第597話「猛獣防衛最前線」

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◇ななしの調査隊員

ひゃあ祭りだ祭りだ!


◇ななしの調査隊員

スタンピードかぁ。久しぶりだな。


◇ななしの調査隊員

稼ぎ時だな。ほな、行ってきます。


◇ななしの調査隊員

生産者は町の中でのんびり武器量産しとこう


◇ななしの調査隊員

ミズハノメちゃんも張り切ってんなぁ

防衛設備がじゃんじゃか出張ってる


◇ななしの調査隊員

もう防衛設備だけで完封できるんでない?


◇ななしの調査隊員

エネルギー生産量を消費量が上回ってるからな。そのうち防衛設備は停止すると思う。


◇ななしの調査隊員

何にせよ自分で狩らんとドロップアイテムの所有権もないからな。


◇ななしの調査隊員

うおおおお!行くぜ行くぜ行くぜ行くぜ!


◇ななしの調査隊員

お前らこんなところで管巻いてないでさっさと行けよ


◇ななしの調査隊員

武器もってミズハノメから飛び出したら、緑の巨人がいたでござる。


◇ななしの調査隊員

なんだアイツ


◇ななしの調査隊員

禍々しいな


◇ななしの調査隊員

人型の原生生物って初めてじゃないか


◇ななしの調査隊員

そういえば花猿って言ってたし、もしかしてあれか?


◇ななしの調査隊員

ボスが出張ってくるとかある???


◇ななしの調査隊員

うおおお!俺が討伐してやるぜ!


◇ななしの調査隊員

あ、あれプレイヤーじゃん


◇ななしの調査隊員

ええ・・・


◇ななしの調査隊員

おっさんだ


◇ななしの調査隊員

ほんとだ、おっさんじゃねーか


◇ななしの調査隊員

なんかフェンスで砂浜閉鎖しだしたな。ただのおっさんかよ。


◇ななしの調査隊員

なんやねんびっくりさせやがって


◇ななしの調査隊員

よっしゃ、俺はやるぜやるぜ!!


