第20話 家庭科対決!3時のおやつは好きですか?(中編)

「では皆さん、班のメンバーで協力し合って頑張ってくださいね」


「そうそう、具体的に作る数ですが一班で20個作りましょう。2人づつに分かれて10個づつ作るといいかもしれませんね」


 こうして家庭科対決は幕を開けた。


「それじゃ、シナトス。俺が言った通りにやるんだよ?」


「分かった」


 昨日のうちに頭に叩き込んだレシピを引っ張り出す。


「まず、バターを室温に戻してよく混ぜる。柔らかくなったら、砂糖を加えてまたよく混ぜる」


 まあ、混ぜるだけだし。

 これぐらいならシナトスでも問題なくできる……。


「ちょ!? シナトス、バター入れすぎ!! ああ、あとそんなに勢いよく混ぜなくても……」


 ダメでした。

 大量に入れられ、しかも思い切りかき混ぜられたバターは、当然のように飛び散りまくる。

 一瞬で机に床にシナトスがバターまみれだ。


「? なにか間違えてた?」


「いや、間違いしかないと言うか……」


 こんな感じで大丈夫かなぁ……。

 まったく不安しかない。



「ふふふ。混ぜるだけであんな感じじゃ、もう決着はついたも当然ね」


 シナトスとは対照的に綺麗にバターをかき混ぜるヒナ。

 相手側の惨状をニヤリと笑いながら見物する。


「雄馬君、砂糖とってきてもらえる?」


「お、おう! まかしとけ!」


 雄馬はと言うと、完全にパシリ状態だ。

 もっともヒナの辞書に「敗北」の文字はない。

 普通に考えれば雄馬に料理させるよりも、自分一人で作った方が上手くできるのは当然なのだ。


「まあ、勝ち戦だからって手加減しないけどね」


 菅野字 日菜子。

 まったくもって恐ろしい女性である。



「次はほどよくほぐした卵を3回に分けてさっきのヤツに入れるんだが……。もうちょっと加減しような」


「はーい……」


 一応俺がなんとか調節したことで形にはなった、今度は慎重に卵を加えていく。

 まあそんなことしなくても、俺がやれば済む話なのだが、それでは勝負にならないのでしょうがない。


「そう、ゆっくり丁寧に混ぜるんだ。勢いよくやらなくてもちゃんと混ざるから」


「うん」


 今度はちゃんとできている。

 やっぱり、この人は出来ないのではなくてやったことがないだけなんだ。

 ちゃんと丁寧に教えれば、これくらいのことならすぐにできる。


「よし! 次は薄力粉とバニラビーンズを混ぜるぞ、こっちもゆっくり丁寧にな」


「うん!」


 さっきの不安はどこへやら。

 なんだか、上手くいきそうじゃないか。

 そう、この時はまだそう思っていた……。



「よし、とりあえず出来たな。ただ、まだ5つしか出来てないからもう少し作らないと」


「そうね」


 そういってボウルに手を伸ばしたが……


「……。あれ? バターなくね?」


「え?」


 ! そうだ! ないに決まっている!

 最初にシナトスがあれだけ大量に入れてしまったのだから、なくなるに決まっている!

 もちろんそのままの量で作れば足りたのかもしれない。

 しかし、それでは美味しくはできないし、こぼれるのもあっていくらかカットしたのだ。

 そして今、そのツケがここで来ている。


「今更気が付いたの?」


 自慢げな声が聞こえる。

 高圧的で勝利を確信した声だ。


「あんな使い方すれば、そりゃなくなりもするでしょうね? ちゃんと考えれば私みたいに余ったのに」


 確かにヒナのボウルにはまだバターは余っている。

 あと、私達と言ってあげてくださいな。

 雄馬が完全に忘れられている。


「勝負以前にノルマの数も作れないようじゃ、話にならないんじゃない?」


「ぐっ……。ま、まだよ! どこか余っている班がないか見て周ってくる!!」


「そう上手くいかないと思うけどね。もともとバターはそんなに余裕があるわけじゃないし、普通に使えばなくなってると思うけど」


 じゃあ、貴女はどういう使い方をしたんだ。

 まあ分量を的確に考えながら作れば余るのかな?

 知らんけど。


 10分後、トボトボとシナトスが戻ってきた。


「なかった?」


「なかった……」


 ノルマは10個。

 しかし、今俺たちの作った分は5つしかない。


「どうする? 負けを認めるなら、余った分で足りない分も作るけど?」


 これは……諦めるしかないのでは。


「シナトス……」


 しかし、ここでシナトスはここで予想外の発言をした。


「そうだ、そっちの余った生地! 私達にちょうだい!!」


「は?」


「初めに先生が言ってたじゃない『班のメンバーで協力し合って頑張ってくださいね』って。なら、片側が生地が足りなくなったら余ってる側があげるのは当然でしょう?」


 それはさすがに無理なんじゃないだろうか。

 いや負けたくないのは分かるんだけど。


「どう? それにヒナもどうせ勝つなら、私がちゃんと完成させて勝ちたいんじゃない? こんな勝ち方で貴女は満足なの?」


「……。分かった。余った生地、好きに使いなさいな。一度くらい敵に塩を送ってやるわ」


 いいんかい!!

 どんだけ負けず嫌いなんだこの人たちは……。


「でも、いいの? これで負けたら白井さん、貴女は私に完全敗北したことになるのよ?」


「問題ないわ、負けないもの」


 再びバチバチと火花が散る。

 ところで、このお菓子対決の審判は誰がやるんだろうか?

 なんだか嫌な予感はするが、とりあえずはクッキーを完成させるとしよう……。

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