第642話「機体回収」

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FPO日誌

 このブログはVRMMO、FrontierPlanetをプレイしている一般のおじさんが惑星イザナミでの出来事をぼんやりと記していく日誌です。

 あまり有益な情報などはありません。

 攻略情報は公式wikiかBBSのほうがいいでしょう。

 上級者向けのものは「大鷲の騎士団(別窓)」や「ねこのあしあと(別窓)」へ。

 あくまでも、平凡な日常を淡々と記したものであることにご留意ください。


 メンバーからの許可を得たので、今後はバンド〈白鹿庵〉の活動日誌としても運営していきます。

 その一環で、本人らからの要望を受けて記事中の画像にあったメンバーのプライバシー保護編集を消しました。

 ゲーム内での問い合わせは〈白鹿庵〉リーダーのレッジまでお願いします。


#339「新装備ゲットしました!」


 〈花猿の大島〉深奥部攻略も破竹の勢いで進む中、皆様どうお過ごしでしょうか。私は今日も今日とて深奥部にある前線基地にて、攻略活動を行う皆さんの一助になるよう食堂を運営していました。


[〈花猿の大島〉前線基地食堂メニュー.txt]


 ぜひ、お気軽に立ち寄って下さい。


 さて、本日は新しい装備を手に入れたので、そのご紹介をしたいと思います。

 前線基地まで遙々いらっしゃったとあるプレイヤーさんから、〈罠〉スキルで扱える新装備をお売り頂けました。その名も“マーカー”というもので、現在の私の〈罠〉スキルの運用方法にも合った品です。


[マーカースターターキット.img]


 簡単に説明すると、地面に“マーカー”を突き刺すことで、様々な効果を発揮するというものです。

 一本刺せば、その周囲に。二本刺せば線として、三本刺せば領域として効果範囲を区切ることができます。マーカー自体も様々な種類があり、事前に準備を行う必要はありますが、色々と応用が利きそうな道具です。


 上記のスターターキットを購入したあと、深奥部で少し使ってみました。まだまだ深奥部の猩猩たちに通用するほど使いこなせてはいませんが、なかなか可能性を感じさせてくれました。


[猿爆発.img]


 残念ながら〈白鹿庵〉の仲間からはまだ認められていないようですが、今後は積極的に使うことで、その実用性を見せつけていきたいと思います。


 次に、深奥部攻略作戦について少し。

 すでに〈大鷲の騎士団〉の公式サイトにて報告書も公開されていますが、深奥部の調査は着実に進んでいます。三術師の皆さんによる龍脈レイラインの記録もしっかりと行われ、すでに外周部は全て明らかにすることができました。

 今後は深奥部の中心に向けて、慎重に進んでいくことになるでしょう。私も勇敢に挑み続ける皆さんを影ながら支えていきたいと思います。


 最後に恒例のCMを。


 地上前衛拠点シード01-スサノオ商業区画の〈ネヴァ工房〉にて、私が監修したキャンプセット、DAFシステム、種瓶、罠各種が販売中です。換装パーツも“針蜘蛛”をはじめ、多数取り揃えてありますので、ぜひご検討下さい。

 海洋資源採集拠点シード01-ワダツミ商業区画の市場では、〈白鹿庵〉産の各種野菜、植物系素材、毒物を無人販売しております。ちょっとあの素材が足りない、なんて時には是非ご利用下さい。なお、販売品目は不定ですので、その点をご了承下さいませ。


 それでは、今日はこのあたりで。


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◇ななしの調査隊員

おじ日誌交信されたな


◇ななしの調査隊員

ほんとだ。つっても最近は目新しい記事もないからなぁ


◇ななしの調査隊員

攻略作戦参加中は言えないことも多いだろうしな


◇ななしの調査隊員

新しいおもちゃ買ったみたいだな


◇ななしの調査隊員

おもちゃ?


◇ななしの調査隊員

ほんとだ。マーカー買ってる。


◇ななしの調査隊員

マーカーいず何


◇ななしの調査隊員

ブログ読んだら良いよ

ていうか読めよ


◇ななしの調査隊員

ああ、これかぁ

おっさんがメイドさんに土下座して金貰ってた奴だ


◇ななしの調査隊員

ええ・・・


◇ななしの調査隊員

なにやってんのおっさん


◇ななしの調査隊員

どっちが主か分かんないな


◇ななしの調査隊員

おっさん金欠なの?

結構金持ってるイメージだったけど


◇ななしの調査隊員

新参かな?

ここに居る奴らは大体おっさんのイメージ素寒貧だぞ


◇ななしの調査隊員

まああんだけ豪勢に使ってるからな

稼ぐ量も多いけど、使う量も多いから


◇ななしの調査隊員

バンドの金は赤ウサちゃんが管理してるんだっけ?


◇ななしの調査隊員

らしいぞ。おっさんに任せてるとガレージの家賃も払えなくなるんじゃないか?


◇ななしの調査隊員

[ジャンピングスライディング土下座おっさん.img]


◇ななしの調査隊員

なんで撮ってんだよ


◇ななしの調査隊員

マジで土下座してて草


◇ななしの調査隊員

土下座されて困ってるカミルちゃんかわよ


◇ななしの調査隊員

俺もカミルちゃんに土下座してぇな


◇ななしの調査隊員

踏んで貰えるぞ


◇ななしの調査隊員

よっしゃ


◇ななしの調査隊員

おっさんお小遣い貰えてないん?


◇ななしの調査隊員

お小遣いあげる側じゃないのかよ


◇ななしの調査隊員

しかしマーカーなんか使い始めたらまた出費が嵩むんじゃないか?


◇ななしの調査隊員

それはそう。

マーカーって結構使い捨て多いし。使い捨てじゃないやつは初期費用がそもそも高いし。

スターターキット見たところ、ほんとに必要最低限のものだけだし、絶対他の奴も欲しくなるから。沼に入ってしまったな……。


◇ななしの調査隊員

誰か知らんけど、おっさんにこんなん売りつけるとは。いいぞもっとやれ。


◇ななしの調査隊員

おっさんって最近装備新しくしたばっかじゃなかったっけ・・・


◇ななしの調査隊員

それもそう。


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 闇満ちる森のなか、駆け抜ける一陣の風。


「オラオラオラオラァ! テメェら遅れるんじゃねぇぞ!」

「押忍ッ!」


 刺叉を携えた、火事装束の男達。刺子の施された黒い半纏と頭巾を纏い、手袋をはめて股引を履いている。彼らは一様に捻り鉢巻きを頭に巻いて、半纏と頭巾には“再”の字を象った紋が白抜きで描かれていた。


「お頭、前方から緑血猩猩!」

「分かってらあ!」


 彼らが走るのは、暗い森の中。提灯の僅かな明かりだけを頼りに、不可視の龍脈の上を走り抜けている。

 そこへ立ちはだかるのは、三匹の猿。一見すると黒影猩猩にも見えるが、全身を包む体毛がほとんど茶に近い濃緑色だ。


「まともに相手するんじゃねぇぞ!」

「押忍ッ!」


 先頭を走るタイプ-ゴーレムの男の声を受け、後ろに続く男達が威勢良く吠える。彼らは一斉に刺叉を前に突き出し、素早く“型”と“発生”を行った。


「衝暴流、一の声! ――『打ち壊し』!」


 密集した男達の声が揃う。

 彼らの走りはぐんと加速し、一瞬で緑血猩猩に肉薄する。その瞬間、猩猩の腹が風船のように膨れ上がった。

 緑血猩猩の特徴的な行動。それは、体内に蓄えた、特殊な体液を嘔吐し、襲い掛かる敵に浴びせることだ。

 猛毒、悪臭、そして粘り気のある体液は、敵の身体を蝕みながら周囲にその存在を知らしめる。一度降りかかれば、それを感知した他の猩猩たちが殺到する。

 しかし――。


「オラアアアアアアアッ!」


 緑血猩猩が体液を吐き出すよりも早く、男達の刺叉がその喉元を突く。一瞬で気道を潰された緑血猩猩の腹を、別の刺叉が突く。ゴムボールのように柔軟性の高い皮でそれを受け止めた猩猩たちは、瞬く間に上空へ弾き出された。


「駆け抜けるぞ!」

「押忍ッ!」


 吹き飛ばされ、黒い森の鬱蒼と繁った枝葉に絡まる緑血猩猩たち。当然、その程度ではかすり傷にもならない。

 だが、怒りを露わに緑血猩猩たちが地上を見下ろした時、そこにはすでに男達の姿はなかった。


「進め進め! 敵を全部吹き飛ばせ! 倒す必要はねぇぞ!」

「頭、もうすぐ目的地です!」


 火事装束の男達は一心不乱に森の中を進む。時折現れる原生生物には見向きもせず、全て横へ上へ払って進む。

 そうして彼らは、やがて依頼人の示した地点へと辿り着く。


「機体発見! 担架出せ!」

「押忍ッ!」


 森の中、提灯の明かりに人工物が照らし出される。それは重鎧を纏ったタイプ-ゴーレム機体、そして機術師らしいタイプ-フェアリー機体。前衛と後衛のシンプルなパーティを組んでいたのだろう。ただし、そこにあるのは中身のない機体だけだ。


