第23話「新たな仲間と」
「は、はえええ!? なんでラクトさんがレッジさんとパーティを!?」
「いや、なんでレティが驚いてるんだよ」
俺の胸元まで詰め寄ってきたラクトを見て声を上げたのは、それを横で見ていたレティだった。
彼女ははっとして口を押さえると、ぷるぷると頭を振って否定する。
「そ、そうですよね。なんでもないです」
「……?」
時々彼女の行動がよく分からない。
それはともかく、今は俺のファングシリーズの毛皮を掴んでセミみたいにしがみついている少女の件が先だ。
「えっとラクト、とりあえず離れて話を聞かせてくれ」
「おおっと、失礼。ごほん、――失礼しました」
「別に敬語じゃなくてもいいぞ?」
さっき普通に素が出ていたし、今更だろう。
そう思って言うと、彼女は照れた様子で分かったと頷いた。
「それじゃあ普通に喋らせて貰うよ。わたしもこっちの方が楽だし」
さっきとは変わって砕けた口調となって、ラクトもリラックスした様子で体勢を整える。
「それで、どうして突然俺とパーティを組むって話になるんだ?」
「ええと、アーツ使いはLPの回復がとても大変でね」
彼女はさっきも話したことを確認するように繰り返した。
確かに彼女が扱うアーツはLPの消費がとても重い。それはもうよほど上手く使わなければすぐに死ぬほどに。
「だから、初めの草原と森はこれも使いながら攻略したんだよ」
そう言ってラクトが持ち上げたのは、木製の弓だ。取り回しの良さを求めた小さなもので、彼女の腰には矢筒もある。
「普段は弓で攻撃しながら、隙を見てアーツも使うって寸法ですね?」
「うん。とはいえフェアリーは非力だから重量的な制約もあって、こういう小型の弓しか使えないんだけどね」
とはいえ、考えなしにアーツを撃ってLPを使い果たすわけにもいかず、苦肉の策なのだろう。アーツも弓も遠隔攻撃が主だから、相性はいい。
「でもね、困ったことに〈水蛇の湖沼〉は敵が強すぎてね」
「弓じゃ太刀打ちできないってことか」
ラクトが頷く。
「もっとしっかりした大型の弓なら攻撃も通るんだけどね。この弓じゃあ貫通力が足りない」
なるほど。貫通力を求めればアーツを使うしかないが、アーツは連射できるようなものでもない。
「うぅ。それじゃあアンプルを使えば良いのでは?」
頬を膨らせてレティが提案する。
アンプルというのはLPを回復するアイテムのことで、スサノオのショップでも売っているし〈調合〉というスキルを使えば作製することもできる。
とはいえ、
「アンプルはまだまだ高くて、それを使うと収支が赤字になっちゃうんだ」
「だよな。あれ高いもんな」
眉を下げるラクトに俺も同意する。
アンプルは貴重はLP回復手段の一つなのだが、貴重すぎてかなり高い。回復量によっていくつかランクがあるが、一番低いクラスⅠアンプルでも一つ500ビットもするのだ。
「な、なら〈アーツ技能〉の『瞑想』とか」
「当然覚えてるよ。でもあれは止まって目を閉じないと回復が始まらないからね」
「それは戦闘中には使えないよなぁ」
「レッジさんはどっちの味方なんですか!」
「味方も何もないだろ……」
なんでレティはラクトに敵意を見せてるんだ。
ともあれラクトの言いたいことは分かった。
「要は俺の〈野営〉スキルを使ってLPを回復したいんだろう?」
そう言うと彼女は目を細めて頷く。
「それなら別にパーティ組まなくてもいいのでは?」
「パーティ組んだ方が恩恵が大きくなるんだよ」
「そうそう。だから効率的にLPを回復するためパーティに入れて貰いたいんだ」
レティは気が進まない様子だが俺としては別に構わない。というかむしろラクトほどの実力者が協力してくれるなら心強いまである。
「俺はいいぞ」
「……レッジさんがいいなら何も言いません」
俺が了承すると、レティは眉間に深い皺を寄せながらもそれに続いた。
