第297話「記事と速報」

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FPO日誌

 このブログはVRMMO、FrontierPlanetをプレイしている一般のおじさんが惑星イザナミでの出来事をぼんやりと記していく日誌です。

 あまり有益な情報などはありません。

 攻略情報は公式wikiかBBSのほうがいいでしょう。

 上級者向けのものは「大鷲の騎士団(別窓)」や「ねこのあしあと(別窓)」へ。

 あくまでも、平凡な日常を淡々と記したものであることにご留意ください。


#136「アマツマラ地下坑道へ行ってきました」


 平穏な日々、皆様どのようにお過ごしでしょうか。


 私は先日の記事[#135「別荘を買いたいです」]でも述べたように、別荘の建設に向けて粛々と準備を進めているところです。

 あの後は別荘の建設を手がけていただける建築系バンドの方とも直接顔を合わせ、バンドメンバーと共に要望を提出しました。

 こちらの案件はひとまず先方に預け、我々は具体的な図案が完成するのを胸躍らせて待っているところです。


 その間、第3回イベント以来あまり足を向けていなかったアマツマラの地下坑道に久しぶりに行こうと仲間内で声が上がり、全員で向かうこととなりました。

 攻略組の皆様の尽力でその時の最前線は第25層にまで押し上げられており、まだ見ぬ原生生物とも戦えるだろうと仲間は期待を募らせていました。


 第16層のボス、〈白羽のエンム〉は巣の形状も特殊でなかなか面白い戦いが展開できました。倒せば無限に湧き続ける近衛の扱いなど、少し特殊な攻略が必要な点も、今までの力押しが通じないということでひと味違った楽しみ方ができたと思います。


 第20層のボス、〈赤脚のカリヤ〉は純粋な耐久力が恐ろしい相手でした。また黒蟻などと同じく体液が強い腐食性を持っており、浴びるだけで継続的なダメージとデバフを受けてしまう点も、なかなかに苦労してしまいましたね。


 第24層のボス、〈八百眼のアダラ〉はその数の多さと統率の取れた動きが我々の弱点であり、なかなかに苦戦を強いられました。

 自分の腰ほどもある巨大な蜘蛛の集団というのは、外見からも押しつぶされそうな迫力があり、終始精神をすり減らす戦いになりました。


 そして、第30層のボスである〈剛顎のカズラ〉。

 こちらはwikiにも情報が載っていなかったため、恐らくは我々が初見であろうと推測しています。もし先駆者がいらっしゃいましたら、失礼致します。

 蟻、蜘蛛、百足、蜂、蝙蝠、蛙といった多種多様な敵を掻い潜り辿り着いた第30層の最奥で出会ったのは、岩喰い蛙の階層主でした。


[剛顎のカズラ.img]


 通常の岩喰い蛙も堅い外殻を持ち物理攻撃が効きにくいことで有名ですが、こちらは更にアーツ攻撃もダメージが半減してしまいます。

 メンバーによる『生物鑑定』で得られた情報によると、捕食過程で少しずつ体内に取り込んだ各種結晶の細かな粒子がアーツを撹乱し、著しく不安定な状態にしてしまうのだとか。

 物理もアーツも効かず、しかも物資も乏しく装備も大きく耐久値を減らし、まさに絶体絶命といった窮状に追い込まれてしまった我々でしたが、そこで活躍したのが〈呪術〉スキルを上げていたメンバーでした。

 どうやら三術系は物理的な攻撃ではなく、かといってアーツとも違った理論から成るようで、カズラに対しても極めて効果的にダメージを与えることができました。


 そんなわけでかなりの激戦とはなりましたが、辛くも勝利を掴むことができました。

 カズラの詳しい情報はwikiの方にもページを作成しておきましたので、ぜひご参照下さい。


[カズラ戦勝利.img]


 その後いろいろとありまして、突然ではありますがアマツマラに【地下闘技場建設計画】という任務が追加されました。

 運営様の公式HPのニュース欄に詳報が掲載されていますが、こちらでも触りだけご紹介したいと思います。


 新たに追加された【地下闘技場建設計画】は、以前から常設任務としてあった【地下坑道整備計画】とよく似た内容の任務です。

 指定にあるアイテムを納品することでそのアイテムのショップ売却価格と同等のビットが貰える、というものなのですが、それに加えて“闘士投票券”というアイテムも納品量に応じて貰えるようです。

 更に任務の全体的な達成数が上がり、進捗が進むことでアマツマラの地下に闘技場が建設されます。

 こちらはFPO初の対人要素ということで、今後の期待が高まりますね。


 私も微力ではありますが任務をこなし、闘技場建設の助けになりたいと考えています。


 それでは、またいつか。


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◇ななしの調査隊員

それでは、またいつか。じゃないんよ


◇ななしの調査隊員

大事なところを端折るんじゃねえよ!

いや全部大事なとこなんだけども!


◇ななしの調査隊員

なんでさらっと坑道の前線上げてんですかね・・・


◇ななしの調査隊員

前にここへタレコミがあった時は流石にデマかと思ったが、まさかほんとに30層まで行ってたとはなぁ


◇ななしの調査隊員

剛顎のカズラかぁ

これまた面倒くさそうな奴だな


◇ななしの調査隊員

物理もアーツも効かない・・・せや!呪ったろ!


◇ななしの調査隊員

第三の攻撃手段まで完備してる白鹿庵まじで戦闘のエキスパート過ぎるだろ


◇ななしの調査隊員

これは三術系の需要が高まりそうだなぁ

色石集めとかないと


◇ななしの調査隊員

研究も更に加速しそうだな

呪術以外だと霊術が強そうかね


◇ななしの調査隊員

占術も時期が合えばめちゃめちゃ強いぞ

たしかこの前に前線押し上げたのは占術師だったはずだし


◇ななしの調査隊員

クレイジー女好きさんか


◇ななしの調査隊員

星読さんか

あの人も大概桁違いだろ


◇ななしの調査隊員

アマツマラに人が集まると、また近海の攻略が鈍りそうだなぁ・・・


◇ななしの調査隊員

でぇじょうぶだ。おっさんが行くはず。


◇ななしの調査隊員

それもそうだな


◇ななしの調査隊員

人気の薄いところにおっさんあり


◇ななしの調査隊員

てか15層までショートカットしたとしても、そっから30層まで行けるの凄いよな


◇ななしの調査隊員

やっぱ同行してるNPCがかなり強いんだろうなぁ

あとは赤兎ちゃんの連れてるでっかいケルベロスが積載量滅茶苦茶な運搬性能してるらしい


◇ななしの調査隊員

あれでも物資ギリギリだろうけどな

マルチマテリアルとかまあまあ重いし


◇ななしの調査隊員

NPC入れて九人で攻略ってのは物資があっても早々できないけどな


◇ななしの調査隊員

しかも26層から向こうは完全初見なんだろ?

メンバー全員適応力ってか対処能力がカンストしてるわ


◇ななしの調査隊員

でもって闘技場よ、闘技場


◇ななしの調査隊員

PVP!PVP!


◇ななしの調査隊員

正直やっとか、て感じもするけどなぁ

こんだけ戦闘システムが充実してるタイトルで対人戦闘ないのもおかしいよな


◇ななしの調査隊員

しかしアマツマラに闘技場か・・・

あそこも賑わいそうだな


◇ななしの調査隊員

建設任務報酬にある闘士投票券ってなんだ?


◇ななしの調査隊員

ヒント:馬券の正式名称は勝馬投票券


◇ななしの調査隊員

燃えてきたでぇ


◇ななしの調査隊員

なんでただの一プレイヤーのブログが公式HPと同時に最新ニュース流してるんですかね・・・


◇ななしの調査隊員

そりゃおっさんが運営だからだろ


◇ななしの調査隊員

おじさん運営説がまた補強されてしまった


◇ななしの調査隊員

一般プレイヤーに紛れて実際のプレイを通して改善点を探しているスタッフの鑑


◇ななしの調査隊員

なんでスタッフが率先して訳分からんプレイしてるんだよ


◇ななしの調査隊員

平凡な日常を淡々と記したもの定期


◇ななしの調査隊員

ただのどこにでも居る一般おじさんだぞ


◇ななしの調査隊員

一般のおじさんのブログで専門スレが立つのもおかしいだろ


◇ななしの調査隊員

俺荒事は苦手だけど賭け要素あるなら楽しみだな

贔屓の闘士とかできたりするんだろうか


◇ななしの調査隊員

闘士も設けられるなら専用ビルド組むやつも出てきそうだなぁ


◇ななしの調査隊員

金にならなくてもビルド組むやつはいくらでもいるだろ


◇ななしの調査隊員

どっかの騎士団長とかめっちゃ楽しみにしてそう


◇ななしの調査隊員

あの人が来たら賭けにならねぇだろ!


◇ななしの調査隊員

闘士っていうロールも追加されそうだな

あとデコレーションも増えそう


◇ななしの調査隊員

生意気な女剣闘士ちゃんをボコボコにしてだな・・・


◇ななしの調査隊員

ぼこぼこにされそう


◇ななしの調査隊員

完全にやられ役じゃん


◇ななしの調査隊員

最近のビキニアーマーはバリテン戦にも正式採用されてるくらいだからな


◇ななしの調査隊員

バリテン戦もだいぶ効率化されてきたよな

生産バンドが爆撃機投入してた時は笑ったわ


◇ななしの調査隊員

しかしこのカズラの前で撮ってる記念写真に映ってるのが例のNPC?


◇ななしの調査隊員

そうそう。謎のNPCな。

最強傭兵説がここでは最有力候補だけど、まじで情報がない。


◇ななしの調査隊員

最初に目撃情報が出たのはワダツミだったかね

もっと人数居た気がするが


◇ななしの調査隊員

おじさんにしては珍しく、この子らの情報は何も公開してないんだよな


◇ななしの調査隊員

運営から口止めされてるとか?


◇ななしの調査隊員

無きにしも非ずだなぁ

おっさんなら運営の隠し要素を勝手に掘り出してても驚かん


◇ななしの調査隊員

アマツマラで闘技場ができるのもこの子らが関係してたりするのかね


◇ななしの調査隊員

あるかもしれないし、ないかもしれない

全てはあなたの心次第です


◇ななしの調査隊員

いやFPO次第だろ


◇ななしの調査隊員

案外おじさんとバンドの誰かの子供だったりしてな


◇ななしの調査隊員

ええ・・・


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 アマツマラが闘技場建設を宣言した後、俺の下へ運営から一通のメールが届いた。

 それは俺たちの動きで特殊なフラグ条件が満たされ、結果としてアマツマラ地下闘技場の建設計画が進行した旨が記され、情報解禁のタイミングも公式サイトのニュース掲載と合わせるように、という指示が書かれていた。

 その直前、通りがかったプレイヤーに少し話してしまったのだが、その程度なら構わないというお墨付きも貰えて胸を撫で下ろしたのを覚えている。


「わあ、レッジさん運営説なんてのも出てるんですね」


 地下坑道攻略の翌日、ウェイドの〈新天地〉でブログを投稿していると向かいに座っていたレティが掲示板を見ながら声を上げた。

 俺は続々と寄せられるコメントを見るのを止め、眉を顰めて顔を上げる。


「なんだ、そんな根も葉もない噂は」

「仕方ないんじゃ無い? 公式HPと同時に新情報を公開するのだって、今回が初めてじゃないでしょ」

「そりゃまあそうだが……。偶然の産物だしなぁ」

「人間なんてただの壁の沁みにだって意味を見付けちゃうからね。むしろ下手に否定する方が却って勘ぐられちゃうと思うよ」


 ずずず、と残り少ないオレンジジュースを飲み乾してラクトが言う。

 彼女の言うことも一理ある、人の噂もなんとやらと言うし、しばらくすれば自然と消えてしまうだろう。


「ウェイドさんたちの正体を知りたいという声も多いですね。レッジさんが雇用してる傭兵ではないか、なんていう説も出てます」


 レティの隣に座り、同じように掲示板を読んでいたトーカが苦笑する。

 管理者たちはむしろ戦闘力皆無なのだが、面白いものだ。


「レッジさんはなんでウェイドちゃんたちの正体を公開しないんですか?」

「色々理由はあるが……。一番は、本人たちがまだ準備中だからだな。準備ができたら、俺が何かやらなくても自分から表舞台に出て行くだろうし、それを急かすこともないだろ」


 首を傾げるレティに、俺はそんなふうに答える。

 ウェイドたちはまだ俺たちとの交流を通じて学習している最中だと言っていた。

 ならば彼女たち自身が自発的に出ていくまで、そっとしておいた方がいいだろう。


「もしかしたら、アマツマラは闘技場の完成と同時に出ていくのかも知れないな」

「任務のために結構な人が集まっているようですし、それならお披露目は近いでしょうねぇ」


 ブログ記事とニュースが公開されると同時に、アマツマラ行きのヤタガラスは満員になったらしい。

 ウェイドやワダツミも瞬く間に完成させたプレイヤーたちの結束力があれば、地下闘技場の開場も時間の問題だ。


「ワダツミの次はアマツマラ。またウェイドが少し寂しくなってしまうんでしょうか」

『いえ、その心配はありません。アマツマラはワダツミと異なり、ウェイドからでもヤタガラスで移動が可能なので、さほど人口の偏りは発生していませんから』


 窓の外の往来を眺め憂うトーカに、ウェイドが淡々と否定する。


「なるほど。ヤタガラスがあれば一々帰ってくるのも苦じゃないか――って、ウェイド!?」


 思わずすんなりと納得しかけたが、慌ててそちらを向く。

 気がつけばラクトの隣に澄まし顔の管理者が座って、のんびりと紅茶など嗜んでおられた。


「ウェイドさん!? どうしてここに……」


 同様に驚くレティが目を見開いて彼女に問いを投げかける。

 ウェイドはカップをソーサーに置き、ボックス席を見渡して首を傾げた。


『皆様にご協力を仰ぎたくやってきたのですが。……エイミーさんとミカゲさんは?』

「ミカゲは所用でキヨウに行ってる。エイミーはまだログインしてないな」


 俺が答えると、彼女はふむふむと頷く。


『なるほど、そうでしたか』

「協力が欲しいって、何かあったのか?」


 〈白鹿庵〉が揃っていた方が都合が良かっただろうか等と思いつつ尋ねる。

 するとウェイドは再び頷き、口を開いた。


『実は、先ほどキヨウから連絡がありまして――』


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Tips

◇赤脚のカリヤ

 アマツマラ地下坑道第20層最奥に棲む、錆鉄百足の長。通常の錆鉄百足を遙かに越える長大な身体と、良く鍛えられた鋼に匹敵する堅い外殻を持つ。強靱な顎で堅岩ごと獲物を砕き、体内で生成した強力な腐食液で溶かし捕食する。

 無数の脚は赤く錆びた鉄のようで、それを細かく動かすことで機敏に獲物を追跡する。


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