第480話「遊覧飛行」
スラスターの青い尾を引いて現れた〈カグツチ〉が、空を飛ぶ“鉄百足”をがっちりと掴む。
驚き唖然とする俺に向かって、〈カグツチ〉は兜の下のカメラアイを光らせた。
「安心して下さい。ここから速度を上げて、体勢を安定させます。そのあとゆっくりと安全に着陸しますので。レッジさんはしっかり掴まってて下さいね」
〈カグツチ〉の外部スピーカーからは、聞き慣れた声が響く。
しかし、どうして彼女がここにいるのか、その理由が分からなかった。
「むっふふ。何が何だか分からないって顔ですね、レッジさん!」
〈カグツチ〉――いや、そのコックピットに乗っているレティが得意げに笑い声を上げる。
俺が知る限り、彼女が〈カグツチ〉に搭乗したことは――エンジン役を除けば――なかったはずだし、そもそもこの飛行型〈カグツチ〉を彼女が所有しているという話も聞いたことがない。
どうしてレティが空飛ぶ〈カグツチ〉に乗って現れたのか、その理由は皆目見当もつかなかった。
「“鉄百足”から飛び下りた後、レティたちは〈アマツマラ〉に駆け込みました。その時、クロウリさんに出会ったんですよ」
「……なるほど。そういうことか」
この飛行型〈カグツチ〉は、クロウリたち〈ダマスカス組合〉が研究、開発を進めていた最新鋭の機体だ。
いち早く航空機を開発した彼らだからこそ、〈カグツチ〉で空を舞うことを実現するために奔走していたようだが、ようやくその努力が結実したらしい。
「しかし、よくもまあ上手い具合にこんなの用意してたな」
「クロウリさん曰く“
「なるほど。心強いこった」
“鉄百足”のコンテナを抱えたまま、〈カグツチ〉は大きく鉄翼を広げ、雪山の夜空を滑らかに飛行する。
レティは大きく弧を描くように旋回し、〈アマツマラスキー場〉の方へと進路を戻した。
「ほら、レッジさん。ライブが始まるみたいですよ」
「今日のセンターは……ホムスビか」
眼下の雪原には特設ステージが完成し、お祭り好きなプレイヤーがその周囲に黒山を作っている。
キラキラとネオンの輝くステージ上には、暖かそうなもふもふとした衣装の管理者たちが勢揃いしていた。
センターポジションに立つのは、現時点で最も得票率の高い管理者。
初日の夜はホムスビがリードしているようだ。
「黄将を倒したのが効いたかな」
「あのあたりのフィールドは全くの未踏破領域でしたからね。もちろん、他のプレイヤーの働きもありますけど」
ホムスビが新米の管理者であるためか、もしくは彼女の担当する領域が魅力的だったからか、今日だけでも随分と開拓が進んだらしい。
深層洞窟の中層に到達したプレイヤーも多いのだろう。
「いよいよだな」
楽器を携えたプレイヤーたちが、ステージの後方に並ぶ。
一度照明が落ち、軽快な旋律と共にライブが始まった。
「丁度良い。俺たちはここから観覧させてもらおうか」
「にゅふふ。二人だけの特等席ですね」
レティがスラスターの出力を抑え、ぐるぐると円を描くように軌道を修正する。
可愛らしく歌って踊る管理者たちに、俺とレティは上空から声援を送るのだった。
_/_/_/_/_/
◇ななしの調査隊員
〈万夜の宴〉初日の順位が確定しました。
1位・ホムスビ
2位・ワダツミ
3位・スサノオ
4位・ウェイド
5位・サカオ
6位・キヨウ
7位・アマツマラ
◇ななしの調査隊員
ちゃんを付けろよデコ助野郎
◇ななしの調査隊員
ホムちゃんが一位か。やっぱり洞窟は攻略の勢いが凄いんだな。
◇ななしの調査隊員
鉱石の需要も高まったから、鉱夫が至る所でツルハシ振ってたしな。
◇ななしの調査隊員
おっさんのチームもホムスビちゃんの所に行ったんだっけ
◇ななしの調査隊員
おっさんズは、
〈スサノオ〉→アルドベスト轢殺→高地大ジャンプ→白将→黒将→青将→赤将→砂浜→深層洞窟→黄将→〈アマツマラ〉って感じのルートかな
◇ななしの調査隊員
ぐるっと一周してんのか。
すげえ機動力だな・・・
◇ななしの調査隊員
やっぱおっさんの攻略ってだいぶデカいのか?
