第210話 永遠の終わり
終わらない。
終われない。
こんなところで終わることなど出来ない。
『永遠』を知ったのに、『可能性』を見い出したのに、こんなところで終われない。
まだだ、まだ私は生きる。
死にたくなのではない、生きたいのでもない。
生きるのだ、ただ、ただ生きるのだ。
―暗闇の中―
「ああぁぁぁああああぁぁぁあああああ!!!!」
暗闇の中で『何か』が叫ぶ。
『何か』が何なのかは分からない。
だが、少なくとも『何か』は人ではない。
人と定義された生き物とは遠くかけ離れた生き物だった。
「……大丈夫ですか」
「あ、ああ……。問題ない……、いつものことだ……」
「それは重々理解していますが……」
もう一つ、暗闇に声が響く。
こちらは女の声だった。
『何か』よりは人に近い雰囲気だが、こちらも人ではなかった。
「やはり……焼けたあとに残った灰では……千年には無理があったようだ……」
「そうですね、見て分かります。外部はともかく内部の破損がかなり酷いです」
「ふ、ふふふ……。そうだな、無理をして時間と命に叛逆し過ぎたせいだろうな。……なあ、私はまだ『人間』か? それとももう『人間』ですらなくなったか?」
「どうでしょう。人でないことは確かですが、人間ではあると思います」
「そうか……、まだ『人間』ではあるか……」
『人』ではない『人間』。
それは奇しくも、『人間』になれなかった『人』である城内光とは正反対の存在だった。
「まだ、準備は整いませんか?」
「……まだだ、まだもう少し時間が必要だ。もう妥協してもいい気もするが、慎重に越したことはない。あの月の娘を必ず、絶対に捕らえられる確証を得られるまで、探求と準備を重ねるほうが良いだろう」
「分かりました。……しかし、あの方は『いい加減にしろ。力を与えた恩を忘れたか』と急かしておりますが。いかがいたしましょう」
「ほっとけ。偉そうなことを言っていても、アイツも私と同じ類の存在だ。他人の行動に口を出す資格などない」
「了解しました」
そう言い残し、女はどこかへ行った。
暗闇に残るは『何か』のみ。
『何か』は何の気なしに空を見上げると、そこには大きな満月があった。
「何度、何度この月を見たことか……。そして何度、何度あの時を思い出したことか……。だが、それももうすぐ終わる……!」
凶悪な笑みを浮かべる『何か』。
それはただの凶悪な笑みではない、普通の存在なら作り出せない長い長い年月の重ねられた笑みだった。
「新しい永遠の為に、今のこの古き永遠に終止符を打つ。もうすぐだ、もうすぐ手に入る……。永遠の命、永劫の時間が!!!」
『何か』が求め続けたのは不死だった。
その為に『何か』は、時に人の命脈を断ち、また時に人の人生を汚しながら、千年の時を生き続けた。
『何か』、その正体は実は多くの人が知っている存在だ。
遥か昔、月より堕ちた姫に恋をし、そして結ばれなかった――と伝えられている一人の男。
正確な名は分からないが、その存在はしっかりと残されている。
『竹取物語』にてかぐや姫に恋した男、その名を帝。
帝はあの日、かぐや姫が月に帰ったあの日からずっとずっと生き続けた。
かぐや姫を取り戻し、永遠の命を手にする為に。
あの時に焼かれた『不死の薬』の灰を使い、人間でなくなってまで。
不完全な不死から来る、耐え難い苦痛に抗ってまで。
さて、『竹取物語』を知る人はそれを聞くと変に思う事だろう。
今の世に伝わる『竹取物語』では、帝は自ら不死の薬を焼いたと記されているからだ。
だが、もし、それが事実でないとしたら?
今伝わる『竹取物語』が偽りであるとしたら?
歴史に隠された『本当の竹取物語』が別にあるとしたら……。
―???―
「……皮肉な話だねぇ。『君のいない世界で不死になって何の意味がある』と言って不死の薬を焼いたとされる帝が、本当は誰よりも醜く不死を求めているとは……」
別の暗闇で、別の声が響く。
先ほど女に『あの方』と呼ばれていた、帝に力を与えた存在だ。
「さてと……帝が行動を始めるにはまだ少しかかるみたいだな……。やれやれ、まあ慎重なのは良いことなんだけどさぁ……」
「どうせ最終的には無意味になるんだから、さっさと始めてくれればいいのに」
その言葉の真意は彼にしか分からない。
だが、それは妄言や虚言ではなく、確かな信念が籠っている言葉だった。
「まあ、そんなことアイツには言えないけどさ。そんなこと知られたら僕を裏切るだろうし。アイツには頑張って働いてもらわないと僕が面倒だからね」
今、千年の時を越え再び始まろうとしている最後の神話。
だが、その真意を理解するにはまず『真実の竹取物語』を知る必要があるだろう。
これより語るは千年前に起きた真の事実。
この日本における最古の物語にして最後の神話。
次回 211話「真編竹取物語 ~壱~」
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