第555話「水平線の彼方へ」
ルナを仲間に加え、彼女と共に“水鏡”の運用訓練を行う日々が過ぎた。
彼女が船上での戦闘に慣れていくのと同時に、俺たちも彼女と共に戦うことに慣れていった。
やがて、四将を高速で周回することができるようになり、“千鱗のカンノン”や“耽溺のホブル”といったネームドエネミーも問題なく倒せるほどになった。
そうして、本日。
いよいよその時が来た。
「うわあ、凄い数ですね」
「戦闘職ならほとんど集まってるだろうしな。BBCだけじゃ管理できないはずだ」
〈ワダツミ〉の港湾地区にやってきた俺たちが見たのは、大きな埠頭を埋め尽くす人の群れだった。
全員が全員、眼をギラつかせ、物々しい武装を身に纏っている。
岸にはすでに大小いくつもの船が係留されており、中にはビルのように大きな巨大戦艦もある。
「〈波越えの白舟〉も、調査開拓員企画とは思えない規模になってるわね」
「FPOってこんなに人口いたんだね」
エイミーが圧巻された様子で言い、シフォンが目を見開く。
港を埋め尽くすほどの人は、それぞれが賑やかに語らっている。
その声は互いに混じり合い、活気となって広がっていた。
「これだけいたら、案外あっさり上陸できるかもね」
ルナが腰に手を当て、楽観的なことを言う。
「あんまりフラグを立てないでくれよ。そんなこと言ったら、上手くいく事もいかなくなるかも知れないだろ」
「へぇ。レッジって占いとか信じるタイプなんだ?」
「そういうのとはまたちょっと違うと思うんだが……」
によによと目を細めてこちらを窺うルナに眉を寄せる。
その時、一隻の船――船体にデフォルメされた猫の顔がペイントされた中型船の甲板に、ケット・Cが現れる。
彼の乗っている船は今回のイベントの総司令部となる、BBC籍のものだ。
「にゃあ、みんな、ごきげんよう!」
ケットが口を開く。
大型スピーカーが彼の声を周囲に拡散し、騒がしかった埠頭がしんと静まりかえる。
まるで波が引くようだ。
その光景に少しの感動を覚えながら、俺もケット・Cの方を注視する。
「ボクはあんまり挨拶とか得意じゃないし、みんなも聞きたくないだろうから、手短にいくよ。――ボクたちにとって、この島はもう狭い世界になっちゃった。だから、ボクたちの手で世界を広げよう。そんなに気負うことはない、新大陸は逃げないからね。全力で、当たって砕けるよ!」
ケット・Cが肉球を掲げる。
それに合わせて、波が広がるように、埠頭に詰め掛けたプレイヤーたちが雄々しい声を上げる。
騎士団の誘導で、プレイヤーたちが船に乗り込む。
船を所有していないプレイヤーも、他のバンドの船に相乗りしているようだ。
「進め! 水平線の彼方に世界が待ってるぞ!」
「うおおお! 俺が海賊王だ!」
「調査開拓だからな、略奪とか侵略とかじゃないからな」
「出港! 出港!」
町が揺れたと錯覚するような騒ぎのなか、次々と船が出ていく。
それを見送った後、埠頭に機術師がずらりと並んだ。
「騎士団の機術師の皆さんですね」
「ああ。今回の主力艦隊のお出ましだな」
アイが号令を発する。
それを合図に、埠頭に並んだ大鷲の紋様を背負った機術師たちが、一斉に機術を展開させた。
「うはぁ、あんなに大規模な……」
ラクトがそれを見て思わず感嘆の声を零す。
それほどまでに、大規模で常識外れなアーツだ。
恐らくは〈
「あれも“水鏡”の一種なの?」
面食らった様子でルナが首を傾げる。
たしかに、現実味のないことだ。
明らかに乖離しすぎている。
しかし、根幹を成すものは共通している。
「一応、モデルは“水鏡”だ。それを騎士団が独自に改良してるけどな」
洋上にそれが浮かぶ。
〈ワダツミ〉の町並みに深い影が落ちる。
先ほど意気揚々と出航した大型船艦が、ほんの小さな小舟に見えるほどのスケールだ。
『どうです、レッジさん? 見てますか?』
「ああ、ちゃんと見てるよ。ていうか、嫌でも眼に入るだろ」
わざわざTELで尋ねてきたアストラに、苦笑しつつ返す。
「まったく、首の裏が痛くなる」