◇ななしの調査隊員
新規フィールド開拓からの新規ボス初見撃破だからなぁ
功績がデカすぎる
◇ななしの調査隊員
斜面を滑り落ちてきた時は肝が冷えたぞ
◇ななしの調査隊員
あれ下手したら今日のミニライブ無くなってただろ
◇ななしの調査隊員
最後はなんか空飛ぶ〈カグツチ〉が捕まえて、遊覧飛行してたけど
◇ななしの調査隊員
技術力が一人だけ桁違いなんだよな
◇ななしの調査隊員
銀翼の団率いる騎士団精鋭も、今日は洞窟攻略してたみたいだな。上から順当に潜っていって、中層までは到達したらしい。
◇ななしの調査隊員
団長いなくてもやれるんだな
◇ななしの調査隊員
木こり配信見てきたんだけどめっちゃ泣いてた
◇ななしの調査隊員
BOT疑惑ある木こりか
◇ななしの調査隊員
これが・・・感情・・・?ってなってそう
◇ななしの調査隊員
めちゃくちゃサカオちゃん応援してたもんな・・・悲しいよな。俺もアマツマラちゃんが最下位で自分の無力さを実感してるよ
◇ななしの調査隊員
まあ各管理者の人気度は割と僅差みたいだし
◇ななしの調査隊員
北の海はアクセス悪すぎてな・・・
◇ななしの調査隊員
唯一の港が南だもんなぁ
◇ななしの調査隊員
明日からは逆張り勢がアマツマラちゃん応援するだろうし、逆転してるかもよ
◇ななしの調査隊員
逆張りは別にいらねえよ!!!
純粋にアマツマラちゃん応援する同志なら大歓迎です。
◇ななしの調査隊員
逆に考えるんだ。
逆張りしてきた奴を沼に沈めるんだよ
◇ななしの調査隊員
なるほど
◇ななしの調査隊員
なるほどな
◇ななしの調査隊員
スサノオちゃんが割と順位高いの、失礼だけどちょっと意外だったな。インフラ整備とか割と日陰の分野だと思ってた。
◇ななしの調査隊員
暇な生産者とかは結構そっちに流れてるみたいだな。
あと単純にインフラ整備されるとイベント後の生活も楽になるから投資目的でやってる奴も多そう。
◇ななしの調査隊員
各都市の地下に現場があって、戦闘職もそこで土木工事とかできるんだけど、独特の世界観ができてて割と楽しいぞ。
◇ななしの調査隊員
〈スサノオ〉地下の現場にテファ姉さん来てたな
◇ななしの調査隊員
配信者?
◇ななしの調査隊員
うむ
めっちゃ土木作業が似合ってた
◇ななしの調査隊員
現場監督レベルまで成り上がってなかったっけ?
◇ななしの調査隊員
参加してきたのは結構後の方だったけどな。大体昼終わった後くらいか? そんくらいに入ってきて、一般労働者から一瞬で班長、現場監督って階級進めてた。
◇ななしの調査隊員
え、階級制度とかあるのかよ・・・
◇ななしの調査隊員
ゲームシステム的にはないけど、プレイヤー間で自発的にできてたな。凝り性の生産者がわざわざ独自通貨とか作って流通させてた。
◇ななしの調査隊員
大規模な心理学の実験っぽくなってきたな
◇ななしの調査隊員
たまにスサノオちゃんが視察に来てくれるんだよ。みんなそれを目当てに働いてる。
◇ななしの調査隊員
教祖じゃん
◇ななしの調査隊員
まあスサノオちゃんは全ての母といっても過言ではないからな
◇ななしの調査隊員
お姉ちゃんだぞ
◇ななしの調査隊員
ウェイド、サカオ、キヨウの三人はあんまりぱっとしない順位だなぁ。何も言うことがない。
◇ななしの調査隊員
前提として七人全員僅差ってのは覚えとけ。
◇ななしの調査隊員
まあ一番ホットなのが海と洞窟だからな。さもありなん。
◇ななしの調査隊員
とりあえず海に出たら、多少はワダツミちゃんに票が入るからなぁ
ワダツミちゃん、今回のイベントかなり有利なんじゃねえの?
