアイに提言する。しかし、その言葉を彼女は一蹴した。
「ダメ。こいつらと戦えるのは私たちだけだから、ここでなんとしても食い止めないと」
騎士団の亡霊たちは、本物と比べれば弱体化しているとはいえ、一般的な調査開拓員とは隔絶した能力を有している。第二拠点を積極的に攻略している他のプレイヤーたちであっても、その集団と対峙すれば苦戦は免れない。
であれば、自分たちが引導を渡さねばならない。
「副団長! あれ!」
その時、敵を監視していた団員が声を上げる。アイは視線を指さす方へ向け、そして目を見開く。
「総員、耳を塞げッ!」
アイが叫ぶ。
それと同時に、アイが叫んだ。
『アァァアアアアアアアアアッ!』
敵陣から響く轟音。物理的に耳を劈く。武器を握っていた団員たちの多くが、対応に遅れて失神する。次々と倒れゆく仲間達を見て、アイは黒い鎧を着た自分を睨む。
「うるっさああああああああいっ!!」
アイが喉を絞り、叫声を上げる。
施設全体を揺るがすような声と声がぶつかり合い、そして静寂が訪れる。偽アイの声を打ち消しているアイの姿に、団員たちが驚愕する。そんな彼らに、アイは視線で必死に訴えた。
『アアアアアッ!』
「かはっ!」
両者の声がほぼ同時に途切れる。
直後、音の中を進んでいた黒騎士たちが、未だ失神から回復しきっていない騎士たちに迫る。聴覚機能が破損したところで問題にならない黒騎士たちに、大きなリードを取られていた。
大斧が、大槌が。黒々とした凶器が振り下ろされる。
「――聖儀流、二の剣、『神罰』」
勇猛な盾兵たちでさえ死を覚悟したその時、雷が黒を塗りつぶした。断末魔さえ上げることなく消滅する黒騎士に、騎士団員たちが唖然とする。その背後から、猛烈な勢いで迫る車輪の音が響いた。
「待たせた! 総員散開、道を空けろ!」
現れたのは、5人の騎士。勇壮な機械馬が牽く
「来た! 団長来た!」
「皆、団長たちに続け!」
彼らは瞬く間に黒盾兵を吹き飛ばし、その奥に構える黒騎士たちを蹂躙する。その雄姿に声を上げ、挫けかけていた第一戦闘班も加勢する。
「一気に押し込むぞ!」
「応ッ!」
アストラの声に、全員が応じる。烈火の如き勢いを取り戻した騎士団は、やがてまやかしの騎士達を押し始めた。
_/_/_/_/_/
◇ななしの調査隊員
なんか俺たちがいるんだけどぉ!
◇ななしの調査隊員
拠点攻略してたらプレイヤー出てきたんだけど、挨拶したら殺された。なんなんあのトラップ。
◇ななしの調査隊員
なんかPvPうけました
◇ななしの調査隊員
DWARFのほう大変なことになってんな
◇ななしの調査隊員
続々死に戻ってきてるな。何かあったのか?
◇ななしの調査隊員
調査開拓員が敵対して出てくるらしい
◇ななしの調査隊員
どういうことだってばよ
◇ななしの調査隊員
ウェイドちゃんから緊急声明出てるな
◇ななしの調査隊員
ほんとじゃん
◇ななしの調査隊員
【管理者ウェイドの緊急声明】
地上前衛拠点シード02-スサノオ中央制御区域に対する攻撃に関する調査の結果、調査開拓領域全域地下に調査開拓用機械人形を不当に改造した機体の暴走が確認されています。これらの改造機体群に対する全面的な攻撃許可を与えると共に、この徹底的な殲滅を命令します。
なお、改造機対群に対応するため、今後フィールドへ出征する調査開拓員は最寄りのアップデートセンターにて特殊外装の装着を義務づけます。
◇ななしの調査隊員
なんか俺たちの偽者が出てきたって事?
