第719話「激戦と決着」※

「決まったァァアア! “闇巫女”ぽんによる炙り出し、そこに合わせた“孤群”のろーしょんの大量爆殺! ステージは度重なる爆発で既に満身創痍だが、そこへ怨霊の業火が吹き荒れる!」


◇ななしの調査隊員

うおおおおおっ!


◇ななしの調査隊員

もう止めて、ステージのLPはゼロよ!


◇ななしの調査隊員

花粉をばら撒く奴に慈悲などいらん


◇ななしの調査隊員

かまわん、やれ


◇ななしの調査隊員

流石のおっさんも飽和攻撃はきついか


◇ななしの調査隊員

今回初被弾?


◇ななしの調査隊員

おっさん今防御力ほとんど無いんだよな?

霊爆が多少掠った段階でアウトでは?


◇ななしの調査隊員

でもまだ勝敗判定出てねぇなぁ


◇ななしの調査隊員

煙が晴れねぇ


「さあ、絶体絶命の危機! いったいレッジはどうなってしまったのか! アストラさんに伺ってみましょう」

「普通に生きてると思いますよ」

「えっ。あ、そうなんですか?」

「まあ、レッジさんですし」

同じくMe too、あの程度でやられるほどレッジさんは柔ではないでしょう』


◇ななしの調査隊員

解説陣からの信頼が厚い


◇ななしの調査隊員

団長即答で草


◇ななしの調査隊員

実際、おっさんがやられる姿が見えるかっていうとなぁ


◇ななしの調査隊員

おっさんは死んでない!


「さ、さあでは本当にレッジは生きているのか。我々は固唾を飲んで煙幕の晴れる時を待つしか――。おおおっと!? 突然風が吹き荒れた! これはいったい!?」

「レッジさんですね。恐らく〈風牙流〉二の技『山荒』でしょう。周囲の塵や煙を強引に薙ぎ払ったようです」

「なるほど、あれはレッジが開祖として開いた片手槍と解体ナイフという異色の流派〈風牙流〉の技とのこと。ということは、つまり――!」


◇ななしの調査隊員

おっさんおるやんけ!!


◇ななしの調査隊員

生きて! ……生きてる?


◇ななしの調査隊員

あれ、なんかおっさんさっきとちがくない?


◇ななしの調査隊員

なんか、でかい?


「な、なんだか様子が変ですよ! レッジの体が一般的なタイプ-ゴーレムよりも更に一回り大きいというか、輪郭がいまいち定まらないというか……」

「俺も見たことのない形態ですね。ここで新しいものを持ち出してきたようです」

「なんということだ! レッジはまだ変身を残していた! 謎の緑のもじゃもじゃ分身、巨大な植物、そして今回は――何やら銀色の霞のようなものを纏っているようです!」


◇ななしの調査隊員

まだ変身を残しているというのか


◇ななしの調査隊員

挑戦者が可哀想になってきたぞ


◇ななしの調査隊員

なんで街中でレイド戦してるんだ?


◇ななしの調査隊員

よく分からんけど、ろくでもない予感はする


「カメラもっと寄って! あの霞にピンと合わせて。――な、なんだこれは! レッジが全身に纏っている銀色の細かな粒子、その正体がいま、分かりました!」


◇ななしの調査隊員

え、何あれキモ・・・


◇ななしの調査隊員

ちっちゃい蜘蛛か?


◇ななしの調査隊員

5ミリくらいの蜘蛛が大量に群がってるのか

いや、キモすぎる


「どうやらレッジさんは極小の蜘蛛型機獣を大量に用意して、それを外装のように纏っているようです。高い〈制御〉スキルと〈操縦〉スキル、そして何より本人の資質が要求される、変態的な技術ですね」

「なんと、アストラさんをして変態と言わしめる驚異的な所業のようです! ろーしょんの霊爆飽和攻撃はあれで防いでしまったのか!」


◇ななしの調査隊員

ステージで悲鳴上がってて笑う


◇ななしの調査隊員

夥しい量の蜘蛛が襲い掛かってきてるんだもんな、嫌な奴には地獄だろ


「ステージ東から爆弾の投擲! しかしレッジ、いや彼の操る小蜘蛛の群れによって阻まれてしまう! 更に無数の槍が突き込まれるが、それも届かない!」


◇ななしの調査隊員

蜘蛛強すぎる


◇ななしの調査隊員

機術も打ち込まれてるけど、蜘蛛が緩衝材になって本体に届かんなぁ


◇ななしの調査隊員

むしろ小蜘蛛が相手に殺到して、全身食い散らかされてる。トラウマもんだろあれ。


◇ななしの調査隊員

生きながら大量の蜘蛛に食われるって、数ある死因の中でもかなりエグい部類なのでは?


◇ななしの調査隊員

これもうおっさんが黒神獣だろ


「挑戦者はレッジに攻撃を与えることもできず、次々と沈んでいく! いつの間にかステージ上には6人しか立っていないぞ!」


◇ななしの調査隊員

まじで600人倒したのか


◇ななしの調査隊員

おっさんレイド級ボスじゃん


◇ななしの調査隊員

こわ、ちかよらんとこ


◇ななしの調査隊員

あれ?


◇ななしの調査隊員

蜘蛛が剥げていく


◇ななしの調査隊員

スケルトンのおっさんもまあまあ厳つい外見してるなぁ


「おおっと!? ここで蜘蛛たちが次々と機能を停止していく! 時間切れか?」

「恐らく駆動限界でしょうね。あの小ささではバッテリーも積めませんし、もともと使い捨てだったのでしょう」

「なるほど。しかし使い捨てにしてはかなりコストも掛かっていそうですねぇ。

 ――さあ、挑戦者は残り5人、“屍獣”のハニトー、“闇巫女”ぽん、“孤群”のろーしょん。更に“技剣”のハガネ、“疾風”のラッシュ! 誰が勝ってもおかしくはない、歴戦の猛者が揃い踏みだ!」


◇ななしの調査隊員

ラッシュ生き残ってたのか


◇ななしの調査隊員

なんだかんだトッププレイヤーだからなぁ


◇ななしの調査隊員

三術連合の生存率高すぎる


◇ななしの調査隊員

八刃会ってただの剣術バカ集団じゃなかったのか


◇ななしの調査隊員

ハガネはまともな方だからな


「さあ、第一回戦も最終盤! いったい誰がレッジを討ち取るのか、もしくはレッジが5人を打ち倒すのか! チャンネルはそのまま!」



 超小型群体機獣“砂蜘蛛”の活動限界を迎え、俺は再び無防備になる。

 しかし、ステージ上も随分と広くなった。残っているのはたったの5人だけ。かなり数を減らしたもんだ。しかもほとんどが傷を受け、LPの回復も間に合っていない。


「さあ、レッジさん。貴方はあといくつ変身を残しているんです?」

「いやぁ、あれで全部だな」


 好戦的な目をして尋ねてくるぽんに肩を竦めて返す。

 色々とやりたいことはあるのだが、如何せん俺はあまり多くの荷物を持てない。特に“砂蜘蛛”が重く、それ以外のアイテムはほとんど持って来れていないのだ。

 しかし、そんな俺の解答など露程も信じていない様子で、5人の挑戦者たちは油断なく武器を構えている。なぜ俺はこんなにも信頼がないのだろう。


「できればひとりずつ来てくれた方がありがたいんだが」


 一対五で戦うよりも、一対一を五回続ける方が楽だ。一縷の望みを賭けて提案してみるが、それは背後から忍び寄る白骸によって退けられた。


「むぅ。なんで当たらない?」


 白骸を爆発させたろーしょんが不満そうに言う。


「殺気がダダ漏れだ。もう少し感情を消してやった方がいいぞ」

「……自分で言うのもなんだけど、わたしはかなり無表情だと思う」

「まあ、それなりに読めるもんだ。次からは目を隠してみたらいい」


 ろーしょんの霊爆と同時に、前方からはポチが駆け寄ってくる。俺はその太い前脚を槍で突き、後方へと投げ飛ばす。


「うっそ!? なんで、ポチが投げられてるの?」

「受身の応用だ。力の流れを意識すればなんとでもなる」

「そんなわけないでしょ!」


 呪符が至近距離で爆発する。それを避けた先には、太刀の刃が燦めいている。


「獲った!」

「攻撃を当てる前に叫んじゃダメだろ」

「ぐああああっ!?」


 高速で突っ込んできた槍使いを投げ飛ばす。


「風牙流、三の技、『コダマ』」


 大太刀を振り下ろすハガネの懐に潜り込み、胸の炉心を二回攻撃する。クリティカルヒットのダメージが、一気に彼のLPを削る。


「うおおおおっ!」


 かなり行動にも制限が出ているはずだが、ハガネは気合いでそれに耐え、瞬時に切り替えた二本の刀をこちらに向けた。

 跳躍し、刃の上に立つ。


「なにっ!?」

「風牙流、四の技、『疾風牙』」

「がはあっ!?」


 ハガネの背中に回り込み、背後から八尺瓊勾玉を破壊する。更にこちらへ向かってきていた槍使いをハガネの体で受け止め、同時に槍を突き立てる。


「『串刺し』」

「ぬああっ!? や、やめろ!」


 ちょこまかと動き回るこの槍使いは、ステージの床に槍を突き立てて固定する。それにトドメを刺そうと解体ナイフを振り上げた時、ぞわりと嫌な予感が首筋に迫る。


「な、なんで避けられるの」


 素早く飛び退くと、背後から忍び寄っていた骨の死神が大鎌を振り抜いた。あのまま立っていれば、首をすっぱりと落とされていたことだろう。

 ろーしょんが悔しそうにしている。


「ぜんぜん攻撃が当たらない!」

「なんでポチの攻撃が全部受け流されるの!?」


 ポンも絶え間なく呪符を飛ばし、ハニトーもポチを嗾けている。俺はそれらを同時に処理し続けなければならない。


「三術連合が個人の集まりで良かったよ」


 出血ダメージによって槍使いが脱落する。

 床に突き刺さった槍を引き抜き、勢いをつけて投げる。


「『烈迅投槍』」

「きゃああっ!」