◇ななしの調査隊員
というよりは船舶類の製造がめっちゃ増えたからかな。〈ワダツミ〉の港湾地区がプレイヤーメイドの船であふれかえってるぞ。
◇ななしの調査隊員
まだ初日だからな。ここから船が四方の海に出ていくと、他の管理者たちが票を増やしていくと思う。
◇ななしの調査隊員
そうか、まだ初日だったのか
◇ななしの調査隊員
本一冊分くらい濃い一日だったなぁ
◇ななしの調査隊員
なんか終わった感じ出してるけど、まだ数日続くんだよね。俺、木こり手伝ってくるよ。
◇ななしの調査隊員
冥蝶の深林が砂漠化しそう
◇ななしの調査隊員
幽霊逃げちゃう
◇ななしの調査隊員
俺も鉄掘ってくるかな。いくら掘っても売れるから良い稼ぎ時なんだ。
◇ななしの調査隊員
夜の海って結構キツいかな
◇ななしの調査隊員
何にも見えなくなるからな。かなり危ない。特に北の方はいつでも荒れてるから普通に転覆する。
◇ななしの調査隊員
海こわいなぁ。洞窟もぐろ・・・
◇ななしの調査隊員
俺も黄将倒したいな。騎士団が報告書上げてると嬉しいんだが。
◇ななしの調査隊員
野次馬チャンネルでおっさんズの戦闘映像アーカイブされてる。まあ、見ても参考になるかは知らんが。
◇ななしの調査隊員
そういえばあれの影響で呪術師増えそうだな。キヨウちゃん盛り上がりそう。
◇ななしの調査隊員
三術といえばキヨウだしなぁ。木こりのおっさんが量産してる霊木も需要高まるだろ。
◇ななしの調査隊員
明日も一日頑張るぞい
◇ななしの調査隊員
今から頑張るんだよ。休むんじゃねぇ。
◇ななしの調査隊員
こええ・・・
_/_/_/_/_/
_/_/_/_/_/
T-2:〈開拓者企画;万夜の宴〉の初日が終了。
T-3:領域拡張プロトコル短期目標計画の進行度予想を大幅に越えた成果が算出されています。
T-1:現在時刻時点における進行予想と進行結果を再計算します。
『再計算結果、変化なし』
T-2:各管理者の指揮下における調査開拓員の活動が、平時と比べ平均して30%活性化。
T-3:再々計算の必要はありません。
T-2:再々計算は演算領域の使用理由に不適当と判断。
T-1:上位権限を行使。
『再々計算結果、変化なし』
T-2:管理者の存在意義を認知する必要性を提示。
T-3:否。管理者と単一調査開拓員の権力関係に逆転の可能性を指摘します。
T-1:T-3に賛同。調査の必要があります。
T-2:調査の担当者の選出を要請
T-1:T-3
T-2:T-1
T-3:T-2
『デッドロックを確認』
『投票を初期化します』
_/_/_/_/_/
_/_/_/_/_/
Tips
◇アメノハゴロモ
特殊大型機装〈カグツチ〉専用外部アタッチメント。背部に装着し、機体に内蔵されているBBエンジンと接続することで、飛翔能力を獲得する。
軽量な白鉄鋼を主材とし、青鉄鋼によってBBエネルギーの伝導効率を向上させている。両翼に一機ずつ、大型ジェットスラスターを装備しており、最高航行速度は理論上880km/hに達する。ただ、エネルギータンクの容量上限的に最高速度での連続航行時間は5秒程度が限界。継続稼働時間の延長が今後の開発課題となる。
Now Loading...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます