第803話「改造警備員」
暗く入り組んだ第一拠点の第七階層を、ランタンの光を頼りに進む。ただし、いつものメンバーの中に加えて緑の軍服を着たドワーフが三人ついてきている。
「とりあえず、電源区域を目指せばいいのか?」
『うむ。本丸の様子を確かめねば、どうともならんからな』
彼らはDWARF設備部の人員だ。迎撃区域である第一階層および第二階層以外の拠点全域の保守管理を担当し、無期限封印期間内も定期的に覚醒して点検を行っていた。――だからこそ、施設の大部分が著しく老朽化してしまっている現状に、他部署から非難の声が向けられている可哀想な人たちでもある。
『うーむ……。やはりエネルギーケーブルもやられておるのう』
『全く理由が分からんわい』
技術者たちは手持ちのライトを壁に向けて、何やらヒゲを動かして唸っている。よく知らないが、施設の老朽化問題は設備部も予想外のことらしい。彼らはその原因究明もしようとしていた。
「警備部との覚醒のタイミングはズレてて、お互いに会うことはなかったんですよね? 誰も見てないからってサボってたんじゃないですか?」
前を歩いていたレティが振り返って言う。
無期限封印期間中、DWARFの大部分も仮死状態となって休眠していた。しかし、警備部と設備部だけは定期的に覚醒して施設の点検も行っている。とはいえ、一度に両方が行動すると物資の消費が激しくなるため、お互いに重ならないようにタイミングはずらしてあったらしい。
『失敬な! 我々も誇りを持ってこの使命に従っておる。前回点検時はひとつの問題もなく保守業務を完遂させたぞ!』
「ですよねぇ」
ぷんぷんと憤るドワーフに、レティもすんなりと引き下がる。中央制御区域にいる彼らの様子を見ても、そのようなところで手を抜くような者ではないことくらい分かる。
「となると、前回点検時から今回までの間に何かあったって事?」
ラクトが首を傾げる。ドワーフたちも同じように首を傾げる。
『結局、現段階では何も分からん。どうやら、深部に下るほど被害は大きいようでな。そちらへ行かねば……』
「なるほどねぇ。――っと、ここが電源区域だな」
話をしているうちに、俺たちは第七階層の電源区域へと辿り着く。ドーナツの一角を占める小さな区域だが、拠点の心臓部と言っても過言ではない。とりあえず、ここが動かないことにはレパパも仕事にならないのだ。
「七階層といっても、敵はそこまで強くないですね」
「まあ、まだ序盤のほうだからな」
「だからこそ六階層の書庫番が異常だったんだけど」
道中の敵はレティ先生とトーカ先生の二人で余裕を持って殲滅できる程度のものだった。後方を任せていたシフォンも、はじめこそビクビクとして落ち着かなかったが、今では欠伸を漏らす余裕すらある。
今回の任務はドワーフたちの護衛だったが、今のところはさほど難しいものではない。
「それじゃ、ちゃちゃっと電源直して帰ろうよ」
すっかり気を抜いたシフォンがそう言って、電源区域を他と隔てる両開きの扉の前に立つ。幸い、鍵が掛かっていたり歪んでいたりということもなく、シフォンが左右に引くと割合すんなりと開いた。
『そうじゃ、電源区画にも専用の機械警備員がおるからの』
「はえええっ!?」
ドワーフの一人が思い出したように言う。
扉を開いたシフォンは、奥の暗がりから伸びてきた光るロープに巻き付かれる。ネオンのような蛍光色がぼんやりと浮かび上がる。
「あばべべべっ!?」
「シフォン! ――『裂斬波』ッ!」
更に、シフォンに巻き付いたロープは電撃を放つ。まともに受けた彼女は全身に電流を流しながら悲鳴を上げる。咄嗟にトーカが刀を振り、飛び出した斬撃がロープを断ち切る。
「ごびゃっ!?」
解放されたシフォンが床に転がる。“麻痺”状態が発生し、すぐには動けないらしい。
「暗闇から奇襲とはふてぇ野郎ですね! レティが相手しましょう!」
「私の太刀筋は電流よりも速いですよ!」
