第310話「爆裂競争」※

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「三日前唐突に告知されたサカオのカーレースBBB!

たった今サカオの中枢演算装置〈クサナギ〉と名乗る謎の美少女からの挨拶が終わり、初心者コース第一回戦がスタートしました!

 現地からの実況はリポーターが興奮のあまり強制ログアウト措置を喰らってしまったため、私ぽち丸が引き継がせて頂きました。

 この放送は実況中継専門バンド〈ネクストワイルドホース〉がお送りしております!」


◇リスナーあんのうん

なむなむ


◇リスナーあんのうん

強制ログアウト措置とかそうそう見られるもんじゃないんだが


◇リスナーあんのうん

論議主さんちょっと血圧高いんじゃないの?


◇リスナーあんのうん

節制してくださいな


◇リスナーあんのうん

ぽち丸さんは冷静にねー


「お気遣いありがとうございます!

 私は心は熱くホット、思考は冷静クールを心がけて皆様に現場の活況を伝えていきますのでご心配なく。

 ちなみに論議主ろんぎぬすさんは先ほどログイン復帰されたようです」


◇リスナーあんのうん

よかったよかった


◇リスナーあんのうん

あの人すぐ熱くなるからな

気をつけて貰わんと


◇リスナーあんのうん

まあ突然あんな可愛い幼女が出てきたら俺も危なかった

現地に居なくてよかったよ


◇リスナーあんのうん

警備NPC!


「それでは早速状況の確認から。

 現地ではテンカウントの後、防壁にずらりと並んだ二十のシャッターから競技者が一斉に飛び出しました。

 初心者コースの序盤は長く平坦な地形が続いていますので、今のうちに説明を済ませてしまいましょう」


◇リスナーあんのうん

あのシャッター開くの知らんかったわ


◇リスナーあんのうん

フレーバー的なもんかと思ってたなぁ

今まで立ち入った奴とか居なかったよな


◇リスナーあんのうん

おっさんが最初じゃないか?正々堂々入ったのは


◇リスナーあんのうん

そういやおっさんは何してんだろ

今回のレースにも関わってるはずだよな


「おじさんことバンド〈白鹿庵〉のリーダー、レッジさんですが観客席でバンドメンバーの皆様と観戦しているという報告が寄せられています。ちなみに誰も話しかけられておりません!」


◇リスナーあんのうん

現地おるんか


◇リスナーあんのうん

まあ話しかけられんよね


◇リスナーあんのうん

そっとしておこう


「おじさんはあくまで一般プレイヤーですので、過度な干渉はハラスメント行為と認められる可能性があります。節度を弁えて交流しましょう。おじさん別に悪い人じゃないらしいので!

 ともかく今はレースです。初心者コースは原生生物の溜まり場や酷道を避けた比較的安全性に配慮したルートとなっています。そのため中級、上級者コースと比べると確かに初心者向けではあるのですが、それでもやはり危険に満ちたフィールド内。どのようなハプニングが待ち構えているか分かりません――っと言っている傍から爆発が巻き上がったぁあああ!」


◇リスナーあんのうん

おおキノコ雲!


◇リスナーあんのうん

なんだあの爆発!?


◇リスナーあんのうん

断崖のエネミーに爆発するやつ居たっけ?


◇リスナーあんのうん

爆裂蟲とかいるけどあそこまで大規模じゃないな


「分析班からの報告が上がって参りました! どうやら先の爆発は後続車両が先頭車両に向けて放った爆発性アーツによるものだったようです」


◇リスナーあんのうん

PVP要素ないんじゃなかったけ


◇リスナーあんのうん

あーエネミー狙った攻撃ではあるんだろうな


◇リスナーあんのうん

本当にやる奴いるんだ・・・


「アーツの目標はコース脇を歩いていた甲殻蟲だったようです! その割にはデカすぎる爆発! 濃すぎる煙幕! どう考えてもこれは間接的な操縦妨害の意図を多分に含んでいることでしょう!

 BBBのルールには競争相手への直接的な攻撃や妨害は禁止と明示されていますが、これはセーフらしいです!」


◇リスナーあんのうん

これアリなのか


◇リスナーあんのうん

荒野の風景も相まって世紀末感がやばいな


◇リスナーあんのうん

そんでもって先頭は一瞬で煙幕抜けて後続がしっちゃかめっちゃかになってる因果応報具合


◇リスナーあんのうん

あーあ


◇リスナーあんのうん

他の車両も攻撃準備始めたな


「おおっと先ほどアーツを撃った車両は自身の煙幕に巻き込まれて車体が横転! その隙に他の車両が次々に追い越していきます!

