第112話「会議は弾む」

 キャンプの中に並べられたテーブルを囲むプレイヤー達。

 俺は立場上、一番奥の席に座って彼らの顔を見渡した。

 レティ、ラクト、エイミーといった馴染みのある顔が並んでいるかと思えば、アストラやケット、メルなどの攻略大手の長とムラサメ、タンガン、クロウリという生産大手まで。

 キャンプの中で行われているのは、スサノオ02迎撃作戦立案会議だった。

 キャンプの外にも大勢のプレイヤーたちが待っているが、全員で話し合っても船が山に登りかねない。

 そこで各グループの長などの影響力の強い人物を選出し、彼らが代表として話し合いの席に着くことになったのだった。


「これはなかなか見られる光景じゃありませんね」


 隣に座っているレティが声を硬くして言う。

 彼女だけではない、およそ俺以外全ての人が多少の差はあれど表情に緊張の色を滲ませていた。


「今までこんなに沢山の有名人が同じ卓に着いたことってないんじゃない?」

「あぁ、場違い感が凄いよ……」


 ラクトなどは若干顔を青くして、胃のあたりに手を押しつけている。

 とはいえ、ここからは俺が始めなければならない。

 腹をくくって、椅子を引く。


「あー、こほん。まずは皆、集まってくれてありがとう。それだけでも十分うれしい」


 声を放つと、一斉に視線があつまる。

 反射的に足をずらしそうになるが、なんとか押さえ込んで言葉を続けた。


「だが、俺の最終目標は今じゃない。さっき言ったとおり、三時間後に落ちてくるスサノオからあの樹を守りたい。

 そのために俺は二つの手段を考えている。

 一つは、今いるキャンプを更に拡張して、白樹をすっぽりと覆うこと。

 二つめは、スサノオを直接叩くことで勢いを減衰させること。

 ただ俺のキャンプとパーティの火力だけじゃあ到底敵わないだろう。だから、皆に手伝って貰いたい」


 そういって周囲を見渡すと、彼らはしっかりと頷いてくれる。

 心強い反応に胸をなで下ろし、俺は更に奥へと話を進める。


「まず、キャンプの拡張だが……」

「それは俺の得意分野だな。任せろ」


 威勢良く声を挙げたのは、作務衣を来たゴーレムの男。

 たしかムラサメという名前だったはずだ。

 鍛冶特化のビルドを構成した生粋の鍛冶師で、今回も一番に名乗りを挙げてくれた。


「プロメテウス工業も金属加工は領分だ。資材も大量に備蓄しておるから、支援できるじゃろ」

「ダマスカスだって負けてねぇぞ」

「私も鍛冶には一家言あるからね。手伝うわよ」


 生産スキルを得意とする面々が立ち上がり、胸を叩く。


「ダマスカス組合は前のイベントでバリケードを作ってたよな、アレと同じようなものを作れないか?」

「あれは横に並べてたが、今回は縦に積み上げる必要があるな。……設計班に連絡を入れておく」


 小柄なフェアリーの少年、クロウリはそう言ってどこかに通話を掛ける。


「しかし、スサノオ02の大きさが分からんのは少々骨が折れるぞ」


 プロメテウス工業のタンガン=スキーはそう言って悩ましげに眉を寄せる。

 彼の言うとおり、今回降ってくる物体の規模を俺たちは何も知らないのだ。


「それなら、おおよその予測は立っていますよ」


 そこへ手を挙げたのは、ひまわりとレングスのペアだった。

 突如口を開いた彼女を見て、タンガンが首を傾げる。


「なに? お主らはたしか……」

「wiki編集者のひまわりと、こっちのオヤジはレングスと申します。スサノオ01の地下トンネルを含めた詳細な地図がつい先日完成しまして。それを基にある程度の予想ができます」


