第125話「対峙するふたり」
「〈
「そんなの絶対嫌ですよ! レティの考えた〈六人の超勇者たち〉の方がいいです!」
侃々諤々と言い争い、互いに引かないレティとラクト。
ぶっちゃけ中学生か小学生かくらいの差しかないと思うのだが……。
「二人とも、そろそろ決めない? じゃんけんでもいいからさ」
ぐったりとした様子のエイミーが提案すると、さっきまでいがみ合っていた二人は息を揃えてそれを拒否する。
「絶対に嫌です」
「レティのはネーミングセンスがないんだもん」
「えぇー……」
きっぱりと拒絶されたエイミーは眉を八の字にして絶句する。
俺たちのバンドの顔でもある名前を決めようとしてから、すでに一時間ちかくが経とうとしていた。
「こうなっては埒が明きません。レッジさんはどっちがいいと思いますか?」
「そうだね。リーダーに決めて貰った方がいいよね」
「え、えっ!?」
突然矛先を向けられてコーヒーを零しそうになる。
どっちも嫌とか言ったらまた面倒くさいことになるんだろうな。
「あー、そうだな。ミカゲはどっちがいい?」
「……姉さん」
「はわっ!? わ、私ですか!?」
ミカゲはさらりと姉を売った。
レティとラクトの視線がトーカの方へ向き、のんびり緑茶を飲んでいた彼女はさっきの俺のように取り乱す。
「そ、そうですね。えっと……」
「〈
「〈六人の超勇者たち〉ですよね」
「えっとぉ……」
ずいずいと二人に詰め寄られたトーカは黒い瞳を潤ませる。
ミカゲは身を縮めて気配を消しているし、エイミーはレティたちの後ろでごめんと手を合わせている。
「どちらにしてもどちらかが納得いかないんですよね。それならいっそ、リーダーであるレッジさんに別の名前を考えて貰った方がいいと思います」
「うぐっ」
蹴ったボールが返ってきてしまった。
レティたちは互いに声を潜ませ長い協議の末、不承不承といった様子ながらもトーカの提案に同意した。
そうしたら途端に困るのが俺である。
「えっと」
「レッジさん、いい名前をお願いしますね」
「かっこいいやつがいいなぁ」
目が据わった二人に迫られる。
なんで名前一つでここまでややこしいことになってしまったのか。
「……」
_/_/_/_/_/
◇ななしの調査隊員
バンドの名前、安価で決める
>>345
_/_/_/_/_/
「スレで決めようとしないでください!」
キーボードに置いた手はレティとラクトの息の合った動きで取り上げられる。
二人とも仲良しじゃないか。
「えー……。じゃあなんか考えるから、恨みっこ無しだぞ」
しかたがないので無い頭を捻ることにする。
はっきり言って俺に求められるようなネーミングセンスはないのだが……。
そもそも、レティとラクトの二人が対立する前に一度、全員が一つずつ案を出していたのだ。
エイミーは俺たち六人の頭文字を並べた〈LALTRM〉という名前を、トーカは〈花鳥風月〉、ミカゲは〈雪月花〉をそれぞれ挙げていた。
俺はその三つのうちのどれかがいいと思ったのだが。
「エイミーのは読めない」
「トーカとミカゲのはどこかしらと被りそうですねぇ」
などと自分たちのことを棚に上げた二人によって却下されてしまった。
そんなことをしてしまったから、エイミーなどはしばらくの間少しむくれてしまったし、トーカたちもしゅんとしてしまったのだ。
「どんなバンドにしたいのかねぇ」
俺はひとまず、バンドの目指す方向性から考えることにした。
俺たちは別に大鷲の騎士団や黒長靴猫のように攻略組の先頭に立とうとは思っていない。
かといってプロメテウス工業やダマスカス組合のような生産職グループでもない。
ゆるくのんびり、自分たちの気の向くままに楽しくゲームを遊ぶことを目的にしている。
とりあえず、俺はそうだ。
「しかしな、トーカたちは割とガチ勢だよな」
「ガチ勢かどうかはあまり自信がありませんが、そのように認識されていることは知ってますね」
無意識的に呟いた言葉にトーカが頬を赤らめて俯いた。
彼女は単純に刀が好きでその技を追求しているうちに、いつの間にかその界隈の先頭をひた走る存在になっている。
それを言えば、俺も似たようなものか。
自覚は無いが気がつけば〈野営〉と〈解体〉スキルに於いてはアストラたちにも認められるようになっている。
ゆるふわエンジョイ勢を自称しているが、それをバンドネームに付けるのも違ってしまう気がする。
「となると……」
大鷲の騎士団のように、何かしら動物の名前を冠するのも良いかもしれない。
あそこはアストラのパートナーであるアーサーが大鷲だし丁度いい。
「……」
テーブルの下でぐうぐうと眠っている鹿を見下ろす。
白月は俺の傍をずっと離れないし、もう俺たちのバンドのマスコットと言ってもいいのでは?
