第774話「暴かれた石塔」※
第五回〈特殊開拓指令;古術の繙読〉はこれまで発見された全てのフィールドに現れる“未詳文明遺構”を発見、攻略、そしてその中で手に入る“未詳文明遺物”を収集、解析、報告するのが主な動き方だ。それらの行動によって“繙読協力報酬”、通称“PP”が手に入る。そのPPを様々なアイテムに引き換えるというわけだ。
「というわけで、まずは手近に〈奇竜の霧森〉を探してみましょうか」
準備を整えた俺たちは、ひとまず〈奇竜の霧森〉にある“未詳文明遺構”を探すことにした。恐らく〈始まりの草原〉に近いものほどPP変換効率が悪いぶん難易度が低く、最前線である〈老骨の遺跡島〉に行くほど効率が良く、難易度が高くなるはず、という予測を受けての行動だ。兎にも角にも、“未詳文明遺構”とやらがどんなものか知らないことには、前線に行くか後方へ下がるかの判断も付かない。
「ま、言っても霧森も中盤くらいのフィールドになったからね。今のわたし達なら余裕だと思うよ」
「それもそうね。とはいえ油断してると足を掬われるわよ」
悠々と構えるラクトにエイミーが釘を刺す。
とはいえ俺も、レティたちが今更〈奇竜の霧森〉程度で手こずるとは思っていない。
「流石に結構人が多いね」
「久しぶりの大型イベントですからね。皆さん気合いも入っているのでしょう」
シフォンが都市防壁の側に集まっているプレイヤーを見渡して感嘆する。トーカの言うとおり、誰も彼もが武器を手にして、表情にやる気を漲らせている。
〈特殊開拓指令;古術の繙読〉が始まるまで、あと10分ほど。周囲の人混みは更に拡大している。
「もう出発しとくか。ここで開始を待ってたら、ラクトとか揉みくちゃにされそうだ」
「そうですね。何も町の中からスタートしないと行けないという話もないですし」
俺はレティたちを連れて防壁の門をくぐる。濃い霧が満ちる森の中へと入り、その中でイベントの開始を迎える。
『現時刻より〈特殊開拓指令;古術の繙読〉が開始されます』
『調査開拓員各位の機械眼の認識補正が一部解放されます』
ウェイドたち監理者に似た、しかし無機質な声が響く。それと同時に目の前に広がる景色が僅かに変化した。
「レッジさん!」
すぐ隣に居たレティが声を上げる。そちらに目を向けると――。
「うおっと!? ……結構そのままあるんだなぁ」
古びた石造りのモニュメントが静かに佇んでいた。高さはおよそ3メートルほどだろうか。幅は1.5メートルほどで、表面は苔生し、角が欠けている。大まかな形は四角柱のようで、一面に文字のようなものが刻まれた石盤が埋め込まれている。
「これが“未詳文明遺構”?」
ラクトがそのモニュメントに近寄り、そっと表面を撫でる。それだけで、ぽろぽろと細かな欠片が剥落した。
つい数秒前までは影も形も見えなかった。ここにあったのはただの木のはずだったが……。俺たちが周囲の景色を普段はどれほどの情報を隠された状態で認識しているのか、少し恐ろしくなる。
「見たことないわね、これ。前にやった“プロビデンスの目”でも見えなかったはずよ」
エイミーが石塔を見上げて首を傾げる。
以前の〈特殊開拓指令;白神獣の巡礼〉の際、俺たちは機械眼の補正を掻い潜るために“プロビデンスの目”という作戦を実行した。あの時に見た景色が本来の惑星イザナミだと思っていたが、そこにこの塔はなかった。
あの作戦を通しても、真の世界は見えていなかったという訳だ。
「ともかく、さっさと中に入りませんか? 他の人に横取りされるのも嫌ですし」
「それもそうだな」
レティに急かされ、碑文の前に立つ。
他のプレイヤーも今頃これを血眼になって探していることだろう。
今回のイベントは“未詳文明遺構”の中を探索し、そこにある“未詳文明遺物”を持ち帰らなくてはならない。つまり、この石塔の中に入らなければならないのだが……。
「どうやって中に入るんだ?」
「うーん?」
ドアノブが付いているわけでもないし、碑文を押しても変化はない。そもそも、碑文に書かれている文字がなにも読めない。ただの記号の羅列のように見える。
「もしかして〈解読〉スキルが必要になるとか?」
「そんな馬鹿な……」
ラクトの指摘に思わず呻くが、強く否定もできない。この奇妙な記号の羅列を読み解くには、〈解読〉スキルが適役なのだから。
しかし、〈白鹿庵〉にそんなインテリジェンスなスキルを持った者はいない。
「レッジさん? なんだか、レティたちのこと馬鹿にしてませんか?」
「そんな訳ないだろ。……しかし、いくら何でも〈解読〉スキルが必須のイベントなんてあるわけないと思うんだが」
〈特殊開拓指令;古術の繙読〉は待望の大規模イベントだ。フィールド全域、〈始まりの草原〉から〈老骨の遺跡島〉までが対象範囲になっているのは、これを機にFPOを始めたプレイヤーでも参加できるように、という配慮であるはずだ。となれば、特定のスキルが条件というわけでもあるまい。
「ははーん、レティ分かっちゃいましたよ!」
「うん?」
腕を組んで考え込んでいると、レティが耳をピンと立てる。彼女は不敵な笑みを浮かべると、鎚を構えて石塔の前に立った。
「レティ、レティさん?」
「下がってて下さい。危ないですよ」
「危ないのはレティだろ! “未詳文明遺構”って結構重要なものなんじゃ――」
「てええええいっ!」
俺が止める間もなく、レティは大槌を石塔にぶつける。ラクトが撫でただけで崩れるほど脆い遺構は、彼女の暴力によって呆気なく崩れていった。
「むふん。スマートな解決ですね」
「そうかなぁ」
胸を張るレティに、シフォンが目を三角にする。しかし、俺は土埃を舞い上げて崩れた石塔の下に古びた穴を見つける。
「おい、穴があるぞ!」
「それ見たことか! レティが正しかったんですよ」
全員で瓦礫を退かし、穴の全貌を見る。それは地下に続く階段だった。緩やかに曲がりながら、奥へ奥へと続いている。
「“未詳文明遺構”の本体はこっちね」
「ようし、さっさと行きましょう!」
露わになった遺跡の入り口に、エイミーが手を叩く。張り切るレティを先頭に据えて、俺たちはその暗い穴の中へと入っていった。
_/_/_/_/_/
◇ななしの調査隊員
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!
