第431話「激流の中で」
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◇ななしの調査隊員
そろそろカグツチも空いてるかと思ってきてみたら、カグツチが全部出払ってた。まだそんなに人気なの?
◇ななしの調査隊員
人気って言うか、まあ
◇ななしの調査隊員
カグツチをカグツチ以外の用途に使う奴が現れたというか
◇ななしの調査隊員
いろんな生産系バンドが競って改造カグツチを作り始めてるんだよ
◇ななしの調査隊員
ええ・・・
なんでそんなことを
◇ななしの調査隊員
できることが分かったからかな
◇ななしの調査隊員
最初のデモンストレーションの時も、おっさんが植物戎衣を開発してたしな。
カグツチの拡張性がかなり高いってことが分かって、プロメテウス工業とかダマスカス組合とかが色々拡張パーツを作ってたんだよ。
◇ななしの調査隊員
ダマスカスってカグツチの生みの親じゃねーか
◇ななしの調査隊員
だからこそどこを弄ればいいかかよく分かってるんだろ
◇ななしの調査隊員
プロメテウスはカグツチを列車に改造してたぞ。
高速型はトロッコ引かずに出発しちゃったけど、もう一つ剛力型ってのを作ってて、そっちがトロッコを10個連結させたの運んでる。
◇ななしの調査隊員
あれ、実質カグツチ10機ぶんを1機で補ってるってことだよな
◇ななしの調査隊員
他のカグツチがトロッコほっぽって出掛けちゃったからね。しかたないね。
◇ななしの調査隊員
ラッシュとかビキ愛に大金積んで、カグツチを超スピード型に改造してもらってたな
◇ななしの調査隊員
そういやおっさんのカグツチどうなってるか知ってる?
◇ななしの調査隊員
おっさんスレ見に行けば分かるんだろうけど知らん
◇ななしの調査隊員
とりあえず人の形は保ってないんじゃない?
◇ななしの調査隊員
[おっさんカグツチ.img]
◇ななしの調査隊員
ええ・・・
◇ななしの調査隊員
ええ・・・
◇ななしの調査隊員
なにこの・・・なに?
◇ななしの調査隊員
きも
◇ななしの調査隊員
シンプルにエグい
◇ななしの調査隊員
人類に対する冒涜だろ、これ
◇ななしの調査隊員
なんか昔のホラー映画でこんなクリーチャーみたことあるな
◇ななしの調査隊員
こんなんと坑道で出会ったらオイルちびる自信あるわ
◇ななしの調査隊員
いやぁカグツチの拡張性の高さはピカイチですね
◇ななしの調査隊員
なんでブリッジしてんの?
◇ななしの調査隊員
こっちの方が速度がでるらしい
◇ななしの調査隊員
この姿勢でカサカサ高速移動するの怖すぎるだろ
◇ななしの調査隊員
ダマスカスのケンタウロス型は格好良かったな。ああいうのでいいんだよ、ああいうので。
◇ななしの調査隊員
カグツチ、まじで拡張性が高すぎる。プログラムから設計図まで全部、アマツマラの情報資源管理保管庫にあるから、個人でもカスタマイズできるぞ
◇ななしの調査隊員
でけぇバイク型のカグツチがすっ飛んでいったんだが
◇ななしの調査隊員
ミサイル型とか魚型とかもあるぞ
◇ななしの調査隊員
カグツチシャークなんてのも
◇ななしの調査隊員
案の定というか、どのカグツチも一番乗りしか目指してねぇな。トロッコがだだ余りしてるんだが。
◇ななしの調査隊員
ゴーレム教団がゴーレムの怪力を見せるっつってトロッコ引っ張ってるな。一応、20人くらいで動かせるみたいだ。
◇ななしの調査隊員
あそこは相変わらずだなぁ
◇ななしの調査隊員
カグツチレースって今は誰が先頭なんだ?