ラクトはぱっと表情を明るくすると、俺の手を握って謝意を示した。
「ありがとう! 恩に着るよ」
「あー! あーっ!」
「ど、どうかした?」
途端に耳をトンと立てて叫ぶレティ。びっくりしてラクトが振り返ると、彼女はそっぽを向いて下手な口笛を吹いた。
よくわからん。
「ま、よろしく頼むよ」
「はいっ!」
そういうわけで、俺たちのパーティに三人目が加わった。
「それで、今後の行動方針なんだが」
二人が落ち着いたところで、俺は岩に座ったまま話を切り出す。
レティは俺の隣に腰を下ろし、ラクトは対面する形でこちらに視線を向けた。
「レティとラクト、二人で狩りに行ってきてくれないか?」
「……は?」
「えっ?」
二人の声が重なる。
「どっ、どどどどういうことですか!? レッジさんはどうするんです?」
「わたしはレッジの回復能力に期待してたんだけど……」
「まあまあ、ちょっと落ち着け」
思わず立ち上がり詰め寄ってくる二人を宥めて、俺は詳しい話を続ける。
「これは前から考えてたんだが、俺はいろんなスキルを取る関係上、戦力としてはあまり期待できない」
「で、でも……」
レティに視線を送り、言葉を遮る。
「だから俺は後方支援に徹しようと思う。このキャンプを拠点にして、レティたちが安心して狩りに出かけられるような場所を整えるんだ」
「でもそれじゃあわたしはLPを回復できないんじゃ?」
「この野営地は簡単には動かせないし設置にも時間が掛かるから、どうせ戦いながらこまめに回復なんてのはできない。それならレティと一緒に狩りをして、傷ついた分こっちに戻って一気に回復する方が効率はいいだろう?」
俺がヒーラーだったら話は違ってくるが、俺が持っていてラクトの必要としているLP回復手段はこの野営地だけだ。
それなら拠点としての性能を伸ばし、同時にレティと共闘することでアーツの使用数を減らすほうがいいだろう。
「危なくなったらエネミーを連れて戻ってきてくれても構わない。その時は俺も槍を持って参戦するさ。ただ野営地を張っている間は俺もあんまり遠くに行けないからな」
そう説明すると、二人もなんとか納得してくれたようだ。
いや、理解はしたが納得はしていないのか? レティの表情は少し曇っている。
俺は少し考えて、再度口を開く。
「まあ、なんだ。二人が稼いでくるのを家で待つ主夫だとでも思ってくれ」
「しゅ!?」
「しゅふ……」
軽く口にした言葉だったが、二人の反応は如実だった。
頬を赤らめ立ち上がるレティ、考え込むように俯くラクト。
……そんな重たい意味で言ったわけじゃないんだが、なんだか言葉選びを間違えた感じがする。
「じょ、冗談は置いといて。そんな感じで」
「冗談じゃありません!」
「えっ」
「レティ、頑張って稼ぎます。稼いでレッジさんの生活を守りますっ」
「ふふ。そこまで言われちゃうとね。わたしも頑張るよ」
「あの」
「待ってて下さいね。すぐにボスだって狩ってきますから」
「いや、あの」
「よぅし、じゃあちょっと行ってくるからね。ちゃんと待っててね、レッジ」
そう言うと二人は互いに微笑みと共に固い握手を交わす。
俺が何かを言う前に二人は揃って岩場から駆けだしていった。
「……何か、何かを間違えた気がする」
呆然と立ち尽くし虚空に向かって手を伸ばす俺のつぶやきは、静寂な沼地の霧へと融けて消えた。
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Tips
◇パーティ
2~6人単位の集まり。パーティメンバー同士は現在地を把握することが可能。また一部のスキルおよびテクニックにはパーティメンバーにのみ効果を及ぼすものやパーティメンバーであれば効果量を増すものも存在する。
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