第26話 逆転の勝者

「地天反逆!!」


「な、何!?」


 奥義と奥義がぶつかり合い、互いに吹き飛ばされる。


「う! ぐっ……!!」


 今にも飛びそうな意識を、必死に保ちながらなんとか立ち上がった。


「く、くそ……!!」


 一方、薫のほうは俺の放った奥義をまともに食らって立ち上がれない。

 剣が折れ、アバラも何本か折れただろう。

 いくら俺の左腕がバラバラだからといっても、これはもう勝敗は目に見えている。


「俺の……勝ちだ……薫!!」


「くっ……!!」


 薫はなんとか立とうとしているが、立ち上がることはできない。

 すると、薫が急に地面に突っ伏した。

 気絶したんだ。

 そう悟った瞬間、俺の意識もぷつんと切れた。




「……ん」


 目が覚めると、俺は布団に寝かされていた。


「! リーム!! ヒカルが起きた!!」


「そうか!」


 心配そうな顔でのぞき込んでいたシナトスの表情が明るくなり、どたどたとリームも駆け込んでくる。


「ここは……?」


「吾輩たちの家さ、あの後気絶した君を運び込んだんだよ」


「! そうだ、薫は!?」


 とっさに起き上がろうとするが、左腕に痛みを感じて起き上がれない。

 というか、さっきまで左腕が痛すぎて気にならなかったが、体中が痛い。


「あ、まだ起きちゃダメ。リームが手当てしてくれたからって、そんなすぐには治らないわ」


「ごめん……」


「心配はいらない。日比谷 薫は少し前に目を覚ましてどこかに行ったよ」


「そうか……」


 とりあえずは無事なのか。

 俺も殺すつもりで打ったわけではないが、ぶっつけ本番だったから加減が出来ていたか心配だったんだ。


「ヒカルが起きたらこう言ってくれって。『本当に、本当に乗り気じゃないが約束は約束だ。お前が戦場に立つこと認めてやるよ』だって」


「相変わらずアウラ君に『若は負けたんですよ? もう少し丁寧に言えないんですか?』と言われていたけどな」


 ケラケラと笑うリーム。

 どうやら俺はなんとか認めてもらえたようだ。


「それにしても『地天反逆』とは、君もなかなか凄い奥義を見出したな」


「あれってどういう技なの?」


「ああ、あれはカウンターなんだよ」


「カウンター?」


 声をそろえて聞き返す。


「見切りで相手の技の弱点を見つけ出して、そこに一番有効な一撃を叩きこむ技。2回技を食らわないといけないけど、カウンターだからその威力も計り知れない」


「例外的に見切りという能力を手にした君だからできる技というわけだな」


 実際それ以外にも、相手の動きを予測したり、自分もうまく立ち回らないとこの技は成立しない。

 だから、今の今まで失敗を恐れて使わなかったのだ。


「まあ、これだけ強力な技を所得し、日比谷 薫にも勝つことができた。君の傷も明日には癒えているだろうし、今日は大勝利というわけだ!」


「まあ、そうなんだけど……」


 ずいっとシナトスが、顔を近づける。


「いい? 何度も言うけど無茶はしないで。アナタは私たちほど頑丈でもない、ただの人間なんだから。もう少し自分のことを大切にして」


「大丈夫だって、前に言っただろ? 『死を顧みないのは顧みないだけなんだ』って。ちゃんとラインは考えてるよ」


「本当に?」


「もちろん。こんなところで死んじゃったら、約束も守れないしな」


 と、東の空から眩しい光が差し込む、夜明けだ。


「あ、そういえば調査。全然できなかったな」


「なに、また今度すればいいさ。今日はそれどころじゃなかったしな」


 いろいろあったが、とりあえずは勝利できた。

 俺は、この戦いから逃げたりはしない。

 決めたことだから、大切な人の命が懸っているから。

 もちろん、それもあるけどそうじゃなくても――


 



 ―その日の朝―

「うーん……」


「まだ痛むの?」


「ちょっとね」


 あの後、うちに帰って少し寝た後いつものように登校。

 リームの手当てのおかげで大分楽にはなったが、まだ左腕は少し痛む。


「おっはよー!! 光君、サキちゃん!」


 と、今日も元気そうな茉子と合流。


「ん? なんかあったの?」


「あ、ちょっとな」


 死神のことを知っているとはいえ、戦いで左腕がバラバラになったとは言えない。

 正確には茉子にというより、それがヒナに知られたら大変なのだが。


「ねえ、知ってる? 今日転校生が来るんだって!」


「また?」


 シナトス、お前が言うな。

「また?」って前回の転校生は君だろうが。


「うん、ヒナちゃんが言ってたから間違いないよ。うちのクラスではないみたいだけど」


 へー、なんか凄いデジャブを感じるのは俺だけなんだろうか。



 ―HRの後―

「あ、いた! 光、アイツが転校生だよ。あの、チクチク頭の男子」


 ごめん雄馬、俺知ってる。

 日比谷 薫、いったいうちの学校に何しに来たんだ……。



 次回 27話「才色兼備の玉の瑕」

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