第124話「最後のふたり」

 スサノオ02はまだ中央制御塔とその周辺のベースラインしか存在しない。

 落ち着いて話せるような場所はまだ建っていないため、俺たちは待ち合わせ場所をいつもの新天地に指定した。

 いつもの窓際の席、ではなく奥にあるテーブルとソファの備えられた大人数用の個室を借りて、のんびりとコーヒーなど嗜みつつ目的の人物の到着を待つ。


「ああもう、なんで気がつかなかったんでしょう。レティたち全員が顔見知りで、それも仲良くさせていただいているのに……」

「レティは固執しすぎなんだよねぇ。かくいうわたしも気付かなかったから人のこと言えないけど」

「やっぱりレッジに相談するとすぐに話が進むわねぇ」


 ぷるぷるとうさ耳を振ってテーブルに突っ伏すレティとそれを慰める二人。

 どう言ったものかも分からず、とりあえず俺はドアが開くのを待つ。

 そしてそれほど時間も経ずに、ドアの向こうに人影が現れる。

 控えめなノックと共に少しだけドアが開き、艶やかな黒髪が隙間から垂れる。


「すみません、お待たせしました」

「いやいや。こっちこそ急に呼んで悪いな」


 現れたのは桃の花柄の着物と黒い袴を装う少女と黒装束の少年。

 和装の双子姉弟、トーカとミカゲだった。


「とりあえず座ってくれよ」

「は、はい……。では失礼します」


 緊張した面持ちのトーカたちを椅子に促し、対面する。


「……」

「あの」

「はひっ!」


 レティが声を掛けると、トーカが可愛らしい悲鳴を上げる。

 驚いたのはレティのほうでおろおろと困惑する。


「ええ、ちょ、なんでそんな驚いてるんですか?」

「いえその、突然呼び出されたので何か粗相をしてしまったのかと……」

「えっ」

「えっ?」


 しゅんと肩を縮めるトーカに今度は俺たちが驚く番だ。


「あの、レッジさん?」

「はい……」

「トーカさんたちに用件は……」

「…………伝えてませんねぇ」


 話したいことがあるから喫茶〈新天地〉まで来てくれと言った。

 思い返してみれば、なるほどこれは確かに。


「なんで用件を伝えないんですか! いやレッジさんに任せたレティも悪いかも知れませんが、二人ともめちゃめちゃ怖がってるじゃないですか!」

「す、すまん。これはほんとに申し訳ない」


 詰め寄るレティに俺はただただ低頭するしかない。

 これは完全に俺の過失だった。


「あ、あの、えっとそれで、今回はどういった……?」


 内輪で揉め始めた俺とレティにあわあわと狼狽しながらトーカが言う。

 レティは恥ずかしそうに一つ咳払いをして、改めて本題に入った。


「ええと、お二人に少しお誘いがありまして……」


 そうして彼女は『バンド』システムが実装したこと、バンドを結成するには5人以上のメンバーが必要なことを説明し、俺たちと共にバンドを結成しないかと二人を誘う。


「なるほど……。そういうことでしたか」


 オレンジジュースに刺したストローを唇から離し、トーカは頷く。

 心なしかほっとしている様子で、隣のミカゲも覆面の隙間から覗く目が和らいでいる。


「どう、でしょうか……」


 不安半分期待半分という目でトーカを見るレティ。

 彼女たちは当然、この誘いを断ることもできる。

 トーカはミカゲと顔を合わせ、同時に頷く。


「私たちでよければぜひ、ご一緒させてください」

「~~~! あ、ありがとうございますっ!」


 にこやかな笑みと共に頷かれ、レティは感極まって立ち上がる。

 ラクトとエイミーも胸をなで下ろし、互いに良かったと声を掛け合っていた。


「人数合わせみたいになってしまって申し訳ないが、二人と一緒に遊びたいという思いは本当なんだ」

「密林やイベントで一緒に戦った仲ですし、本当に嬉しいです!」


 トーカたちと出会ったのは俺が〈彩鳥の密林〉での回復要員として同行したのが始まりだ。

 その時はレティが勝手に着いてきていた。

 ラクトとエイミーはそのあと、第1回イベントの際に共に蟹の群れに突っ込んだという思い出がある。

 俺たち四人と面識があり、更には関係も良好。

 よくよく考えてみれば、これ以上ないほどのメンバー候補だった。


「まさかレッジさんたちのバンドに誘って頂けるなんて、驚きました」

