第221話 恐れる半神、恐れぬ半人

「なッ……!? 帝って本当にそう言ったの!?」


「うん、確かにそう言ってたわ」


「そんな……。いや、でも……」


 さて、あれから俺達はシナトスの要望通り天界に場所を移したのだが……。

 依然として状況はさっぱり分からない。

 ただ、かなりマズいことのようで、シナトスの話を聞いてエルメさんはシナトス以上に動揺している。


「……ったく、一体何がどうなってるんだよ」


「さあ……、とりあえず向こうが落ち着くのを待つしかないんじゃないかな」


「……やれやれ」


 天界に来てからもう30分近く待たされて、薫はすっかり飽きてきている。

 子供かコイツは。

 と、思ったらちょうどいいタイミングでリームがやって来た。


「皆、待たせてすまない! ……それで、君達はどこまでは把握しているんだい?」


「ほとんど何にも。なんか『カグヤ姫』だの『帝』だの言ってたけど、何が何なのかさっぱりで……」


「そうか……。うん、まあここまでの事態になって黙っている訳にもいかないか」


「?」


「それじゃあ、まずは今の事態を説明しよう。多少長くなるが聞いて欲しい」


「分かった」


 そしてリームは俺達に千年前に起きた『真の竹取物語』について話し始めた。

 即ち、シナトスの両親のこと、そして帝のことである。



 ―話終えて―

「……と、いう訳だ」


「……」


 壮絶な話を前に、なんと言えばいいのか分からなくなってしまった俺。

 しかし、薫はそんなことはなくすぐに話を再開させた。


「つまり……今回の『帝』は今の話に出てきた『帝』ってことなんだな?」


「ああ、そうだろうな。お嬢をカグヤ姫と呼び狙う帝など他にいないだろう。ただ……」


「ただ?」


「なぜ帝が生きているのかが、吾輩達にも分からないんだ」


「え? 不死の薬の灰で生きてるんじゃないの?」


「いや、そうでは――。……とりあえずそのことに関してはエルメを交えてから話すよ」


「……」


 どうも事態はかなりややこしいことになっているらしい。

 それにしても、不死を求め千年以上も生きてきた帝だなんて……。

 悪い冗談にも程がある……。



 ―エルメを交え―

「エルメ。粗方皆に事情は話しておいたよ。それで、そっちは判明出来たかい?」


「ううん……、今ロメリアが調べてるけど答えは出てないわ」


「そうか……」


「……えっと、その判明って言うのは『なんで帝が生きているのか』って話?」


「はい、そうです。まだそこの所は話していないようですから、説明いたしましょう」


 そう言って、エルメさんは事情を説明し始めた。


「リームから聞いていると思いますが、帝は確かに不死の灰を使ってその命を長らえてきました。私達がそのことに気づいたのは150年ほど前のことです」


「150年前? 千年以上生きているのに?」


「帝は不死の灰で命を長らえた影響で『人』という定義から外れてしまったんだよ。だから吾輩達も認識出来ていなかったのさ。まあ、奴が巧妙に自身のことを隠蔽し続けたのもあるがね」


「なるほど」


「えっと、話を戻しますね。それで150年前、まだあの帝が生きていると分かった時、一度シナトスを天界に戻したんです。帝が狙っているのはあの子ですから、安全になるまではここに避難させておいたんですよ」


「……なんで白いのだけを狙うんだ? 他の死神ではダメなのか?」


 クロスの疑問はもっともである。

 不死の手がかりを得るのに、何もシナトスだけに固執する必要はないだろう。

 ところが、この疑問は簡単に返されてしまった。


「いいや、帝はお嬢かエルメでないといけないんだ。君達忘れてないかね? 死神は元々普通の人間には見えないのだよ。帝は一度お嬢とエルメを見たことがあるから、二人を見ることが出来る。しかし、他の死神にそれは反映されないんだ」


「なるほどな、だから帝は死神娘だけを狙うのか」


「はい。それで、シナトスは下界から呼び戻し150年近くはここに居させました、それで安全になるはずだったんです。あの不死の薬はまだ未完成で、しかも一度焼かれ灰になったもの、完全に不死になれるわけではないのです。事実、1年ほど前に帝は不死の効果がなくなり一度この世から消えました」


 ……そういうことか。

 何度か下界に来ているはずのシナトスが、俺と会った時にあんなに下界ではしゃいでいたのは帝から避難して150年近く下界に来ていなかったのが原因らしい。


「それで帝の反応が消え一応安全にはなったので、下界に行きたがっていたシナトスに私達は許可を出しました。まあ、私としてはあまり良いとは思いませんでしたけど……。それでも光さんと出会ってから今まで、帝は現れることはなかったのですが……」


「なぜか今になってまた出てきた、って訳か……」


 そしてなぜ帝がまた復活したのかは分からない、という事だろう。

 一度消えたはずなのにまた現れたというのはどういうことなのか。


「……それでお前たちはどうするつもりなんだ? また帝が消えるまで死神娘をここに隔離させておくつもりか?」


「そうですね。あの子のためにも――


「いいえ。もうそれはしないわ」


「!?」


 と、エルメさんの言葉を遮ってシナトスが割り込んできた。

 もちろん、よりにもよって本人に真正面から否定されたエルメさんは驚いている。


「ちょっと!? どういうつもりシナトス!?」


「姉さん、そんなことしたら帝は間違いなく光たちを殺すわよ」


「――!」


「それにもうここも安全とは限らないわ。帝は今まで連れてなかった『前座』なんてものを従えていた。話の内容からしてどうも帝が創り出したものみたいだし、帝は復活して力が増している」


「……」


「それにいつまでも逃げ隠れするのはもう嫌なの。言ったでしょう? 『進まないと何も変わらない』って」


「そう、だけど……。そうだけど……」


 エルメさんの気持ちも分からなくはない。

 エルメさんは恐れているんだ、シナトスが母と同じ道を歩んでしまうことを。

 だからエルメさんは、シナトスが下界に行くことや俺達と深く関わることをあまり快く思っていない。


 でも、シナトスは恐れない。

 今の状況を前にしても、恐れることはなかった。


「……んで? 結局どうするんだよ。俺達は何をすればいい?」


「え、えっと……」


「言っておくが変な遠慮は必要ないぜ。俺も、宇水も、黒死神も、もちろんヤケッパチも、文句を言う奴なんか居ねえからよ。 な?」


「もちろんです!」


「私は半分お前みたいなものだしな」


「まあ、もちろん俺も言うまでもなくね」


「……! えっと、私はこれから帝たちと戦っていく。それで、もし、良かったら……」


「もちろん、俺達も協力するよ」


「! ありがとう!!」


 こうして三度、俺達の戦いは始まった。

 今までよりも遥かに強大で、壮絶な戦いになるだろう。

 なぜならこれは『最後の神話』を終わらせる戦いなのだから。



 【後書き雑談コーナー】

 信長「久しぶりのこのコーナー!」

 信行「帰ってきたら新展開!」

 信長「相変わらず扱いが解せぬのじゃが」



 次回 222話「壊して、そして新しく」

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