第256話「斬撃と破壊」
「総員、第一種戦闘配置!」
「第一種戦闘配置ってなんですか?」
「知らん、言ってみただけだ。格好良いだろう?」
そんな冗談を交えながらも、今回は待機していたレティたちも動き出す。
「『
まずはエイミーが大きな半透明の障壁を七枚“飛蜘蛛”の周囲に展開させる。
DAFシステムも合わせてグリフォンたちを牽制しつつ、他の皆が準備を整えるまでの時間を稼ぐ。
「一番槍は任せて! 『漂白する千棘の刃矢』」
ラクトの放った白銀の矢は光の尾を引いて中央のグリフォンへと飛び掛かる。
〈
「今のアーツは英語直訳じゃないんだな?」
「こっちは日本語の方が言いやすかったから。いつもと同じにするとブレッシング・サウザンドソーン・エッジアローになるんだよ」
そんな軽口を交わしていると、グリフォンに刺さった矢が爆発する。
白い輝きと共に無数の棘が広がり内側から肉を切り裂き、更に零下の霜が傷口を焼く。
「また随分と派手なアーツだ」
「この日の為にアーツチップ集め頑張ったからね。『漂白』のチップは取るのに苦労したよ」
「そこ! まだ死んでないんですから口より手を動かして下さいよ!」
レティから鋭い棘が飛んでくる。
見ればグリフォンは未だ三体共に健在で、矢を受けた一体も悠々と翼を動かしこちらを睨んでいた。
「では、次は私が。花刀・桃源郷+6の威力をご覧頂きましょう。――疾ッ」
ダンッ、と強く床を蹴りトーカが空中へ飛び出す。
「エイミーさん!」
「任せなさい。『
トーカの声でエイミーが小盾を空中に生成する。
タタンと足取り軽くそれを蹴り、宙を駆ける。
「〈攻性アーツ〉の『氷の床』よりも〈防御アーツ〉の『浮遊する小盾』の方が生成速度が早いしLP消費も少ないんだよねぇ」
「なるほどなるほど」
以前まではラクトが足場の構築も担当していたが、エイミーが〈防御アーツ〉を習得したことでそちらに役目がスライドしたらしい。
あまり意識していなかったが、彼女たちも日々連携を強めている。
「『風歩き』――『刀装・青』――」
エイミーから離れ、何もない空中に出たトーカは、そのまま空を踏んで更に進む。
これにはグリフォンも虚を突かれたようで対応が一瞬遅れた。
「彩花流肆之型、一式抜刀ノ型、『花椿』」
カンッ。
竹を割ったような透き通った音が響き渡る。
赤黒い中に黄色い閃光のエフェクトが混じる。
敵の急所を的確に狙った一撃が、鋭い刃に乗せられて放たれる。
「まだです!」
レティの声。
胸に矢を受け、氷と棘に蝕まれ、それでなお異形の鷹獅子は翼が折れない。
トーカが渾身の力を込めて振るった一閃でさえも、太く固い骨を断つまでには至らない。
「大丈夫。まだ、あります」
しかしそこまでもトーカは折り込み済みだったらしい。
刀を握る腕の力を緩めることもせず、口を一文字に結ぶ。
「彩花流、神髄」
桃源郷の刀身が淡く輝く。
炎の様に立ち上がり揺らめく桃色の気を全身から発し、トーカは刀を立てる。
「――肆之型、一式抜刀ノ型」
シャラリと刃を滑らせ、刀は一度鞘に納められる。
空中で留まったまま彼女は一瞬で刀を抜く。
「『紅椿鬼』」
深紅の花が咲き乱れる。
大きく振るわれた刀の軌跡に、鮮やかな赤が広がる。
「なんだ、あれは……」
彼女の多用する『花椿』と似ているが、その威力は文字通りの桁違いだ。
鋭い刃は今度こそしっかりとグリフォンの首を斬り、その息の根を止める。
「っ! 『罠起動』、ワイヤーフック!」
ゆらりと墜ちていくグリフォンを慌てて射出した鈎鎖で捉え、プルームの隣に吊り下げる。
新しい素材の塊だ、おちおち見逃すはずがない。
「トーカ!」
レティが声を上げる。
見れば、ぐったりとしたトーカが落下している。
「エイミー」
「分かってるわよ」
エイミーが盾を生成し彼女を受け止める。
待ち構えていたミカゲが姉の身体を掴み、“飛蜘蛛”の上まで引き戻した。
「すみません、あの技は強力ですがその分反動も大きくて」
テントの範囲内に入ったことでトーカのLPが回復を始める。
攻撃を受けていないにも関わらず、彼女のLPゲージは真っ赤になっていた。
「さっきの技はなに? 神髄、とか言ってたけど」
倒れ込んだトーカの顔を覗き込み、ラクトが皆が聞きたかったことを聞いてくれる。
「彩花流神髄。抜刀奥義『百花繚乱』を習得したことで条件を満たしたようで、つい最近覚えた技です。基本的な所は『花椿』と変わりませんが、威力が高くなり、反動ダメージを受けるようになっています。
格好いいので早く使ってみたかったのですが、機会に恵まれず。やっと使えて……よかった、です……」
そこまで言い切り、気絶状態になるトーカ。
今の彼女のLP量では使うたびに気絶の危険があるようで、これは確かにおいそれと使えない。