「……予想外」


 トーカたちに連絡するときに用件を言わなかったのは本当に申し訳ない。

 俺の悪い癖だ。


「それじゃあ早速バンド結成届を出しに行きましょう!」


 椅子を飛ばして立ち上がりレティが威勢良く放つ。


「まあ落ち着けって」


 そんな彼女の肩を掴み、ラクトが戻した椅子に座らせる。

 彼女は彼女で一人突っ走るところがあるな。


「とりあえず色々決めにゃならんだろ。リーダーやらサブリーダーやら、名前もそうだし」

「何言ってるんですか。リーダーはレッジさんですよ」

「は?」

「えっ?」


 きょとんとした顔で断言するレティ。

 虚を突かれた俺が目を見張ると、ラクトとエイミーが頷く。

 なんで本人の与り知らぬところで既定路線が決まってるんだ。


「いやいや、レティが組みたいって言ったんだからレティがリーダーじゃないのか?」

「だってレティはリーダーって柄じゃないですし。一人で勝手に突っ走っちゃうので」

「自覚あるのかよ!? えっと、じゃあラクトは……」

「わたしもリーダーって柄じゃないよ。この前の迎撃作戦の時もレッジがリーダーみたいな感じだったじゃん」

「あれは成り行きで……」

「私もレッジがリーダーで良いと思うよ。まずこのパーティのリーダーがレッジだし」

「一番反論しづらいことを……っ!」


 エイミーの言葉がトドメになり、俺はぐったりと背もたれに身体を預ける。


「トーカたちは? 異論があったりは」

「むしろレッジさんがリーダーじゃないんですか?」

「うぅん……」


 純真な黒い瞳で見返されては何も言えない。

 俺は逃げるようにwikiを開き、バンドリーダーの役目を調べる。


「リーダーの仕事は、メンバーの管理。あとは結成金の納入とガレージ管理。……要は事務職員みたいな感じか」

「なんか色々違う気もしますけど。とりあえずはバンドの最高権限者としての役割ですよね。ちなみにサブリーダーはリーダーが許可した色々なことができるって感じです」

「なるほどな。じゃあ全権委任させて名ばかりリーダーになればいいってことだ」

「初っぱなから働く気ゼロですねぇ」


 そうは言われても、どこにやる気を見出せばいいというのだ。


「レッジ、キャンプのカスタムとか好きだったんでしょ? ならガレージの増改築も性に合ってるんじゃないの?」


 エイミーの言葉にぴくりと心が動く。

 そういえばそんな機能もあったな。

 サブリーダーはいちいちリーダーの許可を得ないとガレージに手を加えることができないが、リーダーは自由にできるらしい。

 ……ふむ。


「やろうか、リーダー」

「やった! それでこそレッジさんですよ!」


 なんか誘導された感じがすごいするけど、まあいい。

 俺をリーダーにした皆が悪い。

 勝手にガレージを魔改造しても文句は言わせんからな。


「じゃあリーダーは決まりましたし、サブはどうします?」

「レティでいいんじゃないの?」

「私も賛成よ」

「私もそれが良いかと思います」

「……同じく」


 リーダーに比べてサブリーダーは一瞬で決まる。

 サブリーダーはバンドの規模に応じて複数人選べるようになるらしいが、最低人数ギリギリの俺たちは一人だけらしい。

 というわけでレティがサブリーダーに就任することになりました。


「あとは……バンドネームか」


 wikiを確認しながら次の議題を探す。

 バンドネームか。

 まあ皆から適当に聞いて、すぐに決まるだろう。


「ふむ……」

「来たね」

「よぅし」

「こ、こればかりは!」

「……!」


 そんな俺の甘い思惑は、数秒後に容易く破かれてしまうのだった。


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Tips

◇ロール

 特定のスキル条件を満たすことで就くことができる職業。一つのスキルだけのものから、複数のスキル条件を満たさなければ就けない職業まで様々。条件を満たした上で特定の任務などを達成することで特殊な固有の能力アビリティを得られる。ロールはフレンドカードに記入することが可能。


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