第200話「その宴はいつまでも」
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FPO日誌
このブログはVRMMO、FrontierPlanetをプレイしている一般のおじさんが惑星イザナミでの出来事をぼんやりと記していく日誌です。
あまり有益な情報などはありません。
攻略情報は公式wikiかBBSのほうがいいでしょう。
上級者向けのものは「大鷲の騎士団(別窓)」や「ねこのあしあと(別窓)」へ。
あくまでも、平凡な日常を淡々と記したものであることにご留意ください。
#76「第2回イベント〈特殊開拓指令;白神獣の巡礼〉お疲れ様でした」
本日、第2回イベント〈特殊開拓指令;白神獣の巡礼〉の全日程が終了しました。
皆様、どのようにお過ごしでしたでしょうか。
この記事を読んでいる読者の方々にとってはもうご周知の事かと思いますが、私は今回のイベントでとても重要な位置に立っていました。
〈鎧魚の瀑布〉で出会った小さな白い牡鹿、白月のことです。
正体も謎に包まれていた彼についての真実が判明しだしたのは、イベントの最終日のことでした。
ゲーム内のデータセンターでも資料を閲覧できますし、公式wikiや外部のファンサイトでも分かりやすく解説されていますのでそちらを参照していただくとして。
私からはイベント終了後のことについて話そうと思います。
四つのフィールドにある全ての“朽ちた祠”、アマテラス側が“ブラック・ポイント”と称する黒神獣の封印されていた祠が全て破壊され、新たな“祠”が建てられると、イベントの達成条件が満たされ作戦は終了しました。
それと同時に巨大化していた白月たち神子――白神獣は元のサイズに戻ってしまいました。
[白神獣の巡礼3日目044.img]
白月も随分と消耗したようで、突然倒れた時は焦りました。
すぐにすやすやと寝息が聞こえて安心しましたが。
その後の情報によると、神子が白神獣としての完全体になるにはウェイドやアマツマラなどの直下を流れる強いエネルギーを使う必要があるようで、もう一度あの姿を見るのはなかなか難しい様子。
少し残念ですが、あの大きさでは色々と不便もありそうなので安堵していたり。
それと、イベント後にも各地の“祠”は残ったままで、今後のアップデートで新規コンテンツとして利用されるという噂もあります。
黒神獣も全てを根絶やしにできたわけでもなく、その脅威はまだ消え去っていないとか。
今後は“未詳文明”の技術に由来する新しい体系のスキルが実装されるとか。
イベントが終わった直後から公式HPでは様々な情報が公開され、今後も更にイザナミの世界が広がっていく予感がひしひしと伝わってきます。
慣れない白神獣化した白月との共闘や、その前に行った四フィールド同時の“朽ちた祠”発見作戦など、今回のイベントは個人的にとても大変なものでした。
沢山の方々に協力して頂けなければ、決して今回のような結末は迎えられなかったことでしょう。
すでに疲労が限界に近いため、そろそろ筆を置くことにしますが、本当に、皆様ありがとうございました。
それではまた、いつか。
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第2回イベント〈特殊開拓指令;白神獣の巡礼〉が終了し、早くも1週間の時が過ぎ去った。
イベント自体のプレイヤーたちからの評価は両極端で、巨大な敵との大規模な戦闘がとても好評だった反面、運営からの説明が不足していたという手厳しい意見もある。
そうした幾つもの余韻も最近では薄らぎ、スサノオやウェイド、アマツマラなどの拠点には平時の穏やかな時間が戻りつつあった。
「ミモレちゃん、次はヴォルケイノペスカトーレのメガ盛りお願いします!」
「かしこまりましたー」
俺たち白鹿庵もまた、今日は久々に新天地へとやって来て少々間は開いたがイベント終了の打ち上げのようなことをやっていた。
テーブルには様々な――大抵はめちゃくちゃにサイズが大きくて香辛料のキツい香りがする――料理が並び、レティたちがそれを勢いよく食べている。
店で働くミモレはくるくるとよく働き、銀盆に料理を載せて駆け回っている。
