第27話 才色兼備の玉の瑕

「で? お前、何しにうちの学校来たんだよ……」


 昼休み、俺とは違うクラスの転校生としてやってきた薫のところへ来ていた。


「何しにって、そりゃお前。俺はすごーく不本意だが、お前が戦うことを認めたわけだし? なら、一緒に戦うこともあるわけだ。なら、情報の共有はしやすいほうがいいだろ?」


「学校以外にもあるだろ!?」


 前にも同じような理由で、同じように転校してきたやつがいるんですが。


「まあまあ、そう堅いこと言うなって。ちゃんと編入試験も受けたんだぜ?」


「だから、いつ受けたんだよ!?」


 ああ、このやりとりも前にやったよ……。

 ホント、何なんだよコイツら。


「で? アウラさん……だっけ? その人はどうしたの?」


「ああ、アウラも来るか?って言ったんだけどな『いや、私まで行く必要なくないですか?』って言ってこなかったんだよなぁ……」


 うん、当たり前だ。

 良かった、どいつもこいつも馬鹿ばっかりじゃなかった。


「あ、そうだやけっぱち」


「おい、ちょっと待て。『やけっぱち』って俺のことか?」


「うん、で俺生徒会室に書類とか持ってかないといけないから、部屋の場所教えろ」


「『うん』じゃねぇよ!! 変なあだ名つけんな!!」


 俺の静かな学校生活が……。



 ―放課後―

 というわけで、俺と薫さらに何故かついてきたシナトスを含め3人で生徒会室に向かっていた。


「おい、死神娘。なんでお前もついてきたんだ?」


「死神娘って……。まあいいけど、私がいれば『ああ、そっち関係の人ね』ヒナがすぐに分かるでしょ?」


「なるほど……って! おい、やけぱっち! 生徒会長にもバレてんのかよ!?」


「しょうがないだろ! いろいろあったんだよ!!」


 なんてギャーギャーわめいているうちに無事到着。

 相変わらず、この部屋の前に立つのは何がなくても緊張する。


「ここが生徒会室か。サンキュー、やけっぱち」


「どうも、じゃあ俺は帰るから」


 そそくさと玄関に向かおうとしたが、誰かが襟首をガシッと掴む。


「帰る? 部活にも行かずに??」


「ま、茉子!? なんでここに!!」


 しかし茉子の返事は帰ってこず、そのまま俺は部室へと引きずれこまれていってしまった。

 今日は逃げきれたと思ったのに……。



「……。おい、やけっぱちっていつもあんな感じなのか?」


「まあ……」


 光の普段が気になった薫だが、今は取り合えず目先の課題を片付けることにした。


「失礼しまーす」


「どうぞ。ああ、貴方は転校生の日比谷君ね、……あれ? 白井さんも?」


「うん、この人もそういう人だから」


 シナトスの曖昧な説明でも、ヒナは理解できたようだ。

 その証拠に表情が、分かりやすく変わった。


「ああ、そういうことね。はい、じゃあ書類は私が預かって目を通した後、先生に渡しておくからもう帰って大丈夫よ」


「速っ!?」


 対応の速さに思わずツッコミを入れた薫だが、その時にはヒナはもう別の仕事にうつっていた。


「失礼しました……」


 驚きながらも丁寧に退室した薫とシナトス。

 シナトスはそこまででもなかったが、薫は結構びっくりしたようだった。


「てか、普通生徒会長でも転校生の書類に目通したりするか?」


「ヒナはなんか特別らしいけど。あの人、授業以外のときはずっとあそこで仕事してんのよ」


「ええ……」


 一応、同じ学生の薫からすれば考えられないようなことだ。

 特にそういった仕事を避けてきた身としては、特に。


「才色兼備の擬人化なんて言われてんのよ? あの人」


「才色兼備ねぇ……。果たして本当にそうなのか?」


「どういうこと?」


「ああいうタイプの人間には、何かしら一つ大きな弱点があるもんだ。大声で悲鳴を上げちまうような」


「あのヒナが?」


「あるんだよ、いろんなやつを見てきたからよくわかる。どうだ、死神娘気にならないか?」


 ニヤリと笑う薫。

 この時、シナトスと薫の間に謎の友情が芽生えた。


「気になるに決まってるでしょう!」


「そうと決まれば聞き込み開始だ!!」


「おーう!!」


 好奇心とは恐ろしいものだ。

 ほとんど関わりのなかった者たちを、ここまで仲良くしてしまうのだから。




「で? 誰か知ってそうなヤツ知らないのか?」


「うーん……」


 さて、聞き込み開始だ! と勢いよく飛び出したはいいものの転校初日の薫に聞き込みをする相手などいなかった。


「やっぱり、光と茉子かなぁ。あ、そうだ彼なら知ってるかも」


「彼って誰だよ?」


「ついてきて」


 シナトスに連れられ、向かった先は教室。

