第25話 奥義
「ぐあああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
天地が逆転したように感じたのは、俺が吹き飛ばされたからなのだろう。
そのまま無防備に地面に落下し、その瞬間左腕に激痛が走る。
「う……ぐ……!」
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
身体が細かく震えている、左腕がまったく動かない。
しかし、何よりも痛い。
この間、頭に街灯がぶつかってきたときの何倍も痛い。
「……。左腕が砕けたか」
あまりの激痛に意識が飛びそうになる。
目がかすみ、声もちゃんと聞こえない。
あらゆる思考を激痛が支配する。
「四無一閃、俺の最強の奥義だ。嗅覚以外の四感覚を殺すことで、一撃の威力を限界まで高める技。並みの人間が使えば、まず当たらないが俺なら嗅覚だけでも当てることは出来る」
触覚が死んでいても剣が振るえるのは、薫の修行の末なのだろうか。
もっとも、剣が振るえないのでは奥義でもなんでもないのだろうが。
「降参するんだな、今のうちならまだ治せる怪我だ」
薫の声が遠くから聞こえる。
いや、実際に遠くにいるわけではないのだが、もうそう聞こえるぐらい意識がなくなってきていた。
しかし、それでも俺は立ち上がる。
「降参なんか……するもんか……」
立ち上がるだけで痛い。
当たり前だ。何もしなくても痛いのに、動いたりなんかしたらさらに痛いに決まっている。
「ヒカル!! 何言ってるの!?」
シナトスの声が聞こえた気がした。
「お前、正気か?」
薫が変なものを見るような目で見ているように見える。
「俺の……意識が……落ちるまで……まだ決着はついてない!!」
返事になっていない言葉を叫ぶ。
正気では……ないのだろうな。
それでも、それでもだ。
俺は決してここで負けるわけにはいかないんだ!!
「そうか、ならもう一発食らわせるまでだ。殺しはしないさ、1ヶ月ぐらいは寝たきりだがな」
そういうと再び目を閉じ、膝をつく。
その気になれば今のうちに攻撃もできるが、それでは絶対に倒せない。
というか、いまの俺にコイツを倒す手段があるのだろうか。
見切りでは勝てない。
四無一閃は見切ったが、避けるだけじゃ意味がない。
そんなことしていたら俺の意識が飛んでしまう。
次の一発でなんとか決めないといけないのに、その決め手がない!
何か、何か!!
「この意気地無し!!」
声が聞こえた、ひどく懐かしい声だ。
一瞬、無茶しすぎて死んだ婆ちゃんのところに来てしまったのかと思った。
しかし――
「だって……」
情けない声も聞こえた。
それで分かった、これは俺の昔の記憶だ。
ならこれは走馬灯なのだろうか?
「なんでやられるだけやられて帰ってくるんだい!? 少しぐらいやり返しもできないのかい!?」
ああ、思い出した。
いじめられっ子だった俺は、いつものように泣いて帰ってきた日のことだ。
今になっても、あの大柄ないじめっ子に反撃しろだなんて無茶なこと言うな。と思う。
「だって……アイツ強いんだよ! 僕じゃ勝てないよ!!」
「やってみたのかい?」
「え?」
「また、初めから出来もしないと決めつけたんじゃないのかい?」
「でも無理だよ……」
「出来る出来ないじゃないんだよ!!」
「!?」
「大事なのはやるかやらないかだ!!」
「なんだって初めは出来ないって言われてたんだ! 飛行機を作ったライト兄弟だって最初は『出来もしなことをしようとする大バカ者』って言われていた、でも彼らは成し遂げた! なんでかって? やったからさ」
「……」
「私だって出来ない事をやれとは言わないよ、でも光、お前はまだやってもいないことを出来ないと言っているんじゃないかい? それはダメだ、まずは一度やってみるんだ! それからなら私も手を貸しはするさ」
その後、結局俺は負けたわけだが。
……でもそうだ、俺の悪い癖だ。
やりもしないくせに、出来ないと決めつける。
そうなんだ、見切りの能力に目覚めた時から出来るんじゃないか、とは思っていたんだ。
でも、出来やしないと今までやってこなかった。
ごめんよ、婆ちゃん。
何時までたっても、俺は意気地なしだったよ。
次の瞬間。
「四無一閃!!」
強烈な痛みと共に意識が戻る。
でも、もう恐れも戸惑いもない。
俺がすべきことはもうわかってる。
「それは覆す、勝利の一刀。罪深き、逆転の剣!!」
「
俺もまた、奥義を放つ!!
次回 26話「逆転の勝者」
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