そこに浮かんでいたのは、巨大な氷造船艦。
〈大鷲の騎士団〉の海洋攻略に於ける主力兵器であり、最大規模の武装でもある、彼の集団の規模をそのまま質量化したかのようなロマンの塊。
そのサイズ故、ドックに入れることはできない。
また、他の船が係留できなくなるため、港に停泊させておくこともできない。
しかし、それらをする必要もない。
「機術師35人による輪唱アーツ、ランクⅦナノマシンパウダーを2,100個消費して組み上げ、14人のキャンパーと28人の防御機術師によって船体を維持する、超巨大船艦。――超大型ユニット複合式居住型機術装甲蒼氷船艦“リヴァイアサン-01”か」
全体を七つのブロックに分け、それを複合させることで巨大化に成功した氷造船。
全長は300メートルを超え、喫水も10メートルはあるだろう。
青く輝く船体は、専用のチップを組んだアーツを発動する防御機術師と、甲板に乗せられたコンテナ型テントを起点とするキャンパーによって維持されている。
各所には大型の重火器を配置し、一つ一つを専属の罠師と技師が管理している。
まるで海上に浮く要塞だ。
「リヴァイアサン1番艦、発進」
「リヴァイアサン1番艦、発進!」
船を組み上げた機術師とはまた別に用意された、船の操作だけを担う機術師の力で巨大な船艦が岸を離れる。
そうして十分なスペースができれば、新たな“リヴァイアサン”が建造される。
「流石の騎士団ですね。あの規模の船を何隻も……」
次々と沖へ出て、綺麗に整列していく氷造船を見て、トーカが唖然とする。
“水鏡”の何百倍もあるような船を作るだけの人員と財力を持っていることを、まざまざと見せつけられているようだ。
「主力艦リヴァイアサンが6隻、随伴艦シーサーペントが8隻、支援艦セイレーンが8隻、輸送艦バハムートが3隻。そんでもって、騎士団指令艦兼先鋒艦のポセイドンが1隻。総勢26隻の大艦隊だ」
全ての氷造船が完成し、洋上に整列する。
普段は分散していたり、ローテーションを組んでいたりするため、まず目にすることができない騎士団の最大戦力だ。
『では、レッジさん。海で待っています』
「はいよ。こっちもゆっくり後を追うよ」
騎士団の船団が水平線へ向かっていく。
それを見送って、俺たちも埠頭へと移動した。
「あんなの見た後だと、気後れしちゃうなあ」
「ラクトだって優秀だぞ。一人で船全体を管理してくれてるんだから」
「ふふん。それはまあ、そうなんだけどね」
ラクトとエイミーと俺で“水鏡”を浮かべる。
もはや慣れた作業だ。
コンテナ式テントを展開し、レティたちが甲板に乗り込んでいく。
「それじゃあ、独立急襲部門も出航だ!」
「いえっさー!」
ラクトの機術で水流が動き、“水鏡”が滑り出す。
俺たちは水平線の向こうへ消えかかっている船団の影を追って、快調な出港を果たした。
_/_/_/_/_/
◇ななしの調査隊員
うぃえええええええいいい!!!
◇ななしの調査隊員
うぇみだー!!!!
◇ななしの調査隊員
こんな規模で一斉に船動かしてるの見たことないから、凄い壮観だな
◇ななしの調査隊員
SS撮る手が止まらねぇぜ
◇ななしの調査隊員
お前ら船組か、いいな
まあ俺は騎士団の船の写真撮れたから良いけど
[騎士団船団.img]
◇ななしの調査隊員
騎士団の船は意味が分からんすぎる
◇ななしの調査隊員
リヴァイアサンだっけ?
滅茶苦茶デカいな。ていうかデカすぎて遠近感が狂う。
◇ななしの調査隊員
一番デカいのは物資輸送用のバハムートだな。
リヴァイアサンは砲台とか積んでる二番目にデカい奴で、カグツチとかを収納してるはず。
◇ななしの調査隊員
セイレーンが支援部隊だっけ?
◇ななしの調査隊員
支援と防御の機術師と歌唱部隊が乗ってる船だな。
ステに自信ない奴らはセイレーンの近くに居ればいいんでない?
◇ななしの調査隊員
シーサーペントくらいがすき
◇ななしの調査隊員
あれくらいが小回り聞いていいよな
◇ななしの調査隊員
必要機術師4人くらいだっけ?