◇ななしの調査隊員
うるっせぇ!
◇ななしの調査隊員
イベントだ!久しぶりのイベントだ!
◇ななしの調査隊員
ほんとに久しぶりだな
虚無期間が長すぎる
◇ななしの調査隊員
虚無期間ってほど虚無だったか?
◇ななしの調査隊員
とにかくイベントだ。
しかも今日の昼からって急すぎるだろ
◇ななしの調査隊員
システム上仕方ないらしい
◇ななしの調査隊員
せめて1週間前くらいに告知してくれよなー
今日まだ仕事なんだよ
◇ななしの調査隊員
なぜ仕事中にスレに?
◇ななしの調査隊員
君のような勘の良い以下略
◇ななしの調査隊員
前に調べたことあったけど、特殊開拓指令は何かしらのトリガーが発動したタイミングで発令されるらしいね。だから次にどの特殊開拓指令が出るかは管理者たんも分からんらしい。
◇ななしの調査隊員
なんだそれ
◇ななしの調査隊員
とにかく古術の繙読だよ
◇ななしの調査隊員
狐耳!狐耳!
◇ななしの調査隊員
鬼っ子が先だろjk
◇ななしの調査隊員
新しい機体がやっぱり一番目玉だよな
◇ななしの調査隊員
もふもふの尻尾に埋まりてぇ
◇ななしの調査隊員
やっと狐型のお出ましか
◇ななしの調査隊員
ずっと要望されてたもんなぁ
◇ななしの調査隊員
九尾の狐とかできるんなら俺もうイザナミに移住します
◇ななしの調査隊員
しかも今後新しいのが追加されるかも知れないんだろ?
◇ななしの調査隊員
アヤカシモデル、期待してます
◇ななしの調査隊員
イベント始まったが、とりあえずこの遺跡ぶち壊せばいいのか?
◇ななしの調査隊員
調査しろってんだよ
◇ななしの調査隊員
調べろ、って言ってるだろうがよ
◇ななしの調査隊員
解読班呼べよ。なんか書いてるだろ。
◇ななしの調査隊員
おk、ぶち壊した
◇ななしの調査隊員
目ン玉付いてんのか????
◇ななしの調査隊員
血の気が多すぎる
◇ななしの調査隊員
サツバツ!
◇ななしの調査隊員
ぶっ壊したら下になんか通路があった。この奥が未詳文明遺構らしい
◇ななしの調査隊員
なるほど。上物はぶっ壊していいんだな。
◇ななしの調査隊員
ぶっ壊すかァ
◇ななしの調査隊員
調査開拓員、物騒すぎない?
◇ななしの調査隊員
オラァ! 調査開拓!
◇ななしの調査隊員
これも今後やって来る入植者のためだからね。しかたないね。
◇ななしの調査隊員
そこかしこで貴重な未詳文明遺構がぶち壊されて強盗に押し入られてる……
◇ななしの調査隊員
結構数はあるんだなぁ
取り合いにならなくて済むのはいいや
◇ななしの調査隊員
それで、中の様子はどんな感じなんです?
◇ななしの調査隊員
その辺の情報ぜんぜん上がってないんだよな
◇ななしの調査隊員
ぶち壊して入ったから祟りでもあるんじゃねーの?
◇ななしの調査隊員
まじで音信不通だな
◇ななしの調査隊員
情報くれよー
◇ななしの調査隊員
ぶち壊して入るな。死ぬぞ。
◇ななしの調査隊員
なんっっっっっだあの即死トラップ!!!!
◇ななしの調査隊員
キモすぎる
◇ななしの調査隊員
もしかしてぶち壊して押し入った奴全員死に戻ってる?
◇ななしの調査隊員
何があったし
◇ななしの調査隊員
こわ、とづまりすとこ
◇ななしの調査隊員
毎度ォ! 調査開拓でェす!
_/_/_/_/_/
_/_/_/_/_/
Tips
◇未詳文明遺構
指揮官により指定され、一般の調査開拓員から秘匿される〈RoI:UC〉関連オブジェクト。外部からの浸透調査の試みは全て蓋然性撹乱プロテクトによって失敗している。現在は消失記録の復元から独自言語の解読を進めている。
Now Loading...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます