第211話 真編竹取物語 ~壱~

 これは歴史と権力に埋もれた、もう一つのかぐや姫の物語……。




 今は昔。

 竹取の翁と呼ばれる者とその妻の媼、そして史実に残る竹取物語には語られていない息子の竹取の若がいました。

 3人は呼び名の通り竹を取る仕事をしており、裕福ではありませんでしたが幸せな生活を送っていたそうです。

 ある日、若がいつものように竹林に竹を取りに行くと、何やら怪しげな輝きを放つ物を見つけました。


「……なんだこれは。竹……ではないようだが」


 この時代にはまだ無い物なので若はそうは思いませんでしたが、それは小さなロケットのような見た目をしておりました。


「……中に誰かいるのか?」


 どうしてでしょうか。

 若には不思議とそれが乗り物であることが分かりました。

 しかし、それが分かったところで得体の知れない物である点は変わりません。

 暫し遠目に見つめていた若ですが、好奇心を抑えられずほんの少しだけ触ってしまいました。

 すると、今まで微動だにしなかったそれが突然動き出したのです。


「わ! な、なんだ!?」


 動き出したそれはまたすぐに止まりました。

 そして止まった時にそれは、斬られた竹のように中が見えるようになっており、その中には一人の女性がいたのでした。

 女性は気絶しているのか、こちらもピクリとも動きません。


「……」


 次々と起こる不思議な現象に混乱する若でしたが、とりあえず女性に話しかけてみることにしました。


「……お、おい。大丈夫か?」


「……う、う~ん。……」


「……」


 若の声で目を覚ました女性は、起きてすぐに若と目が合いました。

 お互い目を見つめたまま沈黙する二人でしたが……。


「えー、えっと……私のこと見えてます?」


「見えてる」


「……そう。……え、えええええええええええええ!? 嘘!? なんで!? もしかして気絶してる間に視線避けの結界が壊れた!? あれ? 壊れてない?」


「?」


「え、ちょっと待って。アナタ本当に私のこと見えてます? 全然違うものに返事してるとか、声だけ聞こえるからとりあえず返事したりしてません?」


「いいや、ちゃんと俺には君が見えている。声だけじゃなくてな」


「えー!? じゃあなんで!? もしかしてこれ全然違う結界だったりする!?」


「???」


 女性はひたすら困惑した状態でいろいろ言っていますが、もちろん若には理解出来ない内容でした。


「あれー? これちゃんと視線避けの結界だな……、じゃあ何? アナタもしかして超能力者とかだったりします?」


「ちょうのう……え?」


「まあいいか。アナタ、私のことは忘れてください。今からすぐに居なくなりますので。えっと電話は……って、あー!!!」


「!? ど、どうした!?」


 突然……というかずっとそうでしたが、突然大声をあげる女性。

 若は驚いて思わず聞き返してしまいました。


「壊れてるじゃないですか! これじゃあ連絡取れない!! 帰れない!!!」


「……えっとよく分からんが、君は家に帰れなくて困ってるのか?」


「そうです! いろいろ説明が面倒な状況なんですけど、そうなんです!!」


「なら、ウチで良ければ来るか? 行く当てないんだろう?」


「え!? いいんですか!?」


「ああ、まあな……」


「……」


 女性は感謝と、そして不思議そうな表情で若を見ました。

 こんな得体も知れない、なんなら人間かどうかも微妙に怪しい存在を助けようとしてくれることに少し驚いたのでしょう。


「アナタ、変わっていますね」


「君には言われたくないんだが」


「ふふふ、確かにそうかもしれないですけど。それじゃ! 早速案内してください!」


「あ、ああ……。っとその前に竹を取ってからな、俺はその為にここに来たんだから」


「じゃあ、お手伝いしますね!」


「いや、素手で竹は取れな――え!? 取れるの!?」


「取れますよ?」


「……」



 ―家に戻って―

「……婆さんや、これは幻覚か?」


「いいえ、現実のようですよ。私にも見えますもの」


「まさか嫁に逃げられたお前が、突然新しい嫁を連れて帰ってくるなんて……」


「なッ!? 違う! 何を考えているんだ!?」


「何!? ならお前、攫ってきたのか!?」


「違う!!」


「凄いことになっちゃいましたね……」


 当たり前ですが、もちろん翁も媼も大混乱。

 翁に至っては『新しい嫁』だの『攫ってきた』だの訳の分からないこと言い出してしまいました。


「えっと……どういうことなのか、順番に説明してくれるかい?」


「実は……」


 媼に聞かれ、若と女性は事情を説明し始めましたが――。



「と、いう訳なんだが……。母さん? 父さん?」


「なあ、私はコイツが何かしらの為に私達を騙そうとしていると思うのだが。お前はどう思う?」


「父さん!?」


「どうでしょうね……、私にもにわかに信じがたいですが……」


「母さん!?」


「でも、嘘をついている目ではないですよ」


「……まあ、お前がそう言うのなら事実なのか」


「なんで俺の言葉だと信じてくれないんだよ!?」


「信じられるわけないだろうが!」


 揉め始める二人。

 そんな二人を困惑したようで眺める女性。

 と、媼は二人を抑えつつ、今度は女性に話かけます。


「とりあえず貴方達の話は信じるけれど……、結局貴女は何者なの?」


「あ、そうだ。それは俺も気になる。あのよく分からん物に乗っていた時点で普通のヤツではないだろう? 都の人間か?」


「……違いますよ。私は……人間ではありません」


「え?」


 女性の発言に固まる3人。

 女性は続けて話しながら、スッと立ち上がります。


「私は死神、人を天へと連れていく神です。名をカグヤ、カグヤ・メヒウ・キウリノと言います」

 

 カグヤは笑顔で、ただし人のそれをは違う冷たい雰囲気を纏いながら、そう言いました。



 

 これが若とカグヤの出会い。

 のちに様々な出会いを別れを生むことになった、運命の始まりの時。



 次回 212話「真編竹取物語 ~弐~」

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