 投げた槍は遠く離れた場所にいるハニトーの喉に突き刺さる。飼い主を攻撃されたことでポチが怒り狂いこちらに迫るが、彼も投げ飛ばしてハニトーの元へ送る。


「――ッ!」


 声にならない悲鳴が上がる。

 ポチの巨体によって押し出された槍がハニトーの喉を貫通し、大ダメージを与えた。


「残り二人だ」


 槍を拾いに走ろうとするが、ポンの呪符が飛んでくる。


「痺れろ!」

「『機体部品分離パーツパージ』『機体自爆デストラクト』」

「なあっ!?」


 全身が呪符の効果で痺れる。喉が動かなくなる前に、右腕の肘から先を切り離し、ぽんを爆殺する。呪符の効果が消えて再び動けるようになった時、俺は立ち止まって周囲を見渡した。


「これは……」

「動きが読まれるなら、もう一度避けきれない攻撃をするだけ」


 たった一人残った挑戦者、ろーしょんが禍々しい杖を掲げている。

 彼女の手からは無数の骨片がこぼれ落ち、ステージの床へと沈んでいく。そして、姿形も様々な霊獣たちが次々と現れた。


「さっきの防御は、もう使えない。なら、これで勝負が決まる」

「……なるほど」


 白い骨の群れがこちらを見ていた。

 あれが一気に爆発すれば、その衝撃は計り知れない。


「ろーしょ」

「『霊爆』」


 彼女の名前を呼ぶより早く、蒼炎の爆発が巻き起こる。〈ダマスカス組合〉が作り上げた特設会場全体が大きく揺れ、暴力的なエネルギーが渦巻く。

 他の挑戦者がいない状況で、ろーしょんも手加減はしていなかった。耳を劈く爆音と、全身を焼き焦がすような熱。無数の骨片が吹き飛び、高速で迫る。

 誰もが決着を確信する――。


「俺の勝ちだ」

「なっ、んで……!?」


 静かに蒼炎の燃え上がるステージを眺めていたろーしょんの胸を貫く。ドローン、〈狙撃者スナイパー〉の弾丸が八尺瓊勾玉を破壊する。


「な、な、なんということだーーー! ろーしょんの飽和攻撃がレッジに届く寸前、どこからか彼女が狙撃されてしまった! いったいどういうことなんだ!?」


 実況も客席も混乱している。

 俺は痛む頭を抑えながら、〈ワダツミ〉の外――〈奇竜の霧森〉に展開していたDAFシステムの接続を遮断した。


「俺は弱いんだから、できる限りのことはする。このステージの外は街中だから非戦闘区域だが、町の外はフィールドだ。戦闘区域から戦闘区域を狙って攻撃することには、何の問題もない」


 誰に言うでもなく、静かになったステージを歩きながら零す。

 戦いが始まる前、控え室に入る前から俺は仕込みをしていた。〈ワダツミ〉の都市防壁を囲むようにDAFシステムを展開し、〈観測者オブザーバー〉で死角をなくしていた。そして、一発の弾丸を撃つためだけに一機の〈狙撃者スナイパー〉を忍ばせていた。

 DAFシステムを展開しているせいで開戦前から頭に負荷が掛かっていたし、“森の人々グリーンメン”も30機しか同時に動かすことはできなかったが、最後の一人に不意打ちのトドメをさせたので結果オーライだ。


「ふぅ……。流石に疲れたな」


 あまりにも頭と体を酷使しすぎた。リアルの方では色々と慌ただしくなっているかも知れないが、まあそっちはそっちに任せよう。

 ろーしょんがドローンによって回収され、ステージ上には俺だけが残る。同時に勝敗の結果が確定し、上空のホログラムに俺の勝利が華々しく示された。

 俺に賭けていた客は歓喜し、挑戦者に賭けていた客は膝から崩れ落ちている。実況席の方を見ると、満面の笑みを浮かべるアストラと、頭の痛そうなワダツミが見えた。

 俺は手を挙げ、この戦いの主催者に訴える。


「ワダツミ、少し休んでも良いか? 20分くらいでいい」

いいでしょうOK。バイタルデータが少し乱れていますから、しっかり休んで下さい。ワタクシとしても、ステージの補修が必要ですので、少し時間が欲しかったところです』


 ワダツミが実況席からステージを見下ろしてため息をつく。

 〈ダマスカス組合〉が総力を結して作り上げた頑丈なステージは、至る所が歪み傷付き、そして全体的に焦げていた。


「それじゃあ、また後で」


 俺はそう言い、気怠い体に鞭打って控え室へ向かう。

 観客席からは悲喜交々の歓声が上がっていた。


_/_/_/_/_/

Tips

◇超小型群体機獣“砂蜘蛛”

 極小の機体の蜘蛛型機獣。個々の大きさは5ミリ程度と非常に小さく、力も弱い。しかし、最小でも数千程度の群体を一つの纏まりとして捉え、相互に連携を獲りつつ群体を個として動く。非常に扱いが難しく連続駆動時間が短いが、柔軟に形を変え攻守共に優れた能力を発揮する。


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