◇ななしの調査隊員

おっさんがいるなら町の守りとかは考えなくて良いか。気楽に戦えるのはありがたいなあ。


◇ななしの調査隊員

まっつりじゃー


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 罠複合式フェンス型テント“糸ノ門”が立ち上がる。

 広い砂浜を分断し、猛る原生生物たちが〈ミズハノメ〉に侵攻してくるのを阻む。

 フェンスの中央に唯一開かれた門を守るのは、植物戎衣“狩狼叢樹”を展開した俺だ。

 手に持つ槍とナイフも、それぞれ“鋼鱗杉”と“首切草”という植物戎衣を重ねることで、巨大化した体に合った大きさになっている。

 二つの武器は全身を構成する蔦によって、半ば癒着したような形で両腕に繋がり、自由に扱うことができる。


「それじゃあ、まずは小手調べだ」


 10メートルを越える長槍と、刃渡り5メートルのナイフを構える。


「風牙流、一の技、『群狼』」


 体を捻り、勢いを付けて槍を突き出す。

 風を孕んだ衝撃は扇状に広がり、混沌とした浜にひしめく原生生物たちを薙ぎ倒した。

 〈風牙流〉の最も基本的な技だが、この規模ならば相応の威力がある。

 ちょっとしたマップ兵器を扱っているような気持ちで、俺は思わず笑みを浮かべる。


「『機体換装』“針蜘蛛”」


 背中から更に三対の腕が現れる。

 それは瞬く間に蠢く蔦によって拡張され、新たな槍とナイフを手にした。

 下半身もまた膨張し、八本足の蜘蛛のような姿を取る。

 そちらも緑の蔦に覆われ、補強される。


「うーむ、これ、後片付けはどうするかな……」


 機体換装後はネヴァのような技師によって直してもらう必要があるのだが、今は彼女もオノコロ島の方で忙しくしているはずだ。


「ま、いいか」


 とはいえ、そんな悠長なことを考えている場合ではない。

 俺は“糸ノ門”を登ろうとしていたアリクイのような原生生物を槍で払う。

 四本の槍と四本のナイフで、全方位に向けた攻撃が可能だ。

 更に蜘蛛の下半身は機動力を高め、周囲に展開したDAFシステムによって視界も確保されている。

 その結果、止めどなく森の中から現れ、プレイヤーたちが討ち漏らした原生生物たちは、俺だけでも余裕を持って対処することができた。


「風牙流、五の技、『飆』」


 槍を浜に突き立て、それを軸に高速で回転する。

 暴風が浜を巻き込み、原生生物たちを薙ぎ払っていく。


「装備が若干物足りないが、まあ何とかなるな」


 特化した戦闘職ではないが、機体の換装と植物戎衣、そしてテントのおかげでなんとか戦えている。

 俺は槍とナイフを構え、砂浜で繰り広げられている激戦へ意識を向けた。

 そこでは見知った顔の少女たちが、楽しげに戦いに身を投じていた。


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「うぉぁあああああああっ!!」


 土煙をあげてこちらへ向かってくる巨大な猪。

 体中に気味の悪い茸を生やした奇抜な外見の獣を、星球鎚で受け止める。


「んひっ」


 真正面から力と力が激突する、生々しい感触に思わず笑みが零れてしまう。

 この世界は最高だ。

 高精度な物理エンジンを大規模サーバーセンターの暴力的な演算能力で強引に使用しているからか、MOBの一体一体に肉と骨と皮の感触が忠実に再現されている。

 現実では到底満たされることのない、人類が本能の奥に忘れてしまった暴力の快感が、瞬間的に満たされる。


「ぐっ――らああああっ!」


 腕に渾身の力を込め、足を白い砂に食い込ませて、大茸猪の突進に耐える。

 向こうも自身の予備動作すらない高速突進を止められるとは思っていなかったはずだ。

 その黒く小さな瞳が僅かに揺れている。


「っ!」


 追撃をかまそうとした時、敏感な聴覚が砂を蹴る音を拾う。

 深く考えを巡らせるよりも先に体が動く。

 タイプ-ライカンスロープの優秀な身体能力で大きく直上へ跳躍した次の瞬間、黒い角をこちらに向けた筋肉質な馬が飛び込んできた。


「人の――邪魔を――!」


 最高のタイミングでハンマーをたたき込めたはずなのに、この空気を読まない馬鹿のせいでリズムが崩れてしまった。

 戦闘で高ぶった精神は、ただそれだけで爆発的に燃え上がる。

 そのエネルギーを余すことなく、両手に握るハンマーへと宿す。


「するなぁああああっ!」


 地面を打ち付ける。

 衝撃で砂が膨らみ、周囲へ弾ける。

 大茸猪と一角暴れ馬の双方を纏めて宙に浮かべ、瞬時に片足を引く。


「『大車輪』ッ!」