「この一週間、レッジは全然見なかったけど何してたの?」
ぼんやりとトンネル掘削機のようなレティの食べっぷりを見ていると、ラクトがピザを一切れ食べながら声を掛けてくる。
「終わった直後は泥のように寝てたよ。久しぶりに頭を使ったから、頭痛が収まらなくてな」
「それ、普通に運営を健康被害で訴えられるんじゃ……」
「別に俺が勝手にしたことだしな」
呆れた視線を送ってくるラクトに首を縮める。
おぼろげな意識の中でブログの記事を書いた後ベッドに倒れ込んだ所までは覚えているのだが、その次の記憶は日付が二日飛んだカレンダーを見たというものだ。
流石に混乱したし、時間感覚が全て吹き飛んでいた。
そのあとも歳のせいか疲労がなかなか取れず、常に両肩が重く集中できない日が続いて、FPOにログインできなかったのだ。
「イベントの後、何か新要素は入ってきたのか?」
「そうそう! 色々目白押しだったのよ」
エイミーが大ジョッキに注がれた小麦色のジュースを飲みながら言う。
普段は落ち着いた彼女も、こういった席で少し箍が外れているらしい。
「まずはなんと言っても、スキルの新規実装ね! 〈調教〉〈占術〉〈呪術〉〈霊術〉の四つが新しく追加されたわ」
「〈調教〉スキルはともかく、後ろ三つは世界観完全無視のスピリチュアリーな名前だな」
ラクトからもらい受けたピザを食べつつ言う。
三種のチーズと七種のキノコの蜂蜜がけピザらしいが、これがなかなか美味しい。
新天地って普通の料理は普通に美味しいんだよな……。
「〈調教〉スキルは各地の原生生物を捕獲して手懐けるものね。〈彩鳥の密林〉のシングバードとか、結構人気みたいよ」
「それに高レベルの〈調教〉スキルを使えば、各地の祠の神子もパートナーにできるらしいですよ」
炙りロングタンイグアナの塩漬け生皮寿司の入った丸桶を抱えて、トーカが話の輪に加わる。
彼女の言葉に驚いて、俺は足下で丸まる白月を見た。
「ああ、アストラさんが仰ってましたが、〈翼の盟約〉の四人のパートナーは〈調教〉スキルがなくてもちゃんと関係維持されているようです」
「そうなのか。ちょっと焦ったよ」
「〈調教〉スキルを上げるのとは別にペットを育てる手間が掛かるものの、手間を掛けたぶん頼れる相棒になるんだとか」
「なるほど。俺も白月をもっと鍛えようと思ったら〈調教〉スキルを取る必要があるんだな」
本人にもっと強くなりたいという意志があるかどうかは知らないが。
再度白月の方へ視線を落とすと、彼はまたうつらうつらと船を漕いでいる。
「レッジさん達の神子は、〈調教〉スキルの実装に向けた実験だったのかもですね」
「そういうのは運営側でやってほしいんだが……」
「レッジみたいな何しでかすか分かんない人に預けて、不測の事態をできるだけ潰したかったんじゃない?」
冗談めかしてエイミーが言うが、俺はそのせいで今回のイベントがとても大変だったのだ。
……まあ、白月と会えたことに関しては感謝してもいいか。
「それで、あとの三つのスキルの詳細は分かってるのか?」
「〈占術〉は運が凄く左右するスキルって聞いたよ。敵か自分に大ダメージを与えたり、3%の確率で即死する攻撃を放ったり。あとは星の位置によって効果が変わる技とかもあるらしいね」
ラクトの説明にほうと頷く。
恐らくは“未詳文明”由来の技術体系によるスキルというのはこれらのことなのだろう。
随分とファンタジックなテクニックが多そうで、そう言った意味ではアーツよりも魔法っぽい。
「〈呪術〉は魔法陣とか呪具とか、そういう道具を使って敵を呪い殺すスキルだね。こっちは闇魔法っぽいかな。〈霊術〉は精霊とか死霊を呼び出して戦うって話だけど、まだ詳しいことは分かってないね」
「ほんとに世界観まるまる無視ねぇ」
「どのスキルも情報が全然無いから、検証班が忙しそうにしてるよ」
だんだんとごった煮のような混沌とした世界観が形成されているようだ。
〈占術〉はやはりというかなんというか、女性プレイヤーに特に人気らしく、ゲーム内時間で一日一回その日の運勢を占うテクニックなどが良く使われているという。
逆に〈呪術〉はネガティブなイメージがあるのと、発動に複雑な条件や知識、道具を要するために人を選び、〈霊術〉に至ってはそもそも全容すらほぼ分かっていない。