お手軽じゃん
◇ななしの調査隊員
感覚鈍ってるやんけ
◇ななしの調査隊員
船団の後からちょこちょこ追いかけてたちっちゃい船あるんだけど、これなんだろ
[謎の小舟.img]
◇ななしの調査隊員
おっさんの船ですね・・・
◇ななしの調査隊員
そっちがオリジナルやぞ
◇ななしの調査隊員
〈白鹿庵〉の氷造船“水鏡”
おっさんが機術師ちゃんとタンクさんと一緒に作った、ゲームで(多分)最初の氷造船。規模はまあ三人だから騎士団のに及ばないけど、個々の練度が桁違いだからなぁ。
◇ななしの調査隊員
そういや今回のイベント、おっさんだけ特別枠だっけ?
◇ななしの調査隊員
放し飼い枠な
◇ななしの調査隊員
下手に鎖付けても引きずられるだけだからね。仕方ないね。
◇ななしの調査隊員
そう言えばこないだ白将を爆殺したのもおっさんってほんと?
◇ななしの調査隊員
臨時の仲間?らしいぞ。巡礼の時に一緒だったガンナーちゃん
◇ななしの調査隊員
ソロ専の子か。
え、あの子がなんかやったの?
◇ななしの調査隊員
スターゲーザー使った
◇ななしの調査隊員
ええ・・・
◇ななしの調査隊員
白鹿庵じゃないのにやらかしてんのかよ
◇ななしの調査隊員
今はもう実質白鹿庵だからなぁ
◇ななしの調査隊員
海フィールド広すぎ
よった
◇ななしの調査隊員
機械人形が船酔いするんじゃねーよ
◇ななしの調査隊員
吐くもんもないだろうに
◇ななしの調査隊員
海慣れしてない奴らが結構居るなぁ
まあイベントだし仕方ないのかもしれんけどさ
◇ななしの調査隊員
これいつになったら戦闘に入るの?
◇ななしの調査隊員
先頭の方は戦闘に入ってるよ
◇ななしの調査隊員
先頭だけに?
◇ななしの調査隊員
?
◇ななしの調査隊員
は?
◇ななしの調査隊員
吐きそう
◇ななしの調査隊員
沈め
◇ななしの調査隊員
ドラム缶に詰めてやろうか
◇ななしの調査隊員
藻屑になれ
◇ななしの調査隊員
先頭の船がドンドン倒してるせいで、後ろは平和そのものだな。たまーにリポップした奴が出ても、すぐに袋だたきにされてるし。
◇ななしの調査隊員
そのうち先頭で処理しきれなくなるだろうし、用意はしておけよ
◇ななしの調査隊員
へっ余裕じゃねーか!
◇ななしの調査隊員
釣りしてる奴いて草
◇ななしの調査隊員
繊弱のハユラは皆で倒すんだっけ?
◇ななしの調査隊員
倒してない奴がいたらそいつらで倒す。希望があればバンドだけとかでも挑戦できるみたいだし。
◇ななしの調査隊員
うおおおおお!?
なんかすっ飛んできた!
◇ななしの調査隊員
ビビった、何台魔の
◇ななしの調査隊員
何だったんだあれ
◇ななしの調査隊員
敵?
◇ななしの調査隊員
いや、多分おっさん
◇ななしの調査隊員
ええ・・・
◇ななしの調査隊員
おっさんの“水鏡”がすげー速度で後ろから俺たち追い抜いて一瞬で前に出ていった・・・
◇ななしの調査隊員
写真撮れたぞ!
[飛んでいくおっさん.img]
◇ななしの調査隊員
飛んでいくのはおっさんの船だろいいかげんにしろ
◇ななしの調査隊員
ブレッブレで笑うわ
◇ななしの調査隊員
ほとんど映ってないやん
◇ななしの調査隊員
シルバーフィッシュかな?
◇ななしの調査隊員
なんだこの機動力
◇ななしの調査隊員
水切りみたいに水面跳ねてて草
◇ななしの調査隊員
こちら船団前線部隊、戦闘中、後方から小型の氷造船が1隻乱入。迫り来る原生生物とバチバチにやり合っております。
◇ななしの調査隊員
ホブルが鎧袖一触でやられてたんだが
◇ななしの調査隊員
こえええ
◇ななしの調査隊員
何やってんだよおっさん
◇ななしの調査隊員
だから放し飼いにする必要があったんですね
◇ななしの調査隊員
誰も首輪付けられねぇだろ・・・
_/_/_/_/_/
_/_/_/_/_/
Tips
◇“耽溺のホブル”
〈剣魚の碧海〉に生息する、巨大なクラゲに似た原生生物。無数の長い触手を持ち、非常に強力な神経毒を有する。動きは緩慢だが、細い触手と半透明の体を広げて海中を揺蕩い、獲物を絡め取る。
体は非常に脆く、触手も切れやすい。切れた触手にも毒は残っているため、注意が必要。
Now Loading...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます