第457話「崖を落ちる」

_/_/_/_/_/

◇ななしの調査隊員

開拓進んでる?


◇ななしの調査隊員

推しの為に頑張ってる


◇ななしの調査隊員

ホムスビちゃん応援するために洞窟でツルハシ振ってます


◇ななしの調査隊員

俺たちの稼ぎが推しの衣装代になるんだぜ

こんなに嬉しいことはないだろ


◇ななしの調査隊員

ぶっちゃけあんまり変わらんなぁ

いつも通りプレイしてるだけで管理者ちゃんの応援になるから、特に特別なことはしてない


◇ななしの調査隊員

良い機会だから前線の方にでてみるかって思った

それくらい


◇ななしの調査隊員

肝心のおっさんは何してんの?


◇ななしの調査隊員

でっかい鹿の機械獣に乗り込んで、〈スサノオ〉から飛び出してったよ


◇ななしの調査隊員

おーやらかしてるな


◇ななしの調査隊員

おっさん主催だしな

まあ、何もやらかさんほうがおかしい


◇ななしの調査隊員

アストラとかケット・Cとかと組んで、即応部隊的なのを作ってるらしいな


◇ななしの調査隊員

即応部隊?


◇ななしの調査隊員

俺たちが前線で詰まってたら、駆け付けて手伝ってくれる感じかな


◇ななしの調査隊員

旨いところかっさらっていくやつじゃん


◇ななしの調査隊員

交戦中にエネミー横取りするわけじゃないだろ

たぶん


◇ななしの調査隊員

おっさんの動向をリアルタイムで見てるチャンネルとかねぇの?


◇ななしの調査隊員

いくつかあるぞ

野次馬のところとかは画質もいい


◇ななしの調査隊員

そっち見に行ってみるかぁ


_/_/_/_/_/


_/_/_/_/_/


「と、飛んだァ! 巨大な鹿型機械獣が軽々と飛び上がり、〈スサノオ〉の高い防御壁を越えました!」


◇リスナーあんのうん

なんつー出力だよ


◇リスナーあんのうん

ステージの下に入ってて良いサイズじゃないだろ

あれぜったい町の地面勝手に掘ってるな


◇リスナーあんのうん

あんな出力だせるエンジンって開発されてたっけ


◇リスナーあんのうん

ダマスカスの新型を20個くらい積めばいけるかも


◇リスナーあんのうん

アレ、たぶんカグツチ何機か使ってるな

管理者のためとはいえ、アマツマラちゃんも太っ腹だわ


◇リスナーあんのうん

アマツマラちゃんに許可取ってカグツチ使ってるんですかね・・・


◇リスナーあんのうん

さすがに取ってるだろ

・・・とってるよね?


「盛大なジャンプで〈スサノオ〉を飛び出し、〈始まりの草原〉へと降り立った巨大な鹿さんは、東に向かって走っております。なんという速度でしょう。おそらくヤタガラスと同等かそれ以上の速度がでております!」


◇リスナーあんのうん

足下にいる初心者怖すぎるだろ


◇リスナーあんのうん

新手のボスかな?


◇リスナーあんのうん

足跡がもはやクレーターで草生える


◇リスナーあんのうん

草吹き飛んでるんだよなぁ


「あの鹿型にはレッジさんたち〈白鹿庵〉の皆さん、〈大鷲の騎士団〉のアストラさん、アイさん、BBCのケット・Cさん、Mk3さん、子子子さん、〈七人の賢者セブンスセージ〉の皆さん、と錚々たる面々が乗り込んでおられます。現地での修理要員でしょうか、ネヴァさんとムラサメさんの生産職の方も確認されております。いったい何が起こるのでしょうか!」


◇リスナーあんのうん

あの鹿だけで都市一つ滅ぼせそうな戦力もってんな


◇リスナーあんのうん

頭の笠はたぶんおっさんのテントだろ?

難攻不落すぎる


◇リスナーあんのうん

いいなぁ。俺も乗りたい。


◇リスナーあんのうん

俺も俺も


「謎の鹿型機械獣はなおも高速で走行しております。〈はじまりの草原〉を抜け、〈彩鳥の密林〉へ入りました。このまま〈サカオ〉の方まで出ていくのでしょうか」


◇リスナーあんのうん

そんだけの戦力積んでてサボるわけもないだろうしな


◇リスナーあんのうん

前線行ってもまあ戦力的には通用すると思うけど、高地の崖飛び下りれんの?