 更に先のアーツを皮切りに他の車両の護衛もアーツを準備し始めました。これはドッカンバッカン大騒ぎですっ! 爆発が立て続けに立ち上がり罪のない原生生物たちが薙ぎ払われて行くぅ!」


◇リスナーあんのうん

一応路傍の原生生物を排除するって名目なんだなぁ


◇リスナーあんのうん

めためたにデカい爆発が起きるだけなのでセーフ


◇リスナーあんのうん

たまたま前の車両が巻き込まれてるだけなのでセーフ


◇リスナーあんのうん

うーん乱世乱世


「さあコースは進み岩石地帯に入ります。バギーはガッチリと装甲で包まれたオフロード仕様ですが運転を誤ると容易く横転してしまうでしょう! 体勢を立て直す間にライバルたちが距離を離すのは必然! 一瞬の油断が命取りになりますよ!」


◇リスナーあんのうん

すげええ


◇リスナーあんのうん

ゴム鞠みたいに弾むなぁ


「おおーっと! ここで7番車両の護衛が落車してしまいました! 時間内に復帰できなければその時点で失格となってしまいます!」


◇リスナーあんのうん

こえええ


◇リスナーあんのうん

あれ落ちるの相当怖いだろ


◇リスナーあんのうん

後ろから猛スピードで車が来てるしな


◇リスナーあんのうん

なんとか拾われたみたいだな


◇リスナーあんのうん

でも結構抜かれたな


「7番車両迅速な対応で護衛を拾い戦線復帰です。しかしそのタイムロスはあまりにも痛すぎる! 三台のバギーに抜かれてしまいましたっ」


◇リスナーあんのうん

1位は19番か

結構手慣れてるな


◇リスナーあんのうん

あれはだいぶ練習してるっぽいなぁ

地形も全部頭に入ってそうだ


◇リスナーあんのうん

初心者コースはエネミーの不確定要素が少ない分、事前の研究が物を言うところがありそうだな


「現在の順位は先頭から19番、8番、20番、11番、5番となっております。先頭19番車両を運転しているのは巫女装束に身を包んだ黒髪の女の子です! 後部座席に立ち護衛役を務めているのは――おっとこれは珍しい近接戦闘職のようですね。犬型ライカンスロープの女の子、機装でしょうか無数の短剣を周囲に展開させております!」


◇リスナーあんのうん

見たことあるなぁ


◇リスナーあんのうん

あれ〈神凪〉の二人か


◇リスナーあんのうん

てか護衛の子は白神獣の巡礼で梟と一緒に居た子だよ


◇リスナーあんのうん

うわぁすげえな後ろから飛んでくる弾丸とか全部短剣で弾いてるぞ


◇リスナーあんのうん

操作精度がもうおっさんのドローンなんだよなぁ


◇リスナーあんのうん

そいやおっさんも白神獣の巡礼で鹿連れてたなぁ


「ただいま情報が入りました! 先頭19番車両はパーティ〈神凪〉のリーダーとサブリーダーの二人が乗っているようです。しかし運転手のカグラさんのハンドル捌きはとても鮮やかですねぇ」


◇リスナーあんのうん

後ろに目付いてんのかあの変態軌道


◇リスナーあんのうん

二人の連携が凄いんじゃない?

それにしてもだけど


「さぁ19番車両ドンドン後続との距離を離していきます! 自棄のように放たれる無数の弾丸とアーツの嵐をものともせず、全て浮遊短剣で弾き飛ばしております!」


◇リスナーあんのうん

やっっっっっば


◇リスナーあんのうん

まじであれ全部弾いてんのか、ようやるな


◇リスナーあんのうん

あれ盾スキルじゃないよな?

どうなってんの?


◇リスナーあんのうん

多分〈剣術〉スキルのパリィ使ってんだろな


「分析班からもあの短剣捌きの詳細が上がっております。あれは強撃系テクニックの『ブレードパリィ』とその派生技を使っているようです。

 攻撃に対し適切なタイミング、適切な傾きで刀身を当てることで、その攻撃を弾く技ですが、刀身が小さな短剣であれだけ連続成功させるのはとても難しいでしょう。

 流石は新進気鋭と言われるだけある確かな実力です!」


◇リスナーあんのうん

ブレパリって普通大剣でやるもんじゃないの?


◇リスナーあんのうん

普通はね。


◇リスナーあんのうん

短剣だと許容時間もめちゃくちゃ少なそう

なんであんな連続で決められてるんだ


「タルトさんの鮮やかなパリィに目を奪われているうちに早くも折り返し地点です! つまり後続車両と先頭車両の距離が最も近くなるということで、19番車両はとても危ない!」


◇リスナーあんのうん

うおおおお!

負けるなぁ!


◇リスナーあんのうん

後続全員19番狙ってるじゃねぇか!


◇リスナーあんのうん

こえええ


◇リスナーあんのうん

画面越しでもだいぶ迫力あるのに、現地だとプレッシャーやばそう


「おおっと折り返しの急カーブ! 19番の運転手の鮮やかな操縦でき、決めたぁああ! ドリフトだぁぁああ!」


◇リスナーあんのうん

かっけぇぇええ


◇リスナーあんのうん

なんだあの巫女さん!?


◇リスナーあんのうん

操縦技術が神すぎるだろ


「19番の横腹を狙う機術師の弾幕! 銃士の一斉掃射! ありとあらゆる“原生生物撃退攻撃”が19番――の向こう側を歩く毛玉蟲の群れを襲う!

