第19話 家庭科対決!3時のおやつは好きですか?(前編)

 ショッピングモールでの戦いから3日ほど経ったある日。

 放課後のホームルームでお知らせがあった。


「明日の家庭科は調理実習です。皆さん、忘れ物をしないように」


 調理実習か。

 俺は調理実習は嫌いじゃない、昔から婆ちゃんと一緒によく料理をしていたから料理は得意なんだ。

 しかし、隣の席の死神娘はもちろん調理実習なんて知っているわけもなく。


「ヒカル、調理実習って何?」


 なんて当たり前のように聞いてくるのだった。


「授業の時間で料理をするんだよ。シナトス、料理したことない?」


「ない。だって死神は食事を必要としないもの」


 その割にはこないだコーヒーゼリーを気持ち悪いぐらい食べていたような気がするのだが。

 まあ、必要としないからと言って食べられないというわけではないのだろう。


「それで班ですが、男子2人女子2人の4人組を作るように」


 こういう時、俺のように友だちが少ない奴は苦労する。

 というか実際ひと昔前の俺は苦労していた。

 しかし、今の俺は違う!


「ヒカル、一緒にやらない?」


 速攻で俺に聞いてくれる人が隣にいる。

 地味にこの点に関しては、シナトスに感謝してもしきれなかったりする。


「もちろん、えっとそれじゃ他のメンバーだけど……」


「光! 組もうぜ!!」


「あ、雄馬」


 彼は「鹿立 雄馬スダチ ユウマ」。

 俺の数少ない友達の一人だ。

 明らかに俗に言う陽キャと言うやつなのに、なぜか俺と仲良くしてくる変な奴。

 なお、雄馬は高校に入ってからの友達で幼馴染ではない。


「いいよ、俺もうシナ……じゃなくて白井さんと組んでるけど」


「そうか、じゃああと女子一人か……。なあ、光?」


「ん?」


「なら生徒会長を誘わないか? ほ、ほらなんかあの人ならいろいろできるだろ?」


 分かりやすくもぞもぞ言う、雄馬に俺はニヤリとしながらも承諾する。


「いいよ、じゃあ俺がヒナを誘っとくよ」


「そうか! そう言ってくれるか!」


 これは、このクラスのヒナ以外全員が気づいていることだが、どうも雄馬はヒナに気があるらしい。

 昔から恐怖の対象である俺からすればちょっと疑問でもあるが、まあ親友の恋に口出しはしない。

 もっとも、雄馬は隠すのが下手過ぎてほぼほぼ全員にバレてるわけなのだが。


「ヒカル、なんで彼あんなにもぞもぞしてたのかしら?」


 訂正、ヒナとシナトス以外にバレている。



「ヒナ、ちょっといい?」


「ん?」


 放課後、約束通りヒナを誘いに生徒会室にやってきた俺とシナトス。

 雄馬は恥ずかしいのかついてこなかった。


「調理実習の班ってもう決まってる?」


「いや、まだだけど」


「じゃあ、俺たちと組まない? 俺の他にシナトスと雄馬が入ってるけど」


「いいよ、私も誰と組もうか悩んでたからちょうどよかった」


 よし、無事に成功。

 なお、雄馬の名誉のために言っておくが雄馬が俺と仲がいいのは決して俺を利用するためではない。

 雄馬が俺と仲良くなったのは、ヒナに恋する前だ。

 もっとも「じゃあ、利用していないのか」と言われたら「ノー」とは言えないが……。


「それにしても……。白井さん、貴女料理できるの? 話を聞いた限りでは出来なさそうだけど」


 この時のヒナの発言は(多分)シナトスに気遣っていったのだろう。

 しかし、しかしだ。

 こういう言い方は実に危ないのでして……。


「な!? で、できるわよ! 料理ぐらいできるに決まってるでしょ!?」


「え!? おま、さっきできなー


「ちょっとヒカル、喋らないで」


 これはあれだ。

 昔からヒナで見慣れている「負けず嫌い」スイッチを押してしまったのだ。

 そしてこうなると後がどうなるのか、俺は知っている。


「なんなら、人間が作るよりよっぽど上手く作れるわよ!!」


 なんて出来もしない事を、声高らかに宣言してしまい……


「ふうん……」


 相手の負けず嫌いスイッチも押してしまい……


「じゃあ、明日。どっちが美味しく作れるか勝負してみる?」


 勝負になる。

 昔からのお決まりのパターンです。

 ヒナさんは昔からこうでした。

 もっともこうなった時、一回も負けてないのが凄い頃なのだが。


「いいじゃない! やってやるわよ!!」


 こうして同じ班でありながら、謎の勝負を繰り広げることになってしまった。

 ヒナ&雄馬 VS シナトス&俺。

 いつも仲裁をしてくれる茉子も今日はいない。

 ああ、哀れ雄馬と俺。



 そしてその日の帰り道。


「ヒカル、お願い。料理を私に教えて」


「うん、知ってた」


 そうなると思ってました。


「明日はクッキーと紅茶を作るらしいから……。とりあえずシナトスはシナトスでリームと一緒に作り方の勉強をしてみてくれ。俺も俺でもっかいちゃんと調べてみるから」


「分かった!」


 え?

 今日の段階から一緒の方がいいんじゃないかって?

 そんなことしたら明日の俺は過労で学校に来れなくなってしまう。

 ちなみに次の日、リーム先生が学校を休んだのは言うまでもない。



 そして次の日、家庭科の時間。


「では皆さん、班のメンバーで協力し合って頑張ってくださいね」


 火花散るお菓子対決が幕を開けた。

 果たして勝利の女神はどちらに微笑むのか。

 分からないし、なんなら知りたくもない。

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