第9話 主語のない会話は化け物より危険
目が覚めたら、そこは家のベッドだった。
覚えている。
昨日のは夢じゃない。
俺は確かに、シナトスとリームに会った。
「今度はいつ会えるかな……」
なんてふざけたことを言いながら俺は学校へ行く準備を始める。
もう行かないつもりだった学校にまた行くことになるなんて、昨日の俺からすれば考えられないことだ。
でも、今の俺は違う。
生きる意味がある。だから俺はまだ死なない。
すると、不可抗力で学校にも行かなきゃいけないわけでして……。
「はあ……。シナトスに頼めば上手く誤魔化せたのかなぁ……」
学生が朝っぱらからいうセリフではないことは分かっている。
だがしかし! 今日だけは絶対に学校へ行きたくないのだ!!
なぜなら――
「おはよう! 光くん!」
と、ここで俺の思考は遮られる。
「あ、おはよう。茉子」
彼女は
俗に言う、幼馴染と言うやつだ。
まだ、父さんが生きていたころからの知り合いで、俺の数少ない友人である。
低めの身長にツインテールとなんだか危ない方向でモテそう、いやモテる女。
しかし、茉子はウチの婆ちゃん直伝の護身術を身に着けているので並みの男なら返り討ちしてしまう。
こうして彼女はこの17年間純潔を保ってきたのだ。
なお、俺がどうしても学校に行きたくないのは彼女のせいではない。
「どうしたの? 元気ないね?」
「まあな……」
「春の暖かい日差しを浴びても元気になれないとは、これはかなりの何かだな?」
「いろいろあったんだよ、いろいろ」
「……。やっぱりお婆ちゃんのこと?」
「それではないけどな。わりぃ、俺急がないといけないから!」
「りょーかーい。元気になったら教えてね~!」
そう、婆ちゃんが生き返ると分かった今、俺を憂鬱にするのはそれではない。
なら一体何なのか、それは――
―生徒会室前―
プルプルと震えながら、2回のノック。
できれば返事しないでください。
「どうぞ」
俺の期待はことごとく打ち破られた。
その声はとても綺麗だが、俺からすれば恐怖でしかない。
ここに来るくらいなら、まだ2段ベットの上の方がマシだ。
「し、失礼します……」
「あら、いらっしゃい」
生徒会室のなんかすごい椅子に座る彼女は、もちろん生徒会長。
そして、俺のもう一人の幼馴染。
子供の頃から怒られた記憶ばかりの、俺の婆ちゃんの次に怖い人。
六音時高校生徒会長、
「朝、電話したから何を言いたいかはもうわかってるわね?」
「は、はい……」
逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい。
しかし、今逃げたら俺の人生は確実に終わる。
日菜子は茉子よりもさらに強いのだ。
そして、多分今回はシナトスも助けてくれない。
「光、君一体夜中に外をほっつき歩いて、何をしていたのかしら?」
そう、当たり前だが高校生は夜中に外を歩き回ることは許可されていない。
昨日は死ぬ気だったのでそんなこと気にしていなかったが、生き残ってしまった今俺はどうすればいいのか。
もしこれが茉子なら、適当な嘘をつけば誤魔化せる。
しかし、この人は「才色兼備」と言うやつで、ウソなんて通じない。
「えっと、それはですね……」
どうする、正直に話すか?
いや、絶対信じてはくれない。
なら俺はありのままに、しかし信じてもらえるように話すしかない!
「それは? 何?」
「激しかった(戦闘が)後に、頑張って(助けて)、そのあとまた激しかった(戦闘が)けど、やっぱり優しかった(シナトスが)です!」
どうだ、上手く一言でまとめたぞ。
しかもウソは何一つついていない!
「バ……」
バ?
「バカー!!!!!!!!!!!!!」
「え? ええ!?」
しかし日菜子はなぜか、顔を真っ赤にしてブチぎれた!?
「『え?』じゃないわよ!! 『え?』じゃ!! 光、放課後に反省室に来なさい!」
「ええー!!!!????」
「いいから!!!」
「はい……」
なんで!? どうして!?
しかし、もはや逃れられぬ。
こうして俺の地獄は放課後まで持ち越しとなった。
ちなみに、この時茉子が外で(たまたま)話を聞いていたことなど、俺には知る由もなかった。
「はぁ……」
結局、暗いまま俺は朝の会を受けることになった。
なんであんなに怒ったのか。
茉子に聞いてみようとしても、顔を赤くして話を聞いてくれないし。
「おーい、席に着けー。今日は転校生を紹介する」
転校生なんて、珍しいな。
……あれ? あの子、どっかで見たような……。
「転校生の白井 サキさんだ。みんな仲良くするように」
ん? あの子は……シナトス!?
「とりあえず、光の横が空いてるな。そこに座りなさい」
啞然。
状況が全く理解できない俺に、シナトスこと白井さんは優しく語りかける。
「ね? また会えるっていったでしょ?」
俺の学校生活はこれからどうなるんだろうか。
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