「損傷はそこまで激しくねぇな。さっさと持ち帰るぞ」

「押忍ッ! 『機体回収』」


 組み立てた担架の上に、重い金属の塊である機械人形を乗せる。通常は許されていない行為だが、彼らが保有する〈回収〉スキルと、それらの機体の所有者たちの許可によって行われる。


「固定完了!」

「こっちも完了しました!」

「よし、じゃあとっとと帰るぞ!」


 慣れた手つきで迅速に作業を終えた男達は、担架を持ち上げて方向を転換する。


「この森、気味は悪ぃが俺たちにとっては便利だな」

「無駄口はいい。さっさとずらかるぞ」


 リーダーの叱咤を受けつつ、男達は再び走り出す。ただし、今度は入ってきた方向から九十度直角に曲がった方角を目指す。


「そろそろ飛びます!」

「押忍!」


 次の瞬間、男達の姿は忽然と消える。

 後に残ったのは静寂の森と濃密な闇だけだ。



 〈花猿の大島〉深奥部、EP1から近い前線基地に火事装束の男達が帰ってくる。2つの担架を携えて、そこにタイプ-ゴーレムとタイプ-フェアリーの機体を載せている。

 そんな彼らの帰還をいち早く発見したのは、大型照明装置の照らす境界ギリギリに立っていた二人の調査開拓員だった。


「来た! 来てくれたよ!」

「本当だ。早いな」


 バックアップセンターから一時的に貸与されるスペア機体の調査開拓員たちは、火事装束の男達を認めると歓声を上げて手を振った。それに気付いた男達も、真っ直ぐにそちらへ向かう。


「お待ちどう! 機体の損傷率は兄さんの方が2割、姉さんは1割ってとこだな」

「ありがとう! 本当に助かったわ」


 地面に置かれた二つの機体。その帰りを待っていた二人は、すぐに復帰処理を始める。横たわる機体の胸に手をかざし、データの統合を行えば、ゆっくりとプログレスバーが青く染まっていく。

 そして数十秒後、スペア機体が待機状態に入り、代わりに担架に横たわっていた機体が起き上がる。


「助かったわ。うん、盾も鎧も平気みたい」

「本当に良かったよ」


 重鎧を纏い、両手持ちの大盾を背負ったタイプ-ゴーレムの女性が改めて感謝を伝える。その傍らでローブの埃を払うタイプ-フェアリーの男性も頷いた。


「良いって事よ。これが俺たちの仕事だからな」


 それに対し、火事装束の男達は鼻の頭を擦って笑う。

 彼らはフィールドの危険な場所で死亡した調査開拓員たちから機体の回収を請け負う、〈回収業者サルべージャー〉と呼ばれる人々だった。

 深奥部のようなダンジョン形式のフィールド、そして最前線で最も危険度の高いフィールドが、彼らの仕事場である。そこに潜む凶暴な原生生物を真っ向から相手取ることはないが、彼らもまた攻略活動に於いて無くてはならない存在だ。

 例え目立たぬ存在だろうと、〈回収業者〉なしでは攻略は遅々として進まない。物資の消耗も倍では利かないだろう。だからこそ、彼らは縁の下の力持ちを自負していた。


「ごめんね、ダーリン。私がしっかり守ってあげられなかったから……」

「いいんだよ、ハニー。俺ももっと術式を素早く選択できるようにならないといけない」


 無事に機体を取り戻したところで、早速反省会を始める依頼者たち。彼らを前に、回収業者の男達は顔を見合わせる。リーダー格の男が軽く鼻を鳴らし、くるりと身を翻した。


「そら、行くぞお前ら。まだまだ依頼者はいるからな!」

「――押忍ッ!」


 回収業者たちの歩みは止まらない。


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Tips

◇〈回収〉スキル

 フィールド上で行動不能となった調査開拓用機械人形を回収し、持ち主の下へ届けるスキル。機体復帰に掛かるデータ統合時間もスキルレベルに応じて短縮できる。

 果敢に戦い、誇りと共に散った戦士に手を差し伸べる。今はまだ、眠る時ではない。今一度、新たな炎を胸に立ち上がれ。


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