第296話「新境地を開く」

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◇ななしの調査隊員

近海の魚共厄介すぎるんだが


◇ななしの調査隊員

何度舟底に穴開けられたことか・・・

あいつら絶対根絶やしにしてやる


◇ななしの調査隊員

漁協連が大規模罠漁計画してるって話は本当なのか?


◇ななしの調査隊員

なんか言ってるな。頭おっさんかよって思ったけど、思ったより本気みたいだ。

でも有名バンドはあんまり興味無さそうなんだよなぁ。


◇ななしの調査隊員

それはつまり負けフラグなのでは?


◇ななしの調査隊員

おっさんとこは頭おっさんでも騎士団とか工業組合あたりが注目してたもんなぁ


◇ななしの調査隊員

そういえばおっさんら最近近海で見てないんだけどなにしてんの?


◇ななしの調査隊員

もう深海とか行ってるんじゃねえの


◇ななしの調査隊員

あり得そうなことを言うんじゃないよ


◇ななしの調査隊員

おっさんなら今日ウェイドの新天地で見掛けたけど


◇ななしの調査隊員

本拠地あそこだっけ?

戻ったのか


◇ななしの調査隊員

なんかメンバー勢揃いしてて、知らない可愛い子三人と一緒にお茶してた


◇ななしの調査隊員

なんで?


◇ななしの調査隊員

なんで?


◇ななしの調査隊員

知らない可愛い子ってなんだよ


◇ななしの調査隊員

あれじゃないか?最近おっさんと一緒に居るっていうNPC


◇ななしの調査隊員

謎のNPCな

確かに可愛い


◇ななしの調査隊員

町歩いてた時に盗聴してたんだけど、我が罪とか言ってたような気がするんだよな。

音声が不鮮明でちょっと自信ない。


◇ななしの調査隊員

なんでこのスレには盗撮やら盗聴してるヤツが普通にいるんだよ


◇ななしの調査隊員

憲兵さんこちらです


◇ななしの調査隊員

警備NPCさん!!


◇ななしの調査隊員

おっさんもそろそろ謎の美少女の情報教えてくれよなー


◇ななしの調査隊員

ブログで書いてくれてもいいんだが、なんか書けない事情でもあるのかね


◇ななしの調査隊員

その割には堂々と街中歩いてるよな


◇ななしの調査隊員

まあおっさんならそのうち公表してくれるだろ


◇ななしの調査隊員

おっさんに対する信頼が厚すぎる


◇ななしの調査隊員

まあおっさんだしなぁ


◇ななしの調査隊員

そんでおっさんは何してたんだろ

また何か変なこと企んでるのか?


◇ななしの調査隊員

おっさん考察スレだと家買おうとしてる説が有力だな

ワダツミの地下に行ってるとこも見られてたみたいだし、その直後に埠頭で釣りしてたみたいだし


◇ななしの調査隊員

ああ、あの超遠距離釣法か


◇ななしの調査隊員

あれも釣りスレが荒れたなぁ(遠い目


◇ななしの調査隊員

あれのせいで今の埠頭が戦場じみてるんだからおっさんは責任取って


◇ななしの調査隊員

しかし別荘か

ちょいちょい建ててる人も出てきてるよな


◇ななしの調査隊員

結構便利だからな。

ガレージに戻る必要ないし、景色綺麗だし


◇ななしの調査隊員

海辺のオーシャンビューだろ。

めちゃくちゃ金かかるみたいだけど。


◇ななしの調査隊員

金はまあ何とかなるよ。問題は鼠駆除だ。あの数は頭おかしいって。


◇ななしの調査隊員

でもおっさんアレクリアしたんだろ?


◇ななしの調査隊員

しかも赤兎ちゃんと謎の美少女と三人でクリアしてたっぽい


◇ななしの調査隊員

NPCちゃんは傭兵的なアレなのかなぁ

金で雇える一時戦力みたいな


◇ななしの調査隊員

かもな。

でもそれなら普通に公開してるだろっていう。


◇ななしの調査隊員

でもおっさん金持ってないんじゃないの?


