第212話 真編竹取物語 ~弐~

 カグヤと若が出会ってから数日、二人は今日も竹林に来ていました。

 もちろん竹を取りにです。

 あれから、なんやかんやありつつもを居候を認められたカグヤは、このようにして若の仕事を手伝っていたのでした。


「よっ!」


「……うーん、やはり」


「?」


「そうやって竹を簡単に素手で斬り落とせるくらいなんだし、君は本当に死の神なんだろうなぁ……」


「……まだ信じてなかったんですか?」


「そうではないけど。でも、普通は信じないだろうよ。それかもしくは信じても認めないか」


「そういうものですか」


 少しだけ寂しそうな顔をするカグヤ。

 その顔のまま、カグヤは若に一つ質問しました。


「アナタは……私が怖いですか?」


「え? ……いいや、怖くはない。寧ろ君といると楽しいくらいだ」


「楽しいんですか?」


「ああ、楽しいさ」


「……本当に変わった人ですね、アナタは」


 フフッと笑いながらカグヤは再び若に言いました。

 若は「だから、それは君には言われたくないんだが」とも思いましたが、それは胸の内に留めておくことに。

 カグヤが嬉しそうなら、特に若にも文句はないのです。

 と、ここでカグヤは思い出したかのように……というか事実その時に思い出して言いました。


「……あ、そうだ。アレの様子を見に行ってもいいですか?」


「アレって……あの君が乗っていた竹のような乗り物のことかい?」


「はい。あそこに置きっぱなしにしてたの思い出して、ちょっと様子が気になるので」


「分かった。別に見に行っても構わないよ」


「ありがとうございます」


 ということで、ある程度竹を取ったのち二人は初めて出会ったあの場所に向かっていきました。



 ―出会いの場所―

「……相変わらずおかしな見た目だな。少し小さくて太い光る竹……と言った感じの見た目だが、本当にこれが乗り物なのか?」


「そうですよ、今は壊れてますけど。死神だからって易々と天界と下界を移動できる訳ではないんです。だからこういう乗り物に乗って移動するんですよ」


「へえ……」


 乗り物の中を何やらいじりながら、カグヤは若にいろいろ説明していきます。


「今天界では何やら『空飛ぶ絨毯型』の乗り物が開発中だそうですが、私にはそれを手に入れることが出来るはずもないんですよね。だから、この旧式を無理に動かしたんですが……」


「無理に動かしたことが災いして壊れた、と?」


「みたいですね……。あ、ダメだ。私にはやっぱり直せません」


 諦めて作業を中止するカグヤ。

 少し中を覗くと若どころか、恐らく現代の科学者でも理解出来ないような複雑な機械がたくさん並んでいました。


「……これは凄い」


「今の状態だと凄いゴミですけどね。さて誰かに見つかると面倒ですし、これは持ち帰りますか」


「え? これを?」


 どうやってこんな巨大な物を持ち帰るんだと、言おうとしたその時。

 カグヤが一つのボタンを押すと乗り物は突然小さくなったのです!


「……」


「びっくりしました? こういうことも出来るんですよ」


「本当に……訳が分からないな」


 もはや若はこのくらいではあまり驚かなくなってしまいましたが。



 ―帰り道―

「それで? 完全に帰れない様子のようだが……これからどうするつもりだ? まあ、ウチを出て行けとは言わないがこれからずっとウチで過ごすのか?」


「帰れる当てが出来るまではご厄介になるしかないですね……。ただ、これを持ち帰るので多分凄いお礼を出来ますよ!」


「凄いお礼?」


「ふふふ、それは後でのお楽しみです」


 なにやら思わせぶりなことをいうカグヤ。

 しかし、聞いても答えてはくれなさそうなので、若はそれ以上追及はしないことにしました。

 そして代わりに別の質問をカグヤにしました。


「……あの、前から一つ気になっていたんだが」


「なんですか?」


「君は……なんで下界に来たんだ?」


「――!」


「そんな物を作ったり出来る神が下界に来ても、特に面白いものはないだろう?」


「……えっと、それは内緒にさせてください」


「……そうか」


 カグヤの表情が真面目だったので、若はそれも深くは追及しないことにしました。

 ただやはり疑問は残ります。


(本当にこの神は一体何をしに来たのだろうな……)


 神らしくない神に疑問を抱きつつ、若は月明かりに照らされる夜道を戻っていきました。



 ―翌朝―

「う、う~ん……」


 次の日。

 若はいつもより早くに目を覚ましました。

 別に何か特別なことがある訳ではないのですが、なぜか目が覚めたのです。


「……あれ? カグヤは?」


 眠る翁と媼の姿はありますが、カグヤが居ません。

 どこに行ったのだろうと、思ったその時。


「終わったー!!!」


 外からカグヤの嬉しそうな声が聞こえてきました。


「なんだ、外に居たのか。一体何が終わ――ってまたこの竹か!」


「あ、おはようございます」


 外に出ると、昨日小さくして持って帰った乗り物が再び巨大化していました。

 しかし、よく見ると昨日とは少し状態が違います。


「……あれ? 所々欠けてないか?」


「! よくぞ気づいてくれました! 実は昨日徹夜でこの乗り物に使われている『金』を取り除いていたんですよ!」


「……え? いいのか、そんなことしちゃって」


「いいですよ、どうせ捨てるんですし。どうせ捨てるなら使える場所を取っておくべきでしょう?」


「それはそうだが」


「はい! これ全部をまとめて一つにした金塊です! お家賃代わりにお受け取りください」


「それはどうも――って! ええええええええええええ!!!!!!?????」


 若が驚きのあまり大声を出すのも無理はありません。

 カグヤが取り出したのはそれはそれは巨大な金塊だったのです!


「こ、これを貰っていいのか!? これ、都で暮らせるくらいの物だぞ!?」


「え? そうなんですか!? やりましたね!」


「いや、『やりましたね!』じゃなくて!」


 光る竹のもたらした金の幸福。

 こうして若達は都に移り住むことになったのでした。



 次回 213話「真編竹取物語 ~参~」

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