◇リスナーあんのうん

あー、あれ越えられんのかな


◇リスナーあんのうん

瀑布の方が2段階に分かれてる分、楽だと思うけどな


「鹿型機械獣は密林を抜けました。なんという速度でしょう! 太い木々をものともせず、一気に駆け抜けて〈毒蟲の荒野〉へと入りました」


◇リスナーあんのうん

はええなぁ


◇リスナーあんのうん

多少のエネミーなら脚で蹴り飛ばしてんな


◇リスナーあんのうん

それよりもプレイヤーを避けれてるのが凄すぎる


◇リスナーあんのうん

実際頭上をあんなんが跨いできたら怖くてちびりそう


◇リスナーあんのうん

毒蟲の荒野は見晴らし良いし、走りやすいかな


◇リスナーあんのうん

障害物も少ないしな


◇リスナーあんのうん

BBB経験者が多いから、毒蟲と鳴竜の道路事情は詳しそうだな


◇リスナーあんのうん

そういえばBBBもおっさんが関わってるんだっけ?


◇リスナーあんのうん

闘技場のトーナメントとかキヨウ祭もおっさんだよ

管理者関連はたいていおっさん


◇リスナーあんのうん

その頃から特殊任務受けてたんかなぁ


「さあ、レッジ一行は砂漠を抜け、〈鳴竜の断崖〉に入りました。ほんっとうに速い! おっと、ここで鹿型機械獣に何やら変化が現れました。これは〈防御アーツ〉の障壁でしょうか? 半透明のバリアーが鹿型機械獣の巨大な体を覆っています!」


◇リスナーあんのうん

おっ流れ変わったな


◇リスナーあんのうん

なんかやらかし始めたな


◇リスナーあんのうん

規模がデカすぎるだろあのアーツ


◇リスナーあんのうん

実質おっさんのテント範囲内だから、アーツ使い放題なのか


◇リスナーあんのうん

羨ましいよな

俺もアーツ使い放題やってみたい


◇リスナーあんのうん

高性能なテント用意すれば誰でもできるぞ


◇リスナーあんのうん

それが容易じゃないんだよなぁ


「防御機術障壁に覆われた鹿型機械獣。一体なにをするのでしょうか。おっと、おっとっと? この進路は――まさかっ!」


◇リスナーあんのうん

これはもしかしてアレか?


◇リスナーあんのうん

砂嵐が見えますねぇ


◇リスナーあんのうん

またアルドベスト君の巣が壊されるのか


◇リスナーあんのうん

あの子も不憫だな


「おおっとぉぉぉお! バリアを展開した鹿型機械獣がアルドベストの砂嵐へ突っ込んでいきました! まさに鎧袖一触! アルドベストは死すっ! そして鹿型機械獣は何事もなかったかのように、一切速度を落とさず走り去ってゆきますっ!」


◇リスナーあんのうん

アルドベスト君泣いてそう


◇リスナーあんのうん

ただでさえ毎週末カートに轢かれてるのに


◇リスナーあんのうん

向こうが無傷ってのもつらいよな


◇リスナーあんのうん

みんなエネミー側に同情してるな・・・


◇リスナーあんのうん

さもありなん


「さあ、軽快に“塵嵐のアルドベスト”を轢いていったレッジ一行。この先に待ち受けるのは〈オノコロ高地〉の断崖絶壁! さて、どうなってしまうのか。――この放送は実況中継専門バンド〈ネクストワイルドホース〉がお送りしますッ!」