「その辺の解明は、まだまだ時間が掛かるんだろうな」
「どこの世界にもマニアックな情熱を傾ける人はいますし、時間さえあればそのうち、ですね」
パクパクと寿司を飲みながらトーカが頷く。
レティの影に隠れて目立たないが、彼女も大概大食漢である。
「レッジさんは何か新しいスキル取ったりしないんですか?」
その時、丁度山のようなスパゲティを食べ終え口元を真っ赤に汚したレティがこちらを向いた。
彼女の発した問いかけに、俺はステータスウィンドウを開きながら唸って答える。
「ううむ、今も色々取っててスキル値上限に行きそうなんだよな。〈調教〉スキルとか取ってみたいがその前に整理しないと……」
「レッジさんほんとに一貫性がないですもんね……。全部ある程度使いこなせてるのも凄いですけど」
「スキル値限界が1,050って少ないよな」
「普通に良い塩梅だと思いますよ」
俺の主張は誰からも賛同を貰えず掻き消える。
みんなはちゃんとビルドの方向性が決まってるからそんなことを言えるのだ。
「ああ、そういえばミカゲが〈呪術〉スキルを取ってましたよ」
ふと思い出したようにトーカが言う。
「本当か!?」
俺はテーブルの隅で静かにしていたミカゲに確かめる。
突然名前を挙げられた彼は驚きつつも頷いた。
「……に、忍者は怪しい術も使うから」
「忍者ってそんなんでしたっけ……」
ミカゲの主張に女性陣は首を傾げるが、俺は深く頷く。
忍者と呪術は、きっとシナジーがあるはずだ。
「レッジ! レッジはいる!?」
その時、静かなBGMの流れる店内に大きな声が響き渡る。
俺の名を呼ぶその声に驚きつつ手を挙げると、軽やかな足音と共に赤髪の少女が現れる。
「カミル? どうしたんだ」
「どうしたんだじゃないわよ! あの後全然顔も見せないで、こんな所で何してるの!?」
「えっ、あ……」
そういえばイベント中、白鹿庵からの出発前に色々言ったような……。
そのあとの出来事に忙殺されてすっかり忘れてしまっていた。
「レティたちに聞いても何時帰るか分からないって言われるし……。アンタ、アタシの雇い主っていう自覚あるの!?」
「す、すまん。ちょっとうっかりしてた」
「~~~~!!」
言葉にならない声をあげ、カミルがぽかぽかと殴ってくる。
そんな彼女をどうすることもできず、俺は赤髪を撫でる。
「カミル、ほんとにNPCなんですかね……」
「凄い情緒不安定だねぇ」
「羨ましいですね」
「微笑ましいわぁ」
女性陣の皆さんに見守られながら、なんとか彼女が落ち着くまで待つ。
瞳を濡らしたカミルは、ラクトに勧められたピザを両手で持ってはむはむと食べる。
「白鹿庵が全員揃ってしまったな」
「ていうかカミルちゃん普通にごはん食べるんですね。誘えば良かったです」
「レティが普段食べてるようなのは食べないんじゃないかなぁ」
少し窮屈になったボックス席で、改めて白鹿庵のメンバーを眺める。
レティと出会ったのは全くの偶然だったし、彼女と二人で遊んでいる時はこんなに沢山の仲間ができるとは思っていなかった。
人付き合いは苦手な方だと思っていたが、今では彼女たちが居ない世界が考えられないほどになっている。
いや、彼女だけではない。
レングス、ひまわり、アストラ、ネヴァ……。
思えばこの短い時間の中で驚くほど多くの人々と出会い、関係を築いてきた。
そして恐らくは、これからも。
「ありがとう。……いや、これからもよろしく、かな?」
口の中で言葉を転がす。
誰の耳にも届かない筈だったが、正面に座った少女の長い耳がピクリと揺れる。
「こちらこそ、ですよ」
そう言った彼女の丸い瞳がキラリと輝いた。
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Tips
◇ヴォルケイノペスカトーレ(メガ盛り)
新天地チャレンジ料理の一つ。
マスターが独自に配合した数十種類のスパイスによる香り高く複雑な味わいと、数種類の貝や甲殻類の深い旨味を、火傷するほど強烈な辛さによって覆い隠した至極の一皿。
ちなみにメガ盛りはおよそ五人前であるため、取り分け用の小皿とトングも付いてくる。
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