第194話「プロビデンス」※

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「エインヘリアルの皆さん、こんにちワルキューレ♪ 今日も放送をご覧下さりありがとうございます。ワルキューレ姉妹が長女、テファですわ」


◇エインヘリアル

わこ


◇エインヘリアル

もう再開ですか


◇エインヘリアル

休憩おわりー


◇エインヘリアル

あれ、断崖にいるのか


「わこありですわ。少々休憩を頂いておりましたが、先ほど〈翼の盟約〉のレッジ様から撮影班に招集が掛かりまして、作戦が次の段階へ進行したことを知らされましたの」


◇エインヘリアル

なるほど


◇エインヘリアル

やっと進んだのか


◇エインヘリアル

ずっと音沙汰無かったもんな


◇エインヘリアル

なんかクロウリたちが忙しくしてたみたいだが


「はい。そこで撮影班の私たちはダマスカス組合の技師様方が量産されたこの、えっと、じっすうちかんそくき? 付きどろーんというアイテムを預かって来ましたの」


◇エインヘリアル

じっすうきつきどろーん?


◇エインヘリアル

未来の秘密な道具みたいだな


◇エインヘリアル

ドローンって割には結構ごついなぁ


◇エインヘリアル

で、それをどう使うんだい


「はい。なんでもこのドローンは未発見の朽ちた祠も見付けることができるハイテクな物らしく、それを四つのフィールドで沢山飛ばすことで一気に見付けてしまおうという作戦らしいですの」


◇エインヘリアル

テファさん機械物結構苦手っぽいよね


◇エインヘリアル

ハイテクとか今日日聞かないぞ


「う、うっさいですわよ!? そこはいまどうでもいいですの! とりあえず〈撮影〉スキルと〈機械操作〉スキルを持つ私は、ここ〈竜鳴の断崖〉の調査隊長を任されたのですわ!」


◇エインヘリアル

なるほど


◇エインヘリアル

テファさん機械操作も持ってるからドローン操作できんのか


◇エインヘリアル

ていうかさらっとえげつないモン開発してんな


◇エインヘリアル

原理がなんも分からん


◇エインヘリアル

しかし調査隊といいつつ姉さん一人だけしかいなくね?


◇エインヘリアル

調査隊(一人)


◇エインヘリアル

隊員募集中?


「残りの皆さんはもうフィールド各地へ分散していますわ。万が一どろーんが墜落した際の回収役と、あとはびーこん設置の役をしてもらっていますの」


◇エインヘリアル

ビーコンとな


◇エインヘリアル

また聞き覚えのない単語を


◇エインヘリアル

無理しなくてええんやで


「び、びーこんくらい分かりますわ! えっと、だふしすてむの、お、おぶ……えっと観測者の精度を更に補強するための位置情報発信装置、ですのよ!」


◇エインヘリアル

カンペ見えてますよ


◇エインヘリアル

ていうかDAFっつったか?


◇エインヘリアル

そういえばレッジってそんなん作ってたな


◇エインヘリアル

あのバカみたいなロマンの塊だろ


◇エインヘリアル

えっ、じゃあレッジさんも今その辺にいるの?


「レッジさんはここにはいらっしゃいませんわ。あの方はスサノオの翼の砦ウィングフォートに設置した総合指令本部で待機していますの」


◇エインヘリアル

つまり?


◇エインヘリアル

なんか今回の作戦の全貌がよく分からんな


「今、この断崖以外にも草原、瀑布、霊峰の四つのフィールド全てに調査隊とどろーんが持ち込まれていますの。私たち〈機械操作〉と〈撮影〉スキルを持った人員の役目はどろーんをレッジ様の指示通りに動かすこと。どろーんから送られてきた情報は各隊長の〈機械操作〉スキルを使って中継器を経ながらスサノオの総合指令本部へ転送されますの」


◇エインヘリアル

なんか壮大だな


◇エインヘリアル

つまりレッジはスサノオで四つのフィールドの情報を一括で管理するってこと


◇エインヘリアル

それは流石にキツくないか?