_/_/_/_/_/


「レッジさん! レッジさん!? さっきの衝撃はなんなんですか!? 今なんか、絶対なんか轢きましたよね!」


 ガンガンと操縦室のドアを叩くレティ。

 並列思考中は反応するのも大変なんだが……。


「ちょっと障害物にぶつかっただけだ。ちゃんとエイミーの障壁は展開されてたから、こっちはノーダメージだ」

「事前に障壁展開させたってことは絶対故意ですよねっ!?」


 うーむ、レティたちに連絡するのを忘れていたせいで面倒くさいことになった。

 別に隠すようなことでもないし、言ってしまうか。


「サカオからの要請を受けて、アルドベストを片付けたんだ。それだけ」

「だったらレティたちが出動したのに!」

「そっちかよ」


 どうやら、彼女は自分がハンマーを振るえなかったことにご立腹らしい。

 予想の斜め上をいく返答に、思わず力が抜ける。


「それでレッジさん、この後はどうするんですか?」

「運転も順調だし、そのまま崖下に降りるよ」

「崖下って、結構な高さがありますけど、大丈夫なんですか?」

「そうだなぁ……。あ、ラクトとミオを呼んでくれ」

「なんも考えてなかったですね!?」


 十二機の〈カグツチ〉を一気に動かしてるから、思考に余裕がないのだ。

 ともかく、崖を降下するためには彼女たちの協力が必要だ。


「お待たせー。呼ばれて来たけど、何かあったの?」

「私もお手伝いできることがあれば、何でも言って下さいね」


 レティがTELで呼んでくれたようで、コックピットのドアの向こうに、二人の気配が増える。

 俺は地図と速度計を見て、大体の時間を算出しながら二人に言った。


「あと15秒くらいで崖から飛び下りるから、真下に厚さ50cmで20m四方の氷の板をできるだけ沢山作ってくれ」

「……はい?」


 ラクトとミオ。

 二人の水属性機術師が声を重ねる。


「あと10秒。LPは気にしなくて良いから、緩衝材を作ってくれ」

「ああもう、なんでそう唐突に言うかな!?」

「何も準備してませんよ! 突貫工事だからあまり綺麗には――」


 慌ててアーツの展開を始めながら駆け出す二人。

 視界を確保するため、輝月の頭上に登っているようだ。


「3,2,1,――!」


 カウントダウンの終了と共に、輝月が跳躍する。

 切り立った断崖絶壁の向こうへと飛び込んで、重力に誘われるまま、落ちていく。


「ふぎゃああああっ!」

「ラクト、アーツ頼む!」

「分かってるよ!」


 ラクトとミオが手を取り合って、詠唱を始める。

 このまま落ちれば、輝月の機体はともかく衝撃で俺たちが無傷で済まないだろう。


「――『連鎖するチェイン・大きな氷の床ラージアイスフロア』ぁぁあああっ!」

「『脆く柔らかな氷雪の障壁』ッ!」


 直後、蒼氷の薄い板が輝月の足下に展開される。

 幾重にも連続する巨大な薄氷が連なり、その間にはかき氷のようなシャクシャクと柔らかな氷の層が挟まれた。

 ラクトとミオが咄嗟に展開したアーツが複合し、理想的な緩衝材として砕けていく。


「ひぎゃあああっ!」

「ラクト、大丈夫か?」

「んなわけないでしょ! 後でお詫びを要求するからねっ!」


 生成される側から砕けていく氷の障壁。

 キラキラと輝く破片が、周囲に飛び散っていく。


「レッジさん、勢い殺せてますか?」

「そうだなぁ。ちょっと……」

「ちょっと!? ちょっと、なんなんですか!?」


 ラクトとミオの氷障壁は、輝月の落下速度を大幅に減衰させてくれている。

 しかし、それでも想定より少し勢いが残っている。

 俺は念のため、全員に衝撃に備えるよう連絡をする。

 その時だった。


「――『弾む、弾む。受け止め、抱き留め、優しく包む。柔らかな大壁』」


 氷障壁と〈奇竜の霧森〉の地面の、僅かな隙間。

 そこに巨大な壁が水平に現れた。

 全ての障壁を破り、その壁に激突する輝月。

 その瞬間、壁がたゆんと揺れて、落下のエネルギーの大部分を吸収してしまった。


「うおおっ?」


 吸収しきれなかったエネルギーが、壁から返ってくる。

 輝月はまるでトランポリンに飛び乗ったかのように、ぽよんと跳ねて、軽い足取りで着地した。


「……進路は事前に知らせて。進路上の障害は、こっちで排除する」


 輝月の笠の上に立ち、黒髪のフェアリーが言う。

 彼女は〈七人の賢者セブンス・セージ〉の防御機術師――ヒューラだった。


「わ、分かった。ありがとう」

「……」


 カメラ越しに俺をじっと見つめて、ヒューラは笠の上に座る。

 どうやら、そこを定位置とするようだった。


「ヒューラさんの言うとおりです。ちゃんと行き先は教えて下さい」

「分かったよ」


 確かに、ちゃんと説明はするべきだった。

 反省して扉の向こうにいるレティへ声を掛ける。


「俺たちはこれから、海を走る」

「……はい?」


 ちゃんと説明したのに、ドアの向こうからは怪訝な声が返ってきた。


_/_/_/_/_/

Tips

◇脆く柔らかな氷雪の障壁

 四つのアーツチップを用いる中級水属性アーツ。

 衝撃緩和に優れる雪の壁を生成し、攻撃を防ぐ防御壁や、身を隠す遮蔽物として利用する。


Now Loading...

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る