◇ななしの調査隊員
死に戻った時に現場に残されてた機体が鹵獲されて改造機にされてたらしい。グレムリンめ
◇ななしの調査隊員
まじかよ、じゃあ死ねないじゃん
◇ななしの調査隊員
そういうことみたいだな
◇ななしの調査隊員
特殊外装ってなんぞや?
◇ななしの調査隊員
敵味方を識別するためのマーカーっぽい。無くても敵さんは黒い武装しているけど、視覚的に味方には黄色いマーカー、敵には赤いマーカーが表示されるぞ。
◇ななしの調査隊員
おお、なんかいいじゃないの
◇ななしの調査隊員
アプデセンターで無料で外装装着できるっぽいからやっといて損はないんじゃない?
◇ななしの調査隊員
ていうか外装付けとかないと拠点に入れないようになったな
◇ななしの調査隊員
ふおおおおおっ! この外装自爆装置なんだが!
◇ななしの調査隊員
草
◇ななしの調査隊員
どういうことなの・・・
◇ななしの調査隊員
LPが全損したら機体諸共爆発四散する。これなら鹵獲されんやろけどさぁ……
◇ななしの調査隊員
ウェイドちゃん思い切り良すぎて草
◇ななしの調査隊員
てことは本格的に機体回収できなくなって、死んだらアプデセンターに戻されるのか
◇ななしの調査隊員
拠点内はそもそも機体回収絶望的だったしそんなかわらんな
◇ななしの調査隊員
自爆野郎が続々出てて草
奥から進軍してくる改造俺らに次々特攻してる
◇ななしの調査隊員
思い切りがよすぎるだろ
◇ななしの調査隊員
ふぉおおおおいっ!
◇ななしの調査隊員
管理者バンザーーーイ!
◇ななしの調査隊員
俺、俺と出会ったわ。純機術師だと死ぬほど弱いな。
◇ななしの調査隊員
テクニック、アイテム、アーツあたりは使えないっぽいな。純物理戦士系は結構強いけど、機術師はぶっちゃけカモだわ。
◇ななしの調査隊員
ファラウェーーーーイwwwww
◇ななしの調査隊員
最前線超カオスな事になってて草
◇ななしの調査隊員
ていうか第一拠点、これ床に大穴開いてるんだけど
◇ななしの調査隊員
そこから湧き出してきてるのか、シロアリみてぇな奴らだな
◇ななしの調査隊員
人間爆弾で道を空けて、その穴の中進めばいいのか
◇ななしの調査隊員
ひええ、なんか穴の中にどんどんプレイヤーが飛び込んで投身自爆してんだけど・・・
◇ななしの調査隊員
どうして掲示板に書き込めてるんですか?
◇ななしの調査隊員
俺も投身自爆したからだよ。
もっかい行ってくるわ
◇ななしの調査隊員
b
◇ななしの調査隊員
ドワーフみんなきょとんとしてて笑う
◇ななしの調査隊員
そりゃ(突然調査開拓員が走り出して自爆してたら)そうよ
◇ななしの調査隊員
笑顔で自爆してまた戻ってきて自爆してるからな
◇ななしの調査隊員
俺もう7周目だぜ
◇ななしの調査隊員
掲示板二書き込んでる暇あったら身投げしてこい
◇ななしの調査隊員
ウェイドちゃんから新しい声明来てるぞ
◇ななしの調査隊員
【管理者ウェイドの緊急声明】
今回配備した特殊外装の緊急自爆機能は、調査開拓用機械人形を敵性存在に奪取、改造、利用されることを防止するための緊急的な措置です。こちらの乱用は避け、より多くの敵性存在を排除することに注力してください。
◇ななしの調査隊員
もうこの暴走列車は止まらんよ
◇ななしの調査隊員
みんなウェイドちゃんの話聞いたげなよ
◇ななしの調査隊員
ごめん、自爆するのに忙しくて
◇ななしの調査隊員
ウェイドちゃんはもう涙目
◇ななしの調査隊員
お、市場で爆弾売ってるやついるな
◇ななしの調査隊員
爆弾抱えて自爆したら、爆発力二倍ってコト!?
◇ななしの調査隊員
あれできるじゃん、腰にダイナマイト巻いて飛び込むやつ
◇ななしの調査隊員
盛り上がって参りました!
◇ななしの調査隊員
調査開拓員総爆弾魔計画
◇ななしの調査隊員
ヒャッハー! 汚ぇ花火だぜぃ!
◇ななしの調査隊員
おい! ネヴァ工房で“昊喰らう紅蓮の翼花”の超高威力爆弾が売られてるぞ1
◇ななしの調査隊員
できるだけ華麗に花を咲かせたい
◇ななしの調査隊員
行く勢k図絵!
◇ななしの調査隊員
ひゅぉおおおい!
_/_/_/_/_/
『ひゅっ。り、リソースが、溶け、溶け……』
緊急声明を出し、改造機体への対抗措置を打ち出したウェイドは、その直後から始まった調査開拓員たちの暴走に顔面を蒼白にさせていた。彼女の見ているリソース保有量が、猛烈な勢いで減少しているのだ。
調査開拓用機械人形は、本来回収と修理を経て再使用することを前提としたものだ。内部には貴重な部品も多くあり、それに自爆機能を付けるのは彼女としても苦渋の決断だった。
しかし、その結果がこれである。
『のわあああっ!? な、なんじゃこのリソースの減少速度は!』
呆然と立ち尽くすウェイドの下へ、血相を変えたT-1が駆け込んでくる。彼女もウェイドや他の管理者たちとの協議の上で緊急声明と特別措置を打ち出したのだが、この展開は予想していなかった。
『どっどっど、どうしましょう?』
『今すぐ自爆機能の剥奪――いや、それはそれでダメじゃ。ぬおおおおっっ!』
半ば魂の抜けたような状態のウェイドに、T-1も混乱を隠せない。そうこうしている間にも、調査開拓員たちは次々と自ら率先して自爆していく。
『落ち着いて下さい。ひとまず、機体コンバート後は10分間の思考冷却期間を置きましょう』
『T-3!』
そこへ現れたのは、T-3だった。彼女も困った表情で、減少を続けるリソース量を見つめる。
『そうですね。まずはそうしましょう』
指揮官の言葉を受け、ウェイドは即座に行動する。死に戻ってきた調査開拓員は、その後10分間は都市外に出ることを制限する。
『でも、各重要情報記録封印拠点の奥から敵性存在が侵攻してきているのは事実なんやろ? 手ぇ緩めたら押し返されますよ』
そう言うのはキヨウである。彼女の言も尤もであり、攻勢を鈍らせれば逆転される危険も孕んでいる。
『緊急停止コマンドの発動は?』
『そんなことしたら味方まで止まるじゃろ!』
手を上げて言うサカオに、T-1が吠える。緊急停止コマンドは指揮官3人の合意によってのみ発動できる最終手段で、例外なく全ての調査開拓用機械人形の八尺瓊勾玉を停止させるというものだ。
当然、おいそれと使える訳がない。
『しっかし、このリソースの消費量はT-1のソレとは桁違いだな』
『うぐぅ……』
呆れたように言うアマツマラに、ウェイドが呻く。各管理者の合意を取ったとはいえ、この対抗措置を立案したのは彼女である。
『結局、敵の大元を叩くしか沈静化させる方策はないんじゃないっスか?』
『であれば、調査開拓員レッジの活躍次第ですね』
コノハナサクヤが言う。
調査開拓団のリソース激減がどこで止まるかは、1人の調査開拓員の働きに掛かっていた。
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Tips
◇特殊外装
緊急的に調査開拓員へ配布された特殊な装備品。胸部に装着するハーネス型で、内部には敵味方識別ビーコンと高性能爆薬が内蔵されている。外見の類似した敵性存在との戦闘を念頭に置き、激戦、混戦時でも敵味方を容易に判別できるようになる。また、活動不能状態に陥った場合には、機体が敵性存在に鹵獲されることを防止するため、木っ端微塵に爆破処理が成される。
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