しかし、
「ちょ、トーカさん!? まだあと二体いるんですけど勝手に気を失わないで下さいよ!」
悲鳴を上げるレティの言うとおり、戦いはまだ終わっていない。
今もDAFシステムとエイミーの盾によって押さえ込んではいるが、まだ二体のグリフォンが襲いかかってきているのだ。
「トーカはそのうち目を覚ますだろ。それまでは俺たちで凌ぐぞ」
「うぐぬぬぅ、分かりました……。レティもやってやりますよ!」
他に選択肢などない。
レティもそれは分かっているようで、黒鉄の巨鎚を握り直す。
「『猛者の矜持』『猛攻の姿勢』『破壊の衝動』」
効果時間が短い代わりに強力なテクニックを立て続けに発動し、彼女は自身の能力を底上げする。
「出ますっ」
全ての準備が整い、赤い影が飛び出す。
エイミーが用意した足場を蹴りグリフォンへ迫る。
「『岩砕』ッ!」
巨鎚がグリフォンの翼の根元を捉える。
質量に物を言わせた暴力で、もぎ取るように骨と筋を打つ。
「硬っ!?」
しかしレティの全力を乗せた鎚は、恐ろしいほどに硬い骨に受け止められる。
生身を打ったとは思えないほどの反動に彼女は驚き距離を取る。
「あんまり一人で前に出ないで! わたしがデバフ掛けるから」
慌ててラクトが弓に矢を番え、弦を引き絞る。
「『漂白する千棘の刃矢』!」
細い矢がグリフォンの胴に突き刺さる。
幾つもの針が広がり、その身体を凍結させる。
「氷属性のアーツは敵の防御力を下げるデバフが掛かるの。今なら攻撃が通る筈だよ」
「そうだったのか……」
「そうだったんですか!?」
「二人とももうちょっとわたしのアーツのこと知ってて欲しかったなぁ」
驚きの事実に絶句しているとラクトが呆れ顔で肩を寄せた。
「では、もう一度。『岩砕』!」
グリフォンの猛攻を掻い潜り、再び接近したレティが鎚を振り上げる。
素早く下ろされた鎚は今度こそ鷲獅子の骨を砕き、左の翼が力を失う。
「なるほど。翼を折ってしまえば倒さなくてもいいのね」
背後でネヴァが感心したように言う。
「いや、デバフが入ってるとはいえ一撃でエネミーの部位破壊ができるとか滅茶苦茶だぞ」
「まったく、白鹿庵の奴らは滅茶苦茶ではないか」
クロウリとタンガン=スキーが即座に突っ込みを入れ、ネヴァの認識がずれていることを語る。
「黒鉄の巨鎚とブラックラビット装備の部位破壊率補正と、〈
とりあえずそう易々と実現できるものではないです」
「おお、目を覚ましたか。早かったな」
「テントだと一瞬で気絶も消えますね」
目を覚ました有識者トーカの解説も入り、俺とネヴァがなるほどと頷く。
簡単にやってのけているから実感が湧かないが、レティの攻撃は随分常識から逸脱している代物らしい。
片方の翼を失ったグリフォンは、藻掻き苦しみながら旋回して崖下へと墜ちていく。
身体が普通の鳥よりも重たいせいなのか、上手く狙えば割合簡単に退けられるようだ。
「ぐぬぬ、しかし素材が……」
「トーカが討った一体は確保できてるから大丈夫だ。それよりもあと一体残ってるぞ」
残念そうな顔で“飛蜘蛛”へと帰ってくるレティを慰める。
しかしやってきたグリフォンは三体。
まだ一体が無傷のまま距離を取ってこちらを睥睨している。
エイミーが盾を生成し〈守護者〉も彼の方向へ向けているが、当のグリフォンが攻撃を仕掛けてこない。
「なんでしょうね、あのグリフォン。仲間が倒されたのにこちらへ来ません」
「分からん。しかし他より一回り大きいし、多分強いはずだぞ」
しばらく睨み合いが続く。
手のひらが湿るような緊迫した時間がしばらくその場を支配した。
「ッ!」
しかし唐突に大柄なグリフォンは俺たちから興味を失い、翼を羽ばたかせて崖下の霧へと帰って行く。
「――『投擲』!」
その背中に向けてミカゲが小さな釘を投げた。
釘の行方を見届ける前に褐色の翼は白霧の中へと溶けてしまったが、ミカゲは浅く頷いたので恐らく目的は達したのだろう。
「あのグリフォン、ネームドですかね?」
「分からん。しかし他の二体とは根本的に違うような気がするな」
不穏な空気だけがその場に残る。
やるせない気持ちを抱えたまま、それでも俺たちは消えたグリフォンの後を追って更に下降を続けるしかなかった。
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Tips
◇『破壊の衝動』
〈戦闘技能〉スキルレベル70のテクニック。短時間、自身の攻撃の部位破壊率を大きく上昇させる。武器属性が打撃の場合は更に部位破壊率が上昇する。効果時間中武器の重量が二割上昇し、攻撃時の耐久消耗が五割増加する。
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