第22話 いろはにほへと!!(前編)

「光くん!!」


 その日の朝、学校に着いた俺に茉子は少しキツイ口調で話しかけてきた。

 ヒナに怒られるのは慣れっこだが、茉子に怒られるのはめったにない。

 なにかやらかしただろうか?

 たじたじしながら、聞き返した。


「ど、どうした?」


「どうした?じゃないよ! 光くんもう一か月も部活来てないよねぇ」


 ああ、それか……。

 俺も茉子も、ついでにヒナも同じ剣道部なのだが。(婆ちゃんの影響)

 まともに部活に行っているのは、現在茉子だけだったりする。

 ヒナは生徒会の仕事で、俺は行ったところで全部できるからつまらなくて行っていない。

 そのため、基本的に茉子一人しか行っていないのだ。


「ヒナちゃんはしょうがないとして、光くんは来れるよねぇ」


「分かった分かった。今日は顔出すよ」


「絶対だよ!」


 やれやれ、面倒なことになってしまった。

 部活でやることなんて、とうの昔にマスターしたことだからつまらなくてしょうがないのだが……。


「へえ、ヒカルも部活サボったりとかするんだ」


 となりの席のシナトスは意外そうな顔でこっちを見る。


「だって、俺からすれば改めて『1+1は?』とか『あいうえお』とかやってるようなもんなんだよ?」


「……。ヒカルって剣道上手いの?」


「うん、小2で全国大会優勝するぐらいには」


 なお、もちろんそれは大人もでるちゃんとした大会での話である。

 どうやったのかは知らんが、婆ちゃんが俺を上手く潜り込ませ大会に参加。

 初めは自分より大きい相手にビビったが、いざ試合をすればさして強くもなく呆気なかったものだ。


「次元眼の副作用かしら……。ちょっと普通じゃないでしょ、それは」


「多分、婆ちゃんのせいだと思うけどなぁ。物心ついたときにはそう竹刀持ってたし」


「ふーん。そうだ、じゃあ今日私剣道部の見学行こうかしら」


「へ!?」


「だってまだ部活決まってないし。是非ともヒカルさんの無双ぷっりを見てみたいしね」



 そんなこんなで放課後。

 シナトスを連れて、剣道・柔道場へ。

 うちの学校は狭いからか、柔道場と剣道場が半々で同じ部屋になっている。

 それ故に揉めることもよくあるのだが……。


「なんか、揉めてない?」


「うん、またいつものか」


 案の定、今日もだった。


「剣道部は先週たくさん使っただろ!!」


「その前にもっとたくさん使ってたのはそっちだろ!?」


「俺はこんど大会なんだよ!!」


 どちらが部屋を使うかの口論。

 仲良く、半々でやればいいじゃないかと思うかもしれないが、広さ的にそうもいかないのだ。

 と、俺が入ってくるとおろおろしていた茉子が近寄ってきた。


「光くん! それにサキちゃんも」


「またか?」


「うん……。でも、今日はいつもに増してって感じなの」


「やれやれ……。おい、そこ! 一旦ストップ!!」


 俺が声をかけるとピタッと口論が止まる。


「あ、光先輩! 久しぶりです!」


「久しぶり言うな。まだ、一か月ぐらいしか経ってない。で? またいつものか?」


「はい、またいつものです」


 こういう時、いつもは揉めに揉めた後じゃんけんになる。

 じゃあ最初からじゃんけんしろよとは思うのだが、一応どちらにもそれなりの自論があるので、それをぶつけてからじゃないと満足できないようだ。

 とはいえ、これを練習が重なる日に毎回やるのは非常に効率が悪い……。


「おい、剣道部長」


 すると、向こうの部長が声をかけてきた。


「俺は部長じゃないけどな、なんだ?」


「思うんだが、毎回毎回これをやるのも効率悪いだろ?」


「そうだな」


「だから、今日勝負をして勝った方が一か月優先的に使うってのはどうよ?」


「一か月!?」


 確かに効率はいいかもしれないが、流石にそれは長くないだろうか。

 しかし、うっぷんが溜まっている部員たちはとくに不満はないようで反対の声は聞こえない。


「分かった、で? 勝負っていうのは?」


「じゃんけんだと完全に運だからな、これでどうよ」


 そう言って取り出したのは……かるた?


「なんでかるた?」


「どちらが有利ということもなく、反射神経という実力も加味され、不正もしづらいゲームだから。っていえばいいか?」


 ……。

 まあ、確かにそうかもしれんが。


「疑わしいなら、互いに見張りでもつけりゃいいだろ? これなら不正はできない。ルールは簡単、互いに2対2の勝負。多く札をとった方が勝ち。これでいいな?」


 まあ、いいとするか。

 こうして俺たちは部活中にかるたを広げて、超真剣に戦うという意味の分からないことをすることになった。



 そして、準備は完了。

 こっちは茉子と俺、むこうも部長と副部長。

 読み手はそこら辺を歩いていた生徒を、柔道部長が無理矢理連れてきた。


「それでは、勝負開始!!」


 読み手の声と共に俺は全神経を集中させる。


「朱に交われば――」


「はい!!」


 速い!!

 圧倒的な速さで柔道部長が一枚目を取る。


「どうした? そんなに遅いと全部取っちまうぞ?」


 余裕の笑みと挑発。

 しかし、それをするにふさわしいぐらいに速かった。


「次、いいですか?」


「ああ、続けてくれ」


「河童の――」


「はい!!」


 今度は副部長が取る!!

 追いつけないなんてものじゃない。

 そもそも俺たちが手を動かす前に、相手はそれを取ってくる。


「光くん。どうしよう……メチャクチャ強いよぉ……」


 まずい。

 このままだと一枚も取れないかもしれない。


「次、読みますね」


「ネコに――」


「はい!!」


 そのさきもずっとこんな調子だった。

 どんなにこっちが集中していても全然追いつかない。

 反応速度が段違いすぎる。


 そして、15枚めを取られたところでそっとシナトスが耳打ちする。


「ヒカル、ちょっと変よ。いくら何でも速過ぎる。何か裏があるわ」


 なんとなくそれは俺も思ってはいたが、それが見破れない。

 適当なイカサマなら自分たちからできないように、見張らせているのだ。

 何か、何かをしているはずなのに!!


「なんか、圧勝ですね」


 読み手までもが、失笑してしまうまでの大差。

 なんとかイカサマを見抜かないと勝負にならない。


「おい、次」


「ああ、悪い。一難去って――」


「はい!!」


 ……!!

 そうか、そうだったのか!!

 やはりこいつ等はズルをしていた!

 確かに、これなら速いはずだ。

 しかし、見破った今俺たちにも勝機はある。


「茉子、よく聞いてくれ」


「へ?」


「いいか、---------------札を探すんだ」


「それはどういうこと?」


「いいから」


「次、読んでも?」


「あ、どうぞどうぞ」


「桃栗――」


 俺の考え通りだった。

 その証拠に次の札を取ったのは、柔道部ではなく俺だったのだから。



 次回 23話「いろはにほへと!!(後編)」

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