◇ななしの調査隊員

俺も可愛い幼女に守られてぇよ


◇ななしの調査隊員

足蹴にされそう


◇ななしの調査隊員

邪魔って殴られそう


◇ななしの調査隊員

敵の巣の真ん中で見捨てられそう


◇ななしの調査隊員

それもまあ、いいな……


◇ななしの調査隊員

業が深すぎるって


◇ななしの調査隊員

おっさん見つかったよ!


◇ななしの調査隊員

でかした!


◇ななしの調査隊員

どこにいたの?

てか何してたの?


◇ななしの調査隊員

バンドみんなでアマツマラの地下坑道に居たみたい。最前線を30層に押し上げたって。新しく見つけた階層主も初見撃破して、情報もある程度集めたからwikiに書くって言ってた。あと謎の美少女3人連れてたよ。


◇ななしの調査隊員

待て待て待て待て


◇ななしの調査隊員

もっとこう、手心というか・・・


◇ななしの調査隊員

情報量が多すぎる


◇ななしの調査隊員

なんで?

いや、いろいろとなんで?


◇ななしの調査隊員

地下坑道にいた(なんで?

最前線押し上げた(なんで?

階層主初見撃破(なんで?

wikiに書いとくよ(ありがたい

謎の美少女3人(なんで?


◇ななしの調査隊員

まじで美少女傭兵説出てきたな

しかも滅茶苦茶強そう


◇ななしの調査隊員

説明!説明責任!果たせ!


◇ななしの調査隊員

え、傭兵入れてもたった9人で前線5つも押し上げたの?

ヤバすぎだろ


◇ななしの調査隊員

おっさんのバンド、異常者の集まりかよ


◇ななしの調査隊員

割とそうだからな・・・


◇ななしの調査隊員

否定はできないな


◇ななしの調査隊員

ままあておつちけ。

そのうちおじさんのブログも更新されるだろ。それを見てからじゃ無いと信用できない。


◇ななしの調査隊員

それもそうだな。今は座して待つべし。


◇ななしの調査隊員

なんでおじさんは新しいコンテンツ出てきたらそれを無視して別の所にいくの?