 ハンマーヘッドの重量に任せた大きな回転。

 重く尖った鉄塊が、2頭の獣を絡め取る。


「月の裏まで飛んでいけぇ!」


 そのままハンマーを振り抜く。

 団子になった猪と馬は大きく放物線を描き、運の悪いことにプレイヤーが密集している混戦地帯へと飛び込んでいった。


「やばっ!」


 流石に他の人に迷惑をかけるのはマズい。

 咄嗟に走り出すが、細かな砂の上では思うように速度が出ない。


「――『明鏡止水』」


 猪と馬を無数の斬撃が襲う。

 それは一瞬にして2頭の強靱な生命力を狩り獲り、無残にも浜に転がらせた。


「助かりました、トーカ!」


 倒れる大茸猪と一角暴れ馬の向こうで納刀しているのは、頼れる味方だった。

 思わず名前を呼ぶと、彼女は小さくため息をついてこちらを見た。


「別に助けたわけではないですよ。自分に降りかかる火の粉を払っただけです」

「うぐぅ。すみません……」


 じっとりと睨まれれば、何も言えない。

 周囲の状況を把握していなかった自分の責任だ。


「まあまあ、今はそれどころじゃないでしょ」


 トーカの背後から襲いかかってきた花蜜鳥の群れが、一瞬で凍結され地に落ちる。

 やったのはもちろん、ラクトだ。


「とりあえず、レッジが後ろは守ってくれる。僕らは殲滅するだけ」


 いつの間にか側に立っていたミカゲは、狩衣に着替えている。

 どうやらここで大規模な呪術を発動させるらしい。

 やる気を見せる弟を見て、トーカもそれに触発されたようだ。

 三本の刀を束ね、身の丈よりも巨大な太刀を構える。


「それもそうですね。いざ、尋常に参りましょう」

「ああっ! その辺のでっかいのはレティの獲物ですからね!」

「何言ってるのよ。そんなの早い者勝ちに決まってるでしょ」

「エイミー!?」


 颯爽と駆け出すトーカを追いかけていると、マークしていたアナグマみたいな原生生物が大きな拳に殴られて消し飛んだ。


「はええええ。わたしが出れるほどの場所じゃないと思うんだけど!」

「その辺の群れに放り込んでも、何だかんだ言って生き残るじゃない」


 町の調査をしていたエイミーとシフォンも騒ぎを聞きつけて来てしまったらしい。

 思わず唇を噛み締める。


「レティ、自分の取り分が減るとか考えてない?」

「そ、そんなわけ……」


 ラクトに図星を突かれて思わず耳を揺らしてしまう。

 それを見て彼女は呆れたように肩を竦めた。


「いくらでも湧いてくるんだからいいじゃないの」

「でも、後ろでレッジさんが見てるんですよ」

「――見てるかなぁ?」


 ラクトが背後を振り返る。

 そこには〈ミズハノメ〉を守るように展開された、高さ5メートルほどのフェンスが原生生物の侵攻を阻んでいた。

 フェンスを越える事ができる唯一の門の前に陣取っているのは、大きく禍々しい緑の巨人だ。

 それは八本の腕に四本の槍とナイフを握りしめ、蜘蛛の脚で浜を駆け、前線をすり抜けてきた原生生物たちを狩り獲っている。

 たしかに、こちらを気にしている余裕はなさそうだ。


「と、ともかく大きいのはレティに任せて下さい!」

「ええー。大きい奴こそ殴り甲斐があるのに……」

「斬りにくいからこそ、斬った時の快感は一入なんですよ!」

「ええい、皆揃ってバーサーカーみたいなことを言わないで下さいよ!」

「レティが言わないでよ……」


 トーカとエイミーがさっさと走り出す。

 それに負けじと自分も走る。


「はええええっ!?」


 途中でシフォンがエイミーによって、原生生物の群れの真ん中に放り込まれていた。

 まさか本当にやるとは……。


「やっぱり、〈白鹿庵〉はレティ以外全員非常識ですねぇ」


 一直線に進路上のプレイヤーを薙ぎ倒しながらやって来た、新たな大茸猪に思わず口角が緩む。

 その不遜なる鼻っ柱をたたき折ってあげましょう。


「咬砕流、一の技――」


 トーカが剣を抜くのが見えた。

 同じく、エイミーが笑いながら拳を突き出している。

 後方からはラクトの詠唱も聞こえている。

 けれど、これは自分の獲物だ。


「――『咬ミ砕キ』」


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Tips

◇機術式狙撃砲

 都市防壁上に設置される中型砲。専用の350TB機術封入弾を使用し、遠距離の対象を狙撃する。機術封入弾の換装によって様々な状況に対応することが可能で、連射力も高く、都市防衛上でも極めて重要とされる主力装備。


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