第732話「親子の絆」
極めて合法的にアイテムを使用したら、何故か
『ホワーーーッツ!! なんで、レッジさんはそんなことをしてるんですかっ! ていうか、どこにそんなの隠してたんですか!』
「まあまあ、落ち着けよワダツミ」
『これが落ち着いていられますかっ!』
〈ワダツミ〉の町から急行してきたトンボ型の警備NPCから垂直降下で降りてきたクモ型警備NPCによって拘束された俺は、その直後にやってきたワダツミの説教を正座で聞かされていた。
レティたちに助けを求めようと視線を向けるも、こちらとは一線を区切って、和気藹々とバーベキューを楽しんでいる。なんて薄情な仲間達だろうか。
『
「ええ……」
『なんで嫌そうな顔をしているんですか! 要管理危険原生生物は検閲対象です! なんで所持できているかが不思議なくらいなんですよ?』
ぷくぷくと頬を膨らませて怒るワダツミ。なかなか可愛らしいが、言っていることは俺にとってとても辛い。
ちなみに、何故〈ワダツミ〉の検閲をスルーできたかというのは簡単な話だ。インベントリに入れているとサーチでバレる可能性もあったので、種だけ白月の首元のもふもふした毛の中に隠しておいた。最悪、白月のおやつと言うつもりだった。
『今度から検閲体制を強化します』
「そ、そんな……」
『アナタのせいですからね!』
俺は植物園の最深部まで行けるほどには植物の取り扱いにも長けているはずなのだが、それで許してくれるほど甘い話でもないらしい。悲しいかな、俺はワダツミによって種瓶が没収されるのを見ているしかなかった。
『まったく。今度こんなことをしたら、次はウェイドを呼びますからね』
「ええ……」
何故それが脅しになっているのかよく分からんが、まあウェイドに説教される方が面倒くさい気もする。彼女は結構くどくどとスリップダメージのように言葉で突いてくるタイプだからな……。
「しかし、俺以外にもこういう事をやってる奴は結構いるんじゃないか? わざわざ管理者が出てくる必要がないと思うんだが」
いまだ拘束は解かれないため、ふと気になったことを尋ねてみる。
良くも悪くも調査開拓員の行動は自由度が高い。俺も散々色々やっているが、他のプレイヤーも似たような事はやっているはずだった。
しかし、そのたびに管理者が出張っていたら、回る業務も回らなくなるだろう。
そんなことを聞いてみると、ワダツミはぐったりと疲れたような表情で俺を見た。
『レッジさんをはじめ、一部の調査開拓員は
「ええ……。思ったより大掛かりなことになってるんだな」
『それだけのリソースを割く必要があると、管理者および指揮官が判断したからです。なので、もう少し大人しくしてくれるとありがたいです』
残念ながら、それは難しいかもしれない。そんなことを言わずともワダツミは察しているようで、あまり期待は向けてくれていない。ある意味、信用されているのかも知れないな。
「ワダツミさーん。そろそろお話終わりました?」
種瓶が没収され、説教も終わり、ようやく解放される。そのタイミングになってレティが皿を片手にやってきた。
『
「いえいえ。もっと絞ってくれてもいいんですよ。レッジさん、全然反省しないので」
「レティ!?」
俺は耳を疑って目を丸くするが、彼女はにこにこと笑みを浮かべたままだ。
「それよりも、せっかくですしワダツミさんもバーベキューしませんか? イカとかタコとかエビとかも焼いてますから」
『おおっ! これはこれは、ありがとうございます』
レティが持ってきた皿には、フゥが焼いた魚介類が載っていた。シーフード好きなワダツミは目を輝かせてそれを受け取る。
「いいのか、管理者が仕事中にそんなの食べて」
『もぐもぐ。これは環境調査の一環です。魚介類が美味しいということは、海洋資源が豊富であるということですからね。
「ワダツミも屁理屈捏ねるようになったなぁ」
これも今までの経験の賜物といえばそうなのだろうか。美味しそうに大きな貝柱を頬張るワダツミは、先ほどまで烈火の如く怒っていたとは思えないほど無邪気で幸せそうな表情だ。
バーベキューの美味しさに免じて、俺も無罪にしてくれると嬉しいんだが。
「そういえば、ミズハノメも魚介類が好物なのか?」
もぐもぐと美味しそうに食べているワダツミを見て、ふと気になる。海洋資源採集拠点シード02-ワダツミの管理者ミズハノメは、ワダツミの妹にあたる。
他の管理者の流れで言うと、自分の町の特産品やなじみ深い食品が好物になることが多いようだが、彼女もそうなのだろうか。
『フーム。嫌いではないと思いますが……。正直、趣味嗜好は仮想人格生成プログラムに依るところも大きいので、完璧な予測はできません』
「実際本人に聞くのが一番ってことだな」
『
最近はミズハノメやコノハナサクヤのところにも行っていなかったからな。特にコノハナサクヤには原始原生生物関連でも助けて貰っているし、今度お礼をしに行ってもいいかもしれない。
『レッジさんたちはここで何を? 行動記録を見たところ、“饑渇のヴァーリテイン”を倒しているようですが』
「そこにいる四人との交流も兼ねてな。二人一組になって、誰が一番早くヴァーリテインを倒せるか競ってるんだ」
『oh……。ヴァーリテインも最初の頃と比べると随分扱いが変わりましたね』
俺たち調査開拓員が思うことは、管理者たちも思うらしい。最初の撃破では夥しい犠牲を出しながら百人規模のレイドで挑んだのが、もはや懐かしいくらいだ。
とはいえ、その頃にはまだワダツミは居なかったはずだから、記録か何かで見たのだろうか。
「〈ホノサワケ群島〉のボスエネミーも、そんな感じになるのかねぇ」
『
ワダツミは確信を持った口調で断言する。
個々が懸命に技術を磨き、リソースを生産することで、全体としての強度を高める。それがイザナミ計画の基本理念なのだ。
『はむ。――ごちそうさまでした。では、ワタクシはそろそろ戻ります』
「あれ、もう良いんですか? まだいっぱい焼いてますけど」
皿を砕き、立ち上がるワダツミ。レティがもの悲しい顔で惜しむと、彼女は笑って頷いた。
『環境調査も十分にできましたから。それに、業務も残っています。――レッジさんがやらかさなければ既に終わっている業務が沢山』
「す、すまん」
『いえ、いいんですよ。ともかく、ワタクシはこれで。皆さんも調査開拓活動に邁進して下さい』
ワダツミはそう言って、トンボ型の警備NPCに乗り込む。クモたちもぞろぞろと後に続き、彼女たちは町の方へと飛び立った。
「ほんとにレッジを怒るためだけに来たんだねぇ」
「なんでマークされてるんだろうな」
「胸に手を当てて考えたらいいよ」
ラクトにも辛辣なことを言われて、少ししょげる。
これからは管理者たちにも胸を張れるようによく考えて行動することにしよう。
「っと、次はカエデとトーカのペアだったか」
決意を新たにしたところで、四体目のヴァーリテインがリポップする。それを見て立ち上がったのは、〈白鹿庵〉と〈紅楓楼〉の剣士ふたり。親子による卓越した連係プレイが見られることだろう。
「ふたりとも、準備はいい?」
時計を持ったモミジが声を掛ける。
トーカたちは先ほどから随分静かだったが、打ち合わせはしているのだろうか?
「……私がルート権を取りますので」
「言ってろ。俺は実力を示すだけだ」
おかしいな。まるで協力しようとする素振りが見えない。それどころか互いに鋭く睨み合い、牽制し合っている。
「あの、レティさん。俺が説教受けてる間になんかあったのか?」
「なんかあったというか……。どちらがより優れた剣士かで言い合いになって、ヴァーリテインのルート権を取った方が勝ちという勝負をしてるらしいです」
「ええ……」
親子の絆はどこに行ったのだろうか。
フゥたち〈紅楓楼〉の面々も呆れ顔だ。
ヴァーリテインのルート権は、総HPの過半数を削った者が獲得できる。そのため、アタッカー勝負としては正しい。とはいえ、そのために二人ともパーティは組まずに、あくまでソロvsソロで挑むようだ。
「大丈夫か?」
「まあ、トーカは単独撃破もやってますから。カエデさんの実力は未知数ですが」
「カエデ君なら大丈夫でしょ。最近も敗北を知りたいって感じだったし」
仕方ないなぁ、と腰に手を当てるフゥ。光は海鮮バーベキューに夢中だ。
「この勝負はわたしが――」
「俺が――」
二人は睨み合いながら走り出す。
まだカウントダウンすら始めていないモミジは、頭の痛そうな顔をして無造作にタイマーをスタートさせた。
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Tips
◇海鮮バーベキュー
新鮮な海の幸をそのまま豪快に焼いた料理。旨味たっぷりなイカ、タコ、貝、魚などの素材の味を存分に楽しめる。
野外で調理した場合、鍋の周囲に存在する調査開拓員に“シーフードファイアー”のバフを付与する。
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