 課題提出が遅れた雄馬が一人で、残って課題をしていた。


「アイツか?」


「うん、ねえ雄馬君。ちょっといい?」


「ん? ああ、白井さんかどうした?」


「ちょっとヒナについて聞きたいんだけど」


「せ、生徒会長!?」


 その瞬間の反応で一瞬で薫は察する。

 ああ、そういうことか。

 分かりやすいな、コイツ……。


「そう雄馬君さ、ヒナが苦手なものとか知らない?」


「生徒会長の苦手なもの? さあ……聞いたことないな」


「そう……、ありがとうね!」


「ちょっと、白井さん! これなんの質問!?」


 雄馬の疑問には答えずに、そそくさと出ていくシナトスと薫。

 教室には一人、もやもやとした心の雄馬が取り残されていた。


「うーん。四六時中相手のことを考えてそうな奴でも、分からないということは結構厳重に秘密にしてるってことだな」


「じゃあ、今度はリームに聞いてみる? 一応、教師だしなんか知ってるかも」


「お前の鎌、教師として潜り込んでんのか……」


 ということで、職員室。


「で? 何の用だ、お嬢」


「ヒナの苦手のものとか知らない? アンタ、教師でしょ?」


「いや、教師だからって生徒の苦手なものを知ってるわけではない! しかも、吾輩は君達とは違う学年の副担任だぞ!?」


「じゃあ、いいわ。教師って意外と何も知らないのね」


 そう言い残すと、またもやそそくさと出ていく2人。


「なッ!? この場合、吾輩が無知なのか!? おい! おーい!!」


 リームの絶叫に答えることはなかった。


「どうする? ヒカル達に聞いてみる?」


「そうだな……。もう、他に当てはないしな」


 ということで、今度は剣道場に向かった2人だった。

 後ろから、なにか黒い影がついてきていることも知らずに……。



 ―剣道場―

「だから! 分かんないですって!!」


 後輩が不満そうな声を上げる。


「だから言ってるだろ!? ドンってやった後、ガッのビシッのシュッだって!!」


「光先輩! そんな説明で分かると思いますか!?」


 何でかは知らないが、俺の説明が理解できないようだ。

 こんなに分かりやすく言ってるのに!!


「だーかーらー!!」


「ヒカル、ちょっといい?」


 7回目の説明を始めようとしたところで、シナトスと薫が割り込んできた。


「あ、先輩の彼女の……白井先輩でしたっけ?」


「彼女じゃねぇよ!! で? どうしたシナ……じゃなくて白井さん」


「ねぇ、光。ヒナの苦手のものって知ってる?」


「へ?」


 唐突にされた変な質問に、俺も変な声を出してしまった。

 そりゃ勿論知ってるけど……。


「そんなこと聞いてどうするんだ?」


「いいから! 知りたいの!」


「やけっぱち、お前知ってるんだろ!? 頼む、教えてくれ!!」


「ま、別にいいけど。ヒナが苦手なのはカ――」


「光?」


 その瞬間、ぞわっと鳥肌が

 なんかおぞましい声が、シナトス達の背後から!!

 その声におもわず、振り返ったシナトスと薫の後ろに居たのは―


 物凄い笑顔の日菜子さんでした。


「光? もう言っちゃった?」


「言ってない! まだ、言ってない!!」


「そう……」


 顔は笑顔だが、にじみ出る殺気がヤバい。

 すると今度はさっきの対象が、俺からシナトスと薫にかわる。


「貴方たち、これは一体どういうことなの?」


「へっ!? いや、日比谷君が!! 日比谷君が、『ああいうタイプの人間にはなにか弱点がある』って言ったから!!!」


「ちょ!? 死神娘! てめえだって気になるって言ってたじゃねぇか!!」


「つまり共犯なのね?」


「え!? いや、ちが――」


「共犯なのね?」


「はい……」


 おぞましい殺気に、死神も特異器官持ちも完全にビビっている。

 なんなら傍から見てる俺も怖い。


「ちょっと、あとで反省室来てね。人のプライバシーを侵害したらどうなるかたっぷり教えてあげるから」


 その後、シナトスと薫がどうなったのかは知らないし、知りたくもない。

 ただ、あれ以来一切『ヒナの苦手なもの』に対して言及しなくなったのは確かだ。

 まあ、ヒナも知られたくはないだろう。

 弱点なしに見えるヒナが、まさか――


 が怖いだなんて。


 昔、車に轢かれてぐちゃぐちゃになったのを見て以来、ダメになったらしい。

 まあしかし、幼馴染に俺ら以外そのことを知る者はいない。

 なぜなら、知ろうとすると死神だろうが特異器官持ちだろうが、今回のようになるのだから。



 次回 28話「リームとアニメ浪漫記」

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