第8話 それはやっぱり君の声
【死ヲ! 死ヲ与エン!!】
「城内 光ー!!!!」
遠くからリームの叫びが聞こえる。
ああ、俺死ぬんだな。とやけに冷静に考えていた。
自分の命を自分で殺そうとした悪人には、やはりいい終わりが来るわけもないか…。
そう考えながら、最後の衝撃を待っていたが――
「しっかりなさい! まだ、生きているんだから最後まで諦めないの!!」
「!」
飛び降りようとした時と同じく。
死の間際に聞こえたその声はやはり天使のものではなかった。
「シナ……トス……!」
俺をひねりつぶすはずだった鉄球はどうなったのか。
その答えは、シナトスが受け止めていた。
間一髪、ギリギリのところでシナトスがリームで鉄球を受け止めていたのだ。
【ヌウウウウウウ!!!】
そのまま、シナトスは鉄球をはじき返すと俺を抱えて物陰へ逃げ込む。
「ヒカル! もう少しだけ頑張って!! 今、リームが手当てするから!!」
「大丈夫……。まだ……、なんとか」
実際、さっきまで酷く朦朧としていたはずの意識が、シナトスの声を聞いてからハッキリしていた。
相変わらず後頭部は、頭が割れるぐらい(実際に割れたのだが)痛いが、死ぬことはなさそうだ。
「よし……。これで何とかなるだろう」
「良かった……。それじゃ、いくわよ、リーム」
「ちょ!? 行くってどこにさ!?」
さっきとは逆に今度は俺がシナトスを止める。
リームは気づいていないのか、シナトスを止めようとしない。
「どこにって……。アイツを倒しに行くに決まってるでしょ?」
「まだ、毒が全快してないのに!?」
「なッ!?」
「……。それはどういうことかね、城内 光よ」
やっぱり、リームも気づいてなかった。
シナトスの毒はまだ回復しきっていない、なぜなら――
「だってさっき俺がシナトスを助けた時は抱えて逃げることができたのに、シナトスにはそれが出来なかったじゃないか」
「……」
「ただの人間の俺に出来て、シナトスに出来ないとは思えない。なら、シナトスはまだ毒が治ってないんだろ?」
「だけど……だけど!」
シナトスは俺の言葉は否定せずに、うつむいたまま歯を食いしばる。
『今逃がせば、次いつ倒せるか分からない』
だから、シナトスは今この場でアイツを倒そうと、無茶をしようとしているんだ。
「お嬢、気持ちは分かる。だが、さすがにここは引くべきだと吾輩も思うよ」
「でも、そうしたら! アイツがまた!!」
責任感の強い人だ。
いや、死神だから人ではないのか?
とにかく、この子は他人を助けるためなら自分が死ぬことなんてなんとも思わない。
俺が言えたことではないが、そういうメチャクチャな性格なんだ。
そう思うと、不思議な感覚があった。
ああ、この子も俺と同じ。
どこかがズレた存在なんだ。と
「シナトス」
「……何?」
「今ここで逃げたらアイツは倒せない。でも、今ここで逃げなかったら多分俺たちはやられる」
「確かに……、そうだけど……!」
「俺たちがやられたら、誰がアイツを倒すんだ?」
「!」
「アイツを倒せるのは俺たちだけなんだ。他人のために死を顧みないのは凄いことだと思うよ、でもそれはあくまで顧みないだけなんだ」
「……」
「それで本当に死んじゃったら意味がない。そうだろ?」
「だけど……」
「だから約束しよう」
この約束は呪いだ。
非力で、無力だった俺たちを縛る呪い。
いつか至るその日まで、俺たちはこの呪いに悩み続ける。
「いつかちゃんとアイツに勝てるようになって、一緒にアイツを倒そう」
「……分かった」
その約束が結ばれた瞬間、東から明るい光が――
「夜明けか……」
夜明け、つまりタイムアップだ。
シナトス達が言った通り、クロカゲと化け物の姿が薄れていき、そして消えた。
「あはは……。まじで消えんのか……」
「ヒカル」
「ん?」
逆光を浴びながらリームを肩に抱えシナトスは俺に話しかける。
「家には私が送っておくわ。だから、今はゆっくり眠りなさい」
「うん。……そうだ、一ついい?」
「何?」
シナトスの声がとても穏やかに聞こえる、眠気のためだろうか。
「また、会えるよね?」
「もちろん」
もう、意識はほぼない。
眠気に呑まれ、真っ白になった目の前。
そして、最後にゆっくりと
「絶対に約束は守ってもらうつもりだしね」
目が覚めたら、そこは家のベッドだった。
覚えている。
昨日のは夢じゃない。
俺は確かに、シナトスとリームに会った。
「今度はいつ会えるかな……」
死神に会いたいだなんて、本当におかしなことだ。
なんて、そんなことを言ってたら……。
「転校生の
「は?」
意外と、早い再会でして……。
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