すぐさま血の気の多いレティとトーカが飛び出す。暗がりに現れたのは、無数のケーブルを絡まらせたような風貌の機械警備員だ。バチバチと放電しており、ケーブルを触手のように蠢かせている。
「大丈夫か、シフォン」
「うぅ……。まだ舌がぴりぴりするよ……」
二人が戦っているうちに、俺はシフォンに肩を貸して起こす。しかし、普段原生生物の群れに放り込まれても生還するシフォンが不覚を取るとは珍しい。
考えが顔に出ていたのか、シフォンは少し悔しげに唇を突き出して言った。
「光ってるケーブルと、光ってないケーブルがあったの。それで、見逃しちゃって」
「厄介だなぁ」
どうやら、電源区域を守る機械警備員は搦め手も使いこなす賢さを持っているらしい。
「はーはっはっはっ! そのような姑息なことをする奴に限って、弱っちいもんなんですよ! 正々堂々戦える力がないだけです!」
「視界に頼らず全神経を研ぎ澄ませば、そのようなものは関係ないですねっ!」
とはいえ、多少の知恵を持っていたところで乗りに乗っている前衛二人に敵うはずもない。ハンマーで爆砕され、大太刀で微塵切りにされ、碌な反撃もできぬまま沈んでいく。
元からスクラップの寄せ集めのような風貌だったが、絶え間ない暴力によって更に無残な姿へと変わっていった。
「とりあえず、電源区域の機械警備員は倒せたってことでいいのか?」
いっそ憐れになってくるが、向こうが先制攻撃してきたのでこちらは悪くない。ひとまず危機は去ったと判断してドワーフたちの方へ振り返ると、彼らは困惑顔で戦いていた。
『なにあれ……知らん……』
『こわ……』
予想だにしないドワーフたちの反応に、俺たちの方が困惑してしまう。
「あれが電源区域の機械警備員じゃないのか?」
『電源区域の機械警備員は機鎧型じゃよ。あんな悪趣味なモジャモジャは知らん』
「ええ……」
拠点内を知り尽くしている設備部の技術者から告げられた事実に目を丸くする。ならば本来の機械警備員がやってくるのかと警戒もするが、そのような気配もない。
「とりあえず、解体だけ済ませたら?」
「それもそうだな」
エイミーに促され、解体ナイフをモジャモジャに差し込む。機械を解体するという違和感にもそろそろ慣れてきたところだ。
「こ、これは……!?」
だが、解体によって手に入れたドロップアイテムを見て、思わず驚きの声を上げる。それに気がついたT-1が小走りでやってきた。
『何があったのじゃ?』
「コイツを見てくれ。……どう思う?」
俺が見せたのは、解体後手に入れたアイテムの鑑定結果を記したウィンドウだ。
『“
T-1は声を上げて振り向くが、ドワーフたちはふるふると首を横に振る。
『“
『ワシもじゃ、ワシもじゃ』
『いったいどうなっとるんじゃ?』
どうやら、これはドワーフたちも知らない事態が発生しているようだ。どう考えても異常である。
『これは、ワシらだけでは判断できん。一度制御区域に戻って、ゾララに相談せねば』
『電源復旧は時間が掛かりそうじゃな……』
ここにいるのは設備部の技術者であって、責任者ではない。設備部長のゾララに話を伝えないことには、動くものも動かない。
「となると、一旦退却ですか?」
「戦略的撤退って奴だな。ネセカたちにも報告すべきだし、なんなら開拓団でも共有しないと」
もし、今後も改造された機械警備員が出現するのなら、ネセカたちも知らないものに対処する必要が出てくる。今後の拠点調査は更に慎重さが求められるだろう。
俺たちはひとまず電源区域の調査は後回しにして、情報の共有のため制御区域へと踵を返した。
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Tips
◇
第一重要情報記録封印拠点第七階層電源区域の警備を行う“
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