第13話 特異器官

「今日の放課後、残ってちょうだい」


「へ?」


 授業と授業の間に、シナトスは前触れもなくそう言った。

 今日は早帰りなので、帰ってゲームでもするつもりだったのだが、何やら真剣な表情なので仕方ない。

 とりあえず搭の登頂は今日は諦めることにしよう。



「で? 何の用?」


 放課後、教室には俺とシナトスに加え、遅れてやってきたリームを含めた3人。

 こないだの夜と同じメンツだ。


「てか、リームって人間の姿にもなれんだね」


「ああ、人間として下界に出かけることもよくあるからね」


「出かけるって言うより、遊びに行ってるのほうが正しいけどね……。それよりも、今日は大事な話があるの」


「大事な話?」


「アナタの次元眼についてよ」


 次元眼。

 前に俺の目はそういう特別なもので、今度説明すると言っていたやつだ。


「そろそろちゃんと説明した方がいいと思ったのだよ、君もよくわからないままでは気になるだろう?」


「まあ、確かに」


「では、順を追って説明するからよく聞きたまえ」


 実はそんなに気にしてなかったりするのだが、そういうことを言ってはいけない。


「君のその目は『特異器官』と呼ばれるものの一つだ」


「特異器官」


「そう、そして特異器官とは五感にまつわる特殊能力のこと。君の場合、そのうちの『視覚』を司ることになる」


「つまり『視覚』の特異器官ということね、それを私たちは次元眼と呼んでいる」


「ほうほう」


「次元眼の能力は前に話したが、死神や幽霊など別次元の存在を見るチカラがある」


「ん? ちょっと待った」


 今のセリフには疑問がある、リームは死神や幽霊が見えるといったが……。


「死神はともかく、幽霊なんて見えたことないぞ? もしそうだったら、もっと前から気づいてるだろ」


「そう、そうなんだ。これがまた厄介でね」


「ただでさえ普通じゃない次元眼を、アナタはさらに変なかたちで保有している」


 変なかたち?

 これ以上、変になるものなのか?


「というと?」


「普通次元眼は分かりやすく言えば、幽霊や死神など低次元の存在。つまり、0~1を見るものなのだが……」


「アナタの場合何でか知らないけど、0.5~1.5の間を見てるのよね。」


「1.5?」


「ああ、つまりさらに高次元に届いている。ところが.5でしか見えてないから、結局見えない」


「さらには、死神やクロカゲみたいに中途半端だと見えるけど、幽霊みたいに完全に低次元の存在も見えない」


「なんでかは知らんが、君の次元眼は変に範囲をずらした。その結果、いろいろ見えなくなっているわけだ」


 ……。

 つまり、ただでさえあまり役に立たないこの能力が、さらに役に立たなくなっているというわけだ。

 なんで半端に次元を上げたのか、自分でも気になる。


「……。そうだ、五感にまつわるってことは、他にも特異器官持ちはいるってことなのか?」


「ああ、君の他にも『嗅覚』『触覚』『味覚』『聴覚』を司る者が、この世のどこかにはいるはずだ」


「どこにいるのかは、全然分かんないけどね……」


「それで、他の特異器官はどんな能力を?」


「さあ? 次元眼以外は天界にも情報がないんでね、詳細不明なんだ」


 詳細不明。

 つまり、最悪の場合俺が特異器官で一番劣っている可能性があるというわけだ。

 いや必ず誰かが一番下になるとはいえ、それはあまり気持ちのいいものではない。


「そうだ、こないだの『見切り』は? あれも次元眼の力じゃないのか?」


「それなんだがね……」


「アナタのその見切りを見て、私達はもう一度天界で情報を洗い直してみたのよ」


「それで?」


「次元眼にはそんな能力はなかったわ」


「へ?」


 じゃあ、これは何だと言うんだ。


「おそらくだが、それは君が生みだした新しいチカラなんだろう。今までの次元眼にはなかったね」


「新しいチカラか」


 なるほど。

 ということは一番の役立たずは免れたんじゃないか?

 これは、この間の戦いにもそれなりに役に立ったし。


「まあ、見切りはたしかに強力だけど……」


 ずいっとシナトスが顔を近づける。


「いい? 決して過信しすぎないこと」


「過信?」


「そう、アナタは特異器官持ちでも体はただの人間。変に自分が特別だ、なんて思ってたら死ぬわよ?」


「わ、わかりました」


「よろしい。なら、次の話ね」


「次?」


 あれ? まだ先があるのか?

 すると、リームが一層真剣な顔で言う。


「先日、新たな化け物もとい『オンネン』が発見された」


「オンネン?」


「やつらの呼び名さ。今後そう呼ぶから覚えておいてくれ」


「分かった。で? どこに出たんだ?」


「花蓮ニュータウンのショッピングモールだ」


 花蓮ニュータウンとは、このあたりで一番都会なところ。

 さすがに東京ほどじゃないが、それなりにビルが立ち並ぶ新興都市だ。


「ショッピングモール? あんなのが?」


「人が多く集まるからだと思うわ。多分だけどね」


「そういうもんか。で、俺らはどうするんだ?」


「昼のうちからショッピングモールに行って、そこで夜を待つ。そして、出てきたところを叩く」


 ん?

 とういうことは……


「ということで、これからショッピングモールへ行くわよ」


 ……。

 これは言いようによっては『デート』というやつなんじゃないだろうか。

 もっとも、シナトスは全く気にしてなさそうだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る