「……〈白鹿庵〉」
その名前は自然と口から転び出た。
言って初めて気がついて、我ながらその名前に驚いてしまう。
白い鹿の庵。
彼がすやすやと心安らかに落ち着けるような、居心地の良い場所を作る。
……それは、あの白樹の根元のように。
「〈白鹿庵〉ですか。いいんじゃない? 語呂もいいし、私は好きよ」
「私もとてもいいと思います。なんだかとっても落ち着いていて、穏やかな気持ちになります」
「……」
ミカゲも言葉はないがしっかりと頷いてくれる。
三人の反応は上々だ。
そして問題の二人は……、
「はくろくあん、はくろくあん……。〈
「良いと思う。白月はうちの看板みたいな子だし、オンリーワンな感じがするよ」
そんな二人の反応にほっと胸をなで下ろす。
無事に全員の了承を得られることができた。
「それじゃあバンドネームは〈白鹿庵〉でいいな」
テーブルを見渡して最終確認。
五人全員が頷いて、テーブルの下で白月が大きなあくびをした。
「ふぅ、よかった」
自分の案が通った喜びよりも長い議論が落ち着いた喜びの方が大きいが、ひとまずこれで決着はついた。
コーヒーがうまい。
「これで決めることは全部決めたか?」
「はい。あとは10万ビットを持って、中央制御塔にある受付で登録を済ませるだけですね」
「そのあとはガレージ探しね。町中のいろんな建物の中から選べるらしいわよ」
10万ビットか。
先日破産して借金を背負っている俺には出せない金額だ。
「とりあえず結成金はレティが立て替えますよ」
「ありがとう……」
また借金が増えてしまった。
先の作戦の際にはレティだけでなくラクトやエイミーにも金を借りている。
利子無し無期限といってくれているとは言え、流石に申し訳が立たない。
頑張って稼がねば。
「でも、ガレージも結構良いお値段するんじゃないの?」
「そうですねぇ。六人なので小さいもので良いとは言え、それなりにするらしいです」
バンドの結成金だけでなく、拠点となるガレージにも金がかかる。
買い切り型と賃貸型があるらしいがどちらにせよ値段は張る。
あまりに安すぎると色々不便もあるようだし、選ぶ際には慎重にならなければならない。
「ガレージか。利便性のいい所はすでに取られてるかもな」
大通りに面していたり、ベースラインに近い物件もあることにはあるのだろうが、そういった所はすでにアストラたちのような資金に余裕のあるグループが抑えていても不思議ではない。
そもそもそういった所はやはり金が掛かるので手が出ないのかもしれないが。
「ぶっちゃけ、レティは利便性あんまり気にしないですけどね。それよりも間取りですよ間取り!」
ジュースで喉を潤してレティが言う。
「やっぱり全員分の個室は欲しいですよね。全員が集まれる大部屋も。あとはキッチンがあればレッジさんが料理を振る舞ってくれるし、修練所があれば皆で模擬戦ができます」
俺が料理するのは確定事項なのか。
ていうかかなり要求が重いが、そんなに良い物件が残っているのだろうか。
「NPC販売員を雇うなら、ある程度人通りのいいところじゃないとダメじゃない?」
「あら、人気の無い所にひっそりと立つお店っていうのも名店っぽくていいと思うわよ」
「販売に有利なところはダマスカス組合などが取っていそうですしね」
その後もベッドはシングルよりセミダブルの方がいいやら、コンロは二口以上欲しいやらとまるで一人暮らしを始める大学生のような盛り上がりを見せる女性陣。
「ミカゲは何か要望あるか?」
「……落ち着ける、場所」
わいのわいのと騒ぐレティたちを見て、ミカゲは遠い目で言う。
とりあえずどんな物件にしようとも彼の意見だけは尊重しよう。
「よしよし、四人ともそこまでだ。とりあえずバンドの結成だけしてしまおう」
三人寄れば姦しい、四人もいれば尚更だ。
立ち上がってそれなりに声を張ってようやく彼女たちは俺に気がついた。
「そうですね。何はともあれ結成しなければ!」
ピョンと立ち上がるレティに続く三人。
俺たちは新天地を出て、中央制御区域へと足を向けた。
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Tips
◇バンド
シード02の建設による地上演算能力の拡大及び、調査開拓領域の拡大による機械人形の統率力強化の必要性を鑑み、アマテラスによって考案・制定されたシステム。複数人の機械人形による集団を形成し、より効率的な調査開拓活動の促進を行う。
一つのバンドは5人以上の機械人形によって形成され、バンド専用掲示板や共有通話回線、ガレージなどの専用機能が解放される。
更に拠点保安課よりメイドロイドを最低1体貸与される。
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