◇エインヘリアル

まあ何人かで並列処理するんでしょ


「〈機械操作〉と〈撮影〉の両方を持った方があまりいらっしゃらないので、中央でレッジ様が全て制御するらしいですわ」


◇エインヘリアル

やっぱ頭おかしいよ・・・


◇エインヘリアル

できるのかそれ


◇エインヘリアル

四箇所から送られてくるデータを一気に処理できるだけの頭があればできるぞ


◇エインヘリアル

脳みそチンされそう


「そろそろ時間ですわね。では、どろーん起動しましょう!」


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 ロングタンイグアナの生皮を綺麗な水で良く洗い、流水の中に一晩浸ける。

 そうするとゼリー状の体液と皮に染みこんだ血、鱗の隙間に挟まった泥が取れて綺麗な状態になる。

 それを今度は十分な量の塩の中に埋め、数日。


「ロングタンイグアナの塩漬け生皮。多少手間は掛かるが、珍味らしいんだよな」


 カミルに預けていた壺を翼の砦ウィングフォートのキッチンで開ける。

 湿った塩を掘り進めると、事前に仕込んでおいたロングタンイグアナの生皮が現れた。


「ほう、色が抜けて透明になるんだな。それになんか、もちもちしてる」


 取り出した生皮を流水ですすぎ、塩を落とす。

 これをまた綺麗な水に浸けること約1時間。


「おお……。ぷるんぷるんだ!」


 ボウルから取り出したそれは、見事にプルプルになった透明の物体になっていた。

 生臭さは無く、腐敗の兆候もない。

 どうやら加工は成功したようだ。


「で、これはどうやって食べれば良いんだ?」


 見た目は信玄餅を細長く伸ばしたような感じだが、別に信玄餅ではない。

 黒蜜とか合うのだろうか?


「とりあえず、刺身か?」


 端の方を切って試食してみる。


「ん~~~? なんか、水だな」


 じんわりと融けるように、存在感が消えていく。

 無味無臭で何を食べているという感想も出てこない。


「炙ってみるか?」


 バーナーを取り出し、遠目から火を向ける。

 プスプスと音を立てながら表面が焦げ、薄い膜を作る。


「ふむ」


 中までは火を通らない程度に抑え、薄く切って試食。


「おお!? こ、これは――」

「レッジさん何してるんですか!」

「おおわっ!?」


 突然キッチンの扉が開き、レティが声を上げる。

 驚いた拍子に口の中のものを飲み込んでしまい、空虚な感覚が後に残る。


「もうすぐ時間ですよ。って、何食べてるんですか?」

「ロングタンイグアナの生皮だが」

「うえええ……」


 すごく、人ではないものを見るような視線を向けられる。

 そんなにおかしいか。


「いやいや、でも美味しいんだよ。ほら、火を通すとな」

「えええ、嫌ですよ。シャケの皮も食べないタイプなんですよ」

「そういうのとはベクトルが違うから。これ単体で完成されてる料理なんだって」


 拒否感を全面に出して嫌がるレティに、新たに切った皮の切り身をフォークに刺して差し出す。


「お願いだから、一口だけでも、ちょびっとでいいんだ。ほんと、食べてみてくれ。お願いです……」

「うぐ……そ、そこまでいうなら……」


 首を捻って口を遠ざけていたレティも最後には観念したようだ。


「んぁ」

「……?」

「なにしてるんですか。あーん」


 ヒナ鳥のように大きく開けた口をこちらに向けるウサミミの少女が一人。


「えっ」

「えっ、ってなんですか!」

「いや、まあ、はい……。えっと、あーん」

「あーん」


 少し戸惑ってしまったが恐る恐る切り身を入れる。

 ぱくりと口が閉じ、濡れたフォークが引き抜かれる。

 もむもむと口を動かしていたレティの猜疑的な赤い瞳は、やがてだんだんと驚愕の色に染まる。


「なんですかこれ!? めちゃくちゃ美味しいです!」

「だろ、めちゃくちゃ美味しいだろ!」

「はい。めちゃくちゃ美味しい――炙りサーモンです」


 うん。

 そうなのだ。

 丁寧に水で洗い、汚れを落とし、水に浸け、塩に埋め、丹精込めて作ったロングタンイグアナの生皮の炙りは――美味しい炙りサーモンの味そのものだった。


「……普通に炙りサーモン食べた方が良くないですか?」

「そ、そういう問題じゃないから! 陸の生き物でサーモンの味がする不思議がいいんだって。あとビジュアルが信玄餅だし」

「見た目が表面を炙った透明プルプル物体で、味が炙りサーモンって普通に脳が混乱しますよ」

「寿司にしても美味いかもな」

「白いシャリに透明のネタ……。ビジュアル悪くないですか?」

「一周回って俺はアリだと思うぞ」


 手早く白米を炊いて、シャリにする。

 にぎり寿司のレシピは覚えているから、ネタにロングタンイグアナの塩漬け生皮の炙りを使えば、すぐにロングタンイグアナ寿司のできあがりだ。


「ほら一丁あがりってな」

「無駄な行動力……。いただきます」


 醤油を付けてレティが食べる。


「炙りサーモン寿司ですね」

「やっぱりそうか」


 まあでも見た目からの意外性という面ではなかなかいいのでは?

 一応レシピ登録して大量生産できるように……。


「ってそうじゃないですよ! もうすぐ作戦開始時刻なんですから、総合指令本部に来て下さい!」

「分かったよ。あ、とりあえず十貫作ったからエイミーたちにも」

「あ、ありがとうございます」

「右がサビあり、左がサビ抜きな」

「分かりました、気をつけますね。じゃないんですってば!」

「はいはい」


 言いつつもしっかりと寿司桶は抱えたレティに背中を押され、キッチンを出る。

 長い廊下を進み、エレベーターに乗り、俺はこの砦の中でも一際大きな会議室の扉を開く。


「待ってましたよ。何をしてたんですか?」


 待ち構えていたアストラに声を掛けられる。


「ちょっと息抜きをな。準備は?」

「各地の隊は準備を終えてます。あとは時間を待つだけですね」

「了解。――〈統率者リーダー〉全十五機も正常そうだ。〈観測者オブザーバー〉も配置完了済み。中継器も計器オールグリーン」


 平時ならば一分の狂いも無く整然と並べられている机と椅子は、今は隣の部屋へと追いやられている。

 代わりに広い会議室内を埋めているのは黒い長方形のモノリス十五機と、円形に並んだそれらの背後から伸びる太いケーブルの束。


「地図は?」

「準備できていますよ。筆記班も配置完了済みです」

「よし、じゃあできるな」


 〈統率者リーダー〉に囲まれた部屋の中心に立つ。

 モノリス一つにつき五枚――七十五枚のディスプレイを身体の周囲に展開し、パラメータを確認。

 TELを繋ぎ、各地に待機している調査隊へと声を届ける。


「皆、協力してくれてありがとう。準備はできているようだな。では――」


 モノリスが青いランプを光らせ、その表面に幾何学的なラインを走らせる。

 同時に室内の温度が急激に上昇し、控えていたラクトたちアーツ使いが氷の壁を生成し始める。


「これよりプロビデンス作戦を開始する!」


 予定された時刻。

 太陽が天頂へと至り、影が消え、上空から地表が露わになるこの時に、各地から大型のドローンが一斉に羽ばたいた。


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Tips

◇炙りロングタンイグアナの塩漬け生皮寿司

 通常は食用に向かないロングタンイグアナの生皮を狂気的な執念によって食べられるように加工したものを寿司飯と共に握った料理。

 臭みが無く、絶妙な甘さと脂を感じる絶品の炙りサーモンのような味がする。

 加工の手間と信玄餅のような見た目を考えなければ入手も容易で手軽に美味しい。


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