第24話 三度、戦場へ……

「今日の放課後、空いてる?」


 この間と変わらない口調で、切り出してきたシナトス。


「空いてるよ」


「そう、じゃあまた残ってくれる?」


 つまりはそういうことだ。

 また、オンネンに関して進展があったということだ。



 ―放課後―

「今回は新しいオンネンではないの。調査という方が正しいかしら」


「調査?」


「深夜、つまりオンネンとクロカゲの活動時間に外に出て、やつらがいるかどうかを調べるのさ」


 なるほど。

 確かに、シナトス達も初めからオンネンの居場所を知っているわけではなかった。

 ならこういうふうに、調査も必要なのだろう。


「ただ、光が一緒についていくと十中八九、彼も出てくると思うけどね……」


 彼……日比谷 薫のことか。

 俺が戦場に立つことは認めないと言った、もうひとりの特異器官持ち。

 俺とアイツは次に出くわしたときに、戦うことになっている。


「問題ないさ、戦って認めてもらえばいい話だろ?」


「簡単に言うけど、絶対彼は強い。もしかしたら大怪我するかもしれないのよ?」


 シナトスは心配してくれているんだろう。

 まあ、次元眼は他の特異器官と違ってさして戦闘能力はないようだし、無理もないか。


「それでも……逃げはしないさ。決めたことだから」


「……。じゃあ、今日の夜。どうせ向かいなんだし、家の外で待ってるから」


 納得はいかなそうだが、とりあえず話はまとまった。

 今日の夜、ついに決着がつく。



 ―深夜―

「悪い、待たせたかな?」


「いいや、吾輩達も今出てきたところだよ」


 11時過ぎ、俺はシナトス達と合流した。

 今日はちゃんと茉子やヒナがいないことは確認済みなので、前みたいに巻き込むこともない。


「じゃあ、行きましょうか」


 夜の街というのは静かなものだ。

 それともリームが人払いの結界を張っているのだろうか。

 薄暗い街には人っ子一人いなかった。



「ふん、また懲りずに出てきたのか」


 静寂を乱す男の声。

 たった一度会っただけだが、それでも忘れることない声。


「当たり前だ、そう言っただろ?」


 道の向こうから、日比谷 薫とアウラが出てきた。


「なら、もうどうするかも分かってるよな?」


「もちろん、そのつもりで出てきたんだ」


 互いに剣を構える。

 街灯に照らされた薫の顔は、こないだよりも数段険しかった。


「アウラ、手出すんじゃねぇぞ」


「シナトス、手助けはしなくていいからね」


 1対1であることを確認し、激突。

 互いに距離を詰めながら抜刀。

 鞘から勢いよく抜かれた剣同士が、乾いた金属音をたてながらぶつかり合う。


「ぐっ……!」


 剣同士が重なるが、押し合う力は互角。

 剣はどちらにも動かない。


 ならば、あえて俺は力を抜きわざと押し負ける。

 それと同時に横に避け、薫はそのまま地面に落下。

 そこに剣を振り下ろすも、薫は地面に刺さった剣を軸に一回転。

 避けながら、俺の足を払う。


「なッ……!」


 そのまま素直にしりもちをついた俺に薫は容赦なく剣を振るうが、俺もそう簡単に斬られはしない。

 剣でそれを受け止めると、立ち上がると同時に相手を押し飛ばす。


「うおおおおおおおおおお!!!!!!」


 そのままの勢いで、俺は薫に斬りかかる。

 が、薫はくるっと回転すると、それを逆手に持った鞘で受け止めた!


「!?」


「甘いんだよ!!」


 そして、左手に持っていた剣で俺に斬りかかる。

 なんとか避けるが、完全には避けきれず剣が俺の腹をかすめる。


 さらに薫の追撃は続く。

 後ろに避けて、体勢が崩れた俺に思い切り鞘を投げつけてくる。

 それを剣で弾き飛ばした直後に体当たり、塀に鋭く打ちつけられる。


「ヒカル!」


「まだまだだな、敵を前にして剣を振り上げてどうする。そんなことすれば、次の攻撃に対応できないぞ」


「……」


「さっさと降参しな。分かっただろ、お前じゃ俺の足元にも及ばないんだよ」


「何を! まだまだこれからだ!!」


 塀を蹴って勢いをつけ、斬撃。

 それなりの威力があるはずなのに、当然のように片手で止められる。

 が、そこにさらに鞘による後押し。

 薫の鞘も戦闘に活用する戦法を、俺も使ったわけだ。

 振りかぶった剣に、そのまま鞘もぶつけ両手で押し切る!!


「ぐっ……!!」


 弾かれ、体勢を崩した薫に鞘と剣で十字に斬りかかる。

 剣は弾かれたが、鞘は右肩に命中。

 それなりのダメージがあるはず。


「こいつ……!!!」


 反撃をしてくるも、かするだけでもうしっかりとは当たらない。

 剣筋は見切れている。

 それに、やはりさっきの攻撃が効いているようだ。

 剣速が落ちているおかげで、不完全な見切りでもなんとか避けられている。


「俺の能力は戦闘が長引けば、長引くほど有利になるようになってる。序盤だけじゃまだわからないさ」


「ちっ……! ならいい、俺とお前の圧倒的な違いを見せつけてやるよ」


「! 若、そこまでなさらなくても!!」


 そう言うと、薫は目を閉じ膝をついて剣を構える。

 何をしてるんだ? これじゃあ、隙だらけじゃないか……!


「それは選ばれし、必殺の一刀。迷いなき、輝きの剣!!」


四 無 一 閃シムイッセン!!」


 瞬間、天地が逆転する。



 次回 25話「奥義」

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