 これは原生生物排除のための正当な攻撃なのでセーフです! 審判の目は節穴だぁあああ!」


◇リスナーあんのうん

うわあああ


◇リスナーあんのうん

オーバーキルにも程がある


◇リスナーあんのうん

ええ・・・


「しかし19番! 流石のパリィで弾き続ける! 多少大きさのあるアーツだけでなく小さな弾丸まで的確に冷静に対処している! まさに人間離れ! 不安定な車上であそこまで人は動けるものなのか!

 おおっと、ここでタルトさん反撃に出ました! ナイフの一つを後続車両の団子になっているところへ投げる! 車両への直接攻撃は禁止となっているが――」


◇リスナーあんのうん

!!!!???


◇リスナーあんのうん

えっなえっ


◇リスナーあんのうん

何がどうなったんだあれ


「突如として後続車両が大爆発! 複数台を巻き込む大クラッシュが広がっております! いったい何が起きたのか、分析班はよ!!」


◇リスナーあんのうん

なんだあの爆発!?


◇リスナーあんのうん

何狙ったんだあれ


◇リスナーあんのうん

短剣小さすぎてわからんかったぞ


「分析班仕事しました! 先ほどの爆発、どうやら相手の爆発アーツを短剣で刺激させ暴発させたようです!」


◇リスナーあんのうん

なんて?


◇リスナーあんのうん

ごめん、分からん


◇リスナーあんのうん

それは直接攻撃じゃないのか


「相手が射出したアーツを、至近距離で爆発させることで相手を自滅させたようです。更に周囲の他のアーツも誘爆させることであそこまで広範囲にダメージを与えられた、という推測が上がっております。

 っとここで映像解析入りました。――な、なんだってー!?」


◇リスナーあんのうん

どうした?


◇リスナーあんのうん

至近距離のアーツ誘爆とか、どうやったらそんなん思いつくんだ


◇リスナーあんのうん

思いついたところで実践できんのかあれ


「な、なんと先ほどの爆発、どうやら相手機術師のアーツ生成位置を事前に予測し、そこに丁度短剣を“置いて”いたようです!

 結果術式が崩壊し暴発、周囲を巻き込んで大クラッシュを起こしたと判明致しました!」


◇リスナーあんのうん

意味不明な所に意味不明な新事実をぶつけるんじゃないよ


◇リスナーあんのうん

俺の頭がクラッシュするんだが


◇リスナーあんのうん

普通にトッププレイヤーレベルの子がなんで初心者コース走ってるんですかね・・・


「なんという技量! なんという度胸! 可憐な少女たちは後方の混乱も置いて颯爽と駆け抜けて行きます! もはや距離は絶望的なまでに離され、後続車両は二位争いに作戦を変更しております! しかし先ほどの大クラッシュで大半の車両が大きく損傷、これは初戦から泥沼の気配です!」


◇リスナーあんのうん

最後にでっかい置き土産してきたなぁ


◇リスナーあんのうん

アーツ誘爆とか高等技術すぎる


◇リスナーあんのうん

あれ再現できる人何人居るんだ……


◇リスナーあんのうん

再現できたとしても、本番あんだけ揺れる車の上で実行できる気がしねぇよ


◇リスナーあんのうん

こえええ・・・


「荒野を駆ける一台のバギー! ハンドルを握るのは黒髪乙女、後部座席に立ち短剣を纏うのは亜麻色のわんこちゃん! 蒼天の下、もくもくと砂煙を上げてサカオへ凱旋していきます!

 ライバルたちははるか後方、もはや妨害の攻撃すら飛んできません!

 さあ、そして、初心者コース第一回戦の勝者が――」


◇リスナーあんのうん

うおおおおお!!


◇リスナーあんのうん

ゴォォォォオオル!


◇リスナーあんのうん

圧倒的じゃあないか!


◇リスナーあんのうん

少女つええええ


◇リスナーあんのうん

clap!


◇リスナーあんのうん

GG


◇リスナーあんのうん

すげえなあ最初から最後まで首位防衛しやがった


◇リスナーあんのうん

初心者コースとは


◇リスナーあんのうん

第一回BBBだし全員初心者だぞ


「華々しいゴールを決めた19番、カグラ&タルトペア! 万雷の喝采に迎えられ大きく両腕を振り上げています! いやぁ可愛らしい! 早くインタビューに行きたいです!

 しかしこの後も続々と二位以下が決まり目が離せません。また初心者コースだけでもあと80組、四レースが控えております。皆さんチャンネルはそのまま! 

 この放送は実況中継専門バンド〈ネクストワイルドホース〉がお送りしております!」


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Tips

◇『ブレードパリィ』

 〈剣術〉スキルレベル5のテクニック。タイミング良く攻撃に合わせて斬撃を放つことで、衝撃を相殺し無力化する。刀身が小さくなるほどにタイミングがシビアになり難易度が上昇するが、上手く使いこなせれば無類の防衛力を発揮する。


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