第253話 その目を逸らさない

「アッハハハ! どうしたの!? 早くどうにかしないと死んじゃうよ!?」


「ぐっ……!!!」


 狂ったように笑いながらソサナは攻撃を続ける。

 遊んでいるからちゃんと狙っていないのか、はたまた見切りの恩恵なのか、一応俺はまだ生きていた。

 とはいえこの状態が続けば絶対に死ぬ。

 今回はもう逃げることも出来ないだろう。

 なら、どうにかして『ソサナにしか効かない攻撃』を見つけ出さないといけないのだが……!


「よいしょ!」


「――!!!」


 勢いよく振り下ろされた手刀は剣のように地面を切り裂く。

 ギリギリの所で俺は踏みとどまれたが、あとほんの少しでも反応が遅ければ見事にスライスされていただろう。


「……」


「うんうん、よく出来ました! でも次はもっと速くするからね? さてさて光くんはいつまで避けられるかな?」


「――ッ!?」


 冗談じゃない!

 いまのでさえ間一髪だったのに、あれ以上速くなったら確実に切り刻まれる!

 ダメだ、もう時間もない。

 何か、何か方法はないのか!?


「ほらほら、そんな怯えた顔しない! 親友が待ってるんだから早くあの世に行ってあげなよ。まあ、薫くんはあの世にもいないんだけどさ!」


「――!!!」


 そうだ……薫は命を懸けてまで戦ったんだ。

 せめて俺も勝てなくても命懸けでダメージを残すくらいのことはしないと!

 薫に申し訳なさすぎる!!!


「うおおおおおおおおお!!!!!!!」


「おっと!?」


 こうなればもう自分が傷つくことなんて気にしてられない。

 攻撃すれば一応ソサナもダメージは受けるんだ。

 見つからない方法を模索して、何も出来ずに死んでは本末転倒にも程がある!


「捨て身の特攻……! 開き直っちゃたか! 面倒だなぁ!」


 命を吐き出すかのような雄叫びを上げながらソサナに向かっていく。

 迎え撃とうと構えるソサナに剣が届く――その時。


「!?」


 剣に炎が宿る。

 そのまま炎を纏った斬撃をソサナに放つ。

 ソサナは当然炎と斬撃の傷に苦しむが……。


「なんともない……?」


 俺にはなんのダメージもなかった。

 炎の傷も、斬撃の傷も俺には投影されていないのである。


「なんで……! なんで君の剣にその炎が……!?」


「その炎……?」


「そうだよ……! なんで、なんで聖炎がそこにあるんだ!? どうして、突然現れた!?」


「聖炎!?」


 そんな……!

 聖炎は宇水さんが受け継いだ薫の剣に残って入るはずだ。

 なのに、なぜ!?


(ご主人! 考えるのは後です、今は早く決着を! いつこの聖炎が消えるか分からないのですから! あとメチャクチャ熱いので!!!)


(――! ご、ごめん!!!)


 そうだ、今は考えてる時間ではない。

 ダメージが投影されないならもう恐ろしいことはない。


「行くぞ、ソサナ!」


「――!」


「無間・鎌鼬!!!」


 炎と無間を纏う鎌鼬。

 ソサナは回避出来ずに真正面から、思い切り攻撃を喰らう。

 しかし、やはり俺の身体にはダメージはない。

 聖炎が投影を防いでいる。


「ぐ……ああ……! マズい、これは流石に……!!!」


 ソサナは本気で焦っている。

 俺に攻撃しようにも消えない聖炎がソサナを妨害し続ける。

 さりとて防戦に徹しようにも、ソサナは今まで防御なんてしたことがないから、防戦の仕方が分からない。

 攻めることも守ることも出来ない状態になってしまったのだ。


「なんで……!? どうして死んだはずの奴の炎が……!? もうあの世にもいないはずなのに……!!!」


 おまけに事態の異常さに完全に混乱している。

 さっきまでの余裕はどこへやらと言った感じだ。


「終わりだ、ソサナ!!!」


「――!!!」


「無間・爆決天牙!!!!!!!!!!!」


「あああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


 放つ炎の爆決天牙。

 最期までソサナはどうすることも出来ず、絶叫と共に炎をの中に呑まれていった。




「か、勝った……!!!」


 疲れに耐え切れず庭に思い切り寝ころぶ俺。

 いろんな所が痛い……。


「アチ! アチチチチチチチチチ!!!!!」


「あ! 村正ちゃん、大丈夫!?」


 そうだ! 忘れてた!

 さっきも本人が言っていたが、村正ちゃんは全身に聖炎を纏っていたにも等しいのだ。

 いくら聖炎とはいえ、それなりに普通の熱もある。

 村正ちゃんは人型に戻るなり、そこら中を駆け回っていた。


「大丈夫! もう火は消えてるから! 火傷とかしてない!?」


「してませんけど! してはいませんけど! メッチャ熱かったんですよ!」


「そうだよね! ありがとう、我慢してくれて」


 ホント、よく我慢してくれました。

 ……それにしても、なぜ急に聖炎が現れたのだろうか。

 村正ちゃんにも俺にも聖炎とは特に関わりはないはずなのに。


「……薫さんが助けてくれたんじゃないですか?」


「え?」


「だから、さっきの聖炎ですよ。もう消えちゃいましたけど。薫さんはもうあの世にもこの世にも居ませんけど、きっとどこかには居るんですよ。だから立ち直ったご主人の背中を薫さんは押してくれたんじゃないですか?」


「……薫が、俺の背中を」


「きっとそうだと思いますよ。だって、薫さんはご主人を見捨てたりはしていませんでしたから」


「そうなの?」


「はい。薫さんはご主人に『戦いを思い出させたくない』と言っていましたし。第一、彼はそういう性格ではないでしょう」


 ……そうか。

 薫は俺のことを見捨てていなかったのか。

 ずっと俺のことを気遣ってくれてたんだ。


「……ありがとう、薫。お前はやっぱり凄いよ」


 皆が居てくれたから、俺はまた立ち上がれた。

 もう戦いから、現実から、苦痛から目を逸らさない。

 怖くても戦っていく、守りたいものがあるから。

 

 薫のように勇敢ではなくとも、きっと守り抜いてみせる。



 【後書き雑談コーナー】

  シナ「村正ちゃん、なんで頭に氷乗せてるの?」

   光「炎上したから」

  シナ「え?」



 次回 254話「動き出した『真実』」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る