◇ななしの調査隊員
たぶんおっさん。BBCと賢者も一緒になってるけど。
◇ななしの調査隊員
まじかよ。おっさんのカグツチってあれ、どこで改造したんだろ。出発した時はまだ人型だったよな?
◇ななしの調査隊員
おっさんのことだからなぁ。どっかでパーツ拾ったんじゃないの?
◇ななしの調査隊員
20層の補給所で改造してたぞ。赤ウサちゃんとか、メイドさんとかと色々相談してた。
◇ななしの調査隊員
現地で改造するのも強すぎるけど、それで一着とってんのもやばいんだよな
◇ななしの調査隊員
ラッシュの機体が大破したらしい
◇ななしの調査隊員
R.I.P
◇ななしの調査隊員
なむなぬ
◇ななしの調査隊員
石に躓いて転けたらしい
◇ななしの調査隊員
バランス力ゥ・・・ですかね・・・
◇ななしの調査隊員
八刃会のカグツチ、金持ちの小学生が考えた感じがしてすき
◇ななしの調査隊員
どんなの?
◇ななしの調査隊員
[八刃会バカグツチ.img]
◇ななしの調査隊員
バカじゃん
◇ななしの調査隊員
両手両足と背中に刀取り付けてんの?抜き身で?
◇ななしの調査隊員
折れそう
◇ななしの調査隊員
一周回ってちょっと格好いいと思ってしまう俺がいる
◇ななしの調査隊員
じゃらじゃらしてんなぁ・・・
◇ななしの調査隊員
でもこのバカグツチの後ろに張り付いてるとエネミー相手にしなくていいから楽だよ
◇ななしの調査隊員
まさか第二フェーズが「ぼくのかんがえたさいきょうのかぐつちれーす」になるなんて・・・
◇ななしの調査隊員
アマツマラちゃん泣いてそう
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曲がり角や障害物を八つ首葛を使って対処する。
長い直線が現れれば、噴出瓜の出番だ。
毒液を噴出し、一気に距離を稼ぐ。
推進力に使われる毒液は、十秒程度地面に残るが、フレンドリーファイアはないから安心だ。
まあ、泥濘みに足を取られる可能性もなくはないが。
「栄養液のタンクを切り替える。少し揺れるぞ」
「ふぁい!」
レティが口いっぱいにハンバーガーを頬張りながら頷く。
俺は一瞬だけ操縦桿から手を離し、〈カグツチ〉に新しい濃縮栄養液のタンクをセットする。
その間だけ一時的に植物戎衣の稼働が止まり、機体が大きく傾いた。
すぐに栄養の供給が再開され、俺は急いで体勢を立て直す。
しかし、想定を超えた高出力稼働によって、栄養液は猛烈な勢いで減っていく。
俺は栄養液の残量を示す目盛りを眺めて呻いた。
「現在地は38階層か……」
マップを確認し、残りの距離を算出する。
栄養液が切れれば、走行速度は一気に鈍る。
それまでにゴールに到達しなければ、ケンタウロスや機関車に追い抜かれてしまうだろう。
今の消費速度と残りの距離を考えれば、少し厳しいかもしれない。
『レッジ、ちょっと良い?』
突然ラクトからTELが飛んでくる。
驚いて応じると、彼女は遠慮がちに話を切り出した。
『〈カグツチ〉の背中で、ミオさんと話してたんだけどね』
〈
“流転”の二つ名を持つ、水属性アーツのスペシャリストだ。
ラクトの扱う氷のアーツも、分類的には水属性として扱われているため、彼女が敬愛しているプレイヤーでもある。
俺が〈カグツチ〉の操縦に専念している間、その上で親睦を深めていたらしい。
『ちょっと二人でやってみたいことがあって』
「なるほど、とりあえず言ってくれ」
彼女はミオと共に考えたらしい作戦を説明してくれた。
それを聞いて、俺は思わず声を漏らした。
「おお……。ずいぶんと都合が良いな」
『どういうこと?』
「こっちもちょっと困ってたんだ。その作戦なら、栄養液が節約できる」
『ああ、そっちがギリギリだったんだね』
ラクトの語った作戦は、残り僅かな栄養液の消費をかなり節約できるものだった。
まさしく渡りに船、地獄に仏というわけだ。
『それじゃあ早速始めちゃっても良い?』
「そうだな。周りの人にもちゃんとしがみつくように言ってから、始めてくれ」
『りょーかい。じゃあ、30秒後に』
その言葉と共に通話が切断される。
背後に座っていたレティとメルが、どうしたのだとこちらに視線を向けてきた。
「ラクトとミオが、面白いことを考えてくれたんだ」
「面白いこと?」
「レッジが言うと、少し恐ろしいねぇ」
30秒後には始まるということで、敢えて二人には詳細を伝えない。
ただ、しっかりと体は固定するように伝えておく。
『じゃ、行くよ』
ラクトから声が届く。
俺は操縦桿を握り、姿勢の制御に全神経を集中させる。
――『
坑道が漂白される。
全てを凍らせる大波が、坑道の上下左右に広がっていく。
滑らかな氷の上に、〈カグツチ-植物獣モード〉が飛び乗った。
「行くぞっ!」
噴出瓜にエネルギーを集中させる。
代わりに八つ首葛は姿勢制御のためだけに使用する。
氷漬けになった坑道を、〈カグツチ-植物獣モード〉が滑走した。
「ひゅう! ラクトもクールなことを考えるな! 氷だけに!」
「言ってる場合ですか!? なんですかこのウォータースライダー!」
レティの絶叫がコックピット内に響き渡る。
〈カグツチ〉が通り過ぎた場所、つまりはラクトとミオのアーツの効果範囲から外れた氷は瞬時に溶ける。
それは機体を後ろから押し流す波となって、更に速度をブーストしてくれていた。
レティの形容したとおり、これはまさしくウォータースライダーだった。
「背中に乗せたテントのおかげで二人のアーツはほぼ無限に継続する。範囲から外れた氷は水となって機体を押し流すと同時に、後続に同じものを使わせないから、一気に距離を離せる。なかなか良い案じゃないか」
『ふふん。レッジならそう言ってくれると思ってたよ』
激流に乗り、氷の上を滑り続ける。
〈カグツチ-植物獣モード〉の両手両足と、八つ首葛は姿勢の制御だけに使われるため、エネルギーの消費もかなり抑えられる。
これはかなり良い作戦だ。
「よし、このまま深層洞窟まで行くぞ!」
『おーう!』
ラクトと共に勢いよく声を上げる。
後方を見れば、機関車もケンタウロスも、すでに姿が見えないほど突き放していた。
騎士団が深層洞窟に辿り着いたという報告もまだ上がっていない。
うまく行けば、出口付近でアストラたちを追い抜いて、一着ゴールを決められるだろう。
「レッジさん! レッジさん!」
「どうした、レティ?」
ざぶんざぶんと波に揉まれながら進み、気分も高揚している。
そんな中、レティに繰り返し名前を呼ばれて振り返った。
「どうしたもこうしたもありませんよ!」
「なんだよ、そんなに焦って」
顔を強張らせるレティに、流石の俺も何か重大な事件が起こっているらしいと察する。
落ち着きを取り戻した俺に向かって、彼女は一言呟いた。
「この〈カグツチ〉、どうやって止まるんですか?」
「――あっ」
俺たちを乗せて、激流は地の底へと下っていく。
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Tips
◇濃縮栄養液タンク(大)
種瓶、および植物戎衣の運用に於いて、エネルギー源となる栄養液を濃縮したもの。大型の特殊植物を長期間にわたって運用することを目的に開発された、大容量サイズ。
栄養過多状態に耐性のない植物に使用すると、逆に枯れてしまうこともあるため、注意が必要になる。
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