◇ななしの調査隊員

逆張りおじさんなんだろ


◇ななしの調査隊員

人が集まってるとやりにくいからやろなぁ


◇ななしの調査隊員

小腹空いてきたし〈海鳴り〉のシュガークリーム・セブンオーシャンでも食べながら続報を待つとするか。


◇ななしの調査隊員

R.I.P


◇ななしの調査隊員

なむなむ


◇ななしの調査隊員

骨は拾って海に撒いてやるからな


◇ななしの調査隊員

“甘味の海賊王”持ってるプレイヤー、鯖に何人いるんだろうなぁ……


_/_/_/_/_/


「かんぱーい!」


 カン、と小気味良い音と共に冷えた缶がぶつかり合う。

 ここは地下資源採集拠点シード01-アマツマラのベースラインに設置された、小さな休憩スペース。

 各々好みの飲み物を自販機で買った俺たちは、地下坑道最前線押し上げと第30層の階層主初見撃破を記念して祝杯をあげていた。


「くぅ~~~! この強すぎる炭酸が沁みますねぇ」


 ごくごくと喉を鳴らしてロング缶を飲み乾すレティ。

 彼女の飲み物は爆裂最強炭酸コーラ(トロピカルハッピー味)というもの。

 具体的に何味なのかも書かれていない、常人が一口飲むと小さな爆発が口内を傷つける恐怖の飲み物だが、それを彼女は一気に煽っているのが一番の恐怖だ。


「なんとか階層主まで倒せましたね。途中で物資が全部尽きた時はもう駄目だと思いましたが……」


 エレクトロサンダーマンゴーと書かれた缶に唇を付け、トーカが達成感に満ちた笑みを浮かべる。


「レッジのテントが無いと死んでただろうねぇ。わたしも最後の方はただの矢を射ってるだけだったし」

「久しぶりに盾だけの戦いができて良かったわ。もっと改善できそうな気もしたし」


 ラクトとエイミーが飲んでいるのは、それぞれホットチョコレートミルクとゆずサイダー。

 彼女たちは安全志向らしい。

 まあ、激戦の後に温かいチョコレート飲料というのもちょっと個性的だが、あの二人の前では霞む。


「ミカゲの呪術も随分強くなったな。最後、カズラに止めを刺したのもミカゲだったし」

「……あれは、たまたま」


 俺が話を差し向けると、忍装束に戻った彼は冷たい緑茶を両手で包み首を振る。

 第30層の主〈剛顎のカズラ〉は激戦の果て、ミカゲの一撃によって息絶えた。

 彼はそれまでのトーカたちの積み重ねが無ければ届かなかったというが、彼が居なければ全滅していたことも確かだ。


「まあ、誰がいなくても勝てなかったことは確かです。全員胸を張って勝利を喜びましょう」


 そう言ってレティが勢いよく缶を突き出す。

 俺も手にあったコーヒー缶を当てて、それに頷いた。

 今回の華々しい戦果は、〈白鹿庵〉のメンバー全員で勝ち取ったものだ。

 今はただそれを讃え讃えられるだけでいい。


「ウェイドたちはどうだった?」


 一つのベンチに並んで座るウェイドたちの方に意識を向ける。

 彼女たちはそれぞれ普通のジュース類で喉を潤し、少し呆けた様子で俺を見た。


『正直、予想以上の結果でした。特に28層からは物資が尽き、30層ではレティやトーカの武器も壊れる寸前でしたから』

『アメイジング! あの状況で階層主を破り、生還するとは。流石はレッジたちですね』


 ウェイドとワダツミは口々に感想を述べる。

 彼女たちの予想を裏切ることができたのなら、俺たちも鼻が高い。

 そんな中で一人、アマツマラはどこか思い悩んだ様子でワンピースの裾を握りしめていた。


「アマツマラ?」


 俺が声を掛けると、彼女は驚いたのかぴくりと肩を跳ね上げる。


「どうした?」

『い、いやァ。すごい戦いだったなと思ってな。……今でもまだ、感情を処理しきれねェんだ』


 彼女は戸惑いの混じる笑みを浮かべて言う。

 俺たちですら激戦であると断言できる過酷な戦いだったのだ、戦闘を初めて直に見た彼女たちが受けた衝撃はとてつもないものだろう。

 しかし、彼女の赤い瞳には驚き以外の感情も混じり合っていた。


『特に最後の戦いは凄かった。どっちかが死ぬって言う、命を掛けた戦いだった。赤い鉄を叩いたみてェだった」


 彼女は大きく腕を振り、全身でその感情を表現する。

 その様子が初めて水族館に行った姪の姿と重なり、思わず顔が緩んでしまう。


『――だから、あたしはもっとアレが見たい!』

「……うん?」


 声高に宣言するアマツマラ。

 その言葉に現実へ戻される。


「えっと、アマツマラ?」

『燃え盛る火みてェな戦いだ! 血で血を洗う、凄惨で過激な戦いだ! 武器と身体をぶつけ合って、最後には片方が立ってるような、華々しい戦いが見てェ!』

「あの、アマツマラさん……?」


 彼女は勢いよく立ち上がる。

 賑やかに話していたレティたちの注目が集まる中、アマツマラは固い決意を込めて宣言した。


『あたしは、ここに闘技場を作るぞ!』


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Tips

◇剛顎のカズラ

 長く生きた岩喰い蛙。生まれ持った旺盛な食欲で土も鉱石も結晶も分け隔て無く喰らい続け、強靱な顎と堅い甲殻を得た。動きは鈍いが分厚い甲殻によってあらゆる衝撃を受け止め、甲殻に含まれる結晶の粒子によって機術を用いた攻撃も著しく減衰してしまう。堅岩を粉砕する顎に捕らわれれば、逃れることは至難の業。


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