 そう言ってひまわりがテーブルの真ん中に地図を広げる。

 精緻な線で描かれているのはスサノオの地図。

 しかも一枚だけでなく、いくつかの階層に分かれて描かれた三次元的なものだ。


「おお、このようなものが……」

「こうしてみるとスサノオも広いですね」


 タンガンが驚き、アストラが嘆息する。

 彼らだけでなくテーブルを囲む多くの者が、自分たちの拠点について何も知らないことを思い知らされた。


「確かにスサノオは広いが、その中核は案外小せえ。中央制御区域の一番真ん中、制御塔がコアだ」

「もっと言えば、制御塔の頂点にある中枢演算装置〈クサナギ〉。これがスサノオ01の心臓なのです」


 赤いマーカーで地図の中央にマルを付け、ひまわりが指し示す。

 その大きさは、都市の全容と比較すると米粒ほどの大きさだった。


「シードというのは、この中枢演算装置のことなんでしょうか?」

「あんまり質量が大きいものを宇宙船に積み込むのは合理的じゃないよね。殆どの資材は現地調達なんじゃないかな?」

「本当にこの程度の大きさなら、希望はありますね」


 ひまわりが具体的な大きさを示してくれたことで、議論も加速していく。

 俺のキャンプを更に強化する他にもダマスカス組合が主導してバリケードが建てられ、更には迎撃用の大型兵器も設置されることになった。


「大砲やらバリスタやら、発想自体はあったが設置する場所がなくてのう。技師も腕が鳴るじゃろうて」


 タンガンはそう言って笑い、すぐさま自身の組織へと連絡を取る。


「にゃあ、最悪シードの軌道をずらせばなんとかなるよね」


 ケットが手を挙げて言う。

 たしかに、軌道さえ逸らすことができるなら目標は達成できる。


「それなら、真っ正面から攻撃するより側面から衝撃を与えた方が良さそうかもにゃー」

「狙いは付けづらくなるが、そこはまあワシらの技量だな」

「質より量という言葉もありますし、面で攻撃すればいけると思いますよ」


 ここに顔を連ねる組織の中でも一際大所帯のアストラが胸を張り、自信満々に断言する。


「迎撃班が待つための櫓も建設したほうが良さそうじゃな」

「配置も考えなくては……」


 具体的なことが一つ決まると、芋づる式に課題が露わになっていく。

 彼らはそれら一つ一つを丁寧に分析し、解決策を提示しては検討する。


「レッジ、そろそろキャンプの強化に移った方がいいんじゃないの?」


 ネヴァが手を挙げてそんなことを言う。

 時刻を確認すれば、すでに1時間が経過していた。


「そうだな。一回スサノオに戻らないと」

「ワシらも準備のため戻る必要がある。行動開始と行こうか」


 計画のおおよそは見えたと言うことで会議は締められる。

 各々が準備のため町へ戻り、それぞれの組織へと情報を伝達していくなか、俺はネヴァを呼び止めた。


「ネヴァ、そう言えば一つ見せたいものがあるんだが……」

「あら、何かしら」


 首を傾げる彼女に、俺はインベントリから取り出したアイテムを見せる。


「これは……隕鉄の欠片? 聞いたことがないわね」

「なんじゃなんじゃ? 面白そうなものを持っておるな」

「どうしたんです?」


 ネヴァが手のひらの上に転がしたそれを目聡く見付け、職人達が寄ってくる。

 彼らはそれを見て、そろって首を傾げた。


「確かに見たことがないアイテムじゃな」

「俺も知らねえな。これ、どこで手に入れたんだ」


 ムラサメに尋ねられ、俺は白樹を指さす。


「昨日、白樹の芽を押しつぶしてた岩なんだ。それを壊したら通話もできるようになった」

「なるほどな。名前からして隕石なんだろうが……」

「レッジ、これをどうして私に?」


 ネヴァが欠片をそっと握って言う。


「ネヴァなら何かに使ってくれないかと思ってな。かなり大きな岩だったから、纏まった数はあるんだ」

「なるほど……。面白そうね」

「のう、レッジ」

「どうした?」


 タンガンがぬっと顔を割り込んできて俺を見る。

 素朴な顔の老爺はニコニコとしたまま口を開く。


「そのアイテム、ワシにもいくつか預けてくれんか」

「そ、それなら俺も!」

「俺も一枚噛ませて貰いたい」


 更にはムラサメ、クロウリも続き、目をキラキラと輝かせる。

 生粋の職人だけあって、こういうものには目が無いらしい。


「いいよ。何かに活用してくれたら嬉しい」

「ふふふ、レッジはお人好しねぇ」


 呆れたようなネヴァに言われるが、俺が持っていても仕方ないのだ。

 隕鉄の欠片を受け取ったタンガンたちは早速スサノオの工房へと帰還していき、俺もまたスサノオへと戻る。

 そうして、キャンプの強化のためアルドニーワイルドへと向かった。


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Tips

◇中枢演算装置〈クサナギ〉

 シード01スサノオの中央制御区域中央塔頂上に内在する都市の心臓部。調査員が利用するショップや設備の統括、都市機能の保守管理、そして開拓司令船アマテラスの中枢演算装置〈タカマガハラ〉との交信などを行っている。シード01における最高権限を保持しており、重要度はクラスⅩ。物理的、電子的、その他の厳重な防御設備を備えており、クラスⅩAIを搭載した警備用ドローンが常に周囲を巡回している。


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