第250話 城内光、復活!

「……」


 大ちゃんに背中を押してもらって、勢いよく家を飛び出した俺……だったのだが。


「大丈夫かな……」


 今までの恐怖とは違う不安が出てきた。


 だって、「戦いたくない」とか急に言い出したかと思えば、また突然「やっぱり戦う」なんて言い出すのだ。

 身勝手にも程がある。

 ボロクソに怒られても何の文句も言えない。


(いや、心配しても意味ないな)


 けれど、すぐに心配していても意味がないことに気付いた。

 そもそも許してもらおうという気持ち自体が傲慢なのだ。

 例え許してもらえなくても、拒絶されても俺は俺のすべきことをする。

 それが今の俺に出来る最大の償いだ。


「行くか……!」


 転送装置をポケットから取り出す。

 そのまま恐れつつも、俺はそのボタンを押した。



 ―天界―

「……」


 ここに来たのは何度目だろうか。

 転送装置の到着地点は毎回変わらないので、この……エントランス?も随分見慣れたものである。


「……誰も、いないのか」


 エントランスは真っ暗で人っ子一人居なかった。

 声も聞こえてこないことから、近くには誰も居ないらしい。


「……」


 とりあえず、まずは誰かを探すことにしよう。




「皆はどこに居るのかな……」


 暗い廊下を一人歩きながら皆を探す。

 どこかに集まっているのかなかなか誰ともすれ違わない。


(まあ……事態が事態だしな……)


 ……思えば薫とは最近はまったく会話も出来ずに別れになってしまった。

 薫は俺が前線を退いた日からウチに来なくなった。

 そしてそれ以来まともに会話も出来ず……今に至る。


(見放されちゃったかな……。まあ、無理もないけどさ)


 当然のことだろう。

 軽蔑しないでくれたシナトス達が優しいのであって、見放されても何もおかしくはない。

 100%自業自得、薫を責める権利など俺には微塵もない。

 ああ、でも出来れば――もう少し話したかったな……。



 ―ロビー―

(居たな……)


 さて、しばらく探した後に無事シナトス達を発見。

 ロビーで対策会議的なことをしているらしい。

 さて……どうやって入ろうか。


(……話してる最中だし、急に入っていくのも良くないよな)


 なかなかタイミングが見いだせず、ドアの前でしどろもどろ。

 うーん……もどかしい……。


「……やっぱり帰ってきたね」


「――!?」


 その時、背後から声が響く。

 振り向くとそこには優しい笑顔を浮かべるロメリアさんが居た。


「あ、えっと……いや、その……」


「何を躊躇っているんだい? 大丈夫、誰も君を責めたりはしないさ。ほら、行っておいで」


「え!? ちょっと待――うわ!?」


 まだ心の準備が……って力強いな!?

 予想以上に強く押すものだから勢いよくすっ転んでしまった。

 結果、ぶっ倒れたままマヌケに入室。


「何!? ……って!? ヒカル!?」


「あ、えっと……どうもー……」


 待って、気まず過ぎる。

 皆メッチャびっくりした目で俺を見ている。

 そりゃそうだ、来ないと思っていた奴が顔面でドア開けて入室してきたんだ。

 びっくりして当然である。


「ごめーん、強く押しすぎた……」


「ごめんじゃないですよ! どうするんですか、この雰囲気!」


「ヒカル!」


「――! はい!」


 予想以上に大きなシナトスの声に思わず姿勢を正す。

 ヤバい、怒られる?

 ……と、思ったらシナトスは凄く心配そうな表情で俺を見ていた。


「どうしてここに居るの? もしかしてロメリアに無理矢理連れてこられた?」


「ええ!?」


「ち、違う違う! 自分で来たんだよ! ロメリアさんとは今、そこで会ったの!」


「そうなの……? なら、尚更どうして? だってアナタはもう……」


「あー、えっとね。凄く……身勝手なのは分かってるんだけどさ……」


「?」


「俺、また戦うよ。だから、ここに来たんだ」


「!?」


 シナトス……だけじゃなくロメリアさん以外の全員がまたまた驚く。

 まあ……そりゃそうですよね。

 数日前に「もう戦いたくない」とか言った奴のセリフじゃないですもん。


「なんで!? どうして急に!? 何、急に怖くなくなったの!?」


「いや、それは何か精神的に患っちゃてるでしょ。正直に言うとまだ全然怖いし」


「ならどうして!?」


「……思い出したんだよ、俺が戦ってた理由」


「理由?」


 そう、理由だ。

 いつの間にか忘れてしまっていた、遠い日の小さな誓い。

 俺が剣を握る理由。


「前に言っただろ? 『俺はシナトスの幸せを守りたい』って。その……恥ずかしいことに、それを言ったこと自体をこないだまで忘れていたんだけどさ。思い出せたんだよ、ついさっきなんだけど」


「え……ちょっと待って。……それだけ? それだけの理由でアナタはまた立ち上がったの!?」


「俺にとっては『それだけ』ってほど小さなことでもないんだけどな……。まあうん、それだけだよ。それだけで俺はまた立った」


「……なんで? だって今もまだ辛くて怖いんでしょ? それなのに……また戦うの?」


 心底シナトスは不思議そうな顔をしていた。

 どうやら本当に理解出来ないらしい。


「うん、戦うよ。そりゃ怖いし辛いけどさ、俺はそれ以上に君の幸せを守りたいんだ。俺の命と、未来を救ってくれた恩を返したいんだ」


「……」


「……だから……その、凄く自分勝手なことを言うけれど……また一緒に戦わせてもらえないでしょう――って、え!? ちょっと!?」


 と、俺が最後まで言い終わる前に、シナトスは俺を――優しく抱きしめていた!?

 ちょっと、ちょっと待って!!!

 ヒアイズ皆の前! ヒアイズ皆の前!!

 流石に恥ずかしいですって!!!


「ちょ! シナ――


「ありがとう……、ありがとう……ヒカル」


「……」


 シナトスは……泣いていた。

 そんなに嬉しかったのだろうか。

 俺としては別に特に大したことを言ったつもりはないのだが……。


「……ヒカル」


「?」


「おかえり」


「――! ……うん、ただいま」


 俺はやっと、やっとここに帰ってきた。

 もう二度と、この誓いを忘れることはない。

 君の幸せを守るため、俺はこれから剣を振るい続ける。

 絶対に――



 【後書き雑談コーナー】

   村正「うわお……大胆ですね……」

  クロス「……」

   新谷「我慢よ、クロスちゃん」

  クロス「分かっている……」



 次回 251